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7話 初めての・・・・・

ギルドの治療室、ベッドの上で出産間近の女性が苦しそうに叫んでいる。



「ナデシコさんっど、どうにかなりませんかっ?」



ギルドの男性職員が焦った感じで撫子に助けを求める。

いやしかし、専門外なんじゃないか?と言うか何でこんな所で産気付いたんだ?などと考えていると、後ろの方で女性職員の話し声が聞こえる。何でも旦那である男性職員にお弁当を届けに来たらしい。

成る程。


男性職員は奥さんである妊婦さんの手を握りしめている。撫子は妊婦さんの股の間に回ると腹部を触ったり下着を脱がしスカートの中を確認したりして居る。



「…いつも見てくれて居る産婆さんは?…」


「い、今他の職員が呼びに行ってくれています・・・ど、どうしたんですか?」



少し深刻そうな声で撫子が言う、旦那さんは何かあったのかと、心配そうに撫子に尋ねる。



「逆子、ですね…」


「えっ?逆子!?え?・・・そ、そんな・・・」



恐らくこの世界に帝王切開なんて方法は無い。産婆さんって行ってたくらいだ。産婆が出産の殆どを取り仕切るのだと思う。それ故に、きっとこの世界での逆子の生存率は其れ程高く無いのだろう。

男性職員の顔が青ざめて行く。妊婦さんの汗を拭いたりなどの、手伝いをしていた職員が女性を励ます様に声をかける。

逆子、何か忘れてる様な、何かの本で読んだ様な、誰かから聞いた様な・・・・



「ほら、頑張って下さい!もう少しですよ!いきんでいきんで!」



そうだ思い出した!俺は 撫子の近くに駆け寄る。妊婦さんの方は向かない様にしてナデシコに話しかける。

逆子がどんな状況か、確認する為だ。どうやら足ではなく、お尻が先に見えるらしい。最悪の状況では無さそうだ。俺は妊婦さんを励ます職員に声を上げる。



「多分っ!いきませちゃダメだ。色んなところがひっかるから。赤ちゃんが出てくる入口が開ききってからが、1番安全に産める筈なんだ!」



職員や、旦那さんが顔を見合わせたりして居る。どうして良いか解らないようだ、



「で、でも、こんなに苦しそうだし、早く産んだ方が良いんじゃ・・・!」


「いえ、この子の言う通りに、責任は私が取りますから。」


撫子がそう言い切る。俺の顔を見ると次はどうしたら良いかと言う様子で俺の目を見る。俺は頷いて返事をすると、みんなに向かって話す。



「旦那さんと、貴女は、奥さんがいきまない様に話しかけ続けて下さい。ナデシ、姉さんは痛み止め魔法みたいなのが有ればそれを掛け続けて」



何十分程経っただろうか。



「兄様!充分開きました!」


「旦那さん!いきませて!奥さん頑張って!いきんで!」


「は、はいぃ!メルムっ!いきんでぇえ!」




◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎




産婆が来たのは丁度赤ん坊が出た時だった。後の事は産婆がテキパキと動いて、皆に指示を出して居る。

撫子は母親になった奥さんに治癒魔法をかけて居る。俺はと言うと、近くにあった椅子にグッタリと腰掛け放心状態だ。凄かった、うん、生命の神秘だ。


俺の子でも無いのにちょっと感動しちまった。


大体の処置が済み、産婆が俺の所にやってくる。



「坊が、指示を出してくれたんだって?小さいのに、やるじゃ無いか!」



年の功、60くらいの婆と言うよりは、快活なおばさんが俺の肩を叩く。

そして旦那さんが俺の近くにやってくる。



「お、弟くんっあ、ありがとうぅ!ぶ、無事に産まれたよおおおお!」


「い、いえ、俺は大した事は。」


「ありがとおおおおお!」



旦那さんはもう、号叫だ。まあ、そりゃそうだろうな、俺だってなんだか嬉しいよ。



その日のギルドはお祭り騒ぎで、皆浮き足立ちオークの鑑定どころではなかった様で、ギルド職員たちに捕まる前に、館へと戻る事にした・・・



館へと帰り。ソファへと倒れこむと、意識が遠く



◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎



眼が覚めると、ベッドに寝ていた。誰かが運んでくれたらしい。

朝ご飯を食べ、サリュと約束していた亡くなった3人 の墓を作りに行く。町にある共同墓地に作った。サリュは、少しホッとした様子だった。



この町に来て、たった2日で色々あったな。しかしいざ自由に出来る状況になると、やりたい事って見つからないものだ。学園に行くまでに半年か、うーん何しようか。


魔法の練習、はヤル気起きないなあ。練習した所で、使う機会も無い。

そう言えば、魔法書を読んでも、魔法って覚えられるんじゃ 無いのか?それだったらやる気が起きそうだぞ。幸い本を読むのは好きだし、得意だ。

さてと、それじゃあ散歩がてら、本屋でも行くかなと玄関を出る。っと目の前に人が居た。昨日のギルドの男性職員だ。なんでも、昨日は奥さんがお礼を言えなかった。出来る時、ギルドの近くに家があるので、近くを通った時で良いので是非寄って欲しい、との事だった。

