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2話 事の顛末。

 空間認識・地図をかける。まず部屋の扉の前に1人分の点。隣の部屋、その隣もだ。この階には5つの部屋が並んでおり、その部屋のうち4つが埋まっている。この館は3階建てで、ここは2階なのだが下の階、1階には2部屋だった。

 2階と1階の部屋で合計6部屋。2階の部屋の前には全ての扉に1つの点が張り付いていた。1階の部屋には待機している者はいなかった。順に回る積りなのだろうか・・・食堂に居たのは5組、おそらく女性と男性で部屋を別にした組も有ったのだろう。

 俺はこの宿が怪しいと感じて居たので、食堂で人数を確認して居たのだが食堂に居た人数と、6部屋に泊まっている合計人数は同じだった。


 実は空間認識の結果、3階の部屋にも1部屋に人の反応があった。だがその部屋は、扉の前に待機している点が無かったのだ、その部屋には8人の反応があった。部屋の片隅に4人ほどが固まり、反対の隅に3人。そしてその間に1人の反応があるという奇妙な配置だった。


 後は、宿の入り口に1人、これは見張りだろうか。


 俺はサリュに合図をすると、部屋の扉の傍まで音を立てず移動する。昼間の女とゴツい男に解析眼を使った時に見た能力値なら、おそらくサリュと俺の2人で難なく制圧出来るだろうが・・・もし人質を取られたらどうするかだ。その時、隣の部屋に動きがあった。俺達の様に部屋の扉の傍により、扉の外の様子を警戒している様だった。


 十数分その場で待機するーーと外の気配に動きがあった。その後すぐ、ゆっくりとドアノブが動く。俺はサリュに合図を送る。扉が開き人影が入って来る。廊下の光が少し部屋に漏れた。人影はベッドの方に顔を向けている。俺達が居ないことを確認するや否や、人影が動き出す前に、瞬時に近寄り鳩尾に一発入れる。

首トンとかだと死んでしまうらしいからな。取り敢えず気になる事もありなるべく殺さずに制圧する事にした。


 俺は旅の道中などで万が一、盗賊などに襲われた場合にーーと用意して居たロープを空間倉庫から取り出す。火魔法で、ある程度の長さで焼き切り、賊を縛る。ロープの残りを巻き肩に担ぐと、音を立てず隣の部屋へと移動する。


 丁度、隣の部屋も制圧が済んだところだった。隣の部屋の宿泊客は、俺達より先に宿の手続きをして居た者達だった。


 剣士らしき男は俺を見ると静かに頷き隣の部屋を指差す。俺と剣士は音を立てず部屋を移動し、サリュや13歳程の青年がそれに続く。もう1人の男は捕まえた賊の監視に残る事になった。隣の部屋の宿泊客は眠ってしまっている様で、中を首だけ出してチラリと覗くと宿泊客を放って部屋を漁っていた。殺すつもりは無いらしい。


 俺は剣士よりも速く部屋に滑り込む。賊が俺に気が付き声を出そうとする。


「てめっーー」



 声を荒げられる前に賊の懐に入り込むと顎に向かい掌底を軽く当てる。チッと言う音と共に族の首が横に振れ膝から崩れ落ちた・・・


 剣士は少し驚いた顔で俺を見ると、後この階はひと部屋だと、指でその様な合図をして来た。そして俺達は残りの部屋に素早く移動し、制圧を済ませた。音を立てずに彼らをひと部屋に集め俺達は小さく声を出した。


「この階は済んだナ、後はどこの部屋ダ?」


「多分1階に2部屋だな、入り口に見張りがいる可能性もある。1階の様子を見た後に3階に行こう、多分3階にも人がいる」


「ああ、俺もそれは感じタ、上の部屋に誰か居るってナ。ああ、後コイツ等は俺達を殺す気は無い様だナ、ボウズは解ってるみたいだが取り敢えず殺さずに制圧して、賊達に色々吐かせればいイ」


 癖のある喋り方をする剣士に、俺とサリュ、青年が頷く。俺達が揃って下へ降り部屋を確認する。ふた部屋には鍵がかかったままで無事な様だった。俺は剣士に指で合図をし、宿の入り口に向かうとそっと扉を開け外に出た。


 外で警戒をしていた男は俺達を部屋まで案内したゴツい男だった。夕食時に解析眼で解った名前はビル。ーービルがすぐさま振り向きフードの剣士に剣を振り上げるが、剣士は難なくそれを防ぐと、素早くビルの横に移動し、剣の切っ先をビルの横腹に突き付けていた。


