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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第二章 少年少女の戦場
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実践訓練Ⅱ

いやー、前回日常編っぽいの書きますと言いましたが、先に訓練ぶち込みました。


悠斗達がグワンテ王国で訓練をしていた同刻。白刃達勇者を召喚した張本人(?)であるマークウェル帝国にて、皇帝ゲスニア・マークウェルが苛立ちをあらわにしていた。



「クソっ、どうなっている!何故我々より先に四国連合やつら勇者達・・・を保護しているのだ!貴様らは何をしていた!」



この男が激昴している理由、それはマークウェル帝国が行った『英雄召喚』にある。



『英雄召喚』はほとんど失敗だが、一応成功した。しかし、召喚場所に指定したところにはいなかったため、他の所にいると考え、他国に悟られぬよう、探りを入れていた。


だが、どこから漏れたのか『英雄召喚』のことは噂として他国に伝わっており、慎重に動くしかない帝国は勇者達の保護に間に合わなかったのだ。



このままでは四国連合に言及され、政治的に不利になってしまう上に、生贄用の奴隷のために使った

大金が無駄になる・・・・・・・・と危惧しているのだ。



「クソっ、連合内で立場が悪くなるのだけは避けねばならん!どうにかならないものか………」



「皇帝陛下、私から意見が。発言をお許しください」



「………なんだ?」



発言を求めたのは、比較的年若い貴族の男だ。精神的に余裕のないゲスニアは一縷の希望に縋るように発言を許可する。



「陛下、これは『英雄召喚』を行った魔術師からの報告ですが、召喚を行ったさい、勇者の反応は一人分でした。しかし、その後も様子を伺っていると、勇者の反応がもうひとつ増えた・・・・・・・・のです。そして報告によれば今回保護出来たのは一人。つまり、あと一人の勇者はまだ保護されていません」



若い貴族の発言に周囲の貴族達も『おお………』と感嘆の声を漏らした。



「それでっ、それで余はどうすればいい!?」



「落ち着きください、陛下。いいですか、これは好都合です。最初から勇者を全員保護しても、いつかはバレてしまうでしょう。しかし、どちらか一方をこちらが保護し、もう一方を他国が保護すれば、いづれくる『最悪の事態』は防げましょう」



若い貴族が言った『最悪の事態』それは、勇者を全員された上に、『英雄召喚』を言及され、連合内での発言力と立場が損なわれることだ。



「し、しかし、言及されることは変わらないぞ?」



「心配には及びません。召喚の間は王族と最上級の貴族にしか分からない所にあると聞きます。調査に来ても奴らには分かりますまい。それにこちらも勇者を保護したと主張すれば奴らとて強くはいえません」



男の自信に満ちた表情と、多少強引だが、一応は理にかなっている策にゲスニアを含め、場の全員が賞賛を送る。



「しかし、これは前提条件としてもう一人の勇者を保護した場合の策です。出来れば火急速やかに勇者を保護することをお勧めします。なに、連合の奴らは勇者は一人のみと考えているでしょうから、最初よりは制限はなくなりましょう」



「よっ、よし。では会議はこれにて解散とする。お前は確か………」



「キリクル侯爵が嫡男、クリクルでございます」



「なればクリクルよ。この件については、全て貴様に一任する。言い出したからには失敗は許さん」



「はっ、有り難きお言葉、痛み入ります、陛下。必ずやこのクリクルめが帝国と陛下の威厳のさらなる繁栄をお約束いたします」



貴族の男────クリクルはその場で恭しく一礼すると、護衛を連れて玉座の間をあとにした。



☆☆☆☆☆



「随分、派手に立ち回りましたね」



「もともと、これを機会にするつもりだったからね」



大理石の敷き詰められた床のカーペットを踏み歩きながら、幼馴染であると同時に大切な臣下でもあり、護衛でもある友人にクリクルは苦笑しながら答える。



「帝国はもうじき終わる。それは外政的な意味ではなく、内政的………つまり国民の反乱によるもので終わるだろう。生まれた立場で上位に立つものだけが富を貪り、下位のものは座して死ぬ。そんな世の中は今時続きはしない。絶対王政を続けるには人はあまりに強くなり過ぎた」



「近頃は革命軍レジスタンスも動いていると報告もありますしね」



「然り。私はこれまで帝国の全てを見てきた。表の繁栄も、裏の貧困も全て。だから帝国は、私の手で終わらせる。まずは皇帝と繋がりを持つため、この一件を成功させなくてはならない。忙しくなるが、これからも私に尽くして貰うぞ」



