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大帝国に生きる~俗物皇子と反転竜騎士~

 先日の一件で僕が「複数の魔剣を召喚できる」という事実が

父上達の知るところとなったため、僕の楽隠居人生計画は大いに狂うことになる。


「余は汝を責めはせぬが、怒りもせぬ。自惚れは臆病より愚である。故に

汝の為した事は可もなく不可もない。だが余を謀った事は見過ごせぬ。

であるからして、余は汝に命を下す」


 超訳:大事なことはさっさと言えよバカヤロー! 俺に隠すなコノヤロー!

テメーのやった事はアリかナシかっつったらナシだからこれから俺はテメーに

罰ゲームだバカヤロー!


「はい…」


 玉座の間がいつもより騒がしいのは仕方が無い。


「本日を以って、余の子ローレンシェームスはパラドプール宮から余の帝宮に

属するものとし、後日ローレンシェームスはフェルセフトの引率にて

ヴァーリス竜騎士領の竜騎士養成高等学校へ入学せよ。汝はさらなる研鑽を積み、

早々に新しい帝国公爵として帝国に尽くせるよう励め」


「有難う御座います…父上」


 他に言っていい台詞なんて無い。さよなら僕の楽隠居計画。


> > >


 パラドプール宮を発とうとする僕に引っ付いて離れようとしないのは

カロルだけじゃなかった。


「やぁぁぁぁぁ! お兄様いっちゃやあああだああああ!!」

「ごめんなカロル…他ならぬ父上の命だからこればっかりは…」

「やぁぁぁぁぁ! やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ロー兄ちゃん…寂しいよ…」

「ラルフ…」

「おれ、まだ兄さんから一杯聞きたいことあったんだぞ!?」

「レクト…」

「兄者の魔剣…もっと見たかったな…」

「レガリア…」

「がんばれローレン。てきとーに応援しないこともない」

「アンスル……っておい?!」 

「長期休暇は帰ってくるんだろ? じゃーオイラもそれで」

「ロメオ…お前もか」


 一部可愛げの無いのがいるが、カロル、ラルフェリンクス、レスレクトリウス、

レガリア、アンスル、ロメオといった仲良しな下位の幼皇子女が

僕とのしばしの別れを惜しんでくれた。まぁロメオの言うとおり

長期休暇には帰ってくるからカロル達の言動はオーバーなのも事実だ。


「竜騎士養成高校は厳しいと聞く…落第するなよローレン」

「最善は尽くすさ…」

「フンッ…さっさと行っちまおごぁっ!?」


 いつの間にかカロルがヴァルジオの足を思い切り踏んづけていた。


「ヴぁるじおニーサン…? ドウシテろーれんオニイサマにソンナ態度ナノ?」

「なん…だと…!?」


 カロルって本当に八歳なのかな。あの渦巻く魔力といい氷の無表情といい、

実は僕と同じ転生者とかじゃないんだよな? 教えて神様仏様魔王様邪神様?!


「ローレン、御前、中々頑張ってたんだね」

「フェルセフト兄上様………」


 フェルセフトが口を開くとその多くは自分の言動を一切止める。

まぁ200近い年の差を含めた諸々の格差が自然と彼らをそうさせてしまうのだ。


「別れを惜しみ合うのは手前も嫌いじゃないよ。でも、手前は予定が遅れるのは

嫌いなんだよ。御前達はわかるよね」


 疑問符が入らないのがもうそれだけで圧力だ。この人マジで父上の怖いところを

タップリと受け継いでいらっしゃる。であれば裏の性格も

父上と同じなら良いんだが…?


「さて、ローレン。手前と楽しいお話をしながら行こうじゃないか」


 無いな。無い。多分この人は良くも悪くも裏表がないっぽい。

さて…どうやってこの難局を乗り切ればいいのだろうか?


