黒騎士戦①
かなり頑張りました。暇つぶしにでもどうぞ!
あと、魔物強さの基準としてランクを設定しました。
サイクロプスはランク8
タートルモックはランク7程です。
※悠斗の改変詠唱の部分を【】で分かるようにしました。
ソレは『ブラッドナイトオーバーロード』と言う名の魔物であった。
その大仰で痛々しい名の魔物は、しかし、その名を冠するに相応しい実力を持っていた。
ブラッドナイトオーバーロードは高い物理・魔法耐性と、オーガの上位種であるオーガジェネラルと真っ向から打ち合える膂力を持つ。
それに加え《剣技》、《体術》、《鎧術》、などのスキルと属性魔法を操る。
その脅威たるや、銀等級以上の冒険者で五十人以上の討伐隊を組んだとしても三分の二も生き残らない程である。
そして実際に、数日前に現れた冒険者達の調査隊を苦もなく全滅させた。
彼には、他の個体と違う点があった。
そう、彼には自我が芽生えていたのだ。
それが偶然か、必然かは分からない。
ただ一つ分かることは、自分が成すべきことはこの部屋に入ってきた侵入者を倒す事だけだった。
しかし、彼は自我を得た瞬間より、かつて己だったであろう存在の記憶、願いを取り戻した。
もう一度、血肉沸き踊る死闘をしたいと。
彼が母より与えられたのは数多を砕く膂力、鋼鉄をも軽く断つ剣、全ての害悪から身を守る鎧、そして『黒騎士』の名。
彼はそこに生まれ落ちた瞬間、あらゆる外敵を屠る騎士となった。
与えられた力と、前世より継ぎし能力を以て。
彼は、この生涯二度目の戦場に立つ。
今度こそ、心から欲する闘争が出来ることを願って。
☆☆☆☆☆
「◼◼◼◼◼◼!!!」
先手は、黒騎士が取った。
彼の足元に浮かぶ無数の魔法陣から多種多様な使い魔達が召喚された。
『黒騎士』という個体の『召喚魔法』だ。
黒化現象とはまた違う、黒騎士のそれと同じような黒いオーラで形成された使い魔達は、そのどれもがランク5以上の怪物で、それが群れで迫る迫力はサイクロプスに勝るとも劣らない。
「っ!」
白刃でさえ、声が出なかった。
恐怖はサイクロプス戦で経験した。
そして今の自分はその恐怖を乗り越える為に強くなったはずだった。
それなのに、またオレは同じことを繰り返すのか?
無意味で、必要のない自問で頭が埋め尽くされた白刃の隣を、一陣の風が通り抜けた。
悠斗だ。
「『雷の幻想達』!!!」
《充電》スキルによって貯蓄されていた魔力を全て使い、通常では悠斗でも不可能な雷属性魔法Lv8『雷の幻想達』を無詠唱で発動。
イメージは四神の一柱にして伝説の幻獣、『白虎』。
白くはないが、全長三メートル程の大きさの虎が雷で形作られ、悠斗の背後に立つ。
「行けっ、白虎!殲滅しろ!」
「グルァアア!!」
悠斗の命令に突き動かされ雷の幻獣は雷速で使い魔の群れに突っ込む。
その瞬間、白虎は白く輝き、ミサイルもかくやの轟音で爆ぜた。
実際に爆発したわけではなく、圧倒的魔力の電力を放電しているだけだが、その威力は絶大で、その一撃だけで黒騎士の使い魔を大幅に減らした。
「桐生君、今だ!あいつ黒騎士の所に!アイツを倒して!」
「っ、分かった!そっちは任せる!
