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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第一章 Welcome To Anotherworld
20/112

特別

「では、こちらが素材と、討伐指定モンスターの討伐報酬です♪」


夕刻。ギルドではこれから来るであろう冒険者の波に備えて受付嬢が慌ただしくしていた。そしていつもより早く引き上げた悠斗はホクホク顔で渡されたお金を受け取り、親友の大輝の元へ向かう。


「いくらだったんだ?」


「聞いて驚け大輝。なんと金貨12枚だ。」


「うお、マジでか!これで暫くは大丈夫そうだな。」


何故ホクホク顔なのかと言うと、他の魔物と比べて圧倒的強者である”ブラットグリズリー”ーーーそれもNMネームドモンスターを討伐したのだ。しかもそのブラットグリズリーは過去に何人もの冒険者をほふってきた”討伐指定モンスター”でもあった。


討伐指定モンスターとは、凶暴性、残虐性、強さ、知能といったあらゆる情報をもとにギルドがその魔物を魔物の中の一つの”種”ではなく、”個体”として脅威と認定した魔物の総称である。討伐した者には当然

報酬が用意される。


まあ、そんな魔物を多少の危険があったのみで討伐出来たことは悠斗達にかなりの自信をもたらしていた。こうして、大金を手にして悠斗と大輝は宿屋へ向かう。



☆☆☆☆☆


”中立都市リーデル”の冒険者御用達宿屋、”アドベの宿”の一階。良く賑わう食堂は今日も人で一杯だった。食堂なんていっているが、冒険者御用達なので様子はただメニューの多い酒場である。


最早完全に酒場と化した食堂では冒険者達が自らの武勇伝を語り賑わっていた。無論、冒険者達の中には悠斗、大輝、凛紅、双葉の姿もある。


「相変わらず凄い騒がしさね……あ、これ美味しそう。」


「凛紅ちゃん、どれにするか決めた?」


「私はこっちの”軟体鶏のチキンライス”にしようかしら」


「じゃあ、私は”ミラクルトマトのスパゲッティ”にしようかなぁ。」


凛紅と双葉の会話を尻目に、悠斗と大輝もメニューを見ていた。


「なあ、悠斗。おれは”デストロイビーフステーキ”なるものを頼もうと思うのだが……」


「何だよ、そのヤバそうなステーキは……僕は”ミラクルトマトのリゾット”にするよ。」


各自、メニューを決め注文する。女子二人は「食後にデザートを!」と付け足していた。


そんな中、一際下品な笑い声が響く。目を向けるとそこには白刃はくば率いる悠斗達以外の異世界転移組の蘭藤、村山、山本、神崎の姿が。ただし、主に騒いで要るのは蘭藤と村山で、山本、神崎は愛想笑いをしているだけだ。


「そんでよぉ、そんとき逃げ出したあの腰抜けどもがさぁーーー」


「イヤー、あれは傑作だったね。弱い癖に冒険者面してんじゃねぇっ!、て思ったわー。」


話を聞く限り、彼らは今日倒したモンスターがなかなかの大物で、ソイツに敵わず撤退ーーー悪く言えば逃げ出した冒険者の事を貶していた。


蘭藤と村山は異世界転移を果たした自分たちを"特別"だと信じこんでいた。特に異世界転移ボーナスーーーステータスとは別の身体能力強化と成長率と成長速度の上昇等の特典でその辺の冒険者より直ぐに強くなり、強力な魔物を倒した事でその考えが加速。他の冒険者を見下すようになった。


詰まるところ、自惚れていた。しかしそんな人間にはトラブルは付き物である。


「君達。悪いが暴言はそれまでにしてくれないかな?」


蘭藤達に声を掛けたのはまさしく好青年、といった感じの男だった。金髪の様な髪にきりっとした目付き。貴族と間違えてもしょうがないと思える程の溢れる気品。すらりとしているが確かな実力を思わせる雰囲気を纏っていた。


