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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第二章 少年少女の戦場
68/112

終わらない探索

戦闘描写が入ると、楽ですわぁ。

「脱出……できない……?」


広いボス部屋に虚しく響いた声が、ようやく帰れる、という希望を黒く塗りつぶす。

誰もが呼吸するのを忘れ、状況を理解しようと、或いは現実から逃避しようと躍起になっていた。


ただ、二人・・を除いて。


「慌てるな! 落ち着いて俺の話を聞いてくれ!」


混乱から生まれる沈黙を打ち破る声が、彼らを正気に戻した。

言わずもがな、白刃だ。


「恐らく、皆も理解してしまっただろう。

今現時点、ここからの脱出は何故か不可能になってしまった。

俺達は今、ダンジョンに閉じ込められてしまった」


冷静に、ハッキリと、この場の殆どが理解を無意識に拒んでいた事を告げる。

流石の白刃でもあまりにもハッキリとしすぎた物言いに、反感を買ってしまった。

いや、或いは、ギリギリの辛勝と、戦いの日々で彼らの心は限界が近かったのだろう。

怒号が、悲鳴が、白刃へと向けられた。


「なんでそんな冷静なんだよ!? やばいだろ!どうすんだよ!」


「嫌だよぉ、帰してよぉ!」


「ふざけんなっ! 死ぬかも知んねぇんだぞ!」


とはいえ、騒ぎ立てたのは、白刃パーティの人間のみだ。

悠斗のパーティは勿論、瑛士のパーティも焦ったり、不安そうにしてても、声を荒らげることはなかった。


クラスメイトの不安を一身に受け止めた白刃は、まるで前もって決めていたかのように、自信を持って告げた。


「みんなの心配や焦りはよく分かる。

だが、まだ一つだけ、何とかなるかもしれない方法がある。

……ダンジョンの、攻略だ」


迷宮ダンジョン攻略。

それはつまり、迷宮の最奥までたどり着き、真の主を倒すことを意味する。

冒険者としては本来、ダンジョンに赴くのはそれが目的であるが、今の【修練の魔境】でそれを行うのはある意味命取りであった。

なぜなら、それは完全に未知なる領域へ足を踏み入れることだからだ。


「確かに、これより先に進むのは危険かもしれない。しかし、俺達がここで待っていたとして、助けが来てくれると何故言いきれる?」


見捨てる見捨てないの話ではない。

出来るか出来ないかの話なのだ。


このダンジョンは本来有り得ざるモンスターの出現という異変から始まり、ついにその異常は内側から転移不可能という牢獄になる形で明確に発現した。


では外側から逆に転移させることは可能か?

そもそもそれは召喚魔法等の特異魔法に分類されるもので、そもそもの話、使い手があまり多くない。

よしんば使えても、白刃達の正確な居場所が分からないので座標指定は難しい。

或いは、ダンジョンが外部からの魔法干渉を阻害してくる可能性だってある。


直接救出に来たところで、そもそも入れるかどうか分からない。

入れても、こちらの二の舞になるかもしれない。


既に試しているが、魔導書の連絡機能も通じていない。

それは向こうからも同じだろう。


これらを考えると、助けが来るのは絶望的だ。



「例えここで停滞することを選んでも、そのうち再びボスモンスターは再出現(リスポーン)してくる。

そうなれば、再び黒騎士や影騎士のような敵だって現れるかもしれない。

一回や二回ならまだ何とか出来るかも知れないが、その都度甚大な被害を被っていたらすぐに物資も尽きる。

ならばせめて、ボス部屋から出るだけでもするべきだ」


ボス部屋は一度入れば、入口から出ることは叶わない。

特殊なアイテムがあれば話は別だが、滅多に手に入るものではなく、白刃達も持っていなかった。


「別に、考えが無いわけじゃない。

迷宮の最奥には統括装置(マザーポータル)がある。

あれを使えば、ここにある転移装置では出来ない迷宮からの脱出も、不可能じゃないかもしれない」


『あっ!』


みんなが、声を揃えて驚く。

統括装置(マザーポータル)

