『愚者』 前編
解せぬ……まさか次話更新に一月もかかるとは……解せぬ。
身を焦がす、狂おしい程の本能に耐え続ける。
自分が自分であるための最後の防波堤が今にも砕け散りそうだ。
今にも自我を忘れ、暴れだしそうな肉体に自分は人間だと言い聞かせる。
そう、まだ人間だ。
辛うじて人間だ。
けれども、ヒトとは認められないだろう。
通常のヒトとは違う姿だから。
見た者に忌避感すら与えるような、異形の姿だから。
『人間であるかどうかを決めるのは、見た目でもなければ種でも無い。その人物の心の在り方だ』
誰かが唱えた、人間の定義。
人種、獣人種、エルフ、ドワーフなど様々な種族がいるこの世界で誰が本当の人間かを決めるために争った時代で、その人物はそう唱えた。
特別なモノはなく、数のみが優れている人種。
牙や爪、強靭な肉体と種族特有の耳や体毛などを持つ獣人種。
高潔で誇り高く、長命で知識や魔法など様々な分野に長けたエルフ。
矮軀ではあるが、身の丈を軽々と超える岩を悠々と持ち上げる圧倒的な膂力と他の追随を許さない生産技術を持つドワーフ。
見た目が違うだけでそれら全ては同じ人間だと。
例えその身が鋼鉄でも、例え肉体が人でないナニカになったとしても。
その心が、生き方が、人間のものならば
そのヒトは人間であると。
だから、自分は人間だと叫び続ける。
これが、ヒトとしての自我を保ったまま、ヒトならざる身に変わってしまった者の戦いなのだから。
☆☆☆☆☆
影騎士は驚いていた。
眼前の脅威を処理し終え、残ったニンゲンを葬ろうと歩を進めた直後、背後から恐ろしい殺気を感じたからだ。
振り返るとそこには、先程処理したはずの少年が立っていた。
しかも、明らかに変わった様子で。
始めは強化の重ね掛けで自らを強くして、最後には自分の腕を持っていったが、その直後に強化が切れたのか吹き荒れていた魔力の奔流は消え失せ、明らかに弱体化していた。
そんな状態の少年の胸に自分の長剣を突き刺したのだからもう立ち上がるまいと思っていた。
だが、目の前の少年は立ち上がっている。
しかも、強化の重ね掛けの時と同等の圧力を伴って。
少年は、静かに言い放った。
「そろそろ幕閉じにしよう、影騎士」
その宣告に、影騎士は────
「◼◼◼◼◼ッ!」
身に纏う全ての闘志を燃やして答えた。
……
……
……
完全な竜人化。
悠斗が隠し持っていた究極の切り札。
これを行使すれば、悠斗のステータスは現段階よりも数段跳ね上がり、さらにはいくつもの強力なスキルを獲得出来る。
しかしその代償は悠斗の肉体。
人の身では余る力を手に入れる代わりに、悠斗の身体は改造される。
地球で両親のDNAから作られた肉体は竜とヒトが混じりあったモノへと変わる。
肌は少し黒く変色し、ゴツゴツとしたモノへと。
背中からは蝙蝠のような翼が生えだし、折りたたまれている。
手も鉤爪のように鋭くなっている。
これが恩恵。
そしてその代償もまた、大きい。
自分の身体が、自分が知らない全く別なモノに変わっていく恐怖に苛まれ、身のうちに持つ竜の因子が魔物としての本能を掻き立てる。
常人なら既に発狂していてもおかしくない状態を、悠斗は耐え抜いた。
そして、艱難辛苦を乗り越え、悠斗は手に入れた。
超強化薬なしで、目の前の影騎士に届きうる力を。
……
……
……
先手は、悠斗が取った。
竜人化して得た強大なステータスを十全に発揮し、彼我の距離を一瞬で詰めて影騎士を────殴り飛ばした。
「ふっ!」
「◼◼◼ッッッ!?」
影騎士はそう余裕がある訳でもないうえに、隻腕になってしまったため反応が遅れ、悠斗の一撃をモロにうけてしまった。
なんとか踏ん張って数メートル飛ぶだけで済んだ影騎士だったが、安堵の間を与えさせない悠斗の二撃目が既に迫っていた。
