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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第三章 分かたれた道
100/112

学校へ行こう

めちゃくちゃ待たせてすいません。

最近、忙しいわ眠いわで大変でして……。

しかも導入を書くのは苦手なんで、一話、それもたかだか5000文字書くのに少し手間取りました。

話が軌道に乗ったらもっと速度が上がるので、楽しみしていてくれたら幸いです。

  それはあまりにも唐突な話だった。


「貴方達には、学校に行って貰います」


『『は???』』


  執務室内にオレたちの声が木霊する。

  他のみんなと同じように、オレーーー桐生白刃(きりゅうはくば)は間抜けな声を上げた。


「正確には連合立学校アルベイン、という場所に入学してもらいます。

  本来超難関校であり、途中入学となるとかなり難しいですが、国家権力と貴方達の実力があれば大丈夫でしょう」


  ……いやいやいや、何やら不穏な言葉まで聞こえたが、そこは無視しておくにしても、唐突がすぎる。

  他のみんなもオレ同様に間抜け面になっていた。

  当然だろう。異世界に来た数少ない利点の一つが、煩わしい学校と受験勉強から解放された事なのだから。

  ……まあ、地球に帰れた場合、どうなるか分かったものじゃないが。


「別になんの理由もなく入学させよう、という

 訳ではありませんよ?」


  曰く、近々四国連合による連合会談……地球で言うサミットや国際連合総会のようなものが行われるらしい。

  そこで俺たち【光の勇者】とその同郷の異世界人の正式発表をし、グリセント王国としてではなく、四国連合として勇者一行を保護することになるそうだ。

  何故わざわざそんなことをするかと言うと、たった一人で戦術級、極まれば戦略級にも匹敵する勇者の力を一国が預かることによって、叛意があると思われるからだ。

  そうならないよう、四つの大国の目が届く場所で保護(この場合、最早管理と言ってもいい)するとのことらしい。


「で、現状一番中立的であり貴方達を安全に保護できる場所がアルベインという訳です」


  ……なるほど。

  確かに、筋は通っている。

  仮にも勇者なんて肩書きを一国が独占するのは問題だし、安全を保証しつつ大国の目が届く場所なんて限られてる。

  しかも学校に行くことでこの世界で生きる上で役立つことも学べるとなると、一石二鳥かもしれない。


  ただそれは、言外に別なことを意味していることを疑わずにはいられなかった。

  即ち、元の世界に帰る手段はない。この世界で生きる準備をしろ、と。

  正直な話、酷な話だとは思う。

  何か月この世界で戦い続けようと、何年この世界に居続けようと、オレたちの心から「帰りたい」という思いがなくなることはない。

 異世界。剣と魔法の世界。誰しも一度は思いを馳せた世界に居ても、オレたちの心は故郷に囚われている。

 安全な世界が恋しい、故郷の味が恋しい、家族の温かさが恋しい。

 それを諦めろというのは、オレたちにはあまりにもーーー「まだ帰れないと決まった訳ではないですよ」ーーー………っ!!!


「諦めるにはまだ早いのです。確かに私たちグリセント王国だけでは貴方達の帰還術式を理論構築することはできません。けれど、四国連合の中には小国ながら魔法大国として名を馳せている国もありますし、勇者信仰の盛んなリーベルヒ聖教国なら過去の勇者に関する記録と一緒に帰還術式が残っているかもしれません」


 一拍。


「貴方達を帰還させるためには、少なくとも我々国家クラスの力が必要です。そして、そのためには貴方達が連合が抱えるに相応しい肩書が必要なのです。故に、学校へ行って教養を身に付け、安全に力を付けてきて欲しいのですよ」