ダンジョンの最奥、中枢システムを司る制御装置。

統括装置には、ダンジョン内で使われた魔法の残滓や、倒された魔物の残骸から発生した、膨大な魔力が宿っており、装置を発動させれば、ダンジョン内であれば凡そ出来ないことはないと言われている。

例えば、欠損した四肢の再生、ダンジョン内から半径何十キロまでの転移、魔物発生のコントロールすら可能だと言われている。

基本的には統括装置によるダンジョン脱出以外の行動は禁止されており、バレたら国やギルドから重い罰を下される。



「統括装置を使い、このダンジョンから脱出する、それが今回の目的だ。

こうなってしまった以上、すまないが最低限、ここから動く必要がある。

危険を犯したくない気持ちは分かるが、皆で生き残るために、俺に着いてきてくれ」


そう言って、白刃は締めた。

最早退路は閉ざされた。

生きるためには先へ進むしかない。

白刃の言葉と、冷えた頭で現実を再確認した彼らは、自分を奮い立たせるために叫んだ。



『おーーーっっっ!!!』





……

……

……




ボスモンスターを倒すことによって開かれる鋼鉄の扉の前に、十五人の子供達が立っていた。

無論、悠斗達だ。


「よし、それじゃあ、行くぞ」


白刃の号令に従い、扉をくぐる。


一般的なリビング程度の大きさの空間には、第二層への入口はおろか、光源やオブジェクトすらない。

しかし、十五人全員が中に入った瞬間、彼らの足下は転移ポータルを展開した時のように魔法陣が輝き始めた。


そのまま、彼らは眩い光に呑み込まれて、消えて行った。







☆☆☆☆☆


「ここは……」


転移は成功。

間違いなく、ボス部屋を後にし、新たな階層へと足を踏み入れた。


しかし、悠斗の周りに彼以外の人が見当たらない。

そして何より、現在地が悠斗が知っている第二層ではなかった。


修練の魔境、第二層は多くの木々に囲まれた森が面積の七割を占める、森林地帯エリアだった。

しかし、悠斗のいる場所は、ところどころに岩山が多く存在し、平地が存在ない、どこもかしこもデコボコした岩肌で形成された大地だ。


そして悠斗は、その場所に僅かながらも覚えがあった。


「まさかここは……第三層、岩山地帯エリア?」


当たりだった。

悠斗は何らかの原因で、一人だけ第三層へと飛ばされていたのだ。

これからどうしようかと決めあぐねていた時、悠斗の魔導書に着信が来た。


『よしっ、出た! 俺だ、悠斗。大輝だ!』


通信の相手は大輝だった。


『俺達は無事に第二層に着いた。なのにお前だけいなくて今軽くパニクってる。

お前今どこにいる?』


「僕は今、恐らく第三層にいるよ。ギルドで調べた情報と酷似しているから間違いないと思う」


『第三層だぁ!? ちっ、面倒なことになってんな……』


「取り敢えず、集合場所を決めよう。

第三層だと危険だから……第四層の入口で集合で」


『お、おう。随分割り切りが早いな……まあ、それはともかく……りん……が……声く……や……』


「? 大輝、聞こえないよ……大輝!」


『なん……ノイズ……くそ……悠斗、無事に……』


無事に。そう言いかけて、彼との通信は途絶えた。


「……迷宮内ですら満足に会話させない気かよ……くそっ!」


悠斗はこれをダンジョンで起こった異変の一つとして認識した。

何はともあれ、早く集合指定場所に行かねばならない。

だが……


「その前に、こいつら、どうにかしなきゃね」


悠斗のスキル、《感知》の範囲内には十や二十を超えた数の、明らかに誘導されたように自分を取り囲む、魔物達が反応していた。


