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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第二章 少年少女の戦場
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王都巡り④

前回は閑話ですいませんでした。遅くなりましたが、本編の続きです!短いですが、テキトーな暇潰しにでもどうぞ!

「お久しぶりですね、────レインさん」


「うん、久しぶり。ユウトくん」


冒険者達との一悶着に割って入った青年、レインは穏やかな笑みを浮かべて悠斗に返した。

一見好青年のように見えるレインだが、いくつかの修羅場をくぐり抜け、初めて会った時よりも実力をつけた悠斗には分かってしまった。レインという青年が持つ、底知れぬ戦闘力が。


「うん、ギルド内部で喧嘩が起こっていると聞いたから来たが、先に手を出したのは………のされている男達の方か」


「僕らを疑わないのですか?」


「君は以前、冒険者ギルドない限りで喧嘩に発展しそうだったのを未然に防いだからね。自分から引き起こそうとするのは考えにくい。

あとはね、こいつらは最近王都に来たらしいんだけど、以前いた街ではそれなりに有力だったらしく、こっちに来てからも一方的に喧嘩をふっかけて自分より格下の冒険者の財産を奪っていく行為を何度もしているらしい」


「最低です………」


ぼそっ、とミーシアが呟いたのを悠斗は聞き逃さなかった。

彼女も幼少の頃から奴隷と搾取されてきた身だ。弱者から一方的に搾取する人間には思うところがあるのだろう。


「で、確たる証拠もないのに捕まえる訳には行かないから、直接現行犯狙いで調査していたんだ」


「レインさんの独断でですか?」


「いや、一応ギルドからの正式な依頼だよ。自分から言うのはあれだけど、これでも銀等級シルバーの冒険者だからね」


『なぁっ!?』


銀等級、それは全六段階で区切られている冒険者ギルドの階級で上位冒険者であることを示す階級。金等級ゴールドの一つ下の階級だ。

最高階級の虹等級レインボーは現在一人もおらず、過去に虹等級になったのも異世界からやってきた勇者であるため、事実上、銀等級は二番目に高い階級の人間と言える。


いきなりの衝撃的な事実のカミングアウトに、流石の悠斗達でも驚いた。


「それじゃあ悪いけど、こいつらは貰ってくよ。ああ、一応魔導書の登録をお願いできないかな?こいつらの処遇が決定したら連絡したいから」


「こちらとしては、願ってもない話ですけど………」


いかに王国の庇護下に置かれていてもあらゆる面でカバーはできない。その点、レインとの魔導書登録は銀等級冒険者とのコネクションとして、十分のメリットだ。


「なら決まりだ。えーと、ここをこうして………よし。これで終わりだ。何かあったらいつでも連絡してくれて構わない。出来る限りは力になろう」


通常、悠斗達のような冒険者になって日が浅い人間が銀等級冒険者との繋がりを持つのはそう軽いものではないはずなのだが、思っていてたよりもトントン拍子で話が進んだことに、悠斗には呆気に取られていた。