> > >


 とりあえずフェルセフトのOHANASHIには必殺リアルゲロ作戦で

見事に回避したが、代わりにフェルセフトの僕に対する印象は

OBOETOKEになってしまって未来でプギャー確定臭い。


「何、手前は慣れているよ? 拷問中は良くあることだからね」


 わざわざ言うこと無いんじゃないですかやだーもう(棒)


「……面目次第も御座いません」

「構わないさ。後が楽しみなだけどね」


 この人が父上の後を継がなくて良かったと、僕に流れるエルフの血が

薄いことに良かったと、僕が父上に気に掛けられてはいるのが良かったと

いろんな良かったことを反芻しながら僕は終始張り付いた笑顔の

フェルセフト兄上様と共に帝国立ヴァーリス竜騎士養成高等学校正門をくぐる。


…。


 ヴァーリス竜騎士領…元はヴァーリス竜支士国という名の山岳小国であり、

大陸有数の竜騎士保有を誇る空戦特化軍を持っていたが、それも泡である。

テオスマキナより魔道スーツ技術を得てしまった大帝国の敵じゃなかった。

 何時の時代であろうとも数とは暴力だ。そういう点では大帝国の拙速さは

後世でも褒め称えられるんだろうか。この地を勝ち取るために大帝国は

どれだけの血を流したかは想像したくない。だからこそヴァーリス領なんて

大昔とはいえ遺恨が残る地なので行きたくはなかったのだが…。


「これはこれはようこそフェルセフト殿下!!」

「久しぶりだね、ミロスワフ。御前も随分年をとったね」

「はっはっは! そりゃあもう猿人族にとって40年は長いですから!」

「…そうだね。そういえばそうだったね」


 現ヴァーリス竜騎士養成高等学校理事長にしてヴァーリス領領主、

ミロスワフ・ヴァウェンサ・ヴァーリス二十七世の対応は満面の笑みで

どこにも何も含むものがなさそうな朗らかな対応全開だった。

フェルセフトへの握手さえ長年の友人相手が如しである。


「いやぁー貴方様がこの学校へ入学なされた40年前が懐かしゅう御座いますよ!

当時は私も予備の予備でしかない三男坊でしたから! 殿下には本当に

感謝してもしきれません! わっはっはっは!!」

「そうか。御前が元気そうで安心したよ」


 場合によっては皮肉も込めてそうな感じもするが、ミロスワフ理事長の

童心すら感じさせる笑顔には自分自身のゲスの勘ぐりを痛感させられそうだ。

そういう意味ではフェルセフトもなんとも言えない表情である。


「して…? 彼が今回の天領から編入なされる弟君であらせられますか?」

「ああ、ローレン…」

「お初にお目にかかりますヴァウェンサ理事長。僕が翌週より

この竜騎士養成高校に通わせていただきますローレンシェームスです」

「おお! やはり兄弟ですな! 目元がフェルセフト殿下に似ていらっしゃる!」

「そうだね…父が同じ兄弟だしね…」

「急なお話では御座いましたが、天領たる帝都からの編入にして帝族の御方の

ご入学は当校としても熱烈歓迎いたしますぞ! 何しろ40年ぶりですから!

いやいやいやいや! これで当校の歴史にまた箔がつきますぞ!!」

「「………」」


…。


 来賓室でフェルセフトは煙管を咥えてひたすら煙を吸っては吐いて、

吸っては吐いてと繰り返すばかりだ。


「……彼をヴァーリス領主にのし上げたのは間違ってたかね?」

「どうしてそんな事を僕に聞くのですか…」

「……御しやすいのは事実だが、腹に一物を抱えている気配さえないのはね…」


 フェルセフト曰く「忠誠心無き有能と忠誠心ある無能は後者の方が厄介」とか。

頭のいいヤツの考えは僕にはサッパリだ。


「手前は枷すら喜んで飛びつく駄犬より隙あらば噛み付かんとする

狡猾な猛犬が好きなんだがね。狡猾なほうが盤上で動かしやすいんだよ」

「はあ…」


 フェルセフトは僕に何を言ってほしいのかはサッパリだ。だが下手に相槌連続は

彼の眉間のしわが増すだけなので何か言わねばならないとは思うのだが…


「……37年前にバルカを排除したのは間違いだったかね」

「バルカなにがしがどんな人物だったのかは存じませんが、結果として

ヴァーリス領内における帝国本土への印象は帝国に利すると思うのですが」

「……悪かったね。御前には難しかったか」


 当たり前だろ。僕が生まれる前の何処の誰とも知れぬバルカ某を出されたって

そんなもん答えられるか。


「うーん…御前の爪の垢でも飲ませたら良いのかな」

「やめてください御免こうむります」

「愚直なのは前線の兵士だけでいいんだがね」


 あぁこの兄上マジでメンドくせぇ。


「ご歓談中、失礼致します」


 ノックの後に部屋に一人の少女が入ってくる。格好からして

僕の編入する学年の子のようだ。うむ、でかい。何がとは言わぬ。

僕の目に留まってしまう二大霊峰が悪いんだ!