みんな行くぞ!」
『おおっ!』
その壮大な一撃に他のメンバーも我を取り戻し、武器を構えて黒騎士の元へ向かう。
「よし、お前ら!いつも通り行くぞ!悠斗ばっかに任せるな!」
『了解!』
とはいえ、敵の残りは半分近く。
それだけでも三十を軽く超える。
とてもではないが、一パーティーで迎撃出来る数ではない、はずなのだが……
「『魔弾掃射』!」
悠斗が放つ無属性魔法、『魔弾掃射』で残りの魔物も殲滅、及びダメージを与えていく。
無属性魔法は、無属性故に不遇されてきたが、技術を磨いた末にたどり着ける無属性魔法の攻撃呪文は、少ない魔力かつ、その単調な術式から多重展開すら即座に出来る。
それを自分で使い、改めて理解した悠斗は「習ってて良かった」と本気で思っていた。
閑話休題。
「《貫通弾》、《貫通弾》、《貫通弾》っ!……キリがないっ!」
普段冷静沈着な希理が焦っている理由。それは彼女の武器に原因があった。
希理が使う狙撃型魔力銃は、高い威力と射程から、強大な敵を協力して倒す際に重宝されるが、今回のような殲滅戦の場合、強みが一切生かせない。
その敵が全て強力なら尚更。
(……ダメ、敵が多すぎて狙いを付ける暇がないっ!)
「やあっ!」
考えている間にも、手傷を負った魔物は仕掛けて来る。
こちらに来た狼型を蹴り飛ばして、何とか距離を取り、脳天を穿った。
しかし、その隙に三体程の魔物が希理に突撃してきた。
(この距離じゃ避けれない!)
「あっ────」
「させるかぁ!」
もう駄目だ、と諦めかけたその時、希理と魔物達の間に悠斗が割ってはいる。
無属性魔法『身体強化』で引き上げたステータスをフル活用し、《竜双剣》を果敢に振るって、魔物を斬殺する。
「神川さん、これを!」
希理に迫る魔物を斬り裂いた悠斗は、マジックチェストから取り出したモノを希理に投げ渡した。
咄嗟のことに驚きつつも、しっかりとそれを受け止めた希理は、驚愕する。
「これって……」
それは、さっきまで彼女が使っていたモノより少し短く、太い構造で、グリップとは別の突起が目立つ代物。
一見、どこにでもあるようで、この世界のどこにもない唯一無二の魔力銃。
連射型の魔力銃だ。
「試作品だからまだ渡したくはないけど、取り敢えず今はこれを使って!単発よりは楽になるはず!それと────」
もう一度、悠斗は希理にモノを投げ渡した。
今度はレッグホルダーのような形状の皮袋。
今度こそそれの意味を完全に理解して希理は手早くレッグホルダーを装備した。
「もし接近戦になったら銃本体に魔力を流し込めばいい。
マガジンには予め魔力弾が込められているから魔力のチャージは必要ないけど、弾はワンマガジン30発が三つしかないから注意して!
あと、空になったマガジンは捨てずにレッグホルダーにしまっておいて!」
矢継ぎ早に出される新型魔力銃の使い方を、一字一句逃すことなく希理は聞き取った。
その瞳に困惑は無く、溢れんばかりの闘志と好奇心が満ちている。
「ありがとう……悠斗」
ポツリと、呟くように希理は感謝の言葉を口にした。
その頬を朱に染め、物騒なものではあるが銃を大切に抱きしめながら微笑む彼女の姿は、戦闘中でなければ見惚れていたことだろう。
希理に自覚はないが、彼女が悠斗の名前を初めて呼んだ事に、悠斗が気がつくことはなかった。
「どういたしまして。さあ、行こう!」
希理の言葉を聞き終えた悠斗は、すぐに走り出し、次の瞬間には手前の魔物の所にいた。
スキル《飛燕》を使ったのだろう。
いきなり敵が現れたことに驚いて隙だらけの魔物を悠斗は一対の双剣で絶命させて行く。
「やっぱり凄い……」