「もちろん。この身果てるまで、我が意思は貴方と共に」



決意を宿す己が主の瞳を見て、臣下の男は再度忠誠の言葉を唱える。それを聞いたクリクルは、満足げに頷くと、己の悲願に向けて、足を速めた。




☆☆☆☆☆



身を焦がすような灼熱の太陽の光を受けて、熱気の篭った訓練場で、悠斗とレイラは向き合っていた。



手には木剣が一本ずつ。柄を握る手には汗が溜まり、ともすればすっぽ抜けてしまいかねない。



悠斗とレイラが向き合っている理由。それは、クレドとの一戦で過剰な訓練をしたから────という名目の戦力分析である。



戦力分析は、既にクレドが行ってはいるが、それはあくまでクレド流のものだ。レイラには、レイラのやり方がある。



「さて、準備はいいですか?」



「ええ、一応は」



「ルールは簡単。一撃入った方の勝ちです。原則としてスキルと魔法の使用は禁止。ただし、《クイックチェンジ》による武器の切り替えはありとします。《剣術》スキルは初級のもの、Lvは1〜3までのスキルアクションまで使用可としましょう。

『一撃』が入った時は、シャルルがかけた魔法で強制スタンするのでそれをもって勝敗とします。異論はありませんね?」



「はい。いつでもどうぞ」



表情を引き締めて木剣を構える。視界の端ではクレドがぼけーっとした顔で悠斗を見ていた。



「小僧ー。まあ、死ぬな」



「随分適当な応援ですねぇ!?」



クレドの言葉に思わず突っ込んでしまった悠斗だが、すぐに気を取り直す。



「ではシャルル、お願いします」



「はい、任された。

では、模擬戦────開始!」



試合開始のゴングと同時、悠斗の背筋に悪寒が走った。咄嗟に木剣を平行に傾け、盾のようにする。



結果的にはその行動に救われたと言っていいだろう。ガツンっと強めの音が響き、両腕に衝撃が走った。



「ふむ。これを初見で防いだのはあなたで二人目です」



ことの張本人は涼しげな顔で先程まで悠斗がいた場所に立っている。



「ですが、この程度で終わられても困ります。行きますよ!」



レイラが地を蹴ると同時に、悠斗も動き出す。小手突きを自身の木剣で逸らし、剣を横にして反撃にかかる。が、一瞬のうちに戻されたレイラの剣で受け止められる。



一歩踏み出し、剣を押し込む。体制的には悠斗が有利なので、レイラは一度引かざるをえない。




飛び退くように後退したレイラが、剣を構え直すよりも速く、悠斗が二の手に移る。



「ぐっ!」



剣に関しては素人だと思い込んでいた悠斗の、予想を遥かに超えた鋭い斬りこみに、レイラは驚きと焦りの声をあげる。それでも受けきっているのは、ひとえに総合騎士団長の実力故だろう。



「まだだっ!」



尚も三、四の剣へと攻撃を繋げ、切りかかる悠人に、レイラは少し押され気味であった。




────ただし、それはあくまで、レイラが悠斗の実力を見誤ったからである。彼女程の剣術の使い手は、技を何度が受ければ剣筋をおおよそ理解出来る。つまり────



「うぐっ!」



追撃で押し込もうとした悠斗に自身のそれより遥かに鋭い斬撃が飛ぶ。紙一重で剣で受けるが、数メートル程吹き飛ばされた。



「驚きました。まさかこれ程の剣の腕を持ち合わせるとは。向こうの世界では剣術を習っていたのですか?」



「ええ、まあ。剣道を四年程」



「ケンドウ………聞いたことがあります。極東の国に伝わる剣術の一種だとか………」




レイラはしばしの逡巡のあと、再開を促すように剣を構える。



悠斗も剣を構え直し、地を蹴る。思考するよりも速く剣を振り、受け止められ、また振る。



身体が、意識そっちのけでレイラと斬り合うなか、漠然とした思考でとるべき最善の動きを考える。



考えた動きは身体に反映され、一瞬の隙にその動きを試す。それも止められ、僅かにさがり、レイラの攻撃を捌いて、再び攻勢に出る。その繰り返し。



鍔迫り合いとなり、互いが木剣を押し込みあう。が、長くは続かない。徐々に悠斗が押され始める。



「っっっ、《剛剣》!」




悠斗が《剣術》スキルのスキルアクションLv1《剛剣》を使って、起死回生を図る。踏み込んだ地面には軽い陥没が見られることから、かなりの力が込められていたのは間違いないだろう。