「お初にお目にかかります両殿下。私はエルヴィラ・ハリベル・ヴァウェンサ…

ローレンシェームス殿下の当校内での案内役を勤めさせていただくものです」

「………やはりなのかね、理事長…」

「え…と…? フェルセフト兄上様?」


 エルヴィラは表情こそ動かさないが、目は僕となんか落胆しているっぽい

フェルセフトを観察している。


「……もういいや。エルヴィラだったね? 手前の愚弟がこれから卒業まで

結構御前に迷惑を掛けるだろうから、その時は遠慮なく扱いて良いからね」

「え、ちょ…!?」

「よろしいのでしょうか?」

「は?! え、な…フェルセフト兄上様…?」


 煙管の燃え殻を灰皿にカンカンと落としつつ何か投げやりなフェルセフトと

表情こそ動きが無いが目は笑っている気がするエルヴィラを僕は

交互に見やるしかなかった。


> > >


 ヴァーリス竜騎士養成高校は名の通り竜(といってもワイバーンだが)を操る

帝国の空の剣たる竜騎士を育てる学校だ。だがここは帝都心出身者にとっては

あまり居心地が良くないともっぱらのうわさだったが、その真相は

身をもって体感することとなった。


「立ちなさい。竜騎士は1に体力、2に忍耐力、3、4に技量努力の5に胆力よ?

いくら貴方が皇子だろうと竜騎士を志す以上甘えは許されないの」

「うわぁい…」


 この学校が帝都心出身者に優しくないのはヴァーリス領での

歴史教育に問題があるんだろうさ。しかしながらそれを帝国上層部は

見て見ぬフリをしている。だって上層部にはフェルセフト兄鬼がいるんだもん。

ムチの部分を隠す気も無いところがもう最高ダネー?(棒)


「…ふふ…ほらほら…腰が引けてたら竜に振り落とされるわよ?」

「痛ぁ!?」


 エルヴィラは理事長ちちおやと違ってまぁ帝国本土連中に良い感情を

抱いてないのはよ~く理解した。てかさぁ何世紀何世代かけて引きずるんだ?

そういう大馬鹿民族は前世のお隣さん連中で間に合ってんだけど?

 大体その感情も周りの首脳陣営から大いに利用されてるってわからんのかね?

…といってもしょうがないか。ネットなんて無いしガッチリ移動規制もあるから

客観的な事実もどうやったって知りようが無いわけだし。まぁ前世でも

客観的な事実を知っても色々手遅れな末期だったりするから…これも今更か。

願わくばヴァーリス人らが柔軟で前向きな思考を失ってないことを願うのみかな。


「ああ、もう耳長エルフって素の肉体的には愚図が多いって本当なのね?」

「………」


 ひどいもんだ。まぁ彼女らの立ち位置には一部同情はするけど。

でもムカつくもんはムカつくので後でしっかり報復致しますけど。


> > >


 夜ですが僕は今、学校の女子寮境内にいます。そして僕の片手には

色魔王剣シドナイデウスマーラという分かる人には分かる

ゲス特化なチート魔剣があります。この剣の能力は究極レベルかもしれない

隠密ステルス迷彩カモフラ効果があるということです。本来の用途は

まぁ暗殺とか潜入とか撹乱だの奇襲強襲みたいな用途に使うのが普通ですが。

はい、健全にして不健全な男子諸君! その通り! 姿どころか気配も隠せたら!

男なら誰だって一度は思っちゃうよね!? Yes! NO・ZO・KI!

性格云々はともかくカリーヌお姉さまに負けず劣らず将来有望と思われる

あの二大霊峰の本生を目に焼き付けさせていただく次第にございまする。


「男女差別イクナイ。風呂テルマエは男子にだって必要だ」


 腐っても僕は元日本人。毎日入れるなら風呂には入りたい。臭うのは

交友関係に良い結果をもたらさないから。はい建前にすらなってませんね。

フヒヒサーセン。舐め回すように見てやるから覚悟しろよエルヴィラぁ?!


「…ッ!」「…ろッ!」「こ……か……たッ!」


 …あん? 女風呂から聞こえちゃいけない太い声が混じってなかったか?

…おいおい先駆者にしたってガッチリした用意もナシじゃ死ぬしかないんだぜ?

…というわけでちょっと様子を…ををををぉ?!


