対サイクロプス 前編
短いです
人はソレを鬼と呼んだ。別な人は悪魔と呼んだ。ソレは大きかった。全長は五メートル位。しかし、最も大きいのは全長等ではなかった。
一言で言うなら貫禄。もしくは覇気。ソレが持つ圧倒的な威圧感は対峙した全ての生物を竦み上がらせた。青い皮膚。剥き出しとなった牙。ソレの強さを証明するようにそびえる角。最早、鎧と言っても過言ではない筋肉。その紅く爛々と光る目はまるで血で創られたかのようだ。
そんな化け物が、”光の勇者”こと、桐生白刃の前に現れた。
「オオオオオオオォォォォォ!!!」
サイクロプスの咆哮は、文字通り大気を揺らして白刃の耳に届いた。サイクロプスの全長は五メートル。
進○の巨人に出てくるような十数メートルもあるわけではない。だがしかし、それでもこの世界と今の白刃達にとっては脅威そのものだった。
「っ、戦闘準備!全員、武器を取れ!」
流石の状況判断力で、クラスメイトに指示を伝える白刃。しかし、その顔は困惑に染まっている。どうすれば勝てるのか。そもそも、こんなのに勝てるのか?と冷や汗を流していた。
全てが未知の相手。数の利はあっても合算の戦闘力が違い過ぎる。従って陣形はセオリー、定石通りに固めるしか手がない。
「く、来るぞ!迎撃!」
迎撃。元はただの中三生だった白刃ではしょうがないかもしれないが、その指示は、戦場にとって余りにも言葉が足りなすぎた。
「<神聖結界>」
クラスメイトの中で白刃の指示を実行出来たのはただ一人。双葉である。パーティーリーダーの悠斗がいないため、悠斗パーティーのメンバーは残った二つのパーティーに臨時で入ってもらっているのだ。
ほぼ脳筋、剣大好き悠斗パーティーが誇る術士が一人、双葉は詠唱破棄で即興の防御魔法でサイクロプスの豪腕の一撃を見事ガード。反作用により、サイクロプスは一瞬怯んだ。
一瞬という短い時間。その刹那の時は、こと戦いにおいて致命的な隙となる。そして、その隙を逃す程悠斗パーティーの前衛は甘くない。
「セアアアアアア!」
「うおおおおおお、りゃああああ!!!」
凛紅が怒涛の早さで連撃を与える。元々、技術と速度を意識した型である凛紅では大したダメージにはならない。しかし第二刃、大輝が自分のアクティブスキル<火炎>を足下に行使、着弾時の爆炎で加速し、その勢いのまま、がら空きの胴に一撃。斬ることまでは敵わなかったが、引き剥がす事には成功した。
「………はっ、な、ナイスだ三人とも。よしみんな、このまま攻め続けろ!」
その指示を皮切りに、クラスメイト(主に白刃パーティー)の面々が各々攻撃していく。
転移ボーナスを持つ異世界転移組の攻撃は確実にサイクロプスにダメージを蓄積させている。
「オオオオオオオォォォ」
「はああああああ、<光剣>!」
クラスメイトがスキルアクションや魔法を。白刃が魔法とスキルアクションの合技、魔法技で攻撃する。流石のサイクロプスも声を上げた。
しかし、サイクロプスは人々に悪魔とも言われた魔物。ただやられる訳ではない。
「オオオォォォ!!!」
突然の咆哮、同時に両腕を振り回し、白刃達を吹き飛ばす。大事をとって遠距離から攻撃したり、常に警戒していた悠斗パーティーと神崎パーティーの面々は吹き飛ばされはしなかったが。
「ちっ、やっぱうまい具合には行かないよな………っと!!!」
悠斗、白刃にならぶ三つ目のパーティーのリーダー、神崎瑛士が倒れた白刃達の変わり前にでる。サイクロプスが荒削りな石のこん棒で攻撃をしかけるが、瑛士がまさしく神業のような動きで手にしている中国刀を操り、こん棒をいなしていった。
「春樹!そっち寄越す………ぞっ!」
