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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第一章 Welcome To Anotherworld
24/112

神川希理

短いうえに、悠斗達の出番が少ないです。今回は新キャラ回です。


勇者ーーー本来、強い勇気を持つ人を指す言葉。近年ではファンタジー等で魔王等様々な敵を倒す事が出来る特別な力を持つ人を指す言葉として使われている。そしてこの世界、”アーカディア”にも勇者は存在する。意味合いは無論、後者だ。過去にこの世界の国々は勇者を召喚し、厄災から逃れたと言われている。


そして時はたち、平和が訪れた世界で再び勇者は召喚される。今度は戦争の兵器となる為に……







ドン、と辺りに重く低い音が響き渡る。すぐにドサッという重い物が倒れる様な音が続く。倒れたのは東の平原に生息する中級魔物””オーク”である。オークの死体の額には弾痕が残っている。


”魔力式弾丸発射銃”、通称”魔力銃”。それがオークを仕留めた音の正体だ。銃本体に魔力を込めると、魔力を弾丸に変える機関に転送、蓄積され、トリガーを引くと機関で形成された魔力の弾丸がこれまた特別な機関で作られた魔力の爆発で押し出される仕組みだ。


オークを仕留めたーーー正確にはパーティーメンバーとの連携攻撃の末に止めを刺した少女、神川希理かみかわきりは喜びを分かちあっている仲間と離れ、一人遠くを見つめていた。


視線の先には、オークを2体同時に相手する悠斗達がいた。一体は悠斗がミーシアの魔法による援護を受けつつ攻撃を的確に捌き、押さえている。もう一体は双葉の援護のもと、凛紅と(ある意味)脳筋二人がじわじわと確実に致命傷を与えていっている。


「これで……おしまい! <剣舞ブレイドダンス>!」


「のおおおおお!<気合い一閃>!」


凛紅が自身の固有スキル<剣舞>で、大輝はスキルアクション<気合い一閃>でオークを一体仕留める。そしてーーー


「炎よ、我が敵を撃ち抜け <炎弾フレイムショット>!」


ミーシアが炎魔法Lv,2<火炎弾>でオークに炎の塊を撃ち込む。燃え盛る炎がオークを包み、皮膚を炭化させていく。


「ゴオオアアアア!」


炎を身に纏いながら、その巨躯をミーシアへ向かって動かす。その肉体そのものが武器となったオークがミーシアを捉えるーーーその直前。


「<飛燕ひえん>!」


悠斗がオリジナルスキルアクション、<飛燕>で彼我の差を一瞬で詰め、同時にオークのけんを切り裂く。


<飛燕>は悠斗の持つスキル、<限界加速>とスキルアクションを組み合わせたオリジナルスキルアクションである。これまでの戦闘や自主練で<限界加速>の仕組みは、魔力による純粋な身体強化だけでなく、同時に魔力を噴射しその推進力で高速移動を行っているものであることに気付いた悠斗は、”魔力の噴射”を利用出来ないかと考えた。その結果生まれたのが<飛燕>である。


つまるところ、<限界加速>とスキルアクションの同時発動に高速攻撃だ。<限界加速>との違いは、<限界加速>は瞬間的に速くなるだけ。。<飛燕>は速さを維持して攻撃が可能である事だ。さらに、魔力を方向を変えて断片的に噴射するとーーー


「<飛燕ひえん*│乱歩らんぽ>」


キュイン、キュイン、キュインと音が聞こえる様な高速機動でオークの全身を切り刻む。この高速機動こそが、<飛燕>の真価である。要は<限界加速>の身体強化を継続し、魔力を断片的に噴射することで加速したり、止まったり、向きを変えたり、あらゆる行動が一瞬の内に出来るのだ。


「グア……グオオオ………………」


断末魔の唸り声を上げ、倒れるオークを尻目に悠斗は駆け寄って来た仲間達と会話を交わす。その時の悠斗の顔は実に良い笑顔だった。





そんな様子を遠巻きに眺めていた希理は一人、心の中で疑問の声を上げていた。


「(………どうしてあなたは……そんな平気そうな顔をしているの?)」


実を言うと希理はミーシアが乗っている馬車が襲われた事件ーーー後に狂化魔物事件始まりの被害と呼ばれる事件の当事者であった。


くだんの事件が起きたその日、希理は銃の使い方に慣れる為に一人で狩りに出ていた。こそこそ隠れては、見つけた低レベルモンスターを射殺していった。昼休みをとり、次の獲物を探していた時に悲鳴は聞こえて来た。


急いで向かい、たどり着いた先で希理は見た。明らかに様子がおかしい一角狼が倒れている人を捕食している光景を。倒れている人はまだ生きていたので、急いで助けようとした。しかし、いざ銃口を向けた瞬間、希理の脳裏に不安がよぎる。外して気付かれたらどうしよう、間違えて倒れている人に当たったらどうしよう、と。


結局、希理撃てなかった。食べられていた人は死んだ。希理は込み上げてくる吐き気を抑え切れなかった。

吐く。胃の中のもの全部。その音に反応したのか、一角狼はこちらに近付いてくる。


死ぬ。そう感じた。でも死ななかった。何故なら、一角狼が希理にたどり着くその前に、悠斗が来たからだ。


なんとか、様子を見てみる。悠斗は囲まれていた。でも次の瞬間には、飛びかかって来た狼を数瞬で倒した。この光景には希理も目を見張った。何せ、足手まといと蔑まれていた悠斗が一人ソロで3匹の一角狼を数秒で倒したからだ。


その後、悠斗は魔法を使い、敵を殲滅した。生存者は後で出てくるミーシア以外いなかった。でも生きている人がいた。悠斗が側に寄ると、希理も見える所まで移動する。そして見た。その人はとても酷い状況だった。生きているのが悲惨なくらい。


悠斗は剣を抜き放つと、泣きそうな顔で剣を振るい、その人をーーーーー





希理は後悔していた。あのときトリガーを引かなかった事を。そして今は疑問に思っている。何で、この事件で一番心に傷を負っただろう悠斗がこうも笑っていられるのか、と。


そしてその答えは思いの外速く出た。


希理は理解した。悠斗は心の底では笑えていない。笑っても、一瞬、凄く悲しそうな顔をしている。悠斗は事件を乗り越えてなんかいない。リーダーだから、弱音を吐くまいとしているだけだ、と。


そして同時に、胸がチクリと痛み、どうしようもなく悲しくなった。


「(………私は………どうすれば………」


希理は暫くの間、考え続けていた。

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