希理は悠斗の戦いに思わず見蕩れていた。
ただ強いのではない。自分が持つ手札の性質を見極め、その切り方をいくつも試行錯誤し、あらゆるケースに対して最高効率かつ最大限の効果をもたらす活用をしている。
その技術は一朝一夕で手に入るものではなく、並々ならぬ努力と多くの修羅場をくぐり抜けたからからこそ到れるモノ。
だからこそ、彼女はその技に魅了された。
美しいと、綺麗だと思った。
「グルァッ!」
だから、気付くのが遅れた。
そう思った時には、希理の目の前には狼型の使い魔が牙を剥いて迫っていた。
(このままじゃ────)
ゆっくりと引き伸ばされた思考は、既にどうしようもないと諸手を上げた。
徐々にホワイトアウトしていく頭の中に、モヤを吹き飛ばすかの如く、言葉が浮かび上がった。
『もし接近戦になったら銃本体に魔力を流し込めばいい』
刹那、希理は持っていた銃に魔力を込めた。
込められた魔力は刀剣となり、銃身の下に固定される。
俗に言う銃剣のような感じだ。
悠斗が魔力銃に組み込んだ、『幻想剣』の術式だ。
そして、たまたま敵に向けるような状態で魔力銃を持っていた為、魔力で生まれた刀身は迫り来る狼型使い魔の口内に突き刺さった。
「ッ!?」
流石に相手も予想外だったのか、苦悶の声すら上げれずに硬直した。
そして、それを逃す希理ではない。
「うあああああっ!」
一度引き、再度突き上げるように銃剣を押し込む。
その刃は頭に届いていた。
最後にはそのまま引き金を引き、脳天に直接弾丸を見舞う。
パパパパパパパパパパン、と軽い、乾いた音が鼓膜を叩き、計十発の魔力弾が狼型使い魔の命を完全に奪った。
(予想より反動が小さい。その割に威力は高い。これなら……っ!)
「ぐおおおっ!」
行ける。その確信を得た希理の耳に、春樹の雄叫びが響いた。
腕が長い猿のような使い魔の攻撃を、春樹は紙一重で捌き続ける。
しかし、それも長くは続かず、全身を包んだ鎧に傷がついていく。
「《連弾強化》!」
「ギヒィィィッ!?」
押し切られる。そう春樹が覚悟した時、絶妙なタイミングで希理助けが入った。
悠斗の《電撃》、大輝の《火炎》、凛紅の《剣舞》同様、異世界に来た当初に与えられた希理のスキル、《連弾強化》。
その効果は単純明快。弾丸が当たれば当たる程、次弾の威力が上がる。
数字で示すなら、一発目を百とすると二発目は百五、三発目は百十のような感じだ。
そのコンボは撃った弾丸が外れるまで有効で、次の敵に持ち越しも出来る、優れたスキルと言えるだろう。
そして、命中すれば命中するほど威力を増すこのスキルは、連射型の魔力銃に最高レベルで相性がいい。
初弾で手長猿使い魔の身に穴が空き、次弾で弾は貫通した。三弾からは被弾箇所が吹き飛ぶレベルにまで到達していた。
計十発の弾丸を受けた手長猿使い魔は、既に原型を残していなかった。
「お、おおう、サンキュ神川!助かった!」
「う、うん」
春樹は正直引いていた。希理も引いていた。
そうした本人は自分なのだが、まさか連射型の魔力銃と《連弾強化》がここまで相性がいいとは思っていなかったからだ。
「これなら……戦える!」
希理は新たな相棒を手に、戦場を駆け抜ける。
立ち塞がる敵も、仲間を襲っている敵も、一切合切を撃ち砕きながら。
程なくして、希理と悠斗、そして各々の尽力によって使い魔の殲滅は完了した。
────かに思えた。
「よし、終了だ!あんまりやりたかないが、白刃達の援護に行くぞ!」
「っ!? まだだ!もう一体来る!」
悠斗の警告。
《感知》に反応した、巨大なナニカ。
「後方離脱!」
