大帝国に生きる~俗物皇子の大物退治~
父上との一件から、僕は上の異母兄達との絡みも増えだした。相変わらずかと
思っていたグランスパーダ第三~第七皇子五兄弟の態度が露骨に逆転していたのは
何だかそれはそれで凄くムカつくが、カリーヌお姉さまに癒されてたので許した。
そして気付けばあれから父上兄姉弟妹の上下から時に揉まれたり
時に寄られたりの七年…今の僕は13歳となっていたのだが、
「そんなわけだからローレン。ボクと共にそろそろ大物退治しに行かないか?」
「…え?」
何がそんなわけなんだよ三行半で説明してくれ第11皇子カリオスト兄さん。
事と次第によってはいくらカロルの実兄でも父上に告げ口も辞さない…ッ!
「カロルからの話ばかりなのであまり要領を得ないのもあるんだが…
やはりボクは自分で見聞きした事しか信じられない性質でね…」
絡むのが増えたといっても年1が2、3になった程度な兄弟姉妹のほうが
圧倒的に多いので、そこに属する真面目なカリオストはカロルからの又聞きに
少しばかり気にかかり始め、段々と居ても立ってもいられなくなったのだとか。
「…なるほど、まぁカリオスト兄さんの気持ちは否定し切れませんし」
「うむ…やはりキミはカロルが選んだだけのことはある帝国男児だね」
何か引っかかったが、そこは今は重要じゃない。
「何処までが本当かは知らないが、キミはあのコロッセウムの処刑獣と名高い
鋼鉄獣を一太刀で滅したとも聞いている。だから…まぁキミの実力が
カロルの言うとおりのものであるならば、ボクの言う大物なんて大した
モノでもないから快く引き受けてくれると嬉しいよ」
> > >
そんなわけで僕はカリオストと十数名の衛兵ら+αを率いて彼の言う大物が
出没するというスポットへ向かう馬車に揺られていた。
「仲の良い男兄弟がいるのは羨ましいね」
「まぁ、俺とローレンは腐れ縁みたいなのもあるしな」
「ならばカリオスト兄上、自分達と仲を深めましょう。それで解決ですよ」
「………」
父上は仕方ないとしても基本上の兄弟が絡んでくると途端に
スススーっと居なくなる薄情なヴァルジオとユージーンが
何故同行してきたのかは追及しない。
「ところでカリオスト兄さん。僕らが討伐する予定の大物って何ですか?」
「あぁ、そういえば言ってなかったね。狂猿鬼の亜種、
ホブスの大型個体だよ」
狂猿鬼…見た目は前世で言うところの魔物系ゴブリンである。
ちなみにこちらではゴブリンは小鬼人であり、立派な人類種だ。
肌の色も人間と同じで白、黒、黄が基本で、極稀に赤とか青もいるが決して
魔物なんかではない。背丈こそ子供レベルだが猿人(こちらで言うところの人間の
一般的総称)の平均より身体能力も魔力も優れている種だから、
言ってみれば小鬼人と狂猿鬼は人間とゴリラくらい別物である。
なのでゴブリンたちをインサスミア呼ばわりするのは人を豚や犬と
呼ぶのと同じなので気をつけなければいけない。
「人型の魔物ですか…」
「…うん? どうしたんだいローレン?」
「いや、別に…」
> > >
そうこうしているうちに件の魔物が出るスポットに到着したので
僕たちは馬車を降り、斥候を放って魔物を探し出してもらう。
「では、宜しく頼むよ」
「「「ははっ!」」」
「いよいよ本番だな…腕が鳴るぜ!」
「今までは捕らえた魔物相手だったが、今回は野生種だからな。
油断だけはしないでいこう」
「………」
大丈夫だとは思うんだが、どうも人型の生き物を殺すというのは気掛かりだ。
まぁこんなものは人間の本能か何かがそうさせるんだろうが、とはいえ
僕は自分がそんな強い人間じゃないことくらいは理解してるので
インサスミアを殺した後も平気でいられるかが問題である。
今後訪れるかもしれないお家騒動に備えて人型生物を殺すのには
どうあっても慣れるべきとは思うが……え? 父上? あのね?
父上を殺せるとか本気で思ってるんだったらこんなので悩むわけ無いじゃん?
「カリオスト殿下。魔物の群れを発見いたしました」
「うむ。ご苦労…さあ皆、心の準備は良いかい?」
「おうよ! 俺のドラゴンファングで決めてやるぜ!」
「はしゃぎすぎて死ぬなよヴァル?」
「ユージこそ槍を落っことして怪我すんじゃねえぞ?」
「………」
僕はインシネレーターを呼び出し、深呼吸を何度かする。
「ローレンの魔剣はやはり固有能力ならではなのかな?