「うん、丁度いい。新しい武器の実験台になって貰おう」


普通なら絶対絶命な中、悠斗は余裕を崩さずに、数秒後に飛びついて来るだろう魔物達に備えた。



☆☆☆☆☆



「くそっ! 連絡が繋がらねぇ!」


一方その頃、正常に転移を成功させていた白刃達は、一人いない悠斗に連絡を取っていた大輝の怒声に、焦りを募らせていた。


「大輝……悠斗君は?」


「無事ではあるが、どうやら第三層にいるらしい。

合流地点は第四層の入口ってことになった」


「第三層って、より危険な魔物達がいる所に悠斗は一人なの!?」


「そんなっ、それじゃあ悠斗が危ない……」


本当の意味で孤立無援状態で危険地帯に行ってしまった悠斗に対して、彼を想う少女達は顔を青ざめさせた。

凛紅や双葉は錯乱し、ミーシアや希理も今にも倒れそうになっていた。


「まず落ち着け! 少なくても悠斗は俺達より強い。 それにアイツは機転が利く。

例え危うい状態になっても手持ちのモノで何とかやり過ごすはずだ!

今俺達がするべきなのは、一刻も早く集合場所に向かうことだ!」


悠斗を信頼する大輝は、凛紅と双葉に喝を入れる。

ただ、その必死さはどこか自分に向かって言っているようにも見えた。

理屈の通った正論に、凛紅達は落ち着きを取り戻し始めた。


「……そうね、ごめんなさい。落ち着いたわ」


「……はい」


「よし皆、少し急ごう。どの道、余計な時間を食う訳にはいかない。

一刻も早くここから出るぞ!」


『おおっ!』


皆に号令を出し、歩を進める。

しかし、白刃も心配する気は同じだった。


実を言うと、この案(攻略案)を考えたのは悠斗だった。

クラスメイトの混乱を防ぐために、予めダンジョンに閉じ込められる予測はしておいたため、白刃に今後の作戦案を伝えて迅速に行動できるようにしておいたのだ。


白刃の中で、悠斗はただの一戦力としては見れなくなりつつあった。

異世界転移組の要として、そして友達として、白刃は悠斗を心配していた。



(悠斗君……どうか、無事で……)





☆☆☆☆☆



「《起動ブート》」


多くの魔物に取り囲まれた悠斗は、形勢逆転のための手札を動かす、呪文を唱えた。

瞬間、悠斗のコートから六つの影が飛び出した。


悠斗から飛び出した影、その正体は飛行する短剣だ。

ただし、それは短剣と呼ぶにはあまりにも妙な姿をしていた。


刃渡りが二十五センチ近くあり、幅もそこそこある。

そして本来あるべき(モノ)がなく、その代わりに幅が短い楕円形の筒が付いていた。


奇妙な短剣達はフワフワと周囲を漂うと、悠斗の周りを護るように傍らへ浮遊する。


これが悠斗が考案し、親方が打った魔導武器。その名も【剣の眷属達ブレード・サーヴァンツ】。


短剣にしては少し大きめの刀身には、魔法術式がいくつか組み込まれている。

その一つが剣を動かす上で重要なポイントである、無属性魔法『空中浮揚(レビテーション)』と風属性魔法『エアロバースト』の術式だ。

『空中浮揚』はあくまでも術の対象を浮かせる事までしか出来ない。

しかし、悠斗には《物体操作》のスキルがある。


《物体操作》も本来は、投擲物の軌道をいじったり、魔法人形(ゴーレム)等を操るためのスキルに過ぎない。


しかし、『空中浮揚』で剣を浮かし、『エアロバースト』でチカラを加えて動かし、《物体操作》でコントロールする。


それらを行えれば、某ロボットアニメに出てくるようなロマン兵器となる。


補足をすると、本来柄があるべき所にある筒は『エアロバースト』を放出するためにあるもので、魔法に指向性を持たせ、なるべくエネルギーが拡散しないように筒状にしてある。