「余計な事はスルなよ?オマエ達の仲間は全員制圧した、オマエはどうすル?」


 ビルは両の手を上にあげ、無抵抗の意思を示した。後はこいつに3階まで案内して貰おう。


「なあ、オッさん3階に居るのはあんた等の仲間か?」


 俺が問い掛けると、ビルはピクリと眉を動かすが黙して語らない。


「オイ、答えろ。仲間がどうなるか解らないワケじゃないだロ?」


 ビルは苦み走った顔をするとボソリと、仲間だーーそう呟いた。そして少し間を開け、


「だが、そいつ等には手を出さないでくれ。都合の良い事を言ってるのは解って居る、今から3階に案内する」


 ビルは先を歩き出す。俺と剣士はそれについて歩くが、警戒は緩めない。剣士は剣先をビルの体に当てたまま一定の間隔でついて行く。途中、全て制圧が済んだサリュや、青年と話し、拘束した奴らを連れ上の階へと上がる。


 3階につき先にビルから部屋へ入らせるーーーと


「あぁ、ビルかい?ちゃんと済んだかーーーぃ・・」


 後から入る俺達を見て唖然とする女。店主と腕を組んでいた女だ。夕食時に解析した名前は、ベリンダ、だったか。ベリンダは驚いた顔をすると、素早くナイフを取り出し奥に縮こまる店主に向けた。店主は自身と同年代の女性と、5歳ほどの男の子をかばう様に抱き寄せていた。


「あ、あんたら!近づくと、こ こいつらがどうなるかっ!」


「・・・止めろベリンダ、もう終いだ。この状況はどうにもならん、あいつらも皆捕まった。人を殺すつもりのない俺達には今回の計画は無理な話だったんだ」


 俺達は縄で縛った賊らをビルの後ろへ突き出す。明るい場所で見ると皆15歳前後という様な顔をして居た。賊の中には女も居た。


「そ、そんな、でも・・・」

 

 ベリンダは顔を歪めると部屋の隅を見やった。店主達の対角には、身を寄せ合う子供達の姿があった。5歳から10歳、そんな子供達が4人、大きい子が小さい子を庇い震えながら前に出た。


 何と無く解ってきた様な気がする。剣士や青年、他の宿泊客、サリュまでもが状況を理解し溜息を吐いた。




◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎︎︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎︎︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎︎︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎︎︎




 結論、ベリンダ達は盗賊だった。だが、人を殺した事の無い、金だけを狙った犯罪を繰り返して居たらしい。そしてその金で子供達を養っていたと・・・


 子供達は捨て子だったらしい。賊達も皆、捨て子でベリンダとビルが盗賊行為で稼いだ金で養って居たと、そういう事だった。さて、どうするかだ。剣士がチラリと店主を見る。店主は剣士の視線に気がつくと、震える唇で声を出した。


「あ、あんたらは本当に人を殺したことがないか?」


「あぁ、アタシらは、この子達に人を殺した金で飯を食わせるのだけは嫌だったんだ・・・今回もあんた達が学費で持ってきた金を寝てる間に奪って逃げる予定だった」


 今では子供達はベリンダとビルを俺達から守る様に立って居る。


 まるでこれじゃあ、俺達が悪いみたいだ・・・そこで店主が意外な事を言った。


「わ、私はあんたらが言った事が本当ならっ、アンタ等を見逃しても・・良いと思って居る。私は、私がもし、この子が食うに困る事になったら、わっ私だって!犯罪に身を染めてでもっ・・・」


 店主は自身の子を抱き寄せて声を荒げた。


「だが、それはあんたらがもう盗賊行為は辞めるのが条件だ・・・それに彼ら、宿泊客達にもアンタ等を裁く権利がある」


 スイミンダケの茶を飲まなかった俺達は、互いに顔を見合わせた。誰もが迷っているようだった。俺も、どうしたら良いか解らなかった。犯罪を犯したのは事実だ。俺は2年前、盗賊まがいの行動を取ったラッチェス達を殺した。確かに、ベリンダ達の罪は軽いのかも知れない。でも、金を盗まれた者は存在する。ラッチェス達は許さずに彼らの罪は軽いからと許すのか?


