罪の代償
気まぐれで書きました。短いですが、お楽しみください!
時は数分ほど前に遡る。
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「そーいえばよお、お前なんで使わねえの?」
ダンジョン【修練の魔境】からでた悠斗達は、クラスのリーダーである白刃がギルドに報告している間、ギルドの食堂でだべっていた。
本当は、今すぐ宿に戻りたいところではあるが、他のクラスメイトのパーティーが待っている手前、自分らだけ帰るのも流石に躊躇われるため、一応残ることにしたのだ。
小腹が減っていたので、悠斗はサンドイッチ、大輝はフィッシュアンドチップスの様なもの、双葉と凛紅は野菜スープ、ミーシアは悠斗のサンドイッチを分けて貰うなど、それぞれ適当に食べていた。
新鮮な野菜と、香りがいい香辛料など、とても良い具材で作られたサンドイッチをミーシアと二人で食べている悠斗に、何となくといったように、大輝がだいたいのクラスメイトが気になっていることを聞いた。
「使うって、何を?」
「そりゃ、お前、銃に決まってるだろ」
そう、悠斗は銃を持っている。自身の魔法《再製》で作った拳銃を。
この世界には、銃がある。しかし、それは地球にあるような金属の弾丸を火薬で飛ばすものではない。魔力で作られた弾丸を、同じく魔力の爆発で飛ばす、文字通り、魔力式の銃だ。
当然、魔力によるものなので、威力、速度、射程、実用性において、個人差が出てくる。誰でも最低限同じ様に使える兵器という銃のアイデンティティがクライシスしている。
故に、等しく強力な拳銃をなぜ使わないのか、皆、疑問に思っているのだ。
「うーん、なんて言えばいいかな
………うん、一言で言えば弱すぎるんだよ、拳銃はさ」
「弱い?」
「簡単に言うとさ、確かにゴブリンとか、コボルトとか、弱かったり、体皮が柔らかい奴には確かに強力な武器になるけど、サイクロプスやタートルモック、オーガみたいにデカくて強かったり、硬い奴には効かないかもしれないんだよ。
魔力式の銃なら、高魔力の人は穿てるかもだけど、良くも悪くも等しい威力の拳銃じゃあ、効かない相手が出てきた時にどうにも無くなる。だったらステータスゴリ押しの剣の方がいいかな、て思っただけだよ」
『ふーん、なるほどね』
意外と物事を考えている悠斗に感心する一行。心外だど言わんばかりに肩をすくめる。
隣に座っているミーシアはよっぽど疲れていたのか、ウトウトしている。
凛紅や双葉も疲れがたまっているのか、半ば夢心地だ。大輝は………普通に寝ていた。かく言う悠斗もかなり眠い。《竜ノ因子》で再生能力を得ても、疲れだけは再生できないらしい。
大切なもの(財布など)はマジックチェストの中なので、白刃がくるまで寝てようかと思ったその時ーーー
「なんでだよ!」
ギルド一階の全体に怒声が響き渡り、猫人属 族のミーシアは音に敏感なため、飛び起きる。みょーんと擬音が聞こえてきそうな光景に、悠斗は思わず吹き出した。凛紅達も起きたのだが、不機嫌そうだ。大輝は………まだ寝ている。
「何かあったのか?」
「っ、ああ、悠斗君か。ギルドにこれから渡してたら、そこにいる冒険者に絡まれちゃって………」
白刃のいうコレとは、傷だらけで血の着いた鎧や剣、槍などだ。
この武具はとある冒険者の遺品だ。悠斗達が見つけた時には、冒険者のパーティーは壊滅。虫の息で生き残っていた男性冒険者を癒そうとしても、時間が経ちすぎたため、効かず、最後は本人の意志により、殺して貰うことで息を引き取った。
止めを刺したのは悠斗だ。白刃は最後まで、一緒に連れていくべきだど主張したが、悠斗が否応なしに拳銃で射殺したため、白刃達と間に微妙な壁を作る一端となった。
悠斗が一度いなくなったあとのミーシア達の憤激と、サイクロプスとの一戦で一応、解消はされている。
「なんであんたらが、それを持っているんだ! それは、それはアニキ達の武器だ!」
そう、白刃に向かって叫んでいるのは、歳の頃十五歳ーーー悠斗達とそう変わらない年齢の冒険者だ。周りには、同じくらいの年齢の冒険者がダンジョン二人ずついる。恐らく仲間なのだろう。
