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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第二章 少年少女の戦場
44/112

対面

スランプで書くのが遅くなりました!

楽しんで頂けたら幸いです!

ガラスを通して日光が光輝く粒子となって降り注ぐ。太陽の輝きを装飾にして存在感を放つのは樽にざっくばらんに押し込まれた訓練用の鉄剣と鎧。



ここはグリセント王国が誇る王城の訓練場だ。壁や床には物理、魔法を問わずを吸収する高価な鉱石を惜しげも無く使い、かつ高位の結界魔道士による、高レベルの結界が張られている。



さて、そんな訓練場では日々騎士や兵士たちが訓練している声が響くはずなのだが、今は聞こえない。むしろ、兵士ではなく上位の騎士階級の人間のみが集められていた。



「よし、全員揃いましたね。ではこれより、勇者殿達との顔合わせを行います。分かっていると思いますが、くれぐれも粗相の無いように」



グリセント王国が誇る猛者共に厳しく言葉をかけるのはこの国最強の騎士、レイラ・シグルスだ。彼女の一喝で辺りが一斉に静まり返る。



さらに言えば、この場にいるのは騎士達だけではない。悠斗や白刃たち異世界転移者もいる。しかし、明らかに自分達より強そうな騎士達を見て、ガッチガチに緊張していた。



「では、まずこちらからの挨拶です。私の名はレイラ・シグルス。この国の総合騎士団長を務めています。そして、左から順にーーー」


レイラが順番に騎士や宮廷魔道士を紹介していく。高位の役職についている者でも三十人は優に越えているため、覚えられるか心配なる悠斗達であった。



「以上で、我が国が誇る武官、文官達です。では、次は勇者様方の紹介をしていただきます」



朝食時にあらかじめ決めておいた順番で、悠斗達は自己紹介を始める。



「では俺から。オレの名前は桐生白刃きりゅうはくばっていいます。よろしくお願いします────」




☆☆☆☆☆


「それでは、これから昼までの間、自由訓練とします。興味を持った騎士や魔道士と共に訓練に励んでください」




一通りの自己紹介を終え、自由訓練時間となった。白刃はレイラの元へ。大輝は重装騎士団の所。凛紅は遊撃騎士団、ミーシアと双葉はそれぞれ己の得意魔法の強化に向かった。



悠斗はと言うと、興味を持った人はいたが、その人が見つからずにいた。



「うーん、どこに言ったのかな?」



とりあえず訓練場を探し回っていると悠斗に後から声がかけられた。



「やあ、どうしたんだい?」



純白のローブを来た爽やかなイケメンの魔道士の優しげな雰囲気を漂わせるいかにもといった好青年だ。



「いやあ、それがですね、クレドさんを探してるんですが、見つからなくて………」



「へぇ、クレドを………?」



悠斗が、目的の人物の名前を口にすると、青年の雰囲気が一瞬だけ変わった。今までの優しげなものから、探りをいれるようなものに。



「君はどうしてクレドに興味を持ったんだい?」


「? 僕はただ、魔法を教わりたいと思っただけなのですが………」



「それは、彼が無属性魔法・・・・・の使い手だと知ってのことかな?」




件の人物、クレドは宮廷魔道士だ。そしてクレドの保有属性は【無属性】である。魔法には大きく分けて二つあり、それぞれ【属性魔法】と【特異魔法】と呼ばれている。【無属性】は【特異魔法】に該当する。



「当然じゃないですか。無属性魔法を使えるようになるために、クレドさんのところに行くのですから」



質問の真意は図りかねたが、明確な意思をもって悠斗は答えた。すると、少しだけ張り詰めていた空気が、一瞬で霧散していった。



「そうか。ならいいんだ。なんだって無属性魔法は嫌われ者だからね。アイツは良い奴なんだけど、少し偏屈だから。僕の名前はシャルル。彼と同じ宮廷魔道士で、彼の親友。せっかくだから、あいつのところまで案内してあげよう。よろしく、悠斗君」



