招かれる勇者
お待たせしました!
短いですがどうぞ!
魔力灯が淡く光を放ち、周囲を幻想的に照らす。
足元に敷かれた絨毯は何の毛を使っているのか、恐ろしくフカフカだ。
学校の教室より少し狭い程度の、偉く立派な待機室。
それでも、たった十四人程度の少年少女がくつろぐには充分な広さだ。
今、悠斗が座っているのは、宿屋のベットよりも心地良い、最高級のソファー。
はてさて、値段は幾らするのだろうか。
いくら資金に少し余裕があるとはいえ、それは当面食べていくにはの話。最高級のベットを弁償しろなんて言われた日には、借金が必要だろう。
あまり気にしていないのか、大輝はどっかり座って、茶菓子を貪っている。
凛紅や双葉は、地球でも中々お目にかかれないような、家具に目を輝かせている。
ミーシアは少しばかり、居心地が悪そうだ。
それは悠斗にも言えることだ。当然と言えば当然だろう。
ただの地球生まれの、特別お金持ちでもない普通の少年である悠斗に、こんな高級感溢れる空間は居心地悪いにもほどがあるというものだ。
ほかのクラスメイト達も、どこか落ち着きがない。
なんでこんなことになったのだろう、と悠斗は目を閉じて思い出した。
☆☆☆☆☆
時間を遡ること、一週間前。その日は特にいつもと変わらない、異世界生活の朝だった。
「呼び出し? 誰から?」
冒険者ギルドで依頼を吟味していた悠斗は、不意に白刃から声をかけられた。
「このギルドのギルドマスターからみたいだ。仲間がいるなら、仲間ごと連れてくるように、て言われたから、悠斗君もパーティーメンバーを連れてきて」
「………分かった、今呼んでくる」
そう答えると、白刃は踵を返した。おそらく、神崎達のパーティーに声をかけに行くつもりだろう。
「………さて、僕も動くとしようか」
その呟きは、ギルドの喧騒に溶けて消えていった。
「随分の大所帯だな。まあ、入りたまえ」
五分後。白刃達と合流した悠斗は、そのままギルドマスターの所へ向かった。
精々ワンパーティー(三〜六人)程度だと思っていたのだろう。さすがのギルドマスターも十四人の少年少女が来るとは予想していないようで、少し驚いていた。
そこは、ギルド職員の会議室。四十以上椅子と長机がいくつもある、かなり大きい部屋だ。
「ではハクバ君。率直に聞こう。君は異世界から召喚された勇者だな?」
『ッ!!??』
クラスメイト達の顔に動揺が走る。無論、白刃にも。
「………無理に答える必要はない。済まないが君のステータスを調べさせて貰った。既にこちらでは、君が勇者であることを確認している」
「………俺が勇者なら、どうしろと言うのですか?」
白刃が、緊張を含んだ声音で尋ねる。無理もない。今の白刃は下手をすればこの場にいる十三名を危険に晒し兼ねないからだ。
「別に君たちに危害を加えようってわけじゃない。君たちには、ここから最寄りの国、グリセント王国の王都アルバキアに向かって欲しい」
「グリセント王国………ですか?」
「うむ。移動手段に関しては、先方が馬車を手配してくれた。出立は明後日。これはギルドの依頼で、拒否権はない」
「なっ、いくら何でも急すぎます!」
「すまないがこれは、ギルドと四国連合の総意だ。私には、何ともしてやれない」
一方的にまくし立て、詳しい時間や場所を伝えた後、ギルドマスターは部屋をあとにした。
「………おい、どうするよ白刃」
「私たちはどうしたらいいの?」
誰もが不安を隠しきれない様子で白刃に問う。
道が分からなくなった時、行く手を示すのは、その集団を率いるリーダーだ。そしてそのリーダーは白刃なのだから、皆が白刃に問いたくなるのはしょうがないことなのだろう。
「………、日本の様に平和な世界じゃないこの世界で、敵を………それも、国の連合を敵に回すわけには行かない。まずは行くだけ行ってみよう」