側頭部を狙った鋭い蹴りが空気を裂き、吸い込まれるように狙い通りにヒットし、影騎士は今度こそ十メートル近く吹き飛ばされた。
影騎士は受け身と同時に起き上がると、高速の斬撃を繰り出す。
その一撃はその場に留まらず、衝撃波となって射線上の全てを切り裂かんと迫る。
「っ!?」
その射線上には、悠斗の姿が。
すぐさま悠斗が追撃してくると影騎士は読んでいたのだ。
しかし、
「『竜鱗』」
呟きと同時に展開された半透明な鱗状の膜が、硬質な音を上げて衝撃波を防いだ。
《竜魔法》、『竜鱗』。
これは悠斗が悠斗が完全な竜人化をしたことにより発現した力によるものだ。
異世界アーカディアに存在する希少種族、竜人種は人種と竜種の混合種である。
そのため、彼らは一見すればそこらじゅうにいる人種となんら変わりない見た目でありながら、魔法や魔力による強化なしでも地を割る程の膂力を持っている。
しかし、ベースが人種であるため、彼らには竜としての器官がいくつか欠損している。
それは外敵の攻撃から身を守る堅牢な体表だったり、炎を吐くための臓器だったりする。
そこで彼らは思いついた。
例えベースが人種であろうとも、自分たちは竜の因子を受け継いでいる。
なら、竜の因子で肉体を限定的に変容させればいいと。
その結果生まれたのが今の悠斗が発動しているスキル、《竜人化》である。
これにより、竜人種は他の種族と比べても比類ないほどの防御力とそれだけで鉄をも切り裂ける爪、そして空を飛ぶための翼を手に入れた。
だがまだ足りない。
竜の代名詞とも呼べる竜の吐息やその他各竜種が持ち合わせる固有能力等を再現出来ていないのだ。
そこで竜人種は考えた。
肉体で再現出来ないのなら、魔法で再現すればいいと。
そこで生まれたのが《竜魔法》。
竜の因子によって他の種族のそれとは一つ上の段階に昇華された魔法だ。
『竜鱗』は言ってしまえば『魔障壁』と
ほとんど変わりない。
ただ、竜魔法なので竜の因子により、ただの魔障壁より何倍も硬度が上がっているのだ。
そして、必殺のつもりで放ったはずの一撃を軽々と受け止められた影騎士は、動揺する間もなく、悠斗の攻勢に晒される。
「『竜爪』!」
「◼◼◼ッッッ!!??」
《竜魔法》、『竜爪』。
ただそれ一つで鉄すら軽く切断する程の威力を持つ竜人化状態の爪を竜魔法によって強化する魔法。
竜の魔力が悠斗の指に集中し、その一本一本に刃を形作っていく。
魔法によって強化、形成された十の刃はまさに竜の爪の如き威容を放っている。
その威力はアダマンタイトすら断ち切れるとも言われる程だ。
一撃一撃が致命の連撃を、悠斗は怒涛の勢いで繰り出し続ける。
隻腕の騎士はそれを上手く躱し続けるも、片腕ではそれもすぐに限界が来てしまう。
徐々に紫紺の鎧が削られていく。
影騎士が悠斗の連撃を捌ききれなくなっているのだ。
この勢いなら、あと十数合打ち合う内に影騎士に致命傷が入るだろう。
────ソレがただの理性なき魔物であれば、の話だが。
だがソレは、母によって『影騎士』の名を与えられた名前持ちだ。
そうあっさり倒しきれる訳がない。
悠斗の斬撃を剣でなぞるようにいなしながら身体を回し、半身になる。
結果、悠斗の腕は勢いよく突き出されたまま空振りし、バランスを崩した。
そして影騎士は手を返し体重移動の要領で剣を振り払う。
当然の事ながら、悠斗はそれに巻き込まれ、斬られることは無かったが距離を取らてしまった。
「くっ、『竜体突』────なっ!?」
開けられた距離を再び詰めるため、竜魔法による突進を試みようとした悠斗だが、目の前の異様な光景に目を剥いた。
影騎士の腕が再生していた。
いや、それだけなら悠斗は驚きはしない。
問題はその様子。
果たしてそれは再生と呼んでいいのだろうか、肘から先に影騎士が纏う黒いオーラのようなものが収束し、腕のような形を成しているのだ。
「◼◼◼」
その声は音にしか聞こえない。
