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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第二章 少年少女の戦場
67/112

Go or Return

サブタイは「進むか引くか」、みたいな意味として取ってください。

※悠斗の《魔剣付与》を無くしました。

また、《魔剣術》《魔剣解放》をユニークスキルとしました。

「皆聞いてくれ、今後について話をしたい」


希理の膝枕で二度目の眠りに落ちた悠斗は、そう長い時間を掛けずに目を覚まし、他の仲間達も起こした。


希理の膝枕は大変心地よかったが、それはそれ。

あくまでも今いる場所は一時的に安全が確保されたに過ぎず、その時間も有限で長くはない。

なのでさっさと全体の方針を決める必要があったのだ。


皆早々にそれを理解してくれて、白刃が全体会議を促す言葉を発するまでそう時間は掛からなかった。


……影騎士を相手取るのに精一杯で悠斗は気を回せなかったが、黒騎士戦の方もかなり危うく、【創傷無き慈愛の楽園(セイド・エデン)】を使うにまで至る程の傷を凛紅や双葉、大輝にミーシア達が負ったと聞いた時は冷や汗ものだった。


どうやら後遺症やトラウマはないようだが、怖い思いは確かにあったようで、起きた時は涙を溜めて抱きついて来たくらいだ。


閑話休題(それはさておき)



「それじゃあ、今後の方針を決めようと思う」


全十四人のクラスメイトとミーシアを入れた十五人で輪を作り、白刃が早速本題を切り出す。


「元々ダンジョン攻略はこの世界での俺たちの立場を確立するため、何かしらの功績が必要だから始めたことだ。

そこまではいいな?」


全員が頷く。

功績にうってつけだったのが最近ダンジョンで起きている異常の調査であった。


「皆が体験した通り、明らかにこのダンジョンは異常だ。

ボス部屋のモンスターの明らな上方修正、ひいては通常時のモンスターですら強くなっている。

これらは間違いなく異常と言っていい」


本来、新人(ルーキー)向けのダンジョンである修練の魔境にランク7のタートルモックが出てくること自体がおかしいのに、次に来た時に至ってはランク9のブラットナイトオーバーロードになっていた。

専門家出なくとも、学がなくても分かる。

これは明らかに異常(イレギュラー)だ、と。


「本来ならこの異常の原因を突き止め、解決する、或いはその情報を持ち帰るまでが調査だろう。

だが、俺たちは今回の戦闘で圧倒的被害を受けた。

幸い、死亡や現段階で治療不可な怪我は誰も負ってないが、それは幸運だったからに過ぎない。

第一階層でこれなので第二階層以降ではもっと強い敵、そして激戦が予想される。

ここらで皆の意見が聞きたい。


この後、どうする?」


今後の動き。

その選択によっては彼らの運命は大きく変わる。


このまま続行し、成功したなら彼らの地位は磐石になり、しばらくは生活に困らない。

だが、失敗したなら……良くて敗走、調査任務は有力な冒険者達が成し遂げ、また別の功績の為に何かしらの任務を受けるのだろう。

だが悪ければ、誰かが死ぬかもしれない。

最悪は壊滅や全滅だ。


では一度退却したなら?

