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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第二章 少年少女の戦場
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リベンジ・イン・ダンジョン

短いですがどうぞ!

  【修練の魔境】第一階層、洞窟エリア特有の、鉱石から発せられる淡い光がダンジョンの中を照らす中、悠斗達は迫り来る魔物達を相手取っていた。

 

「大輝、下がって!《双牙》!!」


  相対するはスケルトンジェネラル。

 骨の身でありながら、卓越した剣と盾捌きを見せた強敵だ。

  相手の攻撃を全て大輝が大剣で弾き飛ばし、その隙をついて悠斗が《双剣術》スキルアクション、《双牙》を叩き込み、塵に帰したことでその戦闘は終了した。


  そして、向こうでも────


「疾っ、やあっ!」


「リンクお姉ちゃん、準備終わりました!」


「っ、後は任せたわよ、ミーシア!」


「お任せ下さい!『炎弾・爆』」


  凛紅とミーシア、そして双葉がスケルトンジェネラルと戦っていた。

  本来壁役には向いていない凛紅だが、膂力がそこまで強くないスケルトンジェネラル相手に、得意の剣捌きで足止め。

  無詠唱でミーシアが放った火属性魔法Lv2『炎弾』の即興改変という高等技術でトドメを刺した。

 

「ふう。みんなお疲れ様」


  一仕事終え、周囲に敵が居ないことを確認して悠斗が声を掛ける。

  ひとまずパーティーメンバーは全員無事であったが、問題も明らかとなっていた。

  間違いなく、ダンジョンの敵が強くなっていることだ。



「しっかしまぁ、厄介な敵だったな」


「うん。あれに囲まれたりするとなると、少し不味いかも」


  先程悠斗達が戦った相手────スケルトンジェネラルは、スケルトンの不死性に加えて、物理、魔法防御と熟練の剣士のそれに近い剣技を持つ魔物だ。

  本来、打撃系武器で骨の身体を砕くか、首を落とす、或いは神聖属性の魔法で浄化するしか倒す方法はないのだが、それら全てに対する高い耐性を持っているため、非常に厄介な魔物として悠斗達も苦戦を強いられていた。


  少し暗い思考を振り払う為に悠斗は瑛士達の方を見た。

  彼らも多少疲弊しているが、無傷で切り抜けたようだった。

  どうやら向こうも悠斗に気づいたらしく、手を振りながら近寄ってきた。


「そっちもなんとかなったようだね」


「まあな。とは言っても辛勝さ。とてもじゃねえが、油断なんてできやしねぇ」


「そうだね。何より、そろそろボス部屋のはずだからね」


「ああ、今度こそ遅れは取らないさ」


  お互い息巻いている様は、付き合いの長い友人のよう。

  異世界に来るまで、ほとんど話をしなかった間柄とは思えないほどだ。


「やあ、ちょっといいかい?」


  そう言って二人に声を掛けてきたのは白刃だった。


「お、どうかしたか」


  奇しくも三パーティのリーダーがそれぞれ揃ったこの状況で、白刃要件を告げる。


「今回のボス戦の役割分担を事前にしておこうと思って」


「なるほど。で、どうするよ」


「一つ相談なんだけど、瑛士君のパーティーと悠斗君には、露払いをお願いしたい」

 