重さを含んだ声で今後を決断する白刃。指示を仰いだ以上、リーダーの指示には従うのが道理。クラスメイトは素直に受け止め、出立の準備のために、部屋を後にした。
「………俺の決断は、正しかったのだろうか?」
ボソッと。吐き出す様に呟く白刃。
今、この部屋にいるのは白刃ともう一人。
「後悔………しているのかい?」
「さあ、どうなんだろうな。もうどうしたら良かったのか、俺には分からないや」
「辛いのかい?」
「始めは………怖かったさ。知らない世界にいきなり放り込まれて、生きる術を知らず、ただその日を凌ぐので手一杯で………。でも余裕が出来て、またリーダーとして振る舞えて、それが嬉しくて、楽しくて………。
でも、今初めて思ったんだ。リーダーをやるのが………仲間の、友達の道を選ぶことが、こんなにも辛いんだって」
溜め込んだ、内のモヤモヤを吐き捨てる様に独白する白刃。
リーダーとして、皆に頼られたあの時。一番どうすればいいか分からなかったのは、白刃だったようだ。
「嫌なら、降りればいい。誰も君を責めはしない。責める資格がない。だから安心して降りればいい。なんなら、僕が代わろう」
まるで、救いの手を伸ばす様に、語りかける、部屋にいるもう一人の影。
「………いや、いい。
この役はは、
勇者が果たすべき、務めだと思うから………」
確かな決意を以った言葉。その言葉を聞いた影は踵を返し、部屋を出ようとする寸前、肩越しに声を掛ける。
「君がそう言うなら、止めはしない。まあ、また大変になったら相談してくれ。少しは手を貸そう」
「そうだな。そうさせてもらうよ。それと、いい加減に名前で呼んでもらいたいな。ーーーー悠斗君」
部屋を出る影ーーー悠斗は振り返らずに返す。
「善処するよ」
と。
☆☆☆☆☆
そんなわけでグリセント王国に足を踏み入れた白刃御一行は、王都に着いてすぐに城に案内され、「ここでお待ちください」と言われて、このVIPルームみたいな待合室にいるわけだ。
「で、このあとどうなるんだ?」
大輝が口に含んだお菓子を飲み込み、疑問を挙げる。
「多分だけど、この後は王様に謁見することになると思うよ」
「まあ、それもそうだな。テンプレだし」
「でもどうするの?謁見の作法なんて知らないわよ?」
「確かに、こればっかりはどうしようもないですよね」
「ううーーー。奴隷だったわたしも分からないですぅ」
大輝の質問に悠斗が答えると、凛紅
双葉、ミーシアが目先の小さな問題に不安そうだ。
「ま、多分あのおっさんが教えてくれるだろうよ。気長にいこーぜ」
軽さを含んだ声音で女性陣に言ったのは、悠斗でも大輝でもなく、
神崎瑛士その人だ。
瑛士はダンジョン【修練の魔境】の攻略の際、幾度も自分達の危機を救ってくれた悠斗達に積極的に話しかけ様になっていた。今では、各パーティー間の交流もよくやっており、高難度の依頼を合同で受けたりもしている。
瑛士の言うあのおっさんとは、グリセント王国の王都に向かう際、送りの馬車の引率からここまでの案内をしてくれた男の事だ。
四十代位の見た目で、立派な剣を腰に下げた男性だが、高級そうな衣服の中に隠れている鍛え抜かれた肉体が、印象的ではあった。
「それもそうだな。あの人、かなり身分高そうだし」
「う〜~〜、そうだといいのだけど………」
大輝が、瑛士の言葉に同意を示すと、まだ不安を拭いきれない様子で、凛紅が唸る。
「ははは、考えても仕方ないよ。その時はその時。ケースバイケースでいこう────来たみたいだ」
悠斗が、凛紅を落ち着かせようと声を掛けると、ノックが鳴り、話に出てきた男が入ってきた。
「勇者様方。準備が整いましたので、こちらへ」
男に促させるままに移動し、立ち止まったのは大きな扉の前。
「いよいよか………」
白刃が緊張で声を震わせながら、一人呟く。
「では………」
男が扉を押す。重い音を奏でて、その扉は開いた。
感想等、よろしくお願いします。