誰も死ななくて済むし、安全だ。

だが、失敗の際と同様、別な任務をしなければならない。

つまりはある意味クリアするまで終われない試練なのだ。


「念の為、情報を開示しよう。

俺はさっきの黒騎士との戦闘でレベルも上がり、数多くのスキル、そして奥義スキルを手に入れた。

そしてクラスレベルも上がったためクラスチェンジも可能になった。

これにより俺の戦力はかなり上昇したと言える。

おそらく他の皆も新たなスキルの獲得、クラスチェンジ可能、最低でもそれなりのレベル上昇はあるはずだ。

つまり、もう一度黒騎士のような敵が来てもさっきのようにはならないだろう」


……白刃の言ったことは嘘ではない。だが、本当でも無い。

もう一度黒騎士と戦うことになったら。

その時になって、例え今のステータスであっても余裕で倒せはしないだろう、というのが今の白刃の偽らざる本音だった。


「他にも、強力なスキルや奥義スキル、そしてクラスチェンジ権を獲得した人は出来れば報告してくれ」


情報共有はどんな時でも大切なものだ。

それをしっかりと、かつ無理を強いずに行おうとしている辺り、白刃も成長してきているのだろう。


そして、まず最初に手を上げたのは瑛士だった。


「《舞剣術》と《風纏剣》っていうユニークスキルと、あと奥義スキルで《風天破断》ってのを覚えた。

《舞剣術》は……剣術の派生だろうし、《風纏剣》は剣に風を纏うスキル。

《風天破断》は……言うまでもないだろうが風纏剣を極大まで強化して放つ……みたいな感じだ。

あと、クラスレベルもマックスまで行ってクラスチェンジ可能だ」


おおっ、と小さくないざわめきが起こる。

ユニークスキルの会得、それそれものが大きな戦力上昇であるからだ。


その流れに乗るように希理も名乗り上げた。


「……私は《魔銃招来》、《魔弾》、あと奥義スキルで《殲滅極光魔弾フェアティルゲン》っていうのを会得した。

《魔銃招来》は……私が望んだ魔力銃を呼び出すスキル。

《魔弾》は様々な効力の魔力弾を作り出す能力。

《殲滅極光魔弾》は……名前が仰々しいけど、広範囲殲滅攻撃を行う奥義。

とはいえ、魔銃招来も魔弾も制約があるし、殲滅極光魔弾は威力が威力だけに使い勝手が悪い」


これまた、大きな歓声が上がった。

ユニークスキル保持者が三人。

それだけでも、今後の攻略成功率が格段に上がる。


「ああ、言い忘れたが俺が得たユニークスキルは《聖剣召喚》、《聖剣解放》《制限解除リミットブレイク》、《聖剣術》、《反射リフレクト》、《勇者降臨》、そして奥義スキルとして《勇者の一撃ブレイブストライク》だ。

