悠斗の決意と渦巻く陰謀
遅れました。
翌朝、早朝に目を覚ました悠斗は昨日の出来事を思い出し身悶えていた。まだ中学生とはいえ、15歳の男が12歳の女の子に慰められ、そのまま寝てしまったのだ。理由を知っている者にはどうと言うことないが、悠斗にとっては恥ずかしいのだ。
どうやら慰めてくれた後、そのまま一緒に寝てしまったらしいミーシアに毛布を掛けると、悠斗は早々に服を着替えて、朝の鍛練に向かう。
宿屋の裏には中々広い庭があり、そこで悠斗は訓練していた。いつも通りのメニューで、片手剣の型を練習してから足捌き、体捌きの反復、そして片手剣の型を織り混ぜた独特の双剣の練習と魔力が尽きるまでやるスキルアクションの反復を一通りこなす。
魔力切れで立っていることも出来なくなった悠斗は地面に大の字になって倒れる。暫く空を仰いでいた悠斗だがふと、己の愛剣<竜双剣>に視線を落とす。その刃には人を斬った事を表すものは何もなかった。ただ、鈍色輝くのみだ。
開き直った訳でも、吹っ切れた訳でもない。ただ決めたのだ。この罪を背負うと。自分は勇者じゃない。聖人君子でもない。それでも、自分に出来るのはこれだけだから……。
「僕にとっての正義……」
悠斗は昨日のギルドマスターの言葉を思い出し、寝転がりながら考えていた。彼は自身の選択が自身の正義に反しないようにと言っていた。
人を殺してしまった悠斗にとっての正義。今まで数多くの物語を観てきた。その世界のほとんどに、主人公がいて、敵キャラがいた。しかし、それだけではなかった。主人公が悪役で敵キャラが正義の味方の作品もあった。
そんな作品を観たとき、悠斗が応援するのは主人公だった。正義の味方だから応援する訳ではない。悪役だから応援しないのではない。主人公だから応援したのだ。
その事を考えた時、悠斗は思う。正義とは、何を持って正義なり得るのか、と。答えはまだ見つかっていない。ただ、悠斗は守りたいと思った。凛紅を、双葉を、大輝を、ミーシアを、守りたいと。
「僕は……皆を……。」
守れるだろうか、という言葉を飲み込み、悠斗は意識を落としていった。
そんな悠斗をそれぞれ違う場所で遠巻きに眺めている人間がいた。その中の数人は勿論、凛紅、双葉、大輝、ミーシアだ。
中でも、凛紅と双葉は沈痛な表情で、大輝は人当たりの良い彼からは滅多に見せない様な険しい表情をしていた。
当然と言えば当然だろう。誰よりも異世界に憧れ、いざ行けた異世界で大した能力も貰えず、それでも尚、必死に努力していた悠斗が人を殺したのだ。悠斗の部屋の両隣に部屋がある凛紅と双葉は昨晩、うなされている悠斗の声と、ミーシアに慰められた悠斗の嗚咽を耳にし、胸が締め付けられる様だった。
出来るなら、自分も悠斗を慰めて、少しでも楽にしてあげたかった。しかし、人を殺した訳でもなければ、今回の事件の当時者でもない自分達が半端に慰めるなど、逆効果だ。どうする事も出来ず、歯噛みするしかない凛紅達は悔しさを胸に積もらせていった。
☆☆☆☆☆☆☆
その頃、某所にて連合国会議が行われていた。そのなかには、連合国の中でも上位に入る発言力を持つ国々、
リンガルム公国、リーベルヒ王国、グリセント王国の姿もある。しかし、その中にマークウェル帝国の姿はなかった。
「最近、どうもマークウェル帝国の動きがおかしいとの噂が流れておりますが、皆さんはどうお考えで?」
「確かに帝国が色々やっている噂は聞くなぁ。しかし、最近は何を?」
「なんでも勇者の召喚を行ったとか……」
「ははは、それが本当ならこれは大問題ですぞ。」
各国のトップの会話に司会の女性は緊張した感じで話を切り出す。
「あの、その件ですが恐らく本当かと……」
「「「「 !!!!!!???!! 」」」」
各国のトップが一斉に息を飲む。
「冒険者ギルド”リーデル”支部より報告でステータスに”光の勇者”を持ったルーキーが現れたそうです。そして、最近の大規模魔術式の魔力残子を調べた結果、マークウェル帝国が行ったものと断定しました。彼らは今、リーデルで冒険者をしているそうです。」
「あのアホ帝王め~~~!」
「至急、交渉班を用意。勇者をマークウェル帝国よりも早く、連れてくるぞ!」
いよいよ、互いの国の陰謀と悠斗達の冒険が絡まっていく。
遂に、物語が動き出す。
同じユーザー名で”異世界放浪自分探しの旅”という新作を書いています。読んで頂けたら光栄です。




