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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第二章 少年少女の戦場
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異変

少々グロテスクです。

────ダンジョンの一つである【修練の魔境】。駆け出しから中堅に至るまで、多くの冒険者達が集う『魔境』系ダンジョン。

比較的難易度が低く、階層が上がれば上がるほど敵が強くなるという性質上、数多の冒険者達が利用してきたそこに、今日も戦うことで日銭を稼ぐ者達が足を踏み入れた。


「さて、今度はどんくらい稼げるかな〜」


「今回は泊まりがけでしょ?準備代の分の引き分を考えると、一人あたり銀貨5枚………50000エルでも稼げれば上々ね」


彼らは駆け出し………とは言わないが、冒険者になって一年のまだまだ下位冒険者達だ。

前衛二人に後衛二人。あと斥候スカウトが一人。バランスがよく取れている良いパーティーだ。


「金も大事だが、今度こそ最高記録更新と行こうぜ」


前衛の少年が、斥候の少年の言葉に被せる。


「勿論、そのつもりさ。ま、索敵は任せな大将」


互いに軽口を叩き合い、拳をぶつける。


「仲がいい事なのは結構だけど、ちゃんともしもの時も考えなさいよ」


「まあ、命あっての物種ですから」


前衛少年と斥候少年のやり取りを見ていた前衛少女と後衛少女は少し窘めるように言った。


「分かってるよ、そのくらい。でも、そんなことにはなりゃしねぇよ。なんたって俺たちにはコイツがいるからな!」


そう言って、前衛少年は後衛少年の肩を軽く叩いた。


「ちょ、痛いな。ま、確かに僕がいる以上、最悪は起こさせないよ」


後衛少年の言葉には絶対的な自信があった。

互いに信用し合い、注意し合い、最後は笑える。正しく理想のパーティーである彼ら。

しかし、彼らの進撃はここで終わる。


「しっ、待った」


斥候少年の真剣な声の警告に、一同は空気を張り詰める。


「なんかやけに騒がしい。少し様子を見てくる」


そう言って、斥候少年は一人先を行く。

確かに、一キロ程先では音がする。戦闘音だ。

咆哮、爆発、剣戟、悲鳴。戦場ならではの四重奏カルテットが鼓膜を小さく震わしている。


どの位の時間が経過しただろうか?

戦闘音は途切れた。斥候少年は未だ帰って来ていない。

斥候少年が偵察に行ってからおよそ三十分。一キロ程度しか離れていない距離を偵察するのには時間が掛かりすぎている。


「アイツが心配だ。俺達も行こう」


リーダーである前衛少年が告げる。その宣告に反対する者はいなかった。


………


………


………


「嘘………だろ?」


斥候少年が向かった方向は、正しく地獄だった。

地面を染める赤黒い染み。鉄臭い、嫌な匂いが鼻腔を刺激し、吐き気を催す。

飛び散った肉片にくへん臓物ぞうもつ脳漿のうしょうはあちこちに散乱していて、匂いも相まって正気を掻き乱す。


「あっ………」


前衛少年の掠れた声が漏れ出た。彼が視認してしまったのは、小綺麗なダガー。ただし、右手首に握られたままの、だが。

そこから先は消失していて、その手首の持ち主は分からない。しかし、前衛少年とその仲間達は気が付いた。


────この手首が、斥候少年のモノであると。


よく見たダガーだったからだ。パーティーを組んだ当初はたかがダガー、と甘く見ていたが、それに幾度も助けられた。

仲間として一年を共に過ごしてきた斥候少年。彼がここにいた痕跡は、右手首が落ちていた所にあった、赤黒い染みと、血と肉片に塗れた衣服のような繊維だけだ。


「あああぁ………」


「そん………な………」


「っ!?」


「いやぁ………」


全員が、理解した。斥候少年はもう居ない。

死んだのだ、と。

とめどない涙が溢れ、前衛少年達の視界を潤ませる。

だが、泣かなかった。今はそれどころではないと理解しているから。

そう、こうしている間にも斥候少年を殺したナニカが近くにいるかもしれないから。


そして不可解に思った。この辺に付着していた血は、明らかに一パーティーと一人分の量ではない。

もっと多い。そう、例えば、十数人から二十人以上の────。


ここまで考えて、前衛少年の思考は中止を余儀なくされた。

不快で不吉な、肉を潰すような、『グシャッ』という音が響いたからだ。


見れば────

虚ろな瞳で、呆然としたような顔でこちらを見つめる、後衛少女の生首が。


「なぁっ」


殺された少女の名を呼ぶことすら出来ずに、前衛少年は立ち尽くした。


いつだ?いつの間に近づいた?どうやって?ありえない、馬鹿げている………。

自分でも理解出来ない感情の奔流が、彼らの心をさらった。


「グルルルルル………」


それは鬼だった。鮮血が滴る、大きな、石で出来た大剣を手に持ち、悠然と此方を見るオーガ。

ただ一点、他と違うのは肌が異様に黒く、尋常ではなく黒いオーラを纏っていることだ。


「あ、あああ………」


本能が、理解する。ダメだ、アレに関わってはダメだ、と。

しかし、もう、何もかもが遅い。


「グルゥアアアア!!」


真っ先に反応したのは、後衛少年だった。


「っ! 《返却リターンダメージ》ッ!」


後衛少年の自信の所以、《返却》。スキル発動時に張ったシールドに与えられた分のダメージを相手にそっくりそのままお返しするスキルだ。


しかし現実は、優しくは無かった。


「グゥルアアアア!!」


地属性魔法Lv5『大地変動』+《重量武器》スキル、スキルアクション《グランドスマッシュ》=魔法技アーツ、 《大地隆起斬衝》。

魔物の人外の膂力から放たれる無慈悲な暴虐は、後衛少年だけでなく、後ろの前衛少年少女をも巻き込んだ。


「ぐぁあああああああ!!!?」


後衛少年は彼のスキルを持ってしても受け止め切れなかったダメージで満身創痍。

比較的軽傷なのは前衛少年。

前衛少女は先の一撃で錐のように鋭く隆起した大地に貫かれて即死した。


「グゥルアアアア!!」


ダメージのフィードバックも意に介さず、暴虐の象徴のようなオーガは後衛少年の前に歩み行く。

後衛少年は死を覚悟した。

だが────。


「待てっ!」


その声は、前衛少年のものだった。隆起した大地に穿たれた左肩が痛むが彼はそれを無視して叫ぶ。


「行け! 俺が時間を稼ぐ! 誰かに伝えて、こいつを………っ、皆を殺したコイツの敵討ちを頼む!」


後衛少年は理解した。メッセンジャーは自分が適任で、スケープゴートは前衛少年が適任だということを。


「ッッッ!!! ごめんっ!」


だから走った。ヤツから逃げるように。見てしまったもの全てを振り払うように。


「………それでいい。さあ、かかってこい、この化け物がぁ!!!」


全てを失ってしまった少年は、その元凶たる黒い怪物に一矢報いらんと、剣を振りかぶって────。



☆☆☆☆☆


駆け出しから中堅までの冒険者が集うダンジョン、【修練の魔境】。

そこには確かに、異変が起こっていた。


その異変はある少年術士によって伝えられた。

しかし、詳しいことを聞き出す前に少年は死亡。

様子見と、可能なら討伐を兼ねて、銀等級を筆頭にした高位冒険者のプチレイドを結成。

総勢二十人を【修練の魔境】に送りこんだ。


そして、彼らが帰ってくることは、二度と無かった。


この後、登場人物紹介を投稿するので、気が向いたらどうぞっ!

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