また、刻まれた術式の中には攻撃魔法のモノもあり、任意のタイミングで魔法攻撃を放てる。

更には、予め術式を刻んで置くことで、魔力を流し、簡易的な呪文を唱えるだけで起動するようにしている。



とはいえ、これは自立飛行する兵器ではなく、操るのは悠斗本人だ。

刻まれた術式に魔力を注ぐだけとはいえ、二つ以上の魔法とスキルの同時発動は、本来魔法を専門としていない悠斗には大きな負担を伴う。

魔力回復薬はあるし、もとより、《竜ノ因子》を得たことにより、魔力は格段に上昇しているから、魔力切れの心配はあまりないが、制御を間違えて仲間撃ちフレンドリーファイアは笑えない。

故に、これまでの戦闘には使って来なかった。


だが今は一人。

さらにクラスチェンジを終えたことで能力も上がった。

ならばこれは実験の好機であろう。

だからこそ、悠斗は落ち着き払って行動に出た。



「行けっ!」


六つの内、三つの飛剣が悠斗の指示によって動く。

それと同時に、岩場の陰から一体の魔物が飛び出して来た。

決して小さくはない、トラに近い魔物だ。


だが、その奇襲は無駄に終わる。

空中へと跳び、今にも牙を剥かんとするトラの魔物の額に、飛剣が突き刺さったからだ。


「ガァッッッッ!?」


流石に、即死させられるほど深くはない。

だが、動きは確かに止まった。

その隙を、悠斗は逃がさない。


閃く二条の銀閃が、トラ魔物の身体を穿った。


「ガァッ!?」


まだ倒れぬトラ魔物。


「《弾けろディスチャージ》」


指パッチンフィンガースナップ

途端に、放電。


明らかに高電流、高電圧と分かる電撃が、飛剣を介してトラ魔物の内側から爆ぜた。


如何に耐久力のある魔物だろうと、内側を焼かれれば耐えきれない。

それを証明するかのように、トラ魔物はついに断末魔の叫びさえ残せずに、一瞬で灰燼に帰した。


「意識操作からの伝達ラグはこんなものか。機能自体はどれも問題は無さそうだな」


トラ魔物を苦戦せず、速攻で倒した悠斗は、それを喜ぶことも誇ることもせず、淡々とさっきの戦闘で得たデータをまとめていく。


「さて、残りを片付けよう」


確かに【剣の眷属達(ブレードサーヴァンツ)】が有用なことは分かった。

だが、まだ悠斗を取り囲む敵はそこらじゅうにいるのだ。


命令オーダー、《撃ち抜けファイア》!」


四本の飛剣がその切っ先を悠斗の感知に引っかかっている近くの魔物が隠れているところへ向けて、無属性魔法『魔弾』を放つ。

術式を極限まで改良して刻み込んだ飛剣の『魔弾』は、一般のそれを凌駕する。


無属性魔法の砲弾は、魔物が隠れている岩ごと爆砕・・・・・し、潜んでいた魔物を無残な肉塊へと変えた。


隠れていることが無駄だと分かったのだろう。

魔物達が一斉に飛び出す。


命令オーダー、《斬り裂けスラッシュ》」


悠斗は再び、呪文(命令)を唱える。

いつの間に回り込んでいたのか、二本の銀閃が悠斗に近づく魔物達を斬り裂いていく。

そこに先程砲撃を放った四本も交ざり、戦況は大きく悠斗に傾いていく。


よく見ると、眷属剣達の刃の周りは少し空気が揺らいでいるように見える。

これもまた、剣の眷属達に刻んだ術式の一つ、無属性魔法『幻想剣』だ。

純粋な魔力によって作られた、形の無い刃は、眷属剣の切れ味の強化とリーチを伸ばすことに一役かっていた。


次々と主に害を為さんとする魔物達を斬り捨てる眷属剣達。

辺り一面に、死屍累々の血肉の山と惨劇の後が出来上がるが、それを引き起こしている等の本人は一歩たりとも動いていない。


「っ!?」


砲撃を主体とする魔物達が、まるで何かに指揮されたように隊列を組んで一斉攻撃を放ってきた。

その範囲は広く、とてもではないが、このタイミングで避けられるモノではない。


だが、しかし。


『!!??』


今度は魔物達が驚く番だった。