どれこれも強力なスキルだよ」


ここ一番の歓声が上がった。

やはりリーダーである白刃の激的な強化、それも目に見えて強力そうなものであれば喜ばしいに尽きる。


この後も次々と声があがる。

ユニークスキルの覚醒者はいなかったがレベル上昇によるステータスアップやスキルの獲得、クラスチェンジ可能など、少なくとも全員が何らかの変化を持っていた。


そして最後、みんなの視線は悠斗に向かう。

とはいえ、蘭藤や村山は大した期待はしていないような目であったが。


「僕もユニークスキルを獲得したよ。

《魔剣術》、《魔剣解放》、《魔剣創造》ってやつ。

それにノーマルスキルで《付与魔法》って言うのも習得したよ」


「魔剣創造……俺の聖剣召喚とか神川さんの魔銃招来みたいな感じか?」


「うーん、近いけど違うんだ。このスキルは創造って名前こそ付いてるけど、皆が思っているほど便利なものじゃないんだ」


「と言うと?」


「確かにこのスキルを使えば形状、能力を問わず好きなように魔剣を作れるよ。剣、とは言ってもやろうと思えば多分斧や弓矢、槍にだって出来る。

でも強い魔剣を作ろうとすれば、その分だけ魔力や時間を消費するんだ。

逆に言えば、時間さえあれば即席以上の強力な武器をみんなに作ってあげられるってことだね」


「へぇ……凄いな」


これで、全ての情報は出揃った。


「よし、情報を整理しよう。

今回の戦いにより、みんなのレベルが大きく上昇、クラスチェンジが可能となった。

また、四人がユニークスキルを発現して戦力がかなり増加した。

食料は十分にある。水もだ。武具に関しては……少なくとも武器は悠斗がいれば問題ない。素材さえあれば鎧も調達できる。


ざっとこんなものだろう。

みんなはこれらを全部加味して、自分が最良だと思う結論をだしてくれ」


物資は十分。

戦力は向上。

悠斗がいる限り継戦能力も問題なし。


ここまで来たら現実論は通用しない。

進むか退くかを決めるのは心だ。


リスクを承知で冒険を冒すか、

リスクを恐れて現実を見るか。


選択肢は二つに一つ。

だがその選択をするには、彼らはあまりにも冒険(戦い)を知らなすぎた。


戦いを知らず、危険を知らず、それらを乗り越える為の冒険を知らない。

未知の超越を、知らない。


だから、突きつけられた選択肢はあまりに重すぎた。



「私は、一旦帰るべきだと思う」


最初にそう言ったのは凛紅であった。


「……その心は?」


「今回の……ううん、前回も今回も、明らかにダンジョンの事前情報に、そして何より私たちの実力に合わない敵が現れてきた。

これまでは運良く(・・・)助かって来たけど、これから先、皆が無事で帰って来れるとは限らない。

命あっての物種だと思う。だから、退くべきよ」


その言葉に、彼らの多くが顔を青くした。

思い出したのだ。タートルモックを、サイクロプスを、黒騎士を。


斬られた。刺された。殴られた。蹴られた。魔法で撃たれた。吹き飛ばされた。


自分たちが受けた数多の痛みを思い出した 、震える。

そう、彼らはこれまで、運が良かっただけ(・・・・・・・・)なのだ。


偶然にも、悠斗が堅牢な鎧を持つタートルモックを倒す方法を思いつき、それを実戦する手段があったから。

偶然にも、ヒトを半ば捨てる覚悟を決めた悠斗が、サイクロプスが白刃達を潰す前に間に合ったから。

偶然にも、瑛士が、希理が、白刃が、都合よく覚醒したから、今悠斗達は生きている。


でも次にその偶然があるとは限らない。

ともすれば、その偶然は今度は悠斗達に牙を向くかもしれない。


それが怖いのだ。



凛紅の言葉に思うところがあったのか、広いボス部屋に重い沈黙が広がる。



「わ、私も……もうやめた方がいいと……思います」


沈黙を破り、やはり退却の意思を示したのは、双葉だった。


「これまで何度も危ない目にあってきたけど、ここまで死んじゃうんだって思ったのは今回が初めてだった……。

私は、誰にも死んで欲しくない……傷ついて欲しくない……みんなで生き残りたい。

だからっ、もう、今はやめるべきだと思います」


部屋全体を支配する静寂が、強まるのを彼らは感じた。



「……おそらく、これ以上は時間の無駄だろう。

手早く行こう。この探索を中止すべきだと思う奴は手を上げてくれ」


重苦しい空気をばっさりと切り捨て、白刃は結論を促した。


皆一様に苦虫を噛み潰したような表情をとったあと、次々と手が上がっていく。


「……満場一致、か。分かった。今回の探索は終了、これより帰還する。