僕の知っている火炎系の魔剣と違って見た目ほどの暑さを感じないんだが?」
「みたいです。まぁ僕もこの剣についてはまだまだ謎が多いんですけど」
「けど良いよなぁ。見たり聞いたりした話じゃ魔剣って文字通り魔法の剣だろ?
だから普通の得物より大分頑丈でちょっとやそっとの事じゃ壊れるどころか
傷一つつかないってのはさ?」
「バーウェルが父上から下賜された白槍もそうらしいな。自分も早く父上から
魔法の武器の一つや二ついただきたいものだ」
「ははは…必ずしも貰えるとは限らないけどね」
「あ…これはその…」
「大丈夫大丈夫。僕は僕でちゃんと別に買ったものがあるから」
そう言ってカリオストは腰に付けていた緑の刃が特徴的な片手斧を見せてくる。
「"戻り風の手裏剣斧"という一品だよ。ドワーフの鍛冶師と
エルフの魔術師の合作さ。これは投げても戻ってくるからブーメランの要領で
使えるんだ。普通のモノと違って取っ手が手に吸い付くように戻るから
怪我の心配も無い」
「おぉー…!」
「流石は兄上。中々お高い一品だったのでは?」
「んー…? どうなんだろう。ボクは値段を聞いてないから」
なにそのブルジョワ…って僕ら皇子だからそんなの普通か。
「何となく値段は気になるんだよな。俺のこのバトルガントレットなんかは
魔法金属をふんだんに使ってるから帝国金貨で280,8エルフェスだぜ?」
「中々だな。自分の槍は帝国銀貨込みの103,87エルフェスだ」
帝国での通貨単位にはエルフェスがあるのだが、1エルフェス=金貨1枚なので
市井ではメジャーじゃなかったりする。市井では主に銀貨と青銅貨と銅貨なので
上からディナ(銀貨)、セスト(青銅貨)、アッパ(銅貨)の単位が一般的だ。
通貨は統一したほうが良いとは思うが、それは不換紙幣の存在が必要だろうし
大きすぎる数字はまだまだ四則演算を使いこなせる人が少ないので
貨幣ごとに単位分けしたほうが混乱が少なくていいそうだ。
価値で言うとハッキリは分からないがパン一個1~3アッパが相場なので
1アッパ=約200円、10アッパで1セストとなるので1セスト=約2000円
500アッパ=50セスト=1ディナだから1ディナ=約10万円
そしてエルフェスは40ディナ=1エルフェスなので
1エルフェス=約400万円…! 価値だけ聞くと僕は真面目に皇子様だなぁと
思えてしまって最初のころはグヒヒサーセン状態が酷かった。
ちなみに1エルフェスあれば平民三人で半年食っていけるが…まぁいいか。
「グギョギョ…!」
歩を進めていくうちに奇声が聞こえてきたので、僕たちはそれぞれの得物を構え
相対するであろう魔物の姿を視認した。
「出たな…!」
「あれがインサスミア…」
僕らから見て大体300mほど前方には件のインサスミア達が
ぐるりと焚き火を囲んで食事の真っ最中だった。連中もそこそこに知性があるので
腰巻に皮鎧みたいなのを付け、石斧や木の棍棒と槍なんかを携えている。
「殿下。ホブスの姿は確認できませんでしたが、如何いたしますか?」
「ふむ…魔術兵は速攻魔法で攻撃、次いで弓兵の攻撃後に
ボクら前衛陣で突撃で良いだろう」
「了解いたしました」
カリオストの指示通りに魔術兵は呪文の詠唱を始め、弓兵は矢を番え、
僕らは得物をしっかり構えなおす。インサスミア達は食事に夢中なのか
僕らの存在を警戒すらしていないようだ。
「………攻撃開始! 撃てぇッ!!」
カリオストの号令にインサスミア達がこちらに気づくも、そのときにはもう
魔術兵が放った火炎弾や雷撃に風の刃が魔物の群れを直撃し、文字通り
矢継ぎ早に矢の雨が降り注いだ。まず魔法で直撃した七、八匹が死に、
騒ぎ立ててる何匹かが矢の雨に沈んだものの、残った連中が醜悪な顔面を
より醜悪に顰めて怒声とともに襲い掛からんとする。
「急所に食らえば無事では済まない! 気を引き締めてかかれッ!!」
「はい! 殿下!」
「俺たちも続くぜぇッ!」
「後ろは任せろ!」
「……ッ!!」
前衛たちが走り出したのを合図に僕らも続く。
「せりゃああああああッ!」
「ゴギョォ!?」
「ぶっ飛べやゴミィッ!!」
「ギョエエエ!?」
「チェストォッ!!」
「ギャバォ?!」
「殺ッ!!」
「ギャアアアア!!」
歩兵たちがインサスミアを切り殺し、ヴァルジオは殴り倒し、
ユージーンは槍で一突き、先ほどの穏やかさは何処かに消し飛んだのか