自分達の自慢の武器である砲撃の一斉掃射は確かに直撃したはずだった。

しかし、ソイツはいまだ二本の足で立っている。

それどころか、微塵たりとも効いている様子がない。


それも当然だ。

何せ砲撃の雨あられは、確かに直撃したが、それは悠斗にではないのだから。


放電、魔弾、斬撃に続く飛剣の第四ギミック。

可能な限りコンパクトに、そして強固になるように術式を作った無属性魔法『魔障壁』。

眷属を三本動員し、三角形の形になるように隊列を組ませれば、詠唱なし、魔力もほとんど使わずに、しかも普通よりも強固な『魔障壁』の完成だ。

それを以て、悠斗は魔物共の砲撃を防いで見せたのだ。


命令オーダー、《穿てスティング》」


悠斗の命令を承った眷属達は、横に自転を始め、猛然と魔物に突撃する。

最早ドリルと化した飛剣は、砲撃型の魔物の頭蓋を食い破り、直ちに絶命させていった。


「《撃ち抜けファイア》、《撃ち抜けファイア》、《撃ち抜けファイア》!!!」


怒涛の三連砲撃。

それぞれ違う方向に向けた十八の光弾は、魔物や、魔物付近の地面に着弾し、牙を剥く魔物達を肉塊へと加工する。


「《斬り裂けスラッシュ》!」


魔弾だけでは仕留めきれなかった魔物を、近づいてくる端から斬り捨てる。

だが、今悠斗を襲っている魔物達は、どれもランク5程度の魔物達。

その気になれば、悠斗の相手ではないが、数が数だ。

それに、生命力が高い為、眷属剣では一撃で与えられるダメージなどたかが知れていた。

だが、それでも悠斗は余裕を崩さない。


「最後の実験だ。《接続コネクト》」


そして、最後の検証を始めるために、そのチカラ(スキル)を発動した。

悠斗ガァッ影騎士戦の後に得たユニークスキル、《接続》。

これは元々、対象に触れていなければならないという制約付きだったが、魔法とスキルによって操っている眷属剣達は、触れている扱いになっていることが分かった。

それによって直接触れていない眷属剣達でも、《接続》の対象になりうるのだ。


そして、このスキルを使うことでどうなるかを悠斗は試したかった。


その結果。


「っ、これ程とは……驚いた」


そう言うが早いか、悠斗はおもむろに手を翳した。

まるで、何かを操るように。


「ガッ!?」


刹那、悠斗の後ろを取ろうとしていた魔物がどこからか来た飛剣に斬り殺された。

悠斗は一言も発しない、一挙たりとも動かない。

しかし、それでも飛剣は飛び回り、魔物を斬殺し、魔力の砲弾で打ち砕き、敵を穿つ。


先程までは口頭による指示、ある程度のアクション、そして呪文が必要だった。

だが今は、それすらも使っていない。

まるで眷属剣達が悠斗の一部になったようだ。


そう、これが《接続》の真価。

対象に接続し、対象の性能を十二分に引き出す、それはあくまでも副次作用に過ぎない。

本当の価値は、接続した対象を身体の一部とすること(・・・・・・・・・・)である。


つまり、剣と接続すれば、剣は文字通り手の延長のように扱える。

他のものでもそれは同じ。


今の悠斗は、眷属剣達を動物の尻尾のように器官の如く操っているのだ。


ただそこに棒立ちでいるだけで、辺りの魔物達は殲滅されて行く。

闘争本能しか持たぬはずの魔物達でさえ、目の前にいる相手は明らかに異常だと認識し始めた。


だがそれでも、魔物達に逃げるという概念はないのか、彼らは悠斗に向かい続ける。


悠斗はそれをひたすらに殲滅して行く。

だが、少しずつではあるが、悠斗の眷属剣達の操作に乱れが生じてきた。

理由は単純、集中力の欠損と疲労だ。


スキルによって身体の延長のように扱っているとはいえ、基本は思念操作。

本来人間には無い器官を擬似的に操作しているようなものだから、当然ながら集中力を大いに必要とする。

人間は慣れてしまった事にはあまり集中力を用いなくなってしまう。

