仲間ー結ー
書き直しパートです。
「今度こそ、守ってみせるッッッ!」
地を蹴り、加速する。炎の弾雨が次放たれれば、彼に防ぐ術はない。故に、迅速に火の射手隊を潰す。
先の火雨を打ち落とした雷の槍群はもう使えない。《電撃・広域死電》は《電撃》の派生スキルーーーではない。言ってしまえば、《電撃》数十発分の魔力を、一度の《電撃》を撃つ時に費やした結果、偶然の産物だ。
元々可能性を視野に入れていた程度で、ステータス欄に記載はなかった。技に名前をつけてみたのは、イメージを具体的にするためだ。
つまり、《電撃・広域死電》は魔力の消費が異常に激しい。スキルですらない技を無理矢理発動した代償か、双葉と自分の命を引き換えに、悠斗の魔力はほぼ全て無くなったのだ。
(《電撃》は撃てない。遠距離攻撃無しでどこまでやれるか……)
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
「グギィゴガギェ!」
『ギィィィィィィィ!』
心中に残る不安をかき消し、ゴブリン達の群れに突っ込む。
ゴブリンジェネラルの号令に従い、雑兵ゴブリンが悠斗を迎え撃つため前に出た。
「退けッ!」
開幕速攻。疾走の最中に繰り出される斬撃。
踏み込みは甘くとも、疾走の勢いが乗った一閃は迎撃すら許さずゴブリンの一体を切り裂く。
返す刀で、三連撃。前方より襲いかかってきた三体の雑兵ゴブリンを即座に斬り捨てて、前へ。
走る速度は落とさない。囲まれたら終わりだ。だからその前に射手隊に食らいつく。
そのために、一歩でも、前へ!
「疾ィッ!」
正面に仁王立ちしているゴブリンウォーリアに対し、一気に加速、接近。
小鬼の戦士が驚愕する顔も見ず、《剣術》スキルアクション《一閃》を発動させ、両足を切断。
「ーーーーッ!?!」
声にならない絶叫を放つゴブリンウォーリアの顔面に剣を突き立て、黙らせると別のゴブリンウォーリアと雑兵ゴブリンが現れた。
「邪魔だッ!」
鎧袖一触。悠斗を傷つけるどころか、止めることさえ叶わず、雑兵ゴブリン達は斬り捨てられる。
何らかのスキルアクションを放つモーションをみせるゴブリンウォーリアも、技が発動する前に悠斗が投擲したゴブリンナイフで腕を射抜かれ、武器を取り落とした隙に悠斗に斬殺された。
『《投擲術》スキルを獲得しました!』
「そりゃどうも!」
何度かナイフを投げていたからか、都合よくスキルを得た悠斗は、腰から別のゴブリンナイフを引き抜き、こちらに迫っていたゴブリンウォーリアにスローイング、小鬼の戦士の額を穿った。
(残存戦力、ゴブ三、ゴブ戦一、メイジ十、ボス級二!)
ゴブリンジェネラルとゴブリンメイジエリートを自分にとってのボス級と定め、交戦するのを避けるように走る。
現状、ゴブリンジェネラルとゴブリンメイジエリートは一番奥にいる。悠斗の前に立ちはだかる残存兵力合わせて四を外せば、小鬼の魔法射手隊は無防備になる。
「グギギゴギャァッ!」
「ギギグギギ!」
ゴブリンジェネラルが叫び、ゴブリンメイジエリートがそれに合わせて指示を出す。
魔法射手隊が杖の先に魔力を集め、練っていく。次弾を装填しているのだ。
「《刺突猛進》!」
目の前で始まる掃射へのカウントダウンに焦りを感じ、出し惜しみしていた《剣術》スキルアクション《刺突猛進》を発動する。
『使用者の敏捷値の二倍の瞬間速度で突進刺突攻撃』という特性を持つこの技の射程圏内ーーー五メートル先にいるゴブリンウォーリアに急速接近からの刺突を繰り出す。
唐突に加速した悠斗の刺突を避けられず、ゴブリンウォーリアは喉元を剣に穿たれて絶命。続いて不意打ちを仕掛けてくる雑兵ゴブリンの短刀を難なく躱して逆に首を切断。
雑兵ゴブリンの死体が崩れ落ちると同時にこちらへ来ていた残りの雑兵ゴブリン二体をあえなく斬り捨た。
射手隊を守る残存戦力、ゼロ。
「《連投》!」
近づく時間すら惜しく、引き抜いたゴブリンナイフ数本を《投擲術》スキルアクション《連投》を用いて同時投げする。
森の中に鈍銀の軌跡を残して走るレーザービームのようなナイフの投擲はスキルの補正も相まって性格無比にゴブリンに吸い込まれて行きーーー
「ゴギガァ!」
「!?」
ーーーその殆どを、ゴブリンジェネラルによって弾かれた。
「っ、跳躍してきたのか!?この距離を一足で!?」
あまりの衝撃に目を剥く。とはいえタイミングはギリギリだったのか、ナイフ数本の内二本はゴブリンメイジ二体を仕留めているのだが、悠斗は衝撃のあまり気がついていない。
(早くしないと魔法がーーー!)