鬼の形相と化したカリオストが刀っぽい剣で斬殺していく。
…僕は色々あって出遅れたので一匹とも接敵してない。
「殿下! 援護しますッ!」
「総員数歩退けッ!」
後衛の一言からカリオストは号令を発し、弓兵と魔術兵の遠距離攻撃が
生き残っていたインサスミア達を次々と討ち取っていく。
「ゴオオオオオオオオッ!!」
「!?」
「出たなッ!!」
とりあえずこのまま怪我人も無く終わるのかと思っていたら別方向から
中々に怖い叫び声がしたので見れば、インサスミアを人間サイズまで大きくした、
それでいてかなりの筋骨隆々な人型生物が、やはり似たような奴らを率いて
凶器を振り上げつつドスドスと走ってくる。
「あれがホブスってヤツか!!」
「なふほど! 一筋縄ではいかなそうだ!!」
「盾持ちは前に立ち備えろ! 後衛は次撃用意!」
「「はい! 殿下!」」
「………うぁわ…!」
盾持ちの歩兵数人が最前列に立ち、後衛が攻撃用意をして中衛で
僕らが敵の突撃への迎撃を行うが、僕はやはり出遅れた…というか
動けなかった。
「ガァァァァァ!!」
「ぐわぁ!!」
「バーソロミュー?!」
歩兵の一人がホブスの攻撃を受け吹っ飛ぶが、駆け寄る暇は無い。
「殺ァァァァァ!!」
「グォォォォン?!」
歩兵のバーソロミューさんを吹っ飛ばしたホブスはカリオストの一撃で
片手を切り落とされ、胴体をバッサリ切られて斃れる。
「ビビッてられるかよぉッ!」
「援護は任せろ!!」
「ゴゴガァ!?」
ヴァルジオとユージーンは息の合ったコンビネーションで
ホブスの重そうな一撃を受け流し、ヴァルジオが飛び上がって顔面に一発、
ユージーンが胸をドスドスと突き刺して一体を沈める。
「ガォォォン!」
「うわぁ!? こっちくんな!!」
腰が引けてた僕にもホブスが向かってきたもんだから、僕はへっぴり腰だが
どうにかインシネレーターを振りぬく。
「ガボッ…」
感触はほとんど無かったが僕の剣閃で斬られたホブスは真っ二つになって
直後に魔剣の効果で即座に焼き尽くされた。
「うわマジかローレンの魔剣超ヤベェ?!」
「生死確認の手間いらずとは羨ましいな!」
とか言いながら倒れたホブスにトドメを刺してるヴァルジオとユージーン。
「油断するんじゃないぞ貴様らッ!!」
「のをっ!?」
「うわッ?!」
何だか別人な印象を受けるカリオストが僕を注視したヴァルジオたちの
死角から襲い掛かるホブスを首ちょんぱする。
「そういうのは後でやれ馬鹿者がッ!!」
「さ、サーセンッ!!」
「申し訳ありません兄上ッ!」
「殺ァァァァァァッ!!」
軽く叱咤して直ぐに他のホブスを1、2、3とぶった切って行くカリオスト。
やはり血は争えないなと僕は呆けてしまっていた。
> > >
ホブスとインサスミア達の死体から討伐証明として耳や鼻、モノによっては
首なんかも回収していく兵士たちを尻目に僕は座り込んでいた。
「はぁ……」
「気にすんなよローレン。お前が普段の動きは微妙だって知ってたし」
「おい、ヴァル…それは今掛けてやる言葉じゃないのでは?」
僕の肩をポンポン叩きながらヴァルジオは彼なりに慰めの言葉をくれるが、
確かに今僕はそんな言葉がほしかった訳じゃない。
「ふむ……んー…まぁキミは父上みたいな人が近くにいないと
本気になれないみたいだね」
「カリオスト兄さん…」
武器を収めているからなのか先ほどの鬼が如き印象は
すっかり形を潜めているカリオストが僕に歩み寄ってくる。
「とはいえやはりキミの召喚魔剣は凄いね。キミの倒したホブスは
跡形も無く焼き尽くされたとか? そんな芸当は帝国の上級魔術師でも
両手で数え切れる程度しかいないんだ。もちろん振るうキミにも実力が無ければ
そんな真似は出来ないのも事実。胸を張れなんて言わないが、
そこまで落ち込むほどじゃないと思うよ?」
「……はい」
やはりカロルの兄か、僕に対して優しい言葉をくれる。
僕が女ならちょっと愛情度が上がったかもしれないな。
「いやはや…カリオスト殿下の仰る通りでございます」
「おかげで死なずに済みましたよローレンシェームス様」
カリオストのお付の部下たちがそんな感じで僕に気を遣ってくれた。
「殿下。証明部位も粗方終わりました」
「ご苦労。それじゃあ片づけをしつつ各員……」
和やかな感じで撤収が始まるかと思ったが、
僕らから一番遠い位置にいた兵士の一人が…
―バクン!