「露払い?俺のパーティーはともかく、なんで悠斗限定なんだ?」


  最もな疑問だろう、と白刃は心の中で思いながら、その質問に答えた。


「悠斗のパーティーメンバーは皆強力で、ボスに対抗する主戦力となる。

  それは悠斗君も同じだけど、君の場合は、オレ達にはない『イレギュラー』への対応力がある。

  だから瑛士君パーティーと悠斗の協力ではあるけど、実質、悠斗君には遊撃手となっていてほしいんだ」


  理にかなった答えに瑛士も「確かに」と思った。

  これまでの危機は凡そ、悠斗の対応力によって乗り越えてきた。

  もしかしたら、ボスとの戦闘中にもう一体ボスが出るかもしれないし、群れが現れるかもしれない。

  悠斗の対応力と、戦闘能力、そして指揮能力を使えば瑛士達と協力してそれらのイレギュラーにも対応出来るだろう。

  そう踏んでの判断だ。


「悠斗君はそれでいいかい?」


「うん、構わないよ」


「俺達も大丈夫だ」


「そう言って貰えると助かるよ。

  よし、方向性はまとまったから、後は具体的な戦闘案なんだけど……」


  こうして、準備は整っていく。


 ☆☆☆☆☆


  そしてボス部屋前に辿りついた。


「それじゃあ、行ってくる」


「気を付けてくださいね」


「ま、お前なら上手くやるだろ」


「危なくなったら、わたしの所まで来てくださいね!治しますから」


「無茶したら駄目よ」


  ちょっとだけ別パーティーに行くだけなのに大袈裟な……と思いつつも仲間の心配を嬉しく思う悠斗は、まっすぐ瑛士の所へ向かった。


「今回はよろしく、瑛士、春樹、神川さん、河島さん、工藤さん」


「おう、よろしくな悠斗!」


「お前がいるなら百人力だな」


「……よろしく」


「よろしくね、悠斗君」


「よろしく」


  一通りの挨拶を済ませた後は、これからの作戦会議となった。


「とまあ、今回は悠斗を含めての露払いとなる訳だが……、基本的にはいつも通りの連携で行く。

  春樹が壁役、俺がアタッカー、工藤は中間で回復とバフ、河島が打ち漏らしの処理で、神川がフリーのスナイパー。今回悠斗には二通りの動きをしてもらいたい。

  まず一つは遊撃。神川に援護してもらって、敵を翻弄及び討伐してもらいたい。

  もう一つの方だが、これは白刃が言ったような『イレギュラー』に相対した場合のものだ。その時は悠斗には春樹と一緒に壁役をやってもらいたい。頼めるか?」


「勿論。だけど僕は盾職系統のスキルはまだ使えないからタゲ取りはあまり期待しないで欲しいな」


「ああ。そこまで要求するつもりはねぇよ。それに基本は最初言った通り遊撃だ。頼りにしてるぜ、悠斗」


「うん任せて」


  力強く頷いた悠斗に、瑛士も嬉しそうに破顔した。

  その後、瑛士は全体的な軽い指示を済ませて話し合いを終わりにした。


「よし、んじゃあ細けえ話はここまでだ!一旦解散、各々好きにしてよし!」


  予想していたより早く話し合いが終わったので、一度凛紅達の所に帰ろうとした悠斗だが、その歩みは背後からの声によって止められた。


「ちょっと待って」


  声の主は神川希理かみかわきりだった。


「どうしたの神川さん?」


  希理は話さない。元々口数が少ない少女ではあるが、今はどうやら言葉が出ないようだ。


  二人の間に妙な空気が流れる。

  居心地が悪くなり、悠斗が口を開きかけたその時、希理が声を発した。


「私は、貴方のように強くない。

  でも、でもいつか、きっと、今度は貴方を助けられるように、強くなってみせる……。

  だから、だからその……」


  一拍。


「ありがとう」


  突然何を言い出すのかとか、どういう意味なのかとか、そんな考えは、希理のいつも通りの無表情ながらも、僅かに見える微笑によって吹き飛ばされた。

  それほどに彼女の笑みには可憐さがあった。


  その謝礼が幾多の危機を助けられたことに対する物か、或いは彼女が背負っていたかもしれない罪過ざいかを引き受けたことかを知るよしは悠斗にはない。


  ただその一言が、心からの本心で言われている事は分かった。

  ならば悠斗が答える言葉も決まっている。


「うん、こちらこそありがとう」


  そして────


「これからも、よろしくね」


  そう言って、悠斗は手を差し伸べた。

  希理は一瞬、その真意を理解できなかったのか、戸惑った様子を見せたが、直ぐに察したのか、その手を握った。


「……よろしく」


  これで本当の意味で、彼女と仲間になれたと思った。

  そして、そう思っている悠斗の手を握る希理の頬は、僅かに、そう、ほんの僅かに、あからんでいた。



「「「むむむ……」」」


  同刻。三人の少女達は、その身を走る電流のような感覚を覚えた。


「なんか、また増えそうな気がするわ……」


「奇遇ですね。私もです……」


「後でお兄ちゃんを問い詰める必要がありそうです……」


  決して悪いことではないのだが、自分たちにとっては歓迎しがたい予感に、三人娘達は各々言葉を零した。



  そして、時は訪れた。



  ……

  ……

  ……



「よし、じゃあ開けるぞ」


  緊張の中、白刃が重苦しいボス部屋の扉に手を掛ける。


  その見かけとは裏腹に、扉は重い音を立てながらもあっさりと開いた。


  中は相変わらず広い。そこに魔物の姿は見えなかった。


「……何もいない?」


再出現リポップしてない?」


「ちっ、あの亀は居ねーのか」


  てっきり、前回同様タートルモックか、それに近い魔物が出てくると思っていた白刃達は、ただ広いだけの空間に拍子抜けした。


  タートルモックは全長五メートル程なので、前回その存在にすぐ気づけたのは当然だろうが。


「いや、待って。何かいる……」


  高位の索敵スキルである《感知》を持つ悠斗は、部屋の奥に強大な反応を感じ取った。


  その声に含まれるのは、僅かな恐怖。

  即ち、悠斗は敵に対して未知の圧迫感を覚えた。


  如何なる時でも危機をくぐり抜けてきた悠斗だけに、その反応は一同に緊張をもたらした。

  彼のことをよく知るパーティーメンバーは尚更。


「双葉、正面奥に『ライト』を」


  悠斗は部屋の奥の暗がりを指して双葉に魔法を頼んだ。

  勿論、その頼みを双葉が断る訳がなく、悠斗が指さす方向に、光の玉が発生し、辺りを照らした。


「っ!」


  それは誰の物か。押し殺した悲鳴のような声が上がる。


  確かにいた。


  暗闇の奥で、ただ一人。


  置物のように、或いは、行く手を阻む番人のように。


  漆黒の鎧を身に纏い。


  だらしなく下げられた手に黒い、一振の長剣を持ち。


  うつむき加減に佇んでいる。



  本能が騒ぐ。


  あれはなんだ!


  理性が暴れる。


  あれは生物なのか!?


  身体が震える。


  あれから逃げられるのか!?


「う……あぁ……」


  誰かが、一歩下がった。


  その時、小石を蹴飛ばす音が響いた。


  そして、それは動き出した。


「ひっ!」


  兜の奥に、血のように紅い光を灯し。


  金属音を撒き散らし。


  黒い、闇のようなナニカを身体から吹き出して。


  異形の騎士は、覚醒した。


「◼◼◼◼◼◼◼◼!!!」


  その咆哮は誰に向けたモノか。


  ソレは言った。


  さあ、勇者よ剣を取れ。


  強き者よ、ねじ伏せてみせよ。


  弱き者よ、絶望に抗え。


  あらゆる力、知恵、策、魔法、勇気を以て。


  邪悪は此処に!


  討ち滅ぼすべき悪は此処にいるぞ!


  掛かってくるがいい、儚き者共!


  その勇姿、英雄の器を証明せよ!!!

 

  ────と。


  今ここに、予想だにしなかったであろう、決戦が始まる。



 

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