しかし、その意味だけはハッキリと理解出来た。
少し遠くに転がっている、悠斗に切り落とされた腕に握られていた長剣が命を持ったようにカタカタと震え、腕を離れて影騎士の元へと飛んで行き、闇の腕に掴まれた。
再び二刀流となった影騎士を見ても、優斗は動揺する素振りを見せない。
意識しておさえこんでいるのか、あるいは本当に動揺に値しなかったのか、それは定かではないが。
彼自身も、いつの間に回収したのか竜双剣を両手に持ち構え直す。
奇しくも、振り出しに戻ったかのような状況ではある。
両者の間で緊張感が高まり、ついに限界点を超えたその時────
「っ!?」
先に動いたのは悠斗。
彼は手に持っていた竜双剣を……投げた。
一番最初に倒した強敵である竜から作り出されたシンプルだが美しい双剣が弧を描いて左右から影騎士を狙い迫る。
剣士同士の戦いで己の得物を投げるのは普通に考えてありえない。
その常識外れな行動に影騎士の動作は一瞬固まる。
さらには避けるにしろ弾くにしろ自分に向かって飛んでくる凶器に影騎士は対応せざるを得ない。
それによりもう一度影騎士の動きは硬直し、数秒の隙が生まれる。
この戦いにおいて、致命的とも言っていいい隙が。
「『竜体突撃』!」
悠斗の肉体が竜の魔力を纏い、ジェットのように噴出して加速される。
勢いをつけるためなのか翼を広げているのでさながら、その一つで猛然と突撃する竜種のようだ。
そしてその突撃はそこそこはあった彼我の距離を刹那の内に詰め、稼いだ時間さえも置き去りにして、投擲された双剣と悠斗自身の同時攻撃のような形になった。
「◼◼◼ッッッ」
最早何度聞いたか分からない影騎士の咆哮だが、その時のモノは今までとは明らかに質が違った。
それを証明するかのように足下に闇のオーラが広が。
直後、闇は隆起し左右から飛来する竜双剣を下からの衝撃で弾き飛ばした。
が、それすらも予想内と言うように悠斗は顔色一つ変えずに鋭い貫手を放つ。
当然、その手には『竜爪』が掛けられている。
鋼鉄の身体をも切り裂く一撃はしかし、影騎士に難なく止められる。
続く二撃、三撃も両腕に戻ったことで調子を取り戻した影騎士に上手くいなされる。
悠斗と影騎士の間には、決して小さくはない差がある。
それは経験と時間の差だ。
悠斗は剣士としてかなりの素質を持っているし、異世界に来てからは相当な努力を重ねている。
並の剣士なら一蹴出来てしまう。
ただし、並の相手ではない場合。
それこそ影騎士のように技もステータスも負けている相手にはどうしても一歩及ばない。
身体能力の差を埋めるための技ではあるが、それさえも負けてしまえば、最早活路はないに等しい。
このままでは連戦によって蓄積した疲労により、悠斗は押し切られてしまうだろう。
それが剣士同士の戦いであれば、だが。
確かに悠斗には剣の才能がある。
そしてそこに加わるスキルの力と異世界転移特典、そしてグリセント王国総合騎士団長レイラ・シグルスとの稽古により、その才能は相当なモノへと磨かれた。
だがしかし、レイラやクレドが見出した悠斗の本当の才能はそこではない。
悠斗の本当の才能、それは主に対人及び対人型の戦闘に関するものだ。
白刃のように一切合切を吹き飛ばす力でもなく、凛紅のように華麗に切り裂く技でもなく、大輝のように堅牢なモノを打ち砕く破壊力でもなく、希理のように圧倒的な数を纏めて消し去る殲滅力でもない。
それはただ人の形をしているモノを倒す才能。
関節を極めて四肢を壊し、喉や眼といった弱い器官を狙い感覚を潰す。
使えるモノはなんでも使い、必要なら不意討ちやブラフといった多少卑怯なことでさえも利用して敵を葬る。
言うだけならそれは簡単だ。
脅し文句で骨を折るとか目を潰すなんて言葉はよく言われる。
尋問、拷問の際に腕や指の骨を折ることは少なくないし、相手を殺さず無力化する時にもそれは有効な手段だ。