「退けぇぇぇぇぇぇ!!」
勢いに任せて突っ込もうとする悠斗。しかし次の瞬間、彼は再度驚愕させられることになる。
「グギガァッ!」
ゴブリンジェネラルが横なぎに剣を振るう。魔物としてのステータスに身を任せた雑な攻撃。
しかし、悠斗にはそれが達人が放ったそれのように見えた。
「ッッッ!?」
間一髪で防御にする。しかし、剣越しに腕に伝わる衝撃で、異世界に来てから何度目とも知らない驚きを覚えさせられた。
(攻撃が重い、鋭いッッッ!?)
自分が放つそれよりも遥かに速く、鋭く、強烈な斬撃。目に焼き付いた光景と、腕に伝わる衝撃が、悠斗に最悪の事実を突きつける。
(まさか……向こうの方が《剣術》スキルが上なのか!?)
この世界の大抵のスキルにはレベルがある。
スキルレベルによって、スキルの威力や効力、有効時間、有効範囲、或いはスキルの補正値が変わる。
そして武術系スキルのレベルは特に顕著なものとなる。レベルが一違うだけでも、素人目に分かるほど違うのだ。
当然、一つのスキルのレベルで負けているからと言って、負けが確定するわけじゃない。
だが、現状、戦闘に用いることができる唯一のスキルのレベルが負けていると言うのは、単純に同じ競技の選手として負けているに等しい。
つまり、正攻法では勝てない。
「ざけんなァ!」
それでも、吼える。負けてたまるものかと、不屈の闘志を表明する。
(正攻法で勝てないなら、邪道で勝つまで!)
「《強擲》!」
グググっと力を込め、強烈な一投を放つ。《投擲術》スキルアクション《強擲》が物凄い勢いで小鬼の将軍へ迫り、しかし将軍の剣に弾かれる。
だが生まれた、決定的な隙。その僅かな隙を逃がさず、《剣術》スキルアクション《刺突猛進》を仕掛ける。
敏捷値の二倍の速度による刺突の強襲が、明確な隙をみせるゴブリンジェネラルの胸元に吸い込まれてゆきーーー
「ーーーは?」
きぃんっ、と虚しい音だけを鳴らして、ゴブリンジェネラルの鎧に弾かれた。
悠斗が知る由もないことだが、ゴブリンジェネラルは攻撃を受ける瞬間とあるスキルを使っていた。
それが《不動硬鎧》。スキル使用中、動けなくなる代わりに鎧の防御力を大幅上昇させるスキルだ。これによって瞬間的に硬度を増した鎧に、悠斗の攻撃は阻まれ、弾かれたのだ。
そして、スキルアクションの代償として起こる技後硬直、いや、それが無くとも攻撃を弾かれたことによって大きく仰け反った少年の体は、次に来る攻撃を避けられない。
「がッッッ!?」
繰り出された横薙ぎをモロに受ける。吹っ飛ばされ、地面を転がり、無様な呼吸を晒す。
「……っ、……っっ?!」
(斬られた!?痛い!!何処だ!?血は!?死ぬ!?痛い痛い痛いッ!!!)