「くっ!」



流石のレイラも、体勢が崩されては不味いと判断し、一度バックステップで引く。



「本当に驚きました。レベルも、戦闘経験も、私の方が上なのに、ここまでやっても決着がつかないとは。────貴方になら、本気、出せそうです」



慈愛に満ちた笑を浮かべて微笑む彼女の────その言葉を聞き終えた時、悠斗はかつてない、形容しきれない悪寒に見舞われた。




「行きますよ────」



トンッ、軽く地を蹴る。その瞬間、レイラの身体は風になる。思考は剣に、意識は彼方へ。



悠斗にも、それは見えなかった。速度は速いが、肉眼で捉えられないものではない。



ただ、あまりに自然過ぎた。そうであることが当然であるかのように、あたかも空気と同化したかのように、滑らかに動く。



ついには、視界の端に木剣が映るまで、悠斗は自身が攻撃されていることにすら気づかなかった。



「っつ、!?」



驚異的な反応で何とか凌ぐも、悠斗のペースは既に、完全にレイラのものとなっていた。



「(体勢を立て直さないと………このままじゃ、不味い!)」



頭では分かっているが、それを実行させてくれるほど、レイラは甘くない。怒涛の剣戟を悠斗に浴びせる。



「く、うあぁぁあ!」



飛び交う無数の剣閃を凌いでいた悠斗の中で、カチリ、と何かが入る音がした。




押されているのは変わらない。防戦一方なのは変わらない。けれども、悠斗の中の思考はやけにクリアだった。悠斗の五感は随分調子が良くなっていた。




「(なんだ………様子が変わった?)」



打ち合っているレイラも、悠斗の異変に気づく。さっきまでぎりぎりで攻撃を辛くも凌いでいたはずの悠斗が、自身の攻撃を完全に捌いている・・・・・・・・のだ。



否、悠斗の変化はそれだけでは終わらなかった。



「なっ!?」



レイラの剣の、一瞬の隙を突いて、切り上げで、剣を弾いたのだ。間髪入れずに突きを放つ。



レイラは身体を捻って辛くも躱すが、尚も攻撃は続く。さっきまでと完全に立場が逆転している。




レイラの剣が、馴染ませることで息を吸うのと同じように出来るほど自然な動作からのものだとすれば、悠斗のそれは、空気のように掴みどころがなく、清流のように滑らかで、河を創らんと岩や石を削る上流のように力強いものだった。



「(これは………)」




激しい打ち合いだというのに、どこか思考が剣から離れた別な場所にあるような錯覚を覚え、ぼんやりとした意識の中、レイラは初めて気が付いた。



「(私………いつの間にか笑ってる?)」



レイラは十二の頃から多くの戦闘経験を積んで今に至った。その中で剣の達人がいた。剣豪と呼ばれるものもいた。その戦いの数々の中で、レイラが楽しんで打ち合ったものなど、一人としていない。



生命をかけていない戦いであることもあるだろう。だが、スキルや魔法をほとんど使わない、純粋な剣による戦いでレイラとここまで打ち合った人間はいないことが、レイラの頬を緩ませていた。




「はあっ!」



刹那の隙にレイラは悠斗の木剣の腹に己の木剣を当て、ステータスにものをいわせて悠斗の木剣をへし折った。



くるくると宙を舞う木剣の切れ端を視界の端に認めながら、今放てる全霊の一撃を悠斗に見舞う。余談だが、レイラの全霊の一撃は、木剣と言えども丸太を切り裂くレベルの威力と速度を誇る。



「《クイックチェンジ》」



しかし、その攻撃は悠斗が新たに取り出した短めの木剣二本によって止められていた。



「そうでした。あなたは本来、二刀流の剣士でしたね」



剣を三度構え直し、悠斗の姿を正面から見据える。彼我の距離はそう無い。どちらかが踏み出せば一秒にも満たずに間合いに入ることだろう。




二人の走り出しは、まるで事前に打ち合わせていたかのような同時だった。



「やああぁぁぁあ!」



「っっっっっ!!!」




刹那の時に那由多を切り結ぶ。レイラは息つく間もない連続剣で。悠斗は双剣から繰り出される変幻自在かつ圧倒的な手数で互いを攻める。




もはや思考なんていらない。身体が動くままに任せればいい。染み付いた剣技を、出し切ればいい。



一瞬にも、悠久にも感じられた三本の木剣による剣戟の演奏は、あっけなく幕を閉じる。



剣道をやっていただけの、地球育ちの十五歳の少年が、十二歳から見習い騎士として実戦経験を積み、その後僅か十年で総合騎士団長まで上り詰めた神童に、剣技のみで勝つというのは、少々酷な話である。



最後は、槍もかくやという速度で繰り出された刺突に、防御も虚しく突き崩され、そのまま剣を突きつけられてチェック。



思い上がっていた訳ではないが、やはり胸にくる悔しさからか、悠斗は、座り込んだまましばらく立てなかった。



「あなたの剣の才は本物です。戦闘感もいい。だから私とクレドで鍛えてあげます。そんなにガッカリしないでください」



どこかオロオロしながら、慰めているのか厳しく言っているのか分からない言葉を放つレイラを見て、悠斗は苦笑すると、「はいっ」と短く答えた。




次回こそは日常編?をやるので期待しててください!

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