「悪いね。あんまりゆっくりしていられないから、俺はこれで」


「は、はい。ありがとうございました………」


最後に軽く会釈して、レインは帰って行った。


「さて、みんな。ご飯食べに………痛っ!」


ご飯を食べに行こう、そう言おうとした悠斗の頭部を衝撃が走った。

その正体は凛紅が放った拳骨だった。

何するのさ、と悠斗が言及する前に大輝、双葉、ミーシアからも打撃をもらい、悠斗は困惑した。

しかし、流石の悠斗も凛紅達の顔を見て気がついた。その顔は怒りと心配が混ぜ合わさった表情をしており、凛紅に至っては目に涙を溜めていた。


「………心配かけて悪かったよ。もうあそこまでの無茶はしないから」


「絶対よ。絶対だからね………っ!」


彼女達が怒った理由、それは男達を退けるためとはいえ、自らを殴らせるなど、一歩間違えば危険な行為を犯したからだ。

さすがに分が悪いと、感じた悠斗は素直に謝罪をする。

そういう感情が無いとは分かってはいても、幼なじみの自分をここまで心配してくれる凛紅がとても愛おしく見えて、悠斗は思わず彼女の頭を撫でた。


「っ!? も、もう、悠斗のばかぁ………」


顔を紅くして、ワナワナと震える凛紅を悠斗はそれでも尚、撫で続けた。


☆☆☆☆☆


粗暴な冒険者達をギルドに引渡したレインは、建物から出た後、あまり一通りが多くない路地を歩いていた。

その歩みは心なしか弾んで見える。


「随分と機嫌が良さそうですね、レイン」


不意に、声が掛かった。振り返ると、レインが凛紅達を見かけた時に一緒だった猫がまるで闇に溶け込むかのように鎮座していた。


「おや、先に帰ったのでは?」


「ええ。最初はそのつもりでしたが、あなたが気にかけている人間に興味が湧いたので見にきたのです」


「貴方から見て、彼らはどうでしたか?」


その問に黒猫は即答せず、僅かな間を置いて口を開いた。


「ええ、とてもいい人材ですよ。特にあの小柄な少年………ユウトといいましたか。彼は実に適している」


「私達の仕事に、ですか?」


返されるは無言という名の肯定。


「あの子の眼は間違いなく、人を殺せる………いや、もう殺した者の眼です」


「まあ、実際に人を殺したと聞いていますよ。もう助からないから殺して欲しいと懇願する男性を二人、冒険の途中で介錯したとか」


「いいえ、レイン。その殺しだけではありませんよ。優しさから来る人殺しではなく、確かに憎悪と殺意を以て衝動のままに命を奪った者のそれです。

そして同時に自分の正義と守りたいものの間で葛藤し、それでも尚、守りたいものの為には自らが血に染まる事を辞さない、確固たる意志を持っている。実に素晴らしい」


「………難儀な人柄ですね」


もし本当にそうなら、とは口にしない。本当はレインも薄々勘づいてはいたからだ。


「貴方も似たようなものでしょう」


手厳しい返しに、レインも苦笑を隠せなかった。


「私の予想が正しければ、大した時が経たぬうちにまた会えるでしょう。その時は………勧誘でもしてみましょうか」


「強要するような真似はよしてくださいよ」


「当然です。彼のような人間は、己の意思で動いてこそその真価を発揮するものなのですから」


そういう問題ではないのだが………と思ったが口にせず、レインは裏路地を奥へ奥へと進んでいく。

やがて闇に溶けるかのように、暗闇の中へ消えていった。


☆☆☆☆☆


「………はぁ。やっぱ面倒ごとが起きたか」


魔法職らしいローブを身にまといつつも、立ち振る舞いやら身のこなしなどが、多少の武の心得がある人から見れば明らかに魔術師らしからぬという、割と矛盾した雰囲気を持つ青年────、クレドは魔導書を耳にあてながらため息をついた。

彼とミリアが国から頼まれた仕事をこなして、いざ飯の時間だと連絡すると、クレドの懸念通り、悠斗達は冒険者達に絡まれていたと報告を受けた。


「まあ、薄々想定していたことだ。お前らがやらかしたならともかく、自己防衛ならなんとでもなる。

なんにせよ、怪我がないならそれでいい」


一見、ぶっきらぼうにも聞こえるが、これは彼なりの優しさである。

それをよく理解している悠斗は魔導書越しに少し微笑むと「ありがとうございます」と礼を言った。


「そんじゃあ、飯はまだ食ってないんだろう?ああ、いい店を知ってるんだ。あそこのパスタは絶品だぜ?………よし、決まりだな。それじゃあ、すぐに合流しよう。現在地は………分かった。そっちに向かう。切るぞ」


「決まったようですね」


耳から魔導書を離したクレドに声が掛けられた。隣で通話の内容を聞いていたであろうミリアだ。


「ああ、決まった。通話でも話したが、パスタが美味いんだ。さあ、早く行こうぜ」


「ええ、そうしましょう」


普段のぶっきらぼうな態度からは考えられないほど、生き生きとした表情にクスクスと笑いながら、ミリアはクレドの後をついて行く。

悠斗達が来るまではお互い、あまり関わることがなく、少し怖い人だとミリアは思っていてた。実際は大人ぶってるだけでまだまだ二十歳を過ぎたばかりの子供であったことは最近知ったことである。


そんなミリアの思考を知らず、クレドの頭の中は、ある疑問で埋め尽くされていた。


「(レイン………、どっかで聞いたことのある名前だ)」


悠斗の話に出てきた銀等級冒険者、レイン。クレドは仕事柄、高位冒険者の名前はほとんど覚えているつもりだった。しかし、そんな名前の冒険者は聞いたことがない。


「(何らかの理由で身分を公表していない?となれば犯罪組織や国家の人間か………)」


普通に考えれば深読みのし過ぎだと言われてもおかしくない次元まで思考を展開していくクレド。


「(………噂で耳にしたことがある。世界平和や秩序を保つために各国から腕利きの人材を集めた四国連合お抱えの組織があると。

そして、数年前にうちの国から【暗殺剣士】の二つ名を持つ男が派遣されたとも

悠斗の話ではレインという冒険者は金髪で貴族のような立ち振る舞いだったと言っていたな………いや、考えすぎか?)」


もし、クレドの考え通りのことなら今後、少々面倒なことになるかもしれない。だが、悠斗達の立場上、それは避けて通れぬ道であることでもある。


「(まあいい。なんにせよ、俺が………いや、俺たちが用心すりゃいい。それだけだ)」


クレドはあるいは来るかもしれぬ面倒事に備えての決心を新たに、悠斗達のもとへ向かって行った。


これにて王都巡りは最後になります。これからは少しシリアス続きになりますが、お楽しみ頂けたら幸いです。

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