悠斗の意図を汲み取った、絶妙な号令。
その動きに乱れはなく、すぐに後ろへ下がった。
直後、数秒前まで悠斗達がいた所が爆砕した。
砂埃が晴れた、その先にいたのは……
「レッサーデーモン!?」
俗に下級悪魔とも呼ばれる、ありふれた魔物。
しかして、下級という名とは裏腹に、その実力は一体で銀等級冒険者パーティーを壊滅させかねない程の強さだ。
無論、銀等級冒険者もピンキリではあるが。
『ケケケケケケッ』
幾つもの声が重なり合ったような、不協和音にも似た不快な声。
黒騎士の使い魔同様、黒いオーラを纏うその威容は、万人に恐怖を植え付けるものだろう。
「術士及び銃士は後方支援、僕と春樹で壁役、瑛士はアタッカーを!散開!」
瑛士達が恐怖に呑まれかけたその時、いつの間に持ち替えたのか、片手直剣とバックラーに装備を変えた悠斗が指示を下した。
悠斗の声にハッとなった瑛士達も、遅ばせながら動きだす。
『ケケケッ』
嗤いながら、レッサーデーモンは手を突き出した。
一秒後には、火属性魔法Lv6『豪炎火球』が放たれていた。
無詠唱、詠唱破棄で撃たれた巨大な炎の塊の前に、瑛士達は絶望の声も出せず燃え尽きようとしていた。
しかし。
「魔の力で造られし壁よ、【幾重にも重なり】守護を成せ!『魔障壁』!」
その結末を拒む者がいた。
本来、詠唱しなくとも展開可能な無属性魔法『魔障壁』を改変詠唱することで、スキル無しで多重展開して見せた少年は叫びながらなおも魔力を込める。
「耐えろぉぉぉおっっっ!!!」
『ケケケケケッ』
魔力で出来た壁と炎の塊がぶつかる。
一方は自己を奮い立たせる雄叫びを上げて、もう一方は己が焼き殺さんとしているモノを嘲笑うかのような声を出して。
パリンッ!
一枚、砕けた。
「っ!」
二枚目、三枚目。
『ケケケケッ』
四枚目、五枚目、六枚目。残り二枚。
「くっ、そぉぉぉぉ!」
七枚目。残り、一枚。
『ケケケ……ケケッ?』
レッサーデーモンが、勝利を確信した、その直後。
魔法の勢いが急激に弱まった。
そして最後の一枚に当たると、火の粉を散らして消えていった。
「やった……ぞ……!」
かなりの魔力を消費した為、膝をつく悠斗。当然、レッサーデーモンもその隙を見逃さない。
『ケケケケッ』
ランク7の魔物であるレッサーデーモンの一撃は、軽装の悠斗ではそれだけで致命傷になりかねない。
そして悠斗は満身創痍。逃げられるわけがない。
それが彼一人なら、の話だが。
「《物理耐性》、《鉄鎧》!うおおおおぉ!」
間一髪、春樹が悠斗の前に飛び込みレッサーデーモンの攻撃を防いだ。
「《衝撃》!」
レッサーデーモンのがら空きの胴に《衝撃》を乗せた強力な一撃を瑛士が放つ。
かつてサイクロプスさえも吹き飛ばしたその斬撃は、当然のようにレッサーデーモンも吹き飛ばした。
「悠斗、お前は魔力と体力が回復するまで休んでろ。ま、あとは俺たちに任せな」
「ごめん、迷惑をかける」
「何言ってんだ。さっきの防御魔法、助かったぜ。……でも回復したらヘルプよろしく!」
そう言って瑛士は駆け出した。
友の言葉を信じ、悠斗も今は回復に努める。
「このぉ!」
どっしりと構え、レッサーデーモンの攻撃を受けつつ、春樹はカウンターを狙うも一向に当たらない。
「春樹、弾け!」
「おう、任された!」
大振りの一撃を上手く春樹が弾き飛ばし、すかさず瑛士か飛び込む。
「はぁっ!」
《剣術》スキル、スキルアクション《流体一閃》。
文字通り流体の如く、型のない動きからの鋭い斬撃。
『ケケケケッ!?』
クリーンヒット。瑛士の手には確かな手応えが。
しかし。
『ケケケッ!』
ウォン!