流石異世界と言うべきか、地球ではお目にかかれない様な見事な赤髪を逆立て、背中の大剣を今にも抜こうと構えているリーダーらしき少年。
緑色の髪の毛の不機嫌そうに腕を組んで壁に寄っかかっているが、腰のホルスターに閉まっている二丁の魔力式拳銃はいつでも抜けるようにしている。
もう一人の黒髪ののんびりしてそうな重装備の少年はどうしたらいいものか決めかねてオロオロしている。
残る二人の少女、どちらも術士だが、二人は、若干心配そうな目でリーダーの少年を見ている。
「……アニキ達って言うのは?」
「知らばっくれるな!その武器の持ち主、クラン【灼熱の鉄槌】の幹部、アーヘスさんとそのパーティーだ!」
白刃が微妙に陰りのある声で問うと、怒声が返ってきた。そして、少年の言葉ですべてを察した。
クランとは、何パーティーかが集まって出来る一つの組織だ。クランに加入した冒険者がクラン内で新しくパーティーを組む場合もある。
白刃も作ろうと考えたが、クラン結成には金等級の冒険者が三名以上必要なので、まだ実現出来ていない。
悠斗は俯きがちにしているため、前髪で隠れて表情が読めない。読めないが、この時白刃は嫌な予感がしていた。
「へぇ、あの人アーヘスって言うんだ……」
悠斗がゆっくり口を開く。今まで誰だこいつと思っていた赤髪の少年も悠斗の方を見る。
「その人はね、僕が殺したよ?」
悠斗は告げる。真実を。否、それは真実と言うにはあまりにも舌足らず過ぎた。瞬間、一斉に溢れ出る殺意。その矛先は、悠斗。
「てめぇか……てめぇかああああ!!」
赤髪が怒鳴り、勢いのまま殴りつける。恐らくスキルを使ったのだろう。いくら無防備な状態とはいえ、普通はありえない距離を放物線を描いて飛ぶ悠斗。勢い余ってギルドのドアを突き破り、外に出される。
悠斗は………ゆっくりと起き上がる。その表情は誰にも分からなかった。
「殺す、殺してやる!今、ここでぇ!」
赤髪が大剣を抜き放ち、突撃する。後ろ仲間達も同じ気持ちなのか、各々武器を構えて、攻撃態勢をとっている。
「ああああああっっっ!!!」
ゴウッと音が鳴り、当たれば一溜りもないような攻撃が悠斗を襲う。が、当たらない。大ぶり過ぎるのだ。怒りで我を忘れているせいか、または、元々の未熟さ故かはあずかりしれぬことではあるが。
悠斗が一度、距離を取ると、何の躊躇いもなく、銃撃と魔法が飛んでくる。それも爆発を伴う炎系の魔法だ。
しかし、悠斗にはその攻撃を避けることはわけなかった。だが、悠斗は避けない。
よけれる訳がない。なぜなら、後には、野次馬を含む一般人と、その家屋があるのだから。そして赤髪達は、自分がなんて恐ろしいことをしているか気づいていない。
致命傷になりかねないものを《竜双剣》で叩き落としねいる悠斗だが、もちろん、限界はくる。
冒険者家業では人殺しはよくある事だ。盗賊からの護衛で殺す事もあるし、クランやパーティー同士の対立による抗争など様々。当然、悠斗のように、苦しんでいる瀕死の冒険者を楽にする事も。故に、冒険者の人殺しは、一般人(冒険者以外の人間)に迷惑をかけないことを条件に、裁かれる事はないのだ。『弱けりゃ死ぬ。死んだ奴は弱かった。』という信条のもと行動している冒険者らしい法である。
故に、よく仇討ちなどはあるのだが、詳しい事情も聞かず、何の警告もなしにいきなり始めて、一般人を巻き込み、一方的に攻撃し続ける赤髪達に、普段なら賭けの一つでもして楽しむ冒険者達も、困惑していた。
「っ、ーーー」
銃撃を数発、まともに受けた悠斗は《竜双剣》を取り落とす。傷自体は再生で塞がるが、ダメージは消えない。もちろん、再生で消えない傷もあるので恐らくアザまみれであろう悠斗の表情は、今だ見えない。
「はあ、はあ、これで、終わりだ!」
赤髪が剣を叩き込む。鮮血が舞い、悠斗は、血の海に臥せる。
「あ、ああ………」
事を止められずに、傍観することしか出来なかった白刃は後悔の言葉を漏らす。