思考が纏まらない。感情が乱れる。視界が点滅する。
そうこうしている間にも死神の鎌はこちらに迫っている。
それはわかっている。分かっていてもどうしようもない。
だから、
『スキル《異常精神》を強制発動。精神状態を上書きし、感情の制御、思考の安定化を行い最適な戦闘行動を算出します』
途端、混乱は嘘のように消え失せる。
まるで、強酸性の液体が余計なモノを溶かしてしまったかのように。
錯乱と恐怖と苦痛は、冷静な戦術構築の思考に塗り潰され、今も身体を震わせる苦痛は冷静さに同居する闘志の燃料となっていた。
(失血はない。外傷は打撲のみで軽微。ダメージは大きいが動けない程じゃない。戦闘行動に支障はない……)
どこまで冷静に、状況を把握していく。己の状態、敵の状態、残りの猶予。全てを視野に入れ、戦術を組み立てる。
幾多の危機から悠斗を救ってきたスキルが、今猛威を振るわんと稼働するーーーだがしかし。
その力は、悠斗のみにもたらされる力。彼以外の対象に、恩恵は与えられない。だから、それを防ぐことは出来なかった。
「グギギグギャァ!」
『グギギィィィィ!』
ゴブリンメイジエリートが叫びをあげる。それに続いてゴブリンメイジ達は杖を掲げ、魔法陣を一つ、二つ、三つと展開していくーーー多重展開だ。
ゴブリンメイジは十体。放たれる魔法の数は計三十。先程の炎の雨の正体は、ゴブリンメイジ達が多重展開した魔法の弾幕だったのだ。
「グギギグガァ!」
さらにゴブリンメイジエリートが杖を振るうと、他のゴブリンメイジ達の体が発光し、彼らが展開させている魔法陣の数が二倍に増える。
その数、計六十発。これが撃ち込まれれば、動けない双葉達は死ぬしかない。
「っ、止めろ!そこを退けぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!」
今にも放たれんとする炎の雨を悠斗は焦り、組み立て途中の戦術さえも放棄してゴブリンジェネラルに突貫する。こいつを倒さなければその後ろの射手隊に届かないからだ。
だが、スキルレベルも、装備も、体躯も、恐らくステータスだって勝る相手を、そんなにあっさり突破出来るほど世界は甘くなかった。
「グギギギギギギィィィィィィィィ!」
ゴブリンジェネラルが持つ長剣が発光し、物凄い勢いで連続攻撃が繰り出される。
《剣術》スキルアクション《狂剣乱撃》。一定の狙いや型の無い、ひたすら剣をぶん回すだけの七連撃。しかし、『筋力値の強化補正、攻撃がヒットする度に威力上昇』の特性を持つこの技は、ただ振り回すよりも強力な攻撃となる。
「ーーーッッッ!?!?」
四方八方、あらゆるところから来る斬撃を打ち落とし、紙一重で防ぐ。刃が直撃することは無かったが、全ての攻撃を防いだ剣に薄らと亀裂が走り、悠斗の体にはダメージが蓄積していった。
そして、絶望の雨はついに放たれようとしていた。
「グギギグギ……」
ゴブリンメイジエリートが杖を掲げる。斉射の合図、その準備だ。その杖が振り下ろされた時、炎の雨は降り注ぐだろう。
「止めーーー」
手を伸ばしても、止まるわけが無かった。小鬼の将軍の剣が迫り、それを防ぐので精一杯になる。
最早、それを止めることは叶わないーーーそう、戦っているのが一人なら、だが。
「《火炎・大火球》ッ!」
炎の雨が降る前に、太陽が落ちた。
直径三メートル、冗談のような炎の塊が迫り、魔法を構えていたゴブリンメイジ達の近くで爆ぜる。
爆炎がゴブリンメイジ達の姿を呑み込み、火の粉を散らす煙が立ち込めた。
「大輝か!?」
己の仲間の中で、炎を使える者は一人しかいない。思い当たる親友の名を呼ぶ。