「覚えててくれたんですね!ありがとうございます!では、お言葉に甘えてーーー『へぇ、そいつが俺に用があるって小僧か?』」



青年改め、シャルルに案内を頼む最中に声が掛かった。振り返ると、シャルルとは反対に漆黒のローブに身を包み、タバコを咥えた男が。



「やあ親友。これから君に会いに行くところだったのに、まさか君の方から来てくれるとは思わなかったよ」



「アホか、誰が親友だ。俺は俺のことを探してるやつがいるって聞いたから、興味をもって探してただけだ。………だがまあ、まさかこんな小僧だとは思わなかったが」



「僕らだってまだ二十五じゃないか。そう小僧小僧言うものではないよ」



最初、突然のことについていけなかった悠斗だが、シャルルと青年(黒)の会話からようやく察した。即ち、この青年(黒)こそが件の魔道士、クレドであることに。




「まあいいや。で、お前。名前は確か………ユートつったけか。めんどくせえ、小僧でいいや。んで小僧。この通り、魔道士クラスの嫌われ者【無属性魔法】の使い手たる俺に何を乞う?」



「いや、何って、無属性魔法以外に有るんですか?」



「え、何お前。まさか本気で無属性魔法使いたいの?そもそもクラス何?」



「クラスは<剣士>です。使える魔法は雷属性魔法です」



「うわっ、お前前衛職なの?なのに属性魔法使えるの?それなのにまだ魔法使いたいの?」



心底嫌そうな顔と態度をとるクレドに悠斗は半ばイラッとしていた。それでも、目的の無属性魔法の為に気を保ってクレドを見据える。



「………はぁー。無属性魔法を自分から習得したいやつとか初めて見たわ。まあ、理由は聞かねぇよ。これも仕事だしな。ちょっと力を見てやる。付いてこい」



諦めたように大きなため息をつくと、クレドは悠斗に付いてくるように指示する。悠斗は顔を綻ばせて「ありがとうございます」と言うと、すぐについて行く。何故か後にはニヤニヤしたシャルルの姿もあった。





☆☆☆☆☆


「着いたぞ。ここでお前の力を見る」



たどり着いたのは訓練場の端の方。地面にはラインが引いてあり、パッと見は小分けされた田んぼのようにも見える。



「魔道士クラスの戦いは範囲が広いからな。こんなふうに、小分けするのが1番なんだ。このラインで囲われている四角形の中が訓練エリアだ。周りのことは気にするな。ラインの外には、魔法は通れねえ。

さて、ルールの確認だ。殺すのはなし。結界内の効果で魔法の威力を軽減するようになっている。降参するか、戦闘不能に見合う一撃を貰った時点で負けだ。武器での攻撃は禁止だが、道具の使用はあり。スキルの使用もありだ。勝敗のジャッジはシャルルに一任する。いいな?」



場所に着くなり、早口で説明をするクレドに、悠斗は少し困惑気味だ。



「い、いきなり実戦ですか?」



「当然だ。力を見るといったろ?ならこれが一番手っ取り早い。んじゃあ端に寄れ。シャルル、合図を」



「はいよ〜。それじゃあ、準備はいいかな?」



あまりにも早急な展開に、困惑しながらも、悠斗の思考は既に切り替えられている。端に立ち、警戒しながら、合図を待つ。



「それじゃあ行くよ〜。

模擬戦、開始っ!」




☆☆☆☆☆


ああ、なんということだろう。まさかこれ程までとは。予想だにしなかった落胆・・をレイラ・シグルスは抱えていた。



対象は目の前の少年。【光の勇者】、桐生白刃。異世界より召喚される勇者は、勇者足り得る才能を見込まれて、選ばれる。だからこそ、たとえ元の世界では争いなど体験したことのない人間でも、かなりの才を持った者だと期待していた。



だが結果は違った。報告書や、観察、聞き込みから、とても正義感に溢れていて、運動と学習もこなせるかなり理想の人間像だと思っていた。実際にその通りだったし、なるほど、これなら確かに勇者足り得るだろう。