  ……オレは、オレたちは、勘違いをしていたようだ。

  どんなによくしてくれても、レイラさん達はあくまで他人。

  勇者と言うレッテルや、利用価値が無ければ、即座に放置するものだと、無意識に思っていた。

  けど……けど違った。

  あの人達は……レイラさん達は……どこまでも赤の他人であるオレたちを、本気で心配して、本気で帰そうとしてくれていたんだ……。


「出発は一週間後。細かいことは書類を用意しましたし、必需品はこちらで用意します。

  ーーーでは解散」


  必要なことだけ通知して、レイラさんは話を終わらせた。




 ☆☆☆☆☆


  時の流れは早かった。

  あっという間に一週間が経ち、その間の準備も着々と進んだ。

  ただ……オレ達クラスの間で、見えない亀裂が走っていることは否めなかった。

  まずは蘭藤に村山、沙耶香や美鈴の四人。

  オレのパーティーメンバーな彼らだが、これまでの死線や修羅場がトラウマにでもなったか、戦うことを恐れるようになっていた。

  ……いや、それが本来は正しいのだろう。

  元々中学三年生だったオレ達が、異世界という酷く不安な場所で死にかければ、普通はそうなる。

  オレは勇者としての特別な力と、転移組のリーダーであるという自覚のお陰で今も立っていられる。

  だがそれは当然あまりにも不安定なものであり、オレとてともすれば膝を屈しているかもしれない。

  だからそれはしょうがない事なのだ。

 

  そしてもう一方は主に四人の少女達。

  言わずもがな、凛紅、双葉さん、ミーシアちゃん、神川さんの事だ。

  一月前くらいからか、彼女達は様子を一変させた。

  常に凛とした雰囲気を纏い、その顔に覇気を宿し続けていた凛紅の顔には翳りが浮かび、近づく者に癒しをもたらす笑顔を絶やさなかった双葉さんは、その笑顔が消え能面のような冷たい表情を貼り付けている。

  元々オレ達と馴れ合わなかったが、時折年相応の可愛さを見せていたミーシアちゃんは、ほとんど自室か訓練場に入り浸り、食事やそれ以外の生理的欲求行動を最低で済ませてまたふらりとどこかへ消えるようになった。

  そして常に無表情で何を考えているか分かりにくかった神川さんは、人と話すことをしなくなり、ほとんど寮にも帰らなくなっていた。


  これらの原因はわかっている。

  彼女達の想い人、悠斗君だ。

  彼がいなくなって早一月。

  レイラさんにどこへ行ったのか聞いても教えてもらえず、いつ帰って来るかも分からない。

  そうこうしてる内に学校への編入が決まった。

  後からオレは、今はこの場にいない悠斗君はどうなるのかレイラさんに聞いた。

  しかし、帰ってきたのは驚くべき一言だった。


『彼は……ユウト君は、もう貴方達の元へ帰ってくることは、ほとんどないと思います』

 

  『……っ、それは……どういう……』


  その時、オレの喉は震えのあまり、言葉を最後まで言い切ることが出来なかった。


『彼がここを出る際、私は学校編入のことを彼に話しました。しかし、彼はそれを知っても行くことをやめず、仮に帰ってきても学校編入することはないと言い切りました』


『なっ!?』


  その時、オレの頭は真っ白になっていたことを覚えている。

  それくらいの衝撃だったのだ。


『ユウト君は、恐らく元の世界に帰るつもりはないのでしょう。ここを、この世界を死地だと断定している、そんな顔でした』


『少なくとも、彼は自分のするべきことを見つけたのでしょう。それを達成する為に彼は私達の元を離れたのです』


『覚えておいて下さい。もし貴方達が元の世界に帰りたいと願うなら、私達の庇護下にいる以外の選択肢はありません。これは脅しではなく厳然たる事実を告げているだけです。

  ……私達の元を離れるということは、最低でもそれ程の覚悟は必要なのです』


  その時のオレは思考が麻痺していて、ぼんやりとしか聞いてなかったけど……レイラさんは間違いなく、悠斗君の気持ちというものを理解していたようだった。少なくとも、オレ達よりは。