だが、口から出る言葉は、掠れた息だけだった。
「はあ、はあ………アーヘスさん、俺、俺、あなたの仇、取れましたよ………」
血溜まりに力無く横たわる悠斗を見下し、満足気な様子で呟く赤髪。仲間達も同じ顔をしている。
だが、彼らに待っていたのは仇討ち成功の祝いでもなければ、勝利の祝勝、あるいは美酒などではなかった。
針のむしろ。射殺さんばかりの視線の数々に、赤髪達は動揺する。
「ど、どうしたんだよ、みんな?俺は仇討ちに成功したんだぜ?正当な仇討ちに成功した奴は祝って貰えるんだろ?祝ってくれよ。な?」
「どこが正当な仇討ちだよ………」
誰かが吐き捨てる様に呟く。周りの冒険者もそれに続き、特に駆け出しに冒険者のイロハを教えてくれることで有名で、悠斗と仲が良かった冒険者が責める様な眼で赤髪を捉える。
「お前ら、今どれだけ最低なことをしたか分かってんのか?犯罪者のお前達に、祝う言葉なんて何一つねえよ」
「は、犯罪?どこだよ?冒険者同士の殺し合いは裁かれないって言ってたじゃないか!」
「前提条件を忘れるなよ。それは一般人に迷惑をかけない上でだ。お前ら、どれだけ迷惑かけたと思ってやがる」
「な、なんだよ!俺たちが誰に迷惑をかけたっててんだ!ほら、どこも迷惑なんて………」
赤髪達が、後ろを振り返るとそこには、魔力銃の弾丸や、爆発系の魔法などで抉れた大地。直接的な被害はなくとも、土埃を受けて汚れたり、飛び散った石の破片で軽傷を負った住民や家屋の姿があった。
「あ、あれ?そんな、嘘だろ?ああ、あああああ………」
気づいたのだろう。自分達の罪を。冒険者達は悠斗について何も言わない。理由はどうあれ、悠斗は負けた。弱いからだ。敗者には触れないのが冒険者の暗黙の了解なのだ。
「………冒険者アカギ、リョク、ブラク、リョーコ、シルエ。以上五人を、殺人及び住民への迷惑行為を罪状に連行する」
「ひっ、……」
冒険者同士の殺人は裁かれない。しかし、一般人に迷惑をかけた場合、殺人の罪も問われるのだ。
冒険者を取り押さえるための警察。彼らは、一人で金等級冒険者くらいの実力だ。
当然、青等級の赤髪達に歯向かう術は無く………
「ああ、ちょっと待ってください」
警察を止めたのは悠斗だ。再生した傷は治っても、血は消えないので血まみれではあるが。
「僕、まだ死んでないので、殺人はなしでいいですよ」
「なあっ、………」
赤髪が驚く。無理もない。殺したはずの人間が生きていて、しかも、殺人をなかったことにしようとしているからだ。
「本当にいいのか?慰謝料位は取れるぞ?」
「理由はどうあれ、僕は彼らの大切な人を殺しました。これは戒めとして甘んじて受け取ります」
「他の冒険者に襲われて、瀕死だった奴をお前の手を汚してでも救ったというのに、難儀なものだな」
その言葉を聞いて、赤髪の顔は青くなる。仇だと思っていた人間が、むしろ救っていたのだ。そして勘違いで殺そうとした。赤髪達の心情は、ぐちゃぐちゃだ。
「じゃあね」
一言。悠斗は赤髪達にたった一言だけ告げて、ギルドに戻っていった。
白刃は困惑していた。悠斗と 白刃が仲直りしたさい、悠斗は白刃に言った。
『ギルドに戻って、遺品のことを何言われても、僕がどうなっても、手を出さないで』
まるで、こうなることを予測していたようだった。
悠斗はテーブルで眠るパーティーメンバーを起こしに行っている。なぜ、悠斗が死にかける様な戦いに巻き込まれても、大輝達が来なかったか。それは、悠斗が事前に睡眠薬を食べ物に入れていたからだ。
強力なやつなのでなかなか起きれない。もし、自分が戦いに巻き込れたら、動かないでと頼んでも、動いてしまうはずだから、そう思い、悠斗は大輝達を眠らせたのだ。
生活魔法で綺麗にした服には血の跡は残っていない。恐らく、このことを知っているのは、冒険者達と、自分だけになるだろう。そう思いながら、白刃は中学生でありながら悠斗の持つ異質さに考えを巡らせるのであった。
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