だがそれだけだった。彼のカリスマ性は見事なものだし、その崇高な思想はとても尊いものだ。彼なら不安と恐怖を抱える人々の生命も、心も救えるだろう。



しかし、英雄としての、絶対的強者たる勇者であろうとするならば、白刃はあまりにも非才だ。身体能力の高さはすごくても武の才能がないのだ。



国民の恐怖を煽るようなことが何もない今、強力な魔物などを討ち滅ぼすための勇者としては力不足とも言えよう。



レイラは落胆と共に何故白刃達がこの世界に呼ばれたのかを考えた。だが、戦うことを専門とするレイラには、策略家の陰謀などを見抜けるわけもなく、その考えを諦めた。




「どうしました、動きが止まっていますよ。実戦では誰も待ってはくれませんよ。さあ、立ってください」



才能では劣る分、少しでも多くの実戦経験を積ませて強くしてあげようと、レイラは剣を取った。




☆☆☆☆☆


「ふんっ!」



開戦速攻。そう決め込んで、攻撃スキル《電撃スパーク》を発動させようとした悠斗の目論みは、クレドの気合いの声と同時に放たれた光弾によって砕け散った。



魔力を身体に纏い、簡易的な身体強化を施して、ぎりぎりで光弾を回避する。



「(早いっ!?僕が使える最速の攻撃よりも!?)」



だが、第一射を避けてもこれで終わりではない。続く二射、三射と絶え間く光弾は悠斗を打ち倒さんと飛び交う。



「っっっッ!」



クレドが放つ光弾を避けきれなくなった悠斗は《電撃》でなんのか相殺し、防ぐ。



「(このままだとジリ貧だな。動くか!)」




身体を低くし、いつでも走り出せる体制に。スキル《虎視》を任意発動させる。案の定、クレドは一瞬怪訝そうな顔をしたものの、躊躇わずに光弾を放って来た。



「何っ!?」



カウンタースキル《虎視》のアシストで光弾をくぐり抜けて、一気に前へ躍り出る。長距離高速移動スキル《限界加速》も使っているため、速度はかなりのものだろう。



クレドの正面に一瞬で肉迫すると、悠斗は腕に電撃を纏って そのまま突き出す!



身体に電気を纏うことで身体能力の強化をする悠斗の魔法技アーツである《電光石火》を使用し続けたことによって派生したスキル《帯電》

を最大出力で発動した、強力な一撃だ。まともに喰らえば、オークさえも一撃で仕留める威力を誇る。



なお、何故最大出力かというと、ただ悠斗に余裕がないだけだったりる。それほどまでに強いと言うことなのだろう。クレドと言うと男は。



「やあああぁぁぁぁあ!!!」




裂帛の気合と共に突き出した渾身の一撃に確かな手応えが。バチバチバチバチッッッ!と電撃が激しく弾けて、思わず直視を避けてしまう程の光を生み出した。



勝った。そう悠斗が確信した次の瞬間ーーー



「いやあ、危なかった。なかなかやるな、小僧。たが、安心するのは、ちと早いぜ?」



正面から、声が聞こえたと思ったら、腹部を強い衝撃が襲った。肺の空気を全て押し出され、息が出来なくなる。力が抜けた瞬間に突き出した腕からも押し出されるような衝撃を受けて、悠斗は数メートル吹き飛ばされた。




「かはっ、なんで、攻撃が………」



「ん、なんでかって?ほれ、これだよ、これ」



そう言って見せびらかすように伸ばした腕には、悠斗もたまに使うバックラーサイズの盾が握られていた。威力を落とされているとはいえ、悠斗の渾身の一撃を防いで傷ひとつ無いことから、かなりの素材で作られているのは間違いないだろう。ちなみに、ルールは『武器での攻撃の禁止。道具の使用はあり』なので、盾の使用はルール上、なんの問題もない。