だがいざ実践するとなれば話は違う。
それが出来るのは基本的には訓練を受けた者か狂人のみ。
腕をへし折る為に肘の関節に力を込めた瞬間、ほとんどの人間には良心の呵責や相手を慮る心で実行を躊躇してしまう。
その躊躇いをなくす、あるいは慣れるための訓練なのだから、訓練なしに人体破壊を行えるのは狂人だ。
だが悠斗は狂っていない。
彼の人柄を聞いたときに、狂人だと言う人は一人もいないだろう。
故に異質。
訓練を受けたわけでもなく、狂っているわけでもないのに持ち合わせる人体破壊の才能。
剣術も格闘術も投擲技術も魔法など様々な才能を持つ悠斗だが、それらは全て彼の才能の一端に過ぎない。
剣才は凛紅やレイラに劣るし格闘術はクレドに劣る。
魔法も双葉やミーシアに及ばない。
だがそれらを全て纏め、ただ手札の一つとした悠斗は、対人戦において多くの人間を凌駕する。
つまり、だ。
影騎士は名の通り騎士の見た目をしている。
そう、人型だ。
真っ当な剣士としての戦いなら悠斗に勝機はない。
だが真っ当な剣術戦いではなく殺し合いなら。
────悠斗の方が、強い。
「『再製』」
悠斗が小さく呟くと、その手に身の丈程の大剣が現れる。
「《限界加速》」
腕を振るう速度をスキルにより加速させ、一気に大剣を振り抜く。
いきなり加速した一撃に反応しきれず、影騎士は辛うじてガードするも吹き飛ばされた。
無論、スキルを利用した無理な加速をした悠斗の腕は、簡単には止まらない。
無理に止めようとすると、腕がちぎれそうになる。
だから止めない。
止めずに、その勢いすら利用して、遠心力をたっぷり使って大剣を────投げた。
円盤かと錯覚する程に回転して投擲された大剣は、猛烈な勢いで影騎士に迫る。
吹き飛ばされてすぐの影騎士は体勢が悪く避けることは難しい。
だが彼には、まだ切り札があった。
「◼◼◼◼◼ッッッ!!!」
少し前に同じように投擲された竜双剣を弾き飛ばした闇の力だ。
闇は実体を持たないはずなのに、質量は持つ。
影騎士はこの闇を自らの意思の力と考えた。
意思が強ければ強い程、全てを弾き、押しつぶせる、思念の闇。
だから影騎士はあらん限りの意思を以て闇に念じた。
『大剣から守れ』
と。
そうでもしなければ、いや、そうしても、防ぎきれるかどうか危うかったからだ。
そして────激突。
隆起した闇と鋼の剣がぶつかり合い、火花を散らす。
甲高い金属音と凄まじい衝撃が影騎士の身体を突き抜けた。
せめぎあいは一瞬だった。
永遠のような、一瞬。
結果から言えば、影騎士は見事大剣を防ぎ切った。
その事実に彼は安堵してしまった。
故に────
猛然と迫り、弾かれた大剣を掴んだ悠斗の攻撃を躱すことが出来なかった。
「『雷の幻想達』!」
武具を媒介にして術士の望むモノを雷の魔力で形成する高位魔法。
生み出されるは雷を象徴する伝説にして最も有名な神具。
北欧神話に登場する主要の神の一柱、雷や農耕を司る、最強クラスの戦神トールの雷槌。
その真名は────
「『ミョルニル』!!!」
そう言い放った次の瞬間には、大剣は手頃なサイズの小槌へと変わっていた。
そしてそれを影騎士に向かって叩きつける。
刹那、雷光が爆ぜ、眩い閃光と衝撃すら伴う轟雷に辺りは包まれた。
……
……
……
直撃は、しなかった。
紙一重で二本の剣を交差させてガードしたからだ。
だが、それで無事かと言えば、そうではない。
視界が晴れて、向き合った両者はどちらも満身創痍だった。
悠斗はミョルニルの余波をモロに受けてしまい、雷の耐性があっても受け止めきれない電力と熱、衝撃が彼の身体を傷つけていた。
そして影騎士も直撃はしなかったとはいえ、盾替わりにした剣は二本とも全壊。
それでもなお抑えきれなかった暴虐の如き奔流が全身に多くの傷をつけ、半壊へと追い込んだ。
影騎士は闇で作られた左腕を除きほぼ壊滅。