各員、帰りに備えてクラスチェンジを行い、武器、アイテムの整備を行っておくこと」


では一時解散。その言葉と共に話し合いは終了した。




☆☆☆☆☆



「クラスチェンジ、か」


話し合い終了後、悠斗は一人、クラスチェンジについて考えていた。

ゲームでもありがちなシステム。

別な言い方をすればジョブチェンジとも言うこのシステムが果たして異世界(現実)ではどのような結果を引き起こすか分からない。


「そろそろやるか」


考えても答えが出ない思考ほど時間の無駄はない。

そう判断した悠斗は首にぶら下がっている魔導書に僅かながらの魔力を込める。

魔導書に施されているどこか紋章じみた金の刺繍が淡く光り、本が開く。

開き切った本のページには黒いインクのようなもので細やかに文字が書き連なっているが、元々魔導書自体が手のひらサイズなので、その内容を読み解くことは叶わない。

代わりに文字が表紙と同じく発光し、薄い水色の半透明なホロウィンドウが悠斗の目の前に投影される。


「さて、選択可能なクラスは……」


ホロ画面に書かれていた情報にはこう書いてあった。


………

【選択可能クラス】

《双剣士》《剣闘士》《複剣士マルチソードマン》《魔剣士》《魔術師》《錬金術士》《調合士》《薬士》《鍛冶士》《魔道具制作士》《付与士》《闘士》

………







「うーん、思ってたより多いな」


既にクラスチェンジを経験しているクレドやレイラに聞いた話では、一回目のクラスチェンジに現れる選択可能クラスは普通は二つから三つ、多くとも五つくらいらしい。


「それにしても一体なんでこんなに……」


明らかに普通を超えた選択可能クラスの数に流石の悠斗も不安になっていた。

だが、その不安は直ぐに拭いさられることになる。


『それはある意味悠斗さんが凄まじいからです』


誰に向けたわけでもない独り言は、アルテナによって解答された。

魔導書に宿る人格であるアルテナは頭に直接語りかけるように説明を続けた。


『チェンジ可能クラスを判決基準は対象の前クラス、そして才能によって定められます』


「才能?スキル構成じゃなくて?」


『はい。

正確には、スキルそのものが才能の一種でもあります。

そもそもステータスとは、対象の現在の能力を分かりやすい形で視覚化したものです。その能力の中には才能も含まれます。

持ちうる才能を理解、或いは発見することによって起こるのが【スキル】なのです』


その主な例として、スキル欄に表示される魔法系スキルが挙がる。

魔法系スキルがあるからその魔法が使えるのではなく、その魔法を使う素質がもとよりあるから、スキルとして具現されるのだ。

それはスクロールで覚えられるスキルも同様で、ある程度の適正がなければスクロールを以てしてもスキルを覚えることは叶わない。

スクロールはあくまでも目覚めないかもしれない才能(スキル)を強制的に目覚めさせるものなのだ。


『とはいえ、スキルにも物事に直接作用するモノもあります。そのいい例が悠斗さんの《電撃スパーク》や、《精神汚染》でしょう。

こういう、一概に才能とは言い難いモノもスキル扱いされるので勘違いなさったかも知れませんが、ここに出ている作用系スキルは言わば、特殊能力のようなものです。

スキルが皆、対象が使える特殊能力を文字に起こしたという印象が持たれがちですが、正確には作用系スキルと言う名の特殊能力を扱える才能を含む、全ての才能を文字に起こしたものが本来のスキルの定義です』


つまるところ作用系スキルは特殊能力を扱える才能。

そして魔法系や技術系スキルは書いてあるとおりの才能となる。


才能はスキルとして世界に昇華され、魔導書に刻みこまれる。

そしてそれは、世界から恩恵を受けて才能から能力へと変わる。

それがスキルアクションや、魔法技アーツである。


『才能とはいえ、ステータスが現在・・の自分の能力を示す以上、自身が気づいていなかったりする場合はスキルとして昇華されません。

日常、戦闘問わず自分の才能のその一端にでも気づければ、才能はスキルと成り、魔導書に刻みこまれます。

随分遠回りしてしまいましたが、世界は魔導書を通じてヒトを知り、その人に見合うクラスを与えます。

そしてクラスを決めるのはその人の現在イマ才能スキル、そして潜在しているスキル(才能)なのです』


「じゃあ、最初のクラス選択の時に出ていたクラスは僕達に適しているのをピックアップしたってこと?」


『それは違います。これは悠斗さんの選択可能クラスが多いことにも関係しますらが、皆さんは異世界人ということもあり、必ずこの世界でも確実に生きていけるクラス、つまり戦闘職が用意されました。