「小僧、まさかこんなんで終わりじゃないだろ?もっともっと全力できな。俺にお前の全てを見せて見ろ!」




クレドの挑発するような掛け声に悠斗は、その見かけに釣り合わない獰猛な笑を浮かべて答えた。



「上等だっ!」



刹那、悠斗の姿が消える。クレドが振り返れば、既に魔法の準備を整えた悠斗の姿が。



「轟け、『雷砲らいほう』」



詠唱を最大限に省略した雷属性魔法Lv3『雷砲』。突き出された左手の魔法陣から、収束した雷の砲弾が放たれる。



「っ、」



一瞬のことに驚いたクレドだが、さすがは宮廷魔道士。振り返ると同時に防御魔法を展開して、『雷砲』を受ける。



苛烈な雷の奔流が障壁を激しく打つ。前衛職の放てる威力ではないなと思いつつも、魔力をさらに込めて守りを強化する。惜しくも悠斗の放った魔法は完全にしのぎ切られた。



「ふぅ、どうやらここまでのようだな。それじゃあ、これで終わりに………?」



通常、魔法の連射は出来ない。魔法とは、体内の魔力を一度纏めてから放つことで成立する。逆にいえば、一度放つと纏めていた魔力は再び乱れるため、もう一度魔法を展開使用とするのに、魔力の収束から始め直さないといけないのだ。そこをうまくやりくりして、連射や複重展開をできるようにするのが一流の魔道士なのだ。



故に、魔道士ですらない前衛職がそんなマネ出来る訳なく、連射が出来る自分が勝つとクレドは思った。だが、悠斗の様子がおかしいことに気がついた。その場から少しでも動こうとしないのだ。その様子に、クレドは未知の恐怖を覚え、悠斗に向かって光弾を放ったーーー



「『雷獣』」




瞬間、悠斗が一瞬で雷属性魔法Lv5『雷獣』を展開した。



「何ぃ!?」



さすがのクレドも驚きの声をあげる。光弾を放った直後だから、防御魔法も発動出来ない。放った光弾はなんの抵抗もできずに雷の獣に呑まれた。




さて、魔道士でない悠斗が何故魔法の連射が………それも一度目よりも高位の魔法を放てたか説明しよう。



悠斗には《帯電》の他にもうひとつ、《電光石火》から派生したスキルがある。



その名を《充電》。似たような名前で《充填》というスキルがあるが、これは魔力を溜めて、攻撃の際に解き放つことで威力を底上げする前衛職御用達のスキルだ。しかし、《充電》は魔力を内外両方から集めて蓄積、予備魔力とすることが可能になるスキルだ。



簡単にいえば、魔法の使用や身体強化の際に漏れでる魔力や、大気中に溢れる魔力を少しずつ溜めて、その魔力を好き勝手使えると言うもの。



この魔力は既に纏まっており、乱れることはない。つまりノーコスト

ノーリスクで、自分の保有魔力以上の魔力で、魔力の乱れも関係なく、詠唱すら必要なく強力な魔法を瞬間的に展開出来るのだ!



雷属性魔法Lv5『雷獣』。Lv8魔法の『雷の幻想達ライトニングファンタジア』の下位互換に値する魔法。雷で形成された獣は百獣の王、ライオン。



黄金の獅子は呑み込んだ光弾すらも己がエネルギーに換えてクレドの喉元を食いちぎらんと疾駆する。



さしものクレドでも光の速さで迫る攻撃に対し、どうすることも出来ない。迫り来る雷獣は、鼓膜を震わす爆音と眼球を灼く閃光を伴って、クレドに直撃した。









いくらノーコストで放てるとはいえ、前にLv3の魔法を撃ったばかりなのだ。疲弊しないわけがない。



しかし、煙りが晴れない今、油断は決して出来ない。少しふらつく身体で、煙の先を見据える。



そう、決して、油断してなどいなかった。けれどもーーー




ドゴッ!



訓練場いっぱいに、鈍い音が響き渡った。音の発生源にはーーーローブがところどころ焼け落ち、いくつかの火傷を負って、身体から煙をあげる、正拳突きの構えで残心した、クレドの姿。




そう、今の音は悠斗がクレドの正拳突きによって、近くの壁に叩き付けられた音であった。




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