対する悠斗も傷だらけで魔力もほとんど尽きた。
だがそれでも戦いは終わらない。
まだどちらも生きている。
例え満身創痍だろうと、どちらかが死ぬまで戦いは終わらない。
故に、
「うああああああああっっっ!!!」
「◼◼◼◼◼◼◼ッッッ!!!」
影騎士は闇のオーラを、悠斗はなけなしの魔力振り絞って、纏い、地を蹴った。
武器はなく、魔力もほとんどないのなら、最後に行き着くのは……泥臭い殴り合いだ。
影騎士が鎧の腕を突き出す。
ボロボロとはいえ、鋼鉄と魔物のステータスで殴られたらただでは済まない。
だからこそ、悠斗はそれをギリギリで躱し、腕を取った。
「!?」
「ふっ!」
驚いた気配を見せる影騎士を気にもとめず、悠斗は一切の躊躇いもなく身体を回転させ、影騎士の肘を本来ありえない方向に捻じ曲げた。
結果、残っていた右腕も肘から先を持っていかれる。
最早、闇を収束させることも出来ないらしく、腕が再生する気配はない。
痛みはないのか、悲鳴も咆哮もない。
その代わりに闇の拳が飛んできて、悠斗の頬に突き刺さった。
「がっ!!」
クレドとの訓練で慣れた痛み。
だがそれでも、今の悠斗にはこれ以上ないほど響く一撃だ。
「◼◼◼ッッッ!!!」
それを機と見たか、影騎士は片腕と脚で猛襲を仕掛ける。
殴打、脚撃、膝撃、肘撃。
圧倒的な暴力が悠斗に叩きこまれていく。
彼の身体には力が入っておらず、なされるがままだ。
そしてついに、悠斗の身体は地面に崩れ落ちた。
そのままピクリとも動かない。
だが影騎士は、万が一を防ぐために悠斗にトドメを刺そうと近づいた。
悠斗の真上に立ち、その顔面に最高の一撃を叩きつけようと力を込める。
そして────
ドスッ。
鈍い音が、微かに響いた。
音の源は、影騎士。
だがそれは、彼が悠斗にトドメを刺した音ではなかった。
よく見ると、影騎士の背中からは半透明な薄い何かが生えている。
否、それは影騎士の背中から生えているではない。
悠斗の手から伸びている《無属性魔法》、『幻想剣』が影騎士の胸を貫いているのだ。
種明かしをすると、だ。
影騎士のようなブラッドナイトオーバーロードは、スケルトンやゴースト同様、アストラル系と呼ばれる。
生身の肉体ではなく、精神体に命を持つ魔物。
そしてアストラル体に最も効果的なのは、魔力によって精神を攻撃することと言われる。
だから悠斗は、格闘戦では倒しきれない考え、『幻想剣』で直接アストラル体を攻撃、殺傷することにした。
とはいえ、先の『雷の幻想達』で魔力は《充電》によって貯蓄された分までそのほとんどを失ってしまった。
そのため残された機会は一度しかなかった。
故に悠斗は、最も確実な時を狙った。
最も確実な瞬間、それは獲物にトドメを刺す瞬間だ。
特に死闘を極めた後なら確実に。
だから賭けに出た。
致命傷を与えかねない鋼鉄の腕をへし折り、闇の拳と鉄の脚だけに攻撃方法を絞込み、わざと攻撃を受け、倒れた。
正直な所、意識は飛びかけたし、ダメージは凄い。
だがそれでも悠斗は乗り越えた。
そして確かに、今、影騎士を仕留めた……かに思えた。
「なっ!?」
影騎士の闇の腕がゆっくりとだが動き、悠斗の幻想剣を掴んだのだ。
そして次の瞬間。
二人の存在は、交差した。
ちょっと遅くなったので、途中で切って前後編にしました。
面白いと思って頂けたら感想、ブックマーク、コメント、ポイントをお願いします。
一番下のポイント追加みたいな所を選んで、ポイントを入れてくれるだけでいいので。それが私の原動力になりますので。お願いします。
PS、なんとトータルポイントが100を超えてました。些細なことかも知れませんが、作者的には大変嬉しいです。これからも、お付き合い頂けたら、幸いです。
後短編のエッセイのようなヤツや詩も書いて見たのでもし良ければそちらもどうぞ。