皆さんの才能に関係なく、七つのクラスを用意し、必要とあらば世界が皆さんにそのクラスの才能を与えます。

そういう点では皆さんが特別、ということになりますね』


「……つまり、最初のクラス選択肢は皆一緒で、それはこの世界からの配慮ってこと?」


『はい、その通りです。

その証拠に、基本的に《剣士》からクラスチェンジ可能なクラスで一般的な《騎士》がありません。

それは言ってしまえば悠斗さんには《騎士》系統のクラスの適正が無いということです。

ああ、悲嘆しないでください。その代わりに悠斗には通常、《剣士》クラスからは滅多にチェンジ出来ない《複剣士》や《魔剣士》の適正がありますよ』


「? 滅多に行けないってことは、そこそこレアなクラスなの?」


『はい。クラスの中には魔剣士や複剣士と言った才能だけでなく特定の条件を満たさなければ発現しないモノもあります。

それらは俗にエクストラクラスと呼ばれています。

例えば複剣士で言えば三種類以上の剣をある程度の練度で扱えることが条件だったりしますね』


確かに悠斗は状況に応じて長剣、双剣、大剣を使い分けている。

それでここまで戦って来たのだから、複剣士の条件をクリアしていてもおかしくはない。


『話は戻りますが、悠斗さんはその身に数多の才能(スキル)を宿しています。

故に本来、《剣士》からは派生しないはずの《魔術師》や《錬金術士》などが選択可能クラスに現れたのです』


「僕が持つ才能か……」


『難しく考える必要はありません。

どのクラスを選ぶにしろ、選択肢が多いことはいい事ですし、何を選んでもそのほとんどが選んでもメリットがあってもデメリットなんてありません。

ただ、僭越ながらアドバイスするとしたら、悠斗さんが選ぶべきは《魔剣士》でしょう。

《魔剣士》のクラスが出たことは歴史上少なく、かつ出現条件も曖昧です。

何より、魔剣士になった人達は誰もが例外なく強者に成っています。

それにこのクラスなら悠斗さんのユニークスキルを活かせるでしょう』


悠斗のユニークスキル、《魔剣術》、《魔剣解放》《魔剣創造》。

どれもこれもが未知数で、しかし強力な武器になりうるスキル。

そして何より、彼が持つ……いや、受け継いだ【魔剣ノクス】。

それを十二分に活かすためなら、魔剣士になるのが一番かもしれない。


「……うん、確かに、手に入れた武器やスキルを考えると、まず魔剣士を選ぶのが良さそうだ。

ありがとう、アルテナさん」


『……いいえ、私は貴方を導く者ですから。気にしないでください』



アルテナの意見を含め、考え抜いた末、悠斗は魔剣士に就くことに決めた。

現状、この選択が最も自身を強化すると思ったからだ。


「《魔剣士》にクラスチェンジ」


刹那、悠斗の身体が淡く光った。

その光は魔導書を開く時の光と酷似していて、そしてすぐに消え去った。


「……特に身体に変化は見られないな」


クラスチェンジは成功したようだが、あまり実感が湧かなかった。

だが、少しだけ、変化したことはあった。


「……さっきよりも魔剣をより強く感じる」


何があってもいいように、背中に掛けてある魔剣が、クラスチェンジ前よりハッキリと意識出来るようになっていた。

以前は、他とは違う雰囲気の剣という感じしかなかったが、今はその威容、圧力、力がひしひしと感じられる。


(これが魔剣、か。なんとも言えないけど、凄まじいな)