 拘束された賊の青年が1人、後ろ手を縛られたまま俺達の前に進み出た。そして声を張り上げた。


「俺は!俺は捕まっても良い!犯罪奴隷にだってなる!だが、姉さんと兄さんは見逃してやってほしい!まだこいつ等にはっ、親に捨てられちまったこいつ等には!姉さんと兄さんが必要なんだっ」


 他の青年達がそれに続いた。


「あ、あんた達・・そんなのダメだよ、あんた達に罪を被らせて自分だけなんてっ」


「僕は、別にこのまま逃しても良いと思うけどね」


 剣士と一緒にいた青年が答えた。剣士はぐるりとあたりを見渡し、言った。


「俺は、やはり憲兵に突き出すべきだと思うナ。犯罪は犯罪ダ、それ以上でもそれ以下でもない。それに人を殺した事がなイ、金を巻き上げた程度の犯罪なら、大した罪にはならナイ。罰金か、禁固刑が良い所だろう。スグに出てこれるサ」


 ハッキリと剣士はそう言った。俺は・・・俺はどうなんだろう。この小さい子達の為に許してやりたい気持ちもある。しかし、俺にそれを決める権利が有るのだろうか?カッとなり、ラッチェスや、ボルズを殺した俺にーーーーその場をしのぐためにサリュの冒険仲間を殺した商人の、護衛の剣士を逃した俺にーーーー


 グッと唇を一旦噛み締め、俺は心を決める。


「俺も、いや、俺は罪を償うべきだと思う。大人の2人だけでも罪を償うべきだ。どうしても子供達の面倒を見る奴が必要と言うなら、子供達は年上の君達にだって見れるはずだ」


 そうだ、きっとあの時、目の前で起きた殺しを、犯罪として認められるかわからない所だったが。商人の馬車を逃す提案をした事をーー俺には関係のない事だとか、獣人の彼らの考えが足りなかったとか、言い訳をしたんだ。俺はきっとあの時の事を後悔している。


 俺は思い詰めたような顔をしていたのだろうか、サリュが俺の手を優しく握ってくれた・・・




◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎︎︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎︎︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎︎︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎︎︎




 ベリンダとビルは、自分達が憲兵に突き出される事に納得していた。そして賊のような真似をした子等をなんとか説得し、彼らも納得したようだった。朝になる前に、彼らをフードの剣士が宿場町の憲兵の詰所に連れて行った。賊の真似事をした彼らは、宿の店主が、驚く事に自分の宿で雇うと言い出したのだ。なんでも経営には余裕があるらしく、従業員を雇う予定もあったと言う。青年と14歳ほどの女の子を雇い、その2人に2人の幼児達を面倒見させれば良いと、提案してきた。残りの4人は、王都にいる知り合いの経営する大衆食堂や酒場などに、最初は下働きとして雇って貰える様に手紙を書くと言う事になった。


 結局朝まで眠って居た客達には黙っている事になった。その彼らが出発した後、子供達の事は、今回の件で関わった各自が自分達の馬車に乗せ王都まで連れて行く事になった。同情してしまったところもあったんだろう。隣の部屋に泊まって居た青年が話しかけてくる。


「僕の名前はロシェル・レングリット。学園に入学する為にこの町を通った所だったのさ。隣は護衛に雇った剣士と御者だよ」


 青年の言葉の後、紹介された剣士がフードを外す。彼の耳は長く、肌は浅黒かった。彼はそう、ダークエルフという見た目だった。


「あア、俺の名はナハアス・クロウグ。見てわかる通りダークエルフ族ダ。昨日のボウズの動きは凄かったナ」


 ナハアスはやはりダークエルフだった様だ。とても整った顔に、灰色の長い髪を後ろに結んで居た。なんでも王都に用事があり、冒険者ギルドでロシェルが護衛の募集をして居た為、ついでにそれを引き受けたらしい。そしてロシェル自身は貴族らしく、剣と領地運営の為の知識や社会勉強として学園に入学する様だ。御者はロシェルの家の御者、という事だった。


 学園の場所は王都の南西の端に位置している。学園にも寮は有る。全寮制と言う訳では無いらしいがーーーまあ、そう言う事なので学園に行くならば皆必ず、王都を通るルートになっている。だから、ベリンダらが面倒を見て居た子らを乗せて、王都で紹介状を奉公先に渡し学園に向かうという事になった。


 各自が馬車に子供達を乗せる所だった。昨晩の戦闘に参加したのは、うちとロシェル達の2組。俺達とロシェルの馬車で2人ずつ乗せて行く事になった。向こうは男ばかりなので16歳程の青年と男の子を。此方にはサリュが居たので15歳の女の子と、少女を。お互いの馬車に乗せた。宿の店主が書いた紹介の手紙を受け取り、目的地も同じと言う事で俺達は馬車を並べて王都へと向かう事にした。


 王都までは後1日、今日中には恐らく着くだろう。俺達はロシェルの馬車を先頭に王都に向かって進みだした。



 



 




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