空気を裂くかのような音がして、レッサーデーモンの腕が振るわれた。
「うおっ!」
スキルアクションの代償、僅かな技後硬直のせいで避けることは叶わず、持ち前の技で何とかいなした。
しかし、レッサーデーモンの猛攻は止まらない。
『ケケッ、ギケケッ、ケケケッ!』
続く連打。
何とかいなし続けているが、このままでは長くは持たないだろう。
「いい加減にしやがれ!」
『ケケケケッ』
春樹がレッサーデーモンを引き剥がそうと試みるも詠唱破棄で放たれた『爆炎』をまともに受けてしまい、吹き飛ばされた。
幸い、《鉄鎧》の効果がまだ生きていていて、即死や致命傷は免れていてるが、すぐに回復しなければ危ないだろう。
希理が狙撃しようにも、射線に瑛士がいる上に、よしんば当たったとしてもレッサーデーモンには高い魔力耐性があるのでそうそうダメージにはならない。
「ふぐっ!」
一撃。
モロに入ったわけではないが、当たった。
「かはっ」
後ろによろめく。
それが幸いして、目の前を巨大な拳が通った。
あと少し、よろめくのが遅かったら、下がるのが少なかったら、危なかった。
「ぐ、あぁぁぁぁぁ!」
倒れそうになるのをギリギリで踏みとどまり、迫り来る拳をいなす。
いなして、いなして、いなす。
それしか出来ない。
(これじゃあ駄目だ。見つけろ、反撃機会を!)
『ケケケケッ』
こちらを嘲笑う嘲笑。
自分よりも圧倒的格上を相手取っているというプレッシャーといつ死んでしまうか分からない恐怖。
それは少しずつ、しかし確かに瑛士の心を蝕んでいく。
(悠斗も、こんな気持ちだったのかな……)
今自分が体験している状況を何度も味わった友に、思いを馳せる。
この身を這いずる恐怖を彼は乗り越えて来たのだろう。
嗚呼、俺は悠斗ようにはなれなかった。
結局、半端なまま死んでいくのだろう。
心の奥底から湧き出てきた諦念が、瑛士の心を染め上げる。
最早無意識の領域でレッサーデーモンの攻撃を捌いていた瑛士の身体から力は抜け、顔には絶望の二文字が浮かんでいた。
『ケヒヒヒヒッ』
それを見た悪魔が、いやらしく嗤った。
「瑛士君!」
「瑛士!」
「……神崎君!」
気を失った春樹以外の声が聞こえる。
もう無理だ。俺は、あいつにはなれない。
俺はもう────
「ふざけるな!!!」
怒号が、響いた。
「なに諦めて死のうとしてんだ、馬鹿野郎!」
声の主は悠斗だった。
連戦の疲労と先の魔法を防いだことによる魔力切れで動けない身体で、彼は叫んでいた。
「お前は、あとは任せろって言っただろ!なら乗り越えて見せろ!」
普段の彼からは考えられない、いや、かつて危機に陥った時、何度か聞いた悠斗の変貌。
それは瑛士の名を呼んだ少女達を呆然とさせるモノだった。
しかし────
(ああ、そうだ。まだだ。俺は思っていたじゃねぇか。あいつの征く道を、この目で見てみたいと!
なら俺がここで死んでどうする!俺が諦めてどうする!
憧憬がここまで言ってくれたんだ。この程度の危機位、乗り越えてみせようたらぁ!)
瑛士の目に光が灯る。
大地を踏みしめ、拳に力を込め、眼前の敵を睨む。
『ケケケケ……ッ』
レッサーデーモンはこの時、ある感情が芽生えた。
なんだアイツは!確かに今、絶望したはずだ!なのに何故再び立ち上がる!?あのニンゲンは一体なんだ!?