炎が落ちた反対の場所を見ると、手を突き出した状態で大輝が息を荒らげている。
すぐ側には双葉が居り、大輝の体に杖を押し当てていた。
そしてそれが何を意味するのか、悠斗はすぐに察した。
悠斗が飛び出してすぐ、大輝は双葉の元に向かっていたのだ。ダメージで動きが鈍い彼は双葉によって回復を受け、悠斗と共に思案していた魔力の過剰消費による強化砲撃を繰り出した。
「大輝っ!」
「ああ、分かっている!」
煙が晴れると、そこにある光景は死屍累々であった。
まず射手隊の半分が炭化して息絶えていた。ゴブリンメイジエリートが魔法の防御を巡らせたのか、残りの半数は生きてはいたものの、虫の息だったり、全身に火傷を負ったりと酷い有様であった。
しかし、それでも戦力が残っているのに変わりない。名前を呼び、視線を躱しただけでお互いの意志を躱した。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
喧しい叫び声を上げて大輝が小鬼の射手隊へと突貫する。大声をワザとあげることで敵の注意を引き付け、囮役を買ってでたのだ。
「グギギギィ!」
「させるかよッ!」
自らの部隊を一瞬で半壊させた存在に危機感を抱いたか、ゴブリンジェネラルが大輝の元に向かおうとする。しかし、今度はそれを悠斗が阻む形になった。
ゴブリンジェネラルが大輝の方を見た一瞬の隙を突いて、《刺突猛進》を繰り出す。攻撃自体はギリギリで防がれるも、技後硬直を引いてもお釣りが来るほど大きく仰け反ったゴブリンジェネラル。
技後硬直を終えた悠斗はすかさず連続攻撃。連続攻撃のできるスキルアクションこそは無いものの、ゴブリンジェネラルの胴体を剣で叩き続け、的確にダメージを与えていく。
「トドメだ……!」
最後に、ゴブリンジェネラルの脇を走り抜けるようにして《剣術》スキルアクション《一閃》を放つ。
横薙ぎの斬撃は狙い通りゴブリンジェネラルが身に纏う鎧の隙間、脇腹を深く斬り裂いた。
「……っ」
致命傷。倒れ伏すゴブリンジェネラルを見向きせず、悠斗は次なる獲物の元へ向かう。
そう、ボス級は将軍だけではないのだ。
「クソっだれがァ!」
他方、半壊したはずのゴブリンメイジ達を襲っている大輝は苦戦を強いられていた。
その理由は何と言ってもゴブリンメイジエリート。奴は厄介なスキルを持っていた。
《同族強化:魔法》、《二倍化》の二つだ。
前者は自身の同族ーーーつまりゴブリンメイジの魔法能力を上げる。本来知力値が圧倒的に足りていないゴブリンメイジには不可能な魔法の多重展開を可能にしていた所以だ。
そして後者は魔法の威力や数を倍にする能力。小鬼の射手隊の魔法が倍に増えたりしたのはこのスキルの恩恵である。
以上二つーーーどちらもレアスキル中のレアスキルーーーによって仲間を強化し、大輝を苦しめていたのだ。
「魔法の完成が早すぎんだよなぁっ!?」
やけくそに叫びながら、飛んでくる『炎弾』を大剣の腹で受け止める。
《同族強化:魔法》によって魔法の完成速度も上がり、単発しか撃たなくなった代わりに、凄まじい速さで次々飛んでくる炎に大輝は前に進めない。
(数発被弾は許容!)
「《瞬間強化》!」
スキル発動。三十秒間、MPと知力と技巧以外の全てのステータスを大幅上昇させる。
大きく上がった耐久とHPを以て、数発の『炎弾』をモロに受けつつも、前に進む。
「っっっ、ぐぅあああああああッッッ!」
耐久値とHPを上げようと、それは死ににくなるだけだ。痛みを感じないわけじゃない。
だが、体を走る苦痛を押し殺して、前へ。
そして漸く辿り着きーーー大剣を叩き込む。
「ぉらぁぁぁぁぁぁぁッッッ!」