ただ普通じゃない剣を手に入れただけではあるが、それに確かな戦力強化がされたことを感じて、悠斗は嬉しくなっていた。


「悠斗!」


呼ばれて振り向くと、視線の先には凛紅達がいた。

彼女等もクラスチェンジを終えたようだ。


「凛紅、そっちはなんのクラスにした?」


「私は《閃剣士》って言うのにしたわ」


閃剣士は主に速度を重視したクラスだ。

一撃の重さよりも手数で相手を攻め立てることを念頭におくスタイルを主とする。

その多くはレイピア使いが就くことが多いのだが、凛紅はステータスの敏捷が高く、戦闘スタイルも速度と技意識なため出てきたと思われる。


「大輝は?」


「俺は、薄々勘づいているかもしんねぇが、《剛剣士》だ」


剛剣士もまた、剣士の派生スキルだ。

ただし、閃剣士とは正反対に速度や手数ではなく、一撃の威力を特に追求したクラスである。


「うん、流石二人とも。イメージ通りだ」


「……褒められているのか、微妙ね」


元々感想を期待していたわけではないが、出来ることなら褒め言葉は貰いたかったのだが、如何せん、相手は悠斗。

返ってきたのは褒め言葉とは微妙に取りにくい、とはいえ貶されている感じもしない、大変反応に困る言葉だった。


「ゆ、悠斗さん。私は《神聖術士》というクラスに就きました。恐らく、エクストラクラスで私の神聖魔法や治癒魔法が強化されると思います」


「おぉ、それはいいね。双葉がいなければ僕だって何度も死んだかもしれないところがあったし、これからも頼りにしてるよ」


「ふぇっ!? は、はいっ!」


「……なんか私の時よりもちゃんとした感想ね」


悠斗としてはどちらも本音を述べたつもりだったが、凛紅にはそうは聞こえなかったらしく、ジト目で見つめられた。


「お兄ちゃん!わたしは《魔導士》になったよ!」


もう我慢出来ないと言わんばかりの勢いで、ミーシアが悠斗に飛びつく。

水色の髪色と同じく毛色の猫耳をピコピコさせて、あたかも褒めて欲しそうに、身体を擦り付けてきた。


「うん。ありがとう、ミーシア。

いつも助かってるよ」


「うみゅっ、えへへ」


彼女もまた、悠斗のパーティで貴重な魔法職であり、攻撃の要だ。

それは誰にでも共通して言えることではあるが、悠斗のパーティはそれぞれがやけに尖っていて、それを密な連携と悠斗の万能型なスキル構成と指揮によって真価を十二分に発揮する。

言わば、誰が欠けても起こりえない、ある種奇跡的なものなのだ。


「……」


「……」


「まあ、頑張れ」


何故か、女子二人にジト目を頂戴し、親友に励まされた。

状況を理解しきれなかった悠斗は思わず「解せぬ……」と呟いていた。


「まあ、何はともあれ、皆無事で良かったよ」


「ま、結構危なかったな」


「今度ばっかりはもうダメかと思っちゃいました……」


「でも、お兄ちゃんの方もあの黒騎士みたいなのが出たんだよね」


「うん、そうだね。僕の方も危うかったけど、何とかなったよ」


他愛のない、友人同士の会話。

しかし、その内容は物騒で、ところどころに辛さや悲痛さを感じさせる。

その会話が、紛れもなく、彼らがいるところが異世界であると、戦わなくては生きていけないところだと雄弁に物語っていた。



「おおーい、そろそろ出るぞー、皆集合してくれ!」


そうのんびりしてもいられず、白刃からの呼び出しが掛かった。


「よし、じゃあ行こうか」


『おおっ!』


悠斗達も置いていかれぬよう、足早に集合場所に集まった。







……

……

……



「よし、それじゃあ、開くぞ」


ボス部屋に設置された装置に手をかざし、微量の魔力を流し込む。

魔導書のそれと同じようなホロウィンドウが展開され、白刃がそれを操り、外への脱出を行う。

後は装置が転移ポータルを起動し、ダンジョンの外へと送り届けてくれる。


……そのはず、だった。



「転移!」


白刃が、確定ボタンを押した。

足下に魔法陣のようなモノが浮かび上がり、異世界転移組を淡い光で照らす。

輝きは強くなり、目を開けていられなくなり──────光と共に魔法陣も霧散した。


『へ?』


転移組の声が、重なる。

それはあまりにも気が抜けた声だった。


「くっ、もう一回だ。転移!」


再び、魔法陣が光る。

しかし、その結果もまた、同じ。

魔法陣は虚しくも、光と共に消えていく。


何度も試したが、変わらない。

試せば試すほど、ある事実だけが確証を得ていく。


即ち。


「脱出が……できない……?」


誰かの呟きが、小さく、されど明らかにボス部屋に響き渡った。


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