少しずつ操作に慣れたことで、集中力が僅かに切れ、荒が出たのだ。


そして何より、身体の延長として操作するならば、当然それには身体を動かす疲れ(・・・・・・・・)と同じようなモノが蓄積する。

歩いていれば、本人は気づかなくても多少なり疲れるし、座り続けてもそうなる。

何かに意識を張り巡らせているだけでも疲労とは溜まるものだ。

そしてそれは、より一層、集中力をかき乱す。


それ故に、操作に乱れは生まれた。

そしてその隙を、自然を生きる狩人達は逃しはしない。

ついに、悠斗の眷属剣が獣型の狼型の魔物三体を後ろに通すことを許してしまった。

人間では決して持つことはない、獣特有の強靭な脚の筋肉でバネをつくり、一気に解放して悠斗への距離を詰める。


振り上げられた爪は、剥かれた牙は、当たった者を確実に殺す致命の刃だ。

如何に悠斗と言えど魔法を、或いは竜化を使っていない状態で受けるのは命取り以外の何ものでもない。


飛剣は間に合わない。

魔法は発動前にやられてしまう。


だが、忘れるなかれ。

悠斗は魔法使いでもなければ、飛剣使いでもない。

彼は、剣士だ。


彼の手には、いつ間にか背中に掛けていた黒い長剣、【魔剣ノクス】が。



一閃。



空間に、漆黒の線が走った。



それだけ。

ただそれだけで、三体同時に襲いかかった獣型魔物達は、横にズレ、両断された。


悠斗は剣士だ。

魔法も、眷属剣も、元々悠斗に足りていなかった絶対的な強さ(モノ)を補うために築き上げた技術だ。

悠斗は何かに突出した能力を持たない。

だから、悠斗はこれまで、唯一の強みである豊富なチカラ(スキル)の数を活かし、多くの手札をありあわせて強敵を打ち破ってきた。


しかし、悠斗はクラスチェンジを経て魔剣士となり、剣士として新たな領域(高み)へと到達した。

スキルも、魔法も、強化も、一切必要なく、ランク5の魔物を同時に斬り捨てることができるまでに。

それは、魔剣ノクスの影響もあるだろう。

だがそれを抜きにしても、悠斗は間違いなく、強くなっていた。



「さて、そろそろ実験は終了だ。

悪いけど……終わらせてもらう」


駆ける。

強化魔法を纏い、眷属剣達を従えて、疾駆する。

一秒足らずで、最近の敵のところへたどり着いた。


「ふっ!!」


息を吸うように、自然に、長剣を振り抜く。

魔物は断末魔の声を上げる間もなく、死骸へと姿を変えた。


命令(オーダー)、《全機掃射オールファイア》!」


手を払い、呪文を唱え、指揮をする。

消耗が激しい《接続》による操作は既に切っていた。


全部で六本の眷属剣達から放たれた魔力の砲弾は、悠斗に近寄ろうとしていた魔物達を吹き飛ばし、血と肉片に変えていった。


当然、打ち漏らしだってある。

迫り来る残った多種な魔物を悠斗は魔剣で斬殺して、囲いを作ろうとする魔物達を感知で把握し、眷属剣の餌食にする。


それはまさしく、獅子奮迅の闘いであった。


「《撃ち抜けファイア》!」


最後の猿の様な魔物を魔弾で消し飛ばし、その場に残っている魔物はいなくなった。



「ふぅ……流石に数が多かったな。疲れたよ」


一人こぼし、魔剣ノクスを納刀しようとした、その瞬間(トキ)


ドォォォォォォォォン!!!!!


「っっっ!!??」


轟音と共に、悠斗から数メートル離れたところへ巨体が飛び出し、砂塵が舞った。

砂煙越しでも、よく目立つ紅い瞳を滾らせて、悠斗を睨むその魔物を見て、彼は眼を見開いて呟いた。



「黒い、オーガ……」


悠斗前に現れた、第二の異常魔物(イレギュラー)

それは、今回の探索の原因のである、黒化(くろか)したオーガだった。













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