咄嗟に張った無属性魔法『魔障壁』ごと、ゴブリンメイジの肉体を叩き斬る。
次いで近場にいるもう一体に向けて掌を突き出し、火炎を撃ち込む。
「《火炎》!」
「グギガァ!」
大輝の炎と、ゴブリンメイジが放った『炎弾』が衝突する。火の粉を散らす炎の残滓を纏って、既に駆け出していた大輝はゴブリンメイジを斬殺した。
「《一閃》!」
進撃は止まらない。今度は《剣術》スキルアクション《一閃》を放ち、大剣の大きさを利用して二体のゴブリンメイジを同時に討ち取る。
さらには残ったゴブリンメイジが連射してくる無属性魔法『魔弾』を全て避け、或いは打ち落としながら進み、最後のゴブリンメイジも斬り倒した。
その間、実にきっかり三十秒。丁度《瞬間強化》の効力が消えた。
「後は……お前だけだな」
「ギギギギギ」
全てのゴブリンメイジを仕留めた大輝が、ゴブリンメイジエリートに王手を掛ける。だが、追い詰められているはずのゴブリンメイジエリートもまた、嘲るかのような顔で大輝を見た。
「「ーーー」」
お互いに不思議な静寂が流れる。緊張から引き伸ばされた感覚には、それが何時間にも思えてーーー
「ぅおおおおおおおおおおおおッッッ!」
先に飛び出したのは大輝。緊張に負けたのでは無い。己の精神が最も落ち着いた時に走り出したのだ。
動きには悠斗のような速さは無いものの、決して鈍重では無い。ゴブリンメイジエリートが放ってくる『魔弾』の尽くを避け、或いは弾き、一気に近づこうと足を動かす。
だが、大輝は失念していた。今戦っているゴブリンメイジエリートが、少し特殊であることを。
「『グギグギギ』」
魔法を発動、火属性魔法Lv2『炎弾』、多重展開。
三つの魔法陣が出現し、炎の弾丸が現れる。
「グギガァ!」
さらにスキル発動。《二倍化》。三つであった『炎弾』は、その力により六つに増える。
「ギギィ」
「っ、ぉおおおおおおおおおお!?」
ゴブリンメイジエリートが杖を振り下ろすと同時に、『炎弾』は放たれる。六つの炎の弾丸が大輝に迫り、彼はそれを大剣を盾にして持ちこたえる。
だが、永遠には続かない。六発全弾凌いでも、次の六発が襲い掛かってくる。このままではジリ貧だ。
敏捷値の低い大輝では、全てを避けることは出来ない。だから攻め切れずにいたのだ。
「クソっ、《火炎》!」
「グギギギギギ」
隙を縫って炎を打ち込んでも、相手の『炎弾』に打ち消される。
万策尽きたと思われた。いや、実際に尽きていた。
大輝だけならば。
「《刺突猛進》!」
横から、凄まじい勢いで迫るモノがあった。
剣を構え、突貫する悠斗だ。ゴブリンメイジエリートは無属性魔法『魔障壁』を張って攻撃を防ぐ。
勢いはあれど筋力値が低い悠斗では、ゴブリンメイジエリートが張る強固な障壁を砕けず、攻撃は弾かれて終わった。
だが、意味はあった。
「ふ……っ!」
技後硬直を経ての息つく間もない連撃。繰り出される怒涛の剣戟を、ゴブリンメイジエリートは杖を用いて何とか防ぐが、次第においこまれていく。
とはいえ、ゴブリンメイジエリートとてゴブリンジェネラルと同格の魔物。一筋縄ではいかない。
「ギガァ!」
「ッッッ!!??」
悠斗が息を乱し、荒くなった攻撃の間を縫って『炎弾』を至近距離で悠斗に叩き込む。
魔力を纏っているため、致命傷にはならないものの、皮鎧と衣服ごと体を焼かれ、吹っ飛ばされた悠斗は無事とも言い難かった。
一人で戦っていたら終わりであっただろう。だが、これまで何度もそれに救われてきたように、彼は一人ではないのだ。
「ようやく、たどり着いたぞ……!」
悠斗を倒し、安堵するゴブリンメイジエリートに休む暇を与えないとでもいうように、大輝が強襲する。