「……時間か」


  立てかけてある時計を確認して、そろそろ出発時間であることを認識する。

  カーテンの外から覗く空はオレ達の心を嘲笑うかのように忌々しい程の快晴だ。

  オレは自分ただ一人しかいない部屋をぐるっと見渡し、思わず感傷に浸る。


  ほかのみんな二人部屋のところ、オレだけが一人部屋だった。

  様々な事情が重なった結果、と説明されたがオレだけ特別扱いされているのが丸わかりだった。

  その部屋とももうお別れか……と思うと、途端に感慨深いものだ。

  この部屋が用意された当初は、あまりの広さと前までのボロい宿屋の一室とのギャップに寂しさすら覚えていたものだが、今となっては我が家のように順応していた。

  最早、この部屋に……いやこの国に戻ってくることはないかもしれない。

  それでもオレは、故郷への希望を諦めきれない。

  だから行こう。オレが行くべき場所へと。


  その決意を胸に、オレは部屋を後にした。





 ☆☆☆☆☆


「では行きましょう」


  特にイベントが起こることなく、オレたちが乗った馬車は出発した。

  目的地は中立区画、その最栄都市アクエル。

  中立区画の中で最も栄えている都市であるアクエルは、その賑わいはオレたちが元いた中立都市リーデルとは比べ物にならないそうだ。

  中立都市自体が、国籍問わず暮らせると言う理由から冒険者に人気な場所であり、その中でもアクエルは冒険者にとっては理想郷と言っても過言ではないらしい。

  アクエルの周辺はダンジョンや遺跡、狩場が多々存在し、中には未攻略のものまである。

  となると必然的に集うのは上級の冒険者や上級鍛冶師、上級錬金術などの高位に立つ人間が多いため、駆け出し冒険者には手が出しにくいところでもある。

  よってアクエルに住まう冒険者は一流である、と言う認識まであるそうだ。

 


  ここまでが、レイラさんから教わったアクエルの基礎知識だ。

  さてここで問題。

  ではそんな最高峰の冒険者の都であるアクエル。その中で唯一の学校である連合立学校アルベイン。

  そこにはどんな人間が集まるでしょうか?


  正解は……言わずもがな、超絶エリートの卵達である。

  彼らのほとんどは各国の貴族や有力者の子供達。

  コネで入学は出来るが、当然その資金は莫大で成績不足者には容赦なく退学処分が待っている。

  そして一部には平民出身でも実力で入学をもぎ取った猛者もいる。

  何が言いたいって?

  つまり……そこは、日本で言うところの東京大学、世界ならハーバード大学クラスの超絶エリート校、というわけだ。

  実力主義の超難関校。日本で住んでいた頃のオレたちには、遠い世界の話だった。

  しかし、異世界では『実力』の意味が変わる。

  今のオレたちは相応の実力者。

  アルベインへの入学、在学だって不可能ではないのだ!

 

  ここまで重い空気とか色々あったが、世界有数の超難関学校に入学するとなると、やはり俄然テンションは上がってくる。

  元の世界では遠かったエリートという存在に成れるのだから。







  ……などと思っていた時期がオレにもあった。


「……マジか」


「……でけぇな」


「俺ら、場違いじゃね?」


  目の前にそびえ立つ建築物を見上げて(、、、、)、オレと大輝と瑛士は絶句する。

  そう、見上げているのだ。その巨大建築物を。


  グリセント王国の王城は、王が住まう城だけあってとても大きかった。

  表情が固定された、笑顔が張り付いたネズミやらアヒルやらイヌやらリスやらが踊り狂う某夢の国の城を、そのまま大きくしたような見た目の城であった為、女子からは人気が高かった。


  だが、オレたちの目の前に座する建築物はそれを超越してきた。

  全体の大きさは正直な話数値にすることも難しい。だが、敢えて例えるなら地球で言う所のノイシュバンシュタイン城とユニバーサルな日本のスタジオで見られるホグ〇ーツ城を足したような者、だろうか。

  まず大きさはそこいらの城とは比べるべくもない。

  ノイシュバンシュタイン城やホグワー〇城はどちらも崖の上に建設された城であるのだが、目の前の建築物も崖……と言うより山脈の一部をごっそり城にしたような見た目だ。

  余談だが、中立区画にはいくつかの山脈が伸びているのだが、アクエルはその山脈の麓を基点に作られた都市である。

  確証や伝聞、記録は残っていないがもしかしたらアルベインを作るためにこの街が生まれたのかもしれない。


「それでは行きましょうか。まずは入学試験ですよ」


  唖然としているオレたちの内心を知ってか知らずか、レイラさんは次の行動を促す。

  先程までの前向きな気持ちはとうに失せ、代わりに増大したプレッシャーを引きずりながら、オレ達はレイラさんに続いた。

異世界モノから学園モノへ……って学校に行くって展開割とありがちですよね。まあ当然ながら色々話の展開的に学校へ行くことにしたのですが……。

これからはどんどん広げた伏線を回収する所存です。いつも通りあんまり日常編は入れず、必要最低限の話でどんどんストーリーを展開できたらなぁ……と思っています。


ではまた次の投稿でお会いしましょう!

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