馬鹿でかい目の無い蛇女に丸呑みにされた。
「何ッ!?」
「ヨアンッ!?」
「おい?! 何だあの蛇のバケモンは!?」
「馬鹿な…! なぜラミアーがこんなところに…ッ!?」
「ラミアー!? あれが?!」
「嘘だろぉ!?」
いきなり兵士が一口で食われてしまった状況に狼狽は隠せない。
僕は僕で立ち上がれず尻餅をついたまま後ずさってしまった。
「シュロロロロロロロロ!!」
目の無い蛇女ことラミアーは背中が痒くなりそうな嫌な泣き声を上げると
一番近くにいた兵士に襲い掛かる。
「うわああああ!!?」
「やらせるかぁッ!!」
襲われた兵士のそばには数人の弓兵がいたのでラミアー目掛け矢を撃ちまくるが
「シャアアアアアア!!」
一体どういう魔法か能力かは不明だがその全てを避けていき、
狙っていた兵士とは違う…弓兵の一人をやはり一口で食らった。
「オリバァァァァ!! ちくしょぉぉおおおお!!」
「止せ!! ラミアー相手に大声を出すn」
カリオストの呼びかけも空しく怒声を上げた歩兵の一人が丸太のような
ラミアーの腕でぶっ飛ばされる。
「クッ…! この数では駄目だ…! 総員三人以上で固まって撤退せよ!!
馬に矢を射掛け囮にするんだ!!」
「は、はいッ!」
―ヒヒイイイン!?
カリオストの指示で馬の近くにいた弓兵が急ぎ手綱を解いて馬に矢を射る。
可愛そうだったが馬はそれによって大きく嘶いて走り去ると、
それに反応したラミアーが馬に襲い掛かった。
「今だ!! 総員撤退せよ!!」
流石に一口では馬は食えないようで、それに時間を掛けるラミアーを見た
カリオストが撤退の合図を出し、各々が帝国の方向へ脱兎の如く走り出した。
まだ立てなかった僕を放って…。
「何してんだよローレン!!」
「た、立てない…」
「自分が肩を貸す!! だから早く!!」
ヴァルジオとユージーンが僕を気にしてくれなかったら本当に危なかった。
目の前で生きたまま人が食われるのを見たことが無かったから、
僕は真面目に腰を抜かしてたんだと思う。
「シュロロロロロ!」
「げっ!」
「もう回り込まれただとッ!?」
悪いのは僕なんだ。せめて僕は馬車に引きこもってりゃ良かったんだ。
「うおおおおおおおおお!!」
「シュロロロロ!」
カリオスト兄さんが魔法の手斧を投げつけつつ剣を振るって
ラミアーの気を如何にか逸らすが、それで状況が好転とはいかなかった。
「くぅぅッ!!」
「シュロロロロロ!!」
カリオストが投げた魔法斧はラミアーに行きと戻りの二度とも避けられる。
振るわれた剣なんて掠りもしない。
「こ、このままじゃ…!」
僕は肩を貸してくれたユージーンを半ば突き飛ばす形で押しのけ、
インシネレーターを召喚してカリオストの近くへ走る。
「何してんだよ馬鹿!!」
「このままじゃカリオスト兄さんが危ないだろ!!」
「兄上でさえ当てられないラミアーに自分たちで何ができるというのだ!!」
「何をしてるんだ貴様らッ! 退けっ!」
「嫌だっ!!」
僕はラミアー目掛けてインシネレーターを振るう。以前鋼鉄獣を切ったとき、
思い切り振るえば太刀筋がそのまま炎の刃となることを覚えていて良かった。
だから炎の刃はラミアーにぶち当たるのだが…
「ジュラララララララ!!」
軽い火傷を負っただけで倒れる気配は微塵も感じられない。
「馬鹿がッ!! ラミアーは火炎耐性持ちだッ!」
「何でこんな時に限ってッ!!」
本当に、本当に嫌になる。前世はいつもそうだった。嫌なことは一気に来る。
だから僕は上昇志向も捨てたし真面目に働くのも嫌になったのだ。
「ジュラララララララ!!」
僕の攻撃に面白く無かっただろうラミアーは先も上げたが気色の違う咆哮を上げ
今度はラミアーが火炎ブレスを仕掛けてきたのだ。
「「うわぁぁあ!!」」
僕とカリオストは炎に巻かれる。普通なら死んでてもおかしくは無いが、
腐っても僕らは帝族だから上等な魔法防具のお陰で軽い火傷で済む。
「クソッ! 俺らの方に来やがった!!」
「迂闊に自分から離れるなよヴァル!」
「わぁってるよバカヤロー!」
本当に最悪だ。ラミアーは僕とカリオストより脅威度が低いと判断した
ヴァルジオたちに標的を変えた。このままじゃ遅かれ早かれどっちかが死ぬ!