流石にこの攻撃は防げないと判断したか、回避を優先するゴブリンメイジエリート。
『炎弾』を高速展開し、至近距離でぶつけようとする。だが、大輝はそれを紙一重で躱し、反撃に繋げる。
ゴブリンメイジエリートは『魔障壁』を高速展開し、大輝の斬撃を逸らした。空いた片手で『火炎』を放つ。
「っ、ぐぅぅぅぅぅぅぅ……!」
火炎放射器のように炎の波が大輝を襲い、大輝は大剣を盾にして凌ぐ。
しかし、その熱は確実に大輝を蝕んでいた。
「せぁああああああ!」
そろそろ大輝に限界が近づいたころ、悠斗が先程までのダメージが無いかのような俊敏な動きでゴブリンメイジエリートに斬り掛かる。
『火炎』を中止し、回避に移ったゴブリンメイジエリートに、悠斗はどこまでも追随していく。
「大丈夫ですか……!?今回復します!」
熱にやられ動けなくなっていた大輝の元に双葉が現れ、大輝に回復魔法を掛けていく。
彼女は彼女で、悠斗達が戦っている間何もしていなかった訳ではなく、まず自身の回復に努めていたのだ。
そして慎重に戦場に近づき、倒れた悠斗の傷を回復させていた。そのお陰でさっきの悠斗の乱入ができたのだ。
「……安木か。悪かったな、置いていって」
「いいえ……私も、諦めていました。あのまま終わっても悔いは無かった。……けれど、私のことを私よりも諦めなかった人がいました。だから、私も戦います」
回復の合間、戦いの間だけ忘れていた罪悪感を吐露する。大輝はあの時ーーー炎の雨が降った時ーーー悠斗を背負い、双葉を見捨てた。
見捨てた……とも違うのだろう。動けない悠斗を、まだ動ける大輝が運ぶ。同じ動けるでも双葉がやるより効率的だった。だから大輝はさっさと悠斗を担いで逃げた。
双葉が倒れたのは、想定外だった。想定外だったけど……その時、大輝が彼女を助けに行かなかったのもまた事実。
だから大輝は謝罪した。例え彼女がそのことに怒りを感じていようと、いまいと。彼なりのケジメをつけるために。
だが……返ってきたのはそのどちらでもない言葉だった。
怒っていない、と言えば怒っていないのだろう。彼女は責めていた。自分自身を。そして、吹っ切れた。
何かあったのだろう。煙で視界を奪われ、悠斗が飛び出すまでの間に。
彼女は変わっていた。驚く程、変わっていた。
強くなっていた。力が、では無い。心が、だ。
「……ほんとに、強ぇな」
「はぁあああああッッッ!」
三連撃、後退、回避、接近、強攻撃。
一進一退、一撃離脱戦法を繰り返す。
超接近高速戦闘では体力の限界を突かれてやられてしまう。
だから悠斗は一撃離脱戦法を取る。
攻撃と後退、そして回避を繰り返して、隙を突く。
だが、限界も感じていた。
(……攻撃が通らない。敵の障壁魔法が硬い)
一撃離脱戦法の弱点。高い防御力を持つ相手には意味を成さないのだ。
悠斗の筋力値では、ゴブリンメイジエリートの障壁を一撃で砕けない。折角障壁を削っても、退いた隙に修復され、壊れるまで斬り続けるとその隙に用意した『火炎』で焼かれる。
(あと一人、手が欲しいっ!)
「ぅあああああああああッッッ!」
削れ、削れ、削れ!向こうのMPが切れるまで、削り続けろ!
「ぁああああああああああああああッッッ!!!」
最早後退すら惜しんで斬り続ける。時折撃ってくる『火炎』を避け、その隙に回復された障壁を再度斬り直す。それを続けて、続けて、続けて……ついに。
「あああああああーーーーーっ!?」
ついに、捉えられた。炎が、悠斗に迫る。息切れした一瞬の隙に『火炎』を発動できる状態の左手を向けられた。
数秒後には、溢れ出た炎が悠斗を焼くのだ。
(ちくしょうッ!ここまでか!?)