瑛士はサイクロプスの攻撃をうまい具合に受け流すと、自身のスキル<衝撃>を斬撃に乗せて放つ。いくらサイクロプスとて、転移ボーナスで身体強化された瑛士の<衝撃>を食らえば、数メートルは後ずさる。
そして、サイクロプスが吹き飛ばされた先には…………
「お~~~らいっ!!!!」
神崎パーティーが一人、山本春樹が斧槍を横薙ぎに一閃。さらにスキル<強撃>を合わせる事で超威力の斬撃をサイクロプスに叩き込む……………が。
「オオオオオオ!!!」
サイクロプスが流石の超反応で振り向きざまにこん棒で薙ぎ払い。どちらもパワー型の戦い方であるため、凄まじい膂力と膂力がぶつかりあう。
「っ、おわっ」
「オオオオオオオ?」
結果は引き分け。どちらも吹き飛び後ずさる。しかし、この戦いの間に白刃達の離脱は成功。一度、態勢を立て直す為に、瑛士達も離脱を計る。が、しかし。
「オオオオオオオオ!!!!!」
サイクロプスのスキル<威圧>により、動きを止められる。
「ちっ、不味い!」
「くっそぉぉぉ!」
サイクロプスがこん棒を振りかぶる。この一撃をまともに受けたら死ぬ。それを理解していても<威圧>により動けない二人。少しでも生存確率を上げようと、魔力を身体に纏わせ、強化を計る。しかし、それも杞憂に終わったが。
ガウン、ガウン。ゴオォ。
銃声二発。炎弾一発。それは神崎パーティーの女性衆、神川希理と河島摩耶の銃による弾丸と、工藤綾音の炎魔法だ。
三弾全てが着弾、サイクロプスにダメージを与え、隙を作る事に成功。そしてその隙をーーーー
「うおおおおお!!!」
「せやああああ!!!」
大輝と凛紅は逃さない。各々が打てる最高の一撃を打ち込む事でサイクロプスから瑛士達を引き剥がす。
「よし、仕切り直しだ!」
双葉に回復して貰った白刃が調子良さげに仕切ろうとする。この戦いにおいて白刃達は余り活躍していないので挽回したいのだろう。
「お、おい。なんかアイツ、様子が変じゃないか?」
誰かがサイクロプスを指して、声を震わせる。大輝や凛紅、双葉も釣られてサイクロプスを見る。
「ひっ!」
それは誰の声だったか。まあ、悲鳴を上げたくなるのも無理はない。サイクロプスはまるで血の様に妖しく輝く魔力を纏っていた。青い身体に赤い魔力。ある意味対となるその見た目は転移組にかつてない悪寒が走る。
「全員、逃げろ!!!!」
大輝がありったけの大声で叫ぶ。次の瞬間。
「オオオオ、オオオオオオオオ!!!!!」
ドドドドドドド、と地が泣き叫び、破壊の波動が白刃達を襲う。それを完全によけれる者はいなかった。
「あああ、あああああ………」
痛みで動かせない身体で地面を這いつくばりながら、白刃は諦めにも似た声をあげた。中学生にしてハイスペックで物語の主人公の様な少年、桐生白刃。彼の弱点はそのハイスペックにある。
白刃は争いのない平和な日本国で、そのハイスペック使い、成功を納めていた。つまるところ、敗北や挫折の経験がないのだ。全てにおいて完璧にこなしていたから、何か一つの分野でも自分の上を行くものがあった時に対応しきれない。
圧倒的に不利で死が目前に迫っても、味方も自分も鼓舞することが出来ない。希望を持つことが出来ない。
白刃は、脆いのだ。
「オオオオオオオオォォォ………」
死の象徴が向かってくる。誰も動かない。否、動けない。恐怖と痛みに身体を支配されて動かす事が出来ずにいた。
勇者は墜ちた。
破壊の前に、無惨に散った。
絶望を打破出来る者はいない。
ーーーそう、誰もが思っていた。
ばさっ。
ブラウンのロングコートを羽織り、少し長めの黒髪をそよ風に靡かせて、彼は現れた。
手には二本の剣。
その眼に強い意思を込めて、敵を見据える。
悠斗は現れた。
ブクマをよろしくお願いしまぁぁぁす!!!