「んーッ!? んんんーッ?!」


「ったく…! 手間かけさせやがってクソヴァーリス女が!」

「力だけはドワーフ並みかよこの女?! おい縄が足りなそうだぞ?」

「ちょっと…聞いてた話と違くない?」

「これじゃまるでさぁ…?」

「あ? 女としての屈辱っつったら膜ブチ抜きに決まってんだろ?!」

「帝国本土の俺らを…エルフ系を舐めやがったこのクソアマには

いろんな意味で痛い目遭わせてやんなきゃってお前らも乗ったじゃねえか?!」

「何でも良いから早くヤっちまおうぜ? 外の時間稼ぎだって早々持たねぇんだ」


 …えーと? 何で? これ何てエロゲ?


「んんんんんんーッ!?」

「下品な乳しやがって! が、まぁ良いさ今日は存分に使ってやる!」


 うわぁ…フェルセフト兄上様? ちょっと見て見ぬフリも程ほどにって

上層部に言ったほうが良くないですか? 僕ぁ創作モノでこういうの大好物だけど

リアルなやつは凄くドン引きするんですよ? 創作モノですら賢者タイムが

生きてて御免なさいタイムに昇格するクチなんですよ?


「むああぁぁぁぁあぁーッ!?」

「このッ! いい加減大人しく股を開けクソメス猿人がッ!」

「ぐぅっ!?」


 僕個人はリョナとか大嫌いだ。サドプレイもベリーソフトしか見ない。

完堕ちでもアフターは主観だけどゲス成分一割未満じゃないと死にたくなる。


 …だから僕は右手にインシネレーターを、左手にエメットラアムを持って、

彼らの死角側ににそっと立ってこう言うんだ。


「何だか楽しそうだね、僕も混ぜておくれ?」


「ッ!?」

「何だテメ…ぇ…は…あ…あんt…貴方様は…!?」


「麗しき帝国臣民の皆さん今晩は。僕が"魔剣皇子"のローレンシェームスです」


 インシネレーターの赤熱加減を上昇。エメットラアムの放電レベルを一つ上昇。


「そりゃーまぁ僕もね? ヴァーリス人の…特に彼女には一杯お世話になったさ?

でもねぇ………僕はねぇ? 寄って集って女の子にそういうコトをやっちまうのは

創作とソフトなプレイ以外お断りなんだよッ!!」


「「「「うわぁぁぁあぁぁぁぁぁッ!?」」」」


> > >


 これは流石にフェルセフト兄上様もクックックと笑いつつも

ちゃんと対応してくれた。でも何もかも真っ赤っ赤で青筋ビッキビキな理事長は

どうして僕が説得せにゃならんのでせうか? 前世でも慣れてるけどさぁ?

僕ぁそういうの心底やりたくないんですよ?


「あ、あの…ローレンシェームス様…? そこはこうしたほうがですね…?」


―もにょり


「う、腕はこうすると安定してですね…?」


―むにゃり


 …露骨ッ! いや最高ですけどッ!? もっとやれって感じですけど?!

でも僕ぁあなたの裸を目にしっかり焼き付けようとしたのも事実なんですよ!?


「ああ! そんなコシツキじゃ駄目ですぅ!」


―むにょおぉぉん


 …静まれ我が息子よ。父上を思い出せ。あの新世紀創造主の顔面を直視しろ。

…よろしい。それで良いのだ我が愚息よ。


「…あのー…? エルヴィラさん?」

「何でしょうかローレンシェームス様? あ、後私のことは

遠慮なくルヴィでと何度も言わせないでくださいね」


 隙が無い真剣顔じゃねえか。鉄血すぎんぞ。


「そのですね? ちょっと動きづらくてですね?」

「これくらいの密着では敵に組み付かれた際に為すすべなく殺されます!」


―ぐにゅうううううん


 どちくせう。さっきから脳内に父上を召喚せねばならぬとか地獄じゃねえか。


「んっ…!」


 絶対わかってるわこの子。状況が状況なら最高なのに今は最低だ。

クソが! 半裸の父上じゃなきゃ反乱分子を抑えられなくなってきたぞクソが!


「ローレンシェームス様はやはり身体能力面で大いに不安がありますから…

本来なら三月で良いのですが…ローレンシェームス様は卒業までの二年…

手取り足取りやらなくてはいけませッ…! んね?!」


 やめてください。しんでしまいます。

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