「………毎度毎度ふざけんなよ」
いつもそうだ。クソみたいな選択肢が僕に迫る。僕はまったり生きたいのに。
早々と楽隠居したかったのに!
「来たれ雷神剣…! エメットラアム!」
「!?」
そばで驚愕するカリオストは無視するしかない。僕がやらなきゃ
ヴァルジオかユージーンがラミアーの怒りの腹を満たすだけだから。
僕は手に現れた極彩色の雷撃がそのまま剣になったような印象の魔剣、
エメットラアムをラミアー目掛けてブン投げた。この魔剣が"教えてくれる"
使い方にはこういうものもあるからそうした。
「ピギィィィィ!?!――
「「ッ?!?!?!」」
投げつけられたエメットラアムは爆散する雷撃となってラミアーを包み込み、
断末魔もろともに雷光で消し去った。ポカンとするヴァルジオたちを横目に
僕は手に戻ってきたエメットラアムに一言お礼を言って送還した。
> > >
帰り道の馬車で僕はヴァルジオに「もっと早く出せこのバカヤロー!」と
めちゃくちゃにぶん殴られた。ユージーンは狼狽するが、実際そうしてれば
犠牲は一人で済んだ事実もあるのでカリオストも複雑な顔で閉口している。
「ヴァルジオ君。もうそのへんで良いだろう」
「いいのかよそれでよォ?!」
「…誰も死なない保障なんて最初から無い。そもそも責任を問うなら
ラミアーの出現を予測すらしてなかったボクにだってあるんだ。
そもそもが初めての命の取り合いでローレン君と同じ行動をとらないなんて
叙事詩の英雄的な真似を出来るものが何人いるか考えたことはあるかい?」
「………」
カリオストのもっともな言い分にヴァルジオは僕の胸倉から手を離した。
…歯は折れてないけど、鼻はイッてるなこりゃ。
「……ローレン君。正直に言ってくれると有難いんだが…」
「僕の手の内を全て晒せって言うんですか」
「んだとテメェ!?」
「やめろヴァル!! ローレンの言うことも最もだぞ?!」
ヴァルジオがまた僕を殴ろうとしたが、今度はユージーンが即座に止めた。
「……そうだったな。これはボクが悪い…では、キミの差し支えない範囲で頼む」
「………」
状況が状況じゃなければこのままダンマリしてたかったが、流石に次は
誰もヴァルジオを止めないだろうから、仕方なく言うことにした。
「インシネレーターとエメットラアム以外にあと二振り召喚できます」
「何と…!!」
「……チッ…!」
「おいヴァル…! …ということはあれ程のモノがさらに他にも…凄まじいな」
「……正直、インシネレーター以外はどんな能力があるかわかるだけで、
エメットラアムだってぶっつけ本番だったんだ。威力が威力だから
一つ間違ってればヴァルジオたち諸共に消し飛ばしてた可能性もあったんだ…!」
いくら僕が悪くても、散々殴られまくったのはムカついたから言わなくても
良さそうな事を怒気を込めて口走った。
「………チッ…!」
「ヴァルジオ!!」
「うっせぇな! わかってるよ!!」
まぁ憤懣遣る方ないのも当然だろうから、ヴァルジオが面白くなさそうに
ドカリと席に腰を下ろすのも無理は無いだろう。
「……この件は父上には話すが、それは納得してくれよ?」
「……はい」
僕は殴られた箇所をさすりながら消え入りそうな声で答えた。