閑話 ある人物の物語
何か書きたくなったので書きました。短いですが、楽しんで頂けたら幸いです。
それは、別にどうということもない、平凡な人生だ。自分がいて、家族がいて、他にも色んな登場人物がいる。
どこにでもいる、極普通の存在。唯一周りと違うとすれば、友達いなくて、虐められてた位。だけど、それすらも、大きな地球という世界、社会の中ではありふれた悲劇。
受けている自分は、こんなにも苦しいのに。こんなにも辛いのに。
ーーー何がいけないの?
「分からない」
ーーー何でこんな目に遭うの?
「知らない」
ーーーどうすればいいの?
「どうしようもない」
毎日、いつも自問自答を繰り返す。けれど、その答えが自分を救う事はない。もたらすのはどうしようもない寂寥感だけ。
もし、救世主がいるのなら、自分を助けてくれるのだろうか? そんなくだらない幻想にすがって、二次元の産物に浸った。
努力とか、友情とか、そんなご都合主義全開のヒーロー物を見て、自分もこんな風に成れたならと、幾度も憧れた。
夢とか、未来とか、そんな不確かなモノを嬉々として語り合い、実現していく青春物見て、うらやましいと暗い感情を抱いたりもした。
それは、自分が持ってないモノだから。心の底から、欲しかったモノだから。
二次元に浸かれば、一時は辛さを忘れられた。でも、現実に戻れば今まで以上の辛さ。アニメやマンガ、ライトノベルを見れば見るほど、虐めはエスカレートした。
あるクラスメイトは、自分に向かってこう言った。
「お前、何で生きてるの?」
自分にとって、そいつはどうでもいい奴だった。虐めの主犯、その取り巻き。虎の威を借る狐のクセに、いつも威張り散らしてた。でも、一番自分に暴行してた奴でもあった。
弱いクセに、周りに威張り散らすその様は、実に滑稽で。でも、弱い上にそんな奴になされるままの自分には、腹が立って。自嘲気味に浮かべた笑みは相手の怒りを加速させてしまった。
「お前!何笑ってやがる!」
ただ威張ってるだけのコイツよりも弱い自分は、当然、力では勝てないので、せめて気持ちだけでもと思い、精一杯の勇気を出して、相手を罵った。
「ッハ、自分よりも弱い奴しか相手どれない様な奴が、強者気取りすんなよ」
予想より、効果はテキメンだったらしい。ソイツは、一瞬ポカンとした後、怒りの形相で殴ってきた。
口一杯に血の味が広がり、頬が痛んだ。でも、その痛みが一時の恐怖を吹き飛ばしてくれた。ただ殴られるのが嫌で、腹の底から声を出して、目の前のソイツに殴り掛かった。
反撃されるとは思っていなかったのか、回避もままならず、ソイツは自分の右ストレートを顔面に食らった。
歯は折れていないようだが、鼻と口から真っ赤な飛沫が飛び散った。良いのを当てれたらしい。でも、ここまで。元より多勢に無勢。他のクラスメイトが一斉に来て、リンチされる。こんな暴行は、先生が駆けつけて来るまで続いた。
「子供同士の些細なケンカ」として事なきを得た(言いくるめられた)その日の放課後。案の定、アイツがいた。友達であろう奴等もいっぱいいる。
「よう、さっきはよくもやってくれたな。そら、はぁ食いしばれ!」
言うが早いか、ソイツが拳を振りかぶろうとした直前。声が掛かった。
「ああ、こんな所に居たのか。探したよ。さあ、早く帰ろう?」
どこか不思議な少年だった。学年は恐らく自分と同じだろう。女の子めいた、少し華奢な少年。でも、自分はこの人の事を知らない。クラスメイトでもない。じゃあ、いったい………。
「な、なんだよ。コイツに何か用があんのか?」
「うん。一緒に帰る約束をしてたんだ。友達だもん」
「ああ?コイツに友達何て………ちっ、まあいいか。しゃあねえ。帰ろうぜ」
そう言って、アイツは帰った。何でか不思議に思って振り向くと、少年の後ろに三人程人が増えていた。
デカイ男子と、凛とした可愛い女子と、活発そうなショートの女子。三人とも、助けてくれた少年と仲良さげに会話している。
「ーーーあっ」
不意に、少年が此方にきた。そのまま、右手をスッと差し出した。
「僕、桜田悠斗!君は?」
一瞬、言葉を理解出来なかった。何せ、今まで自分と友達になってくれる人はいなかったのに。この少年はなってくれるとは、思わなかったから。
でも嬉しくて、直ぐに差し出された手を取って自分の名前を口に出来た。
「僕の名前はーーーーーーー」
少年ーーー悠斗は、名前を聞くと嬉しそうな、満面の笑みを浮かべて再び、口を開いた。
「よろしくね。ーーーー君」
これが自分と、桜田悠斗との出会いだった。
☆☆☆☆☆☆
振るわれた戦斧の刃が、銀閃となって駆ける。その一撃は、確かな手応えを主に与え、立ちはだかる敵に明確な死を与えた。
「お疲れ様です」
戦斧の持ち主はクラスメイトの女子の一人から、渡されたタオルで汗を拭う。その正体は言わずもがな、地球からの異世界転移者だ。
「ーーーさん。ギルドマスターから、呼び出しです」
「そうか。じゃあ、行くとしようか」
戦斧を担ぎ直した少年が静かに言うと、後ろにいた十名近くの少年少女達も動き出す。
その場に残ったのは、魔物の無惨な死体だけとなった。
☆までの下りは、小学五年生位の話だと思って下さい。