というかだ、昨日はワタワタして気が付かなかったが、この人獣人だ。耳がピンとたって居る犬?の様な耳だ、

成る程解りましたと。返事をすると、男性は、名を告げ頭を下げて帰って行く、名はアルス・アルグスという名だった。




◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎




アレから3日、今日はアルスさんちに赤ん坊を観に行く予定だ。

ああ、その前にギルドに寄らんといかんな・・撫子を伴ってギルドに行く、中に入ると・・・



「あ!ナデシコさん!クッロトくんー待ってたんですよー!もう査定住んでますよ、ささ、どうぞこちらへー」


ソニアが買い取りカウンターへと案内してくれる。

買い取り金額はオーク2匹で金貨2枚だった。日本円で約20万相当。

一人頭10万か、ただ生活するだけなら、これで充分だな、オークを狩るだけだ。むしろ、モテるんじゃ無いか?オークハンター、女性の敵のオークを狩る訳だし。良いタイミング《・・・・・》で、オークを狩るだけの簡単なお仕事だ。いや、冗談だ、うん。


アルスが仕事に出て居るかと思い、ソニアに聞いてみる。今日も出勤して居るとの事で呼んで貰う。

しばらく待つとアルスがやってくる。

今日行きたいという事を伝えると、丁度仕事が終わるとの事だ。

少し待って案内して貰う。アルスの家に入ると丁度赤ん坊の声が聞こえてくる。



「おーい、今帰ったぞーナデシコさんと、弟くんが来てくれたぞー」


「はーい、部屋に入ってもらってー」



アルスに部屋の方から返事を返してくる。

アルスの連れられ部屋に入るとソファに座った奥さんが赤ん坊を抱いて居る。

綺麗な白髪の女性だ、アルスと同じで耳がピンとたった獣人だ。撫子がこの前に言っていた白狼族と言うやつだろうか。

俺の髪の色によく似て居る。赤ん坊の髪も白くて綺麗だ。

奥さんの名前はメルム。アルスとメルムに早速この間のお礼を、撫子と俺に言われた後・・・


「来て下さいまして有難うございます。本当は此方から伺うべきだったのですが、どうしても早くお話がしたくて・・・それで、あ、まだ弟君の名前を知らなかったわ。教えて貰っても良いかしら?」


「えーと、クロト・デュアリスです。」


「そっか、クロト君って言うのね。クロト君に、お願いが有るの。是非、クロト君にこの子の名前をつけて欲しいの、獣人族には恩人に名付けを頼む風習があってね、夫とも相談して、それが良いわって。」


「え?俺が?いや、そんな大事な事・・・」


「私たちの様に、恩に恵まれます様にって言う願いも籠ってるの。この子の為だと思って、お願いしたいの。」


「そう言われると・・・解りました。えーと、抱っこしても、良いですか?良い名前が浮かぶかなって」


「ええ、勿論、そうして貰うつもりだったわ!さあ、クロトお兄ちゃんよ?貴女とお母さんの命の恩人よ?」


ニッコリと笑うと、俺にゆっくり赤ん坊を抱かせてくれる。

いやなんだか、大袈裟だな、悪い気分では無いけどさ。

うわー凄い柔らかいし、何だか良い匂いがする、ヤバイなめちゃくちゃ可愛いじゃ無いか。

髪の毛や、耳なんか小さくて、堪らない。耳を触りそうになり、一旦止まる、耳とかって触って良いもんだろうか?メルムを見ると、コクリと頷いてくれる。アルスは、何だかほんの少しだけ難しい顔を、して居る様な気が・・・


俺は、その白くて柔らかい頭にそっと手を置いてやる。ふわっふわっだ。


「えーとシイロ、シイロ・アルグス。と言うのはどうですかね?」


シロだと、ホント、犬とかの名前の様で気が引けた、俺も大概センスが無いかもしれない。


「ひぃ、い、お、ひいおぉ。」


「あらあら、本人が、気に入ったみたいだわ、決まりみたいね。」


「ああ、良い名前だ、この子にぴったりだ。」


喋った?え?早くない?獣人族ってそんなに早いの?成長。

びっくりして居ると、俺の方に手を伸ばし


「くう、お、おぉ。」


「あら、クロト君の事も気に入ったのかしら。」


「えーと、獣人の赤ちゃんってこんなに早く喋れる様になるもの?」


「んー、普通はもう少しゆっくりかしら?でも、一週間くらいで話せる様になるわ、それに、半年から1年くらいで人族の2歳から3歳くらいになるのよ?そんな事でびっくりしてたら大変よ?クロト君。」



成る程、やっぱ凄いな獣人族、と言うか、撫子一言も話してないぞ?

撫子を見るとじっとシイロを眺めて居る、そして俺の髪を見て、自分の髪を触る。


「うらやましい……」


ボソリと、呟く撫子に抱いて見るかと、赤ん坊を。渡す、勿論メルムさんには許可を取った。

赤ん坊を抱くと、最初は嫉妬の様な眼差しだったが、徐々に顔が綻び、


「か、可愛いものね。」


と、そう呟いた。




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