「同じ命を懸けて戦う者同士、悪意を持って馬鹿にしたりするのは少々道徳に欠ける。それに敵わない相手から逃げる。その判断の何処が悪いと言うんだい?」


何も知らない人からは綺麗事ととられかねない発言。けれども青年の言葉には同業者だからこそ感じる、確かな重みがあった。


愛想笑いを浮かべているだった山本と神崎はすぐさま謝ろうするが、それよりも速く蘭藤が食って掛かる。


「何だよ、文句あんのかよ。腰抜けを腰抜けと言ってなにが悪い?俺達は”特別”なんだよ。テメーらみたいな雑魚とは違う。分かったらとっとと失せろ!」


ぎゃははははは、と下品な笑いを響かせ剣の柄に手を掛け脅す蘭藤だが、青年がビビる様子を見せなかった事に苛立ちおもむろに剣を抜く。


「ちっ、なんだぁその眼は。気に食わねえな………おし、二度と逆らう気が無くなるよう教育してやるか。」


もはやファンタジー系の序盤に出てくる噛ませ犬みたいな台詞をはく蘭藤。普通なら異世界転移した自分達が絡まれる筈なのに、寧ろ絡んでいる。まさに逆テンプレ。そして、テンプレは裏切らない。


「剣を抜いたって事は覚悟の上だね?」


「うるせぇ!おら行くぞ!」


蘭藤が剣を構えると同時に青年は距離を取り、剣を鞘ごと抜く。一連の動作で既に青年が並み大抵の冒険者では無いことを見極めた悠斗と凛紅。それは、本物の”剣士”故に気付いた事だ。蘭藤達が気付く訳がない。しかし相手の蘭藤も総合ランクBで、かなりのステータスやスキルの持ち主だ。どうなるか分からない勝負に少し興奮する悠斗だが次の瞬間、青年の手を見た瞬間に戦慄する。


「蘭藤、止めろ!君じゃその人に勝てない!」


悠斗が叫ぶが時既に遅し。蘭藤が袈裟斬りを青年に向けて放つがその一撃はあっさり受け流されてしまう。


「糞が、<乱突き>!」


痺れを切らした蘭藤が<剣術>スキルのスキルアクション<乱突き>を放つ。高速で繰り出される突きの数々を青年は難なく避ける。そしてーーー


ギャリーーーン!!!


甲高い金属が鳴り響き蘭藤の剣が吹き飛ばされる。転がる剣を呆然と眺める蘭藤を尻目に青年は皮肉気な笑みを浮かべどこか遠くを見ているかの様に言った。


「こんなもので”特別”か………笑わせる。」


青年が振り返って歩き出した、その時。


「糞が!ふざけんじゃねぇぇ!!!」


蘭藤が剣を手に再び青年に襲いかかる。そして、青年も反応しきれていない。間に合わないと判断した悠斗はスキルを展開する。


「<電撃(スパーク)>!」


絶妙な威力に調整した電撃は強かしたたに蘭藤を撃ち抜き、意識を刈り取る。


「………驚いたな。まだ襲ってくるとは。あ、君。名前は?」


「え、あ、悠斗です。」


「そうか、俺はレイン。この仮はいずれ返そう。何かあったら俺のところに来るといい。今日はありがとう。」


こうして、悠斗は謎の青年ーーーもとい、レインと出会う。ここからが悠斗の本当の物語と知らず。



☆☆☆☆☆



翌日の夕刻。悠斗達・・・は宿屋に戻る。そして、ばったり会った凛紅と双葉は驚愕する。更に、何故か悠斗の部屋にいた大輝は固まる。


「「「これはどういうことだ(なの)(なのかしら)。」」」


説明を求められた悠斗はしどろもどろする。すると悠斗の隣にいた少女・・・・・・が口を開く。


「私はミーシア。ユウト様の奴隷です。気軽にミーシャとお呼びください。」


波乱が幕を開ける。

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