レッサーデーモンは目の前の『ナニカ』を打ち砕かんと、その拳を一思いに振るった。
今すぐこのナニカを殺さないと、取り返しのつかないことになる気がしたからだ。
『ケケケッ!!??』
だが、その拳は見事に逸らされ、むしろ反撃を受けてしまった。
『────ユニークスキル《舞剣術》《風纏剣》、奥義《風天破断》を習得しました』
脳内にそんなアナウンスを聞いた瑛士は、どこからともなく溢れ出る自信に身を任せ、身体を動かした。
『ケケケケッッッ』
刻む。
まるで舞うように。
風を纏った刃は、切れ味を格段に増し、レッサーデーモンが避けようとしても不可視の刃がその間合いを埋める。
刻まれていく。
恐怖が。悪魔が。
「ぉぉおおおおお!」
踊る、踊る、踊る。
命懸けで織り成す究極の舞いに希理達も目を奪われる。
『ケケケケッッッ!!!』
レッサーデーモンは、この身を蝕むナニカが、恐怖であることを悟った。
それは先程まで目の前のニンゲンに与えていたものだ。
身体を斬られた痛みと、恐怖によって身体は言うことを聞かなかった。
僅かなタメのあと、瑛士はレッサーデーモンに別れの一撃を放った。
「《風天破断》!!!」
一際大きな風を纏った刃が振り下ろされ、その風が霧散した瞬間、レッサーデーモンの身体は縦にズレた。
左右に別れたレッサーデーモンは、断末魔の声さえ上げれずに死んだ。
「……っっっ、よっしゃああああ!!!」
レッサーデーモンを倒した瑛士は、心から叫んだ。
「悠斗!俺、少しはお前に近づいたぞ!」
それは己の成長の喜びであり、これからの誓い。
「うん。ナイスファイト!」
故に悠斗は、最大の賞賛で言葉を返した。
……
……
……
「よし、お前ら。俺達の役目は終わったが、戦闘は終わってねぇ。白刃達を援護しに行くぞ!」
『おおっ!!』
ボス部屋はかなり広く、しかも黒騎士戦はそれなり遠いのか、よく見えない。
なのですぐに援護に行こうとした、その時だった。
『っ!?』
全員が、本能的に振り返った。
そこには、魔法陣。
果たしてなんの魔法陣なのかは、分からない。
しかし、誰しもが勘づいた。
これはヤバい、と。
「くそっ!ようやく終わったと思ったら!」
「まだ何かあるの?」
「そんな……!」
「……っ」
春樹は未だ目を覚まさず、瑛士も回復しきってない。
しかも度重なる連戦で、瑛士パーティーの面々は疲労していた。
魔法陣から、這い上がって来たのは……。
紫色の鎧を纏った、騎士であった。
☆☆☆☆☆
解説
《連弾強化》
・希理の初期スキル。弾が当たれば当たるほど、その威力を増していくというシンプルなスキル。
《舞剣術》
・読んで字のごとく、舞う剣術のこと。このスキルを習得した者の動きはまさに舞い踊るのようなモノとなり、捉えるのが難しくなる。踊るように切り刻む攻めの剣と、相手の攻撃を受け流し、反撃を決める受けの剣がある。
《風纏剣》
・武器に風を纏わせるスキル。風を纏った武器は切れ味が増し、また不可視の刃で間合いが延長される。
《風天破断》
・奥義スキル。《風纏剣》を使用している状態で、より多くの風を纏い、圧縮・解放して振るうことで、最高の切断力を実現する。風の刃を飛ばして攻撃も出来るし、直接切りつけて相手を切断することも出来る。
【ユニークスキル】
・その人物のみが持つ特別なスキル。表示は他のスキルと同様。
【奥義】
・スキルの極致。極みまで至った、究極のワザ。表示は他のスキルと同様。
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