走馬灯が過ぎり、時間の感覚が引き伸ばされる。
その体感が、悠斗に敗北の二文字を突きつける。
そして、炎は、解き放たれーーー無かった。
「おらァッ!」
「ギッ!?」
突き出された手が、宙を舞う。大輝が振り下ろした大剣が、ゴブリンメイジエリートの腕を切断したのだ。
そして、目配せ。一瞬の意思疎通で、決着を促す。
「終わらせる……!」
《剣術》スキルアクション《刺突猛進》。この戦闘で幾度も使われた突進技が、致命的に隙を晒したゴブリンメイジエリートの心臓を、穿った。
崩れ落ちる小鬼の魔術士の死体。戦いに打ち勝った少年達は、これで修羅場を乗り切ったと確信する。
「終わったね」
「ああ。勝ったな」
少年たちは安堵し、その声を弾ませる。
ーーーまだだ。
「きゃあっ!?」
「っ、安木さん!?」
どこからか、双葉の短い悲鳴が聞こえる。悲鳴の主の安否を確認しようと、悠斗達はボロボロな体を無理やり動かす。
「おい安木、無事ーーーがぁッッッ!?」
「大輝!?」
今度はすぐ近くの親友の悲鳴。その発生源を見ると、そこには、倒れ伏す親友とーーー倒したはずの敵の姿。
「ゴブリン、ジェネラル……!」
倒したはずの小鬼の将軍。
横腹は斬られ、血を流しているものの、筋肉で臓物が溢れるのを防いでいる。
自身の血に濡れたその身と、顔に浮かべる怒りの表情はあまりに禍々しい。
「こんな時に……!」
傷が癒えても、疲れが無くなるわけじゃない。疲労が残る体を叱咤し、敵の前に立ち塞がる。
最早様子見という概念すら捨てて、悠斗は将軍に斬り掛かった。
「はぁぁぁぁッッッ!」
「ーーーッッッ!」
フラフラな悠斗が放つ、決死の斬撃はゴブリンジェネラルの一刀に呆気なく弾かれる。
将軍の蹴りを受けて、悠斗の体は鞠のように転がる。即座に立ちがるも、ゴブリンジェネラルの振り下ろしが彼を襲う。
「ギガァァァァァァッッッ!」
「ぁあああああああああッッッ!!」
《剣術》 スキルアクション《渾身斬り》。 大上段に構え、力を溜め、振り下ろす、タメが長い故使いにくいが高い威力を誇る技。
隙が大きいものの、今の悠斗相手ならば十分過ぎる脅威である。
決死の思いで、悠斗は斬撃を受け止める。まず物凄い衝撃が腕を伝って全身に走り、次いで重しでも背負ったかのような圧迫感を感じる。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅ……!」
「ギギギギギギギギギギ……!」
お互いに、必死。ゴブリンジェネラルとて長い間戦闘は出来ない。どの道彼は永くない。ただ復讐の一心で食らいついている。
そして悠斗も死ねない。死を否定し、無理やり湧きあげた力で拮抗する。
だが、限界は訪れた。
ピシッと、嫌な音が悠斗の鼓膜を震わせる。
ゴブリンジェネラルもその音を聞いたのだろう、醜悪な顔を一層醜悪に歪めて笑った。
(嘘だろ……!?)
悠斗が心の中で悲鳴をあげた瞬間、彼の剣は儚く砕け散る。耐久の限界だったのだ。
横向きに力を込めていた悠斗は、その勢いで体を逸らし、何とか斬撃の直撃は回避する。だが、スキルアクションの乗った攻撃が地面を叩く余波に当てられ、吹っ飛ばされた
「ぁ、ぐぅぁぅぅぅぅ……」
想像以上に強打だった。余波とはいえ、飛び散る石の破片などを受けてダメージを隠せず、悠斗は苦しげに呻く。
いや、それ以上に、武器を失ったことが彼の心を脅かしていた。
「ギギギギギ……」
勝者は冷徹に敗者を見下している。その胸にはいかなる思いがあるのか。
自らを痛めつけた者への復讐を成した歓喜か、呆気なく倒れたことに対する失望か。
何にせよ、ゴブリンジェネラルの視線は悠斗のみに向けられていた。
だから、気づけなかった。
「全く、何やってるのよ」
シャラン、何かが勢いよく擦れる音がした。
それを悠斗が知覚した頃にはーーーゴブリンジェネラルの首は地面に向かっていた。
「え……」
首から上を失い、力なく倒れる小鬼の将軍。そのすぐ横に、新たな存在がいた。
美しい光沢を持つ、滑らかな黒髪を長く伸ばし、後ろで適当に束ねている、凛とした雰囲気の少女。
身長は悠斗と同じ位だろう。女性の中では高い身長と引き締まった体。さらに手に持つのは鍔のない刀。
その見た目は言うまでもなく、剣道少女を体で表していた。
「どういう状況か分からないけど……」
倒れ伏す悠斗に、彼女は微笑を浮かべて告げる。
言外に、もう大丈夫だと、伝えるように。
「助けに来たわよ、悠斗」
「凛紅……。助かったよ」
彼女の名は秋雨凛紅。
悠斗のクラスメイトにして、全国有数の実力を持つ、剣道少女である。
書き直しパートです。前後の繋がりにご注意ください。
余談。書き直すつもりが、大幅加筆してもうた。長かった……




