15話 サリュ・ベルトスを探して。
夕飯時が過ぎ2時間に満たない頃、サリュを探しに行く事にした。
散歩に行くと言っていたサリュだ。そう遠くに行く事はない筈だが。夕飯は、ここ半年は必ずこの屋敷で食べていたし、帰って来ないのはおかしい。
俺と撫子は直ぐに準備を整えるとまずはアルスの家に寄ってから、ギルドに行く事にした。
この町で深い付き合いがあるとすれば、アルグス家しか無い。
サリュが帰って来る事も考えて、アリアには家で待機して貰う事にしてある。
俺達は急いでアルグス家に向かうと扉を叩く、夜も遅くなりかけているが、そんな事を言っている場合では無いだろう。
「今出るよ。こんな夜更けに誰だい・・・・ん、ナデシコさんにクロト君じゃ無いか、こんな時間にどうしたんだい?」
「えーと、サリュがまだ帰って来なくて。この間の試験の事もあったしもしかしてと思って・・・」
「いや、ウチには居ないな・・・クロト君これは本当は言っちゃいけないんだけど。獣人が最近行方不明になってるのは知っているかい?」
何と無く、正直サリュが帰って来ない事と関係があるんじゃ無いかとは思って居た。
「ラルンド卿に聞いて何と無くは知って居ます。」
「そうか、まずギルドに行ってみよう、職員が誰かサリュの事を見たかもしれない。僕も一緒に探すのを手伝うよ。」
「いや、こんな事がある今、メルムさんやシイロだけにする訳には・・・」
「平気さ、メルムはこう見えても元Sランク冒険者だよ?今は冒険者は引退してる様なものだけれどね。」
アルスはちらりとメルムを見ると、それに答える様にメルムが頷いた。
アルスは素早くフード付きのマントを羽織ると、先行してギルドへ向かった。
◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
冒険者ギルドはもう夜の9時頃を過ぎているとは言え、まだ賑わって居た。
アルスはギルドの奥に入って行くと1人の職員を連れて来た。
「彼が、昼過ぎにサリュの事を見たそうだ。カイル、クロト君に話してくれるかい?」
サリュを見た職員の名前はカイルと言うらしい。
「あーサリュちゃんは、確かその時誰かと話してたよ。誰だったかな、えーと、ああ、Aランク冒険者のラッチェスだったかな?彼ならさっき窓口で魔物の買取をしてたぞ?あー後は、噂のカザール子爵が、護衛の騎士を連れて町をウロウロしてたな。」
カザール子爵?少し考え思い出す、ラルンド邸で会った獣人好きの噂のある子爵だ。
カザール子爵の事に思考を振ろうと思うが、其れよりまずはサリュと会ったラッチェスだ。買い取り窓口に視線を流し、辺りをグルッと見回し、入り口へと視線を・・・居た、丁度ギルドから出て行くところだった。
「ラッチェス!待ってくれ、ラッチェス!」
「ん?あぁ?・・・あぁ、クロトじゃねぇか、どうしたこんな遅くに。ガキがウロウロする時間じゃあ、ねぇぞ?」
俺に呼び止められたラッチェスは辺りを見回した後、振り返り軽口をたたいた。
「サリュが帰って来なくて、探しに来たんだ。ギルド職員が、昼過ぎごろラッチェスと話してるのを見たって言ってたから。」
「帰って来ない?マジか?サリュが、なんか悩んでるみたいだったから気分転換にって、狩りに誘ったんだ。んでよ、狩りに一緒に行ったが、町に戻ってからは別れて、そっからはわかんねえな。役にたたんくて悪い・・・」
「ーーいや・・良いんだ、もし見かけたら家に帰る様に伝えてくれ。」
ラッチェスは、俺の言葉に手を挙げて返してくる。
俺達3人はその後直ぐにギルドを出る。
「僕は町を探そう、此れでもこの町のギルド職員だ、町の中には詳しいしこの鼻もある、獣人の友人達にも声をかけてみるよ。」
「うん、じゃあ、町の方はアルスに頼むよ、撫子は俺と森の方に行ってみよう。」
アルスは町の中に消えて行く。
まだこの町に来て半年の俺達よりも、アルスに任せた方が早いだろう。
俺達は、精霊の森へと向かう事にした。
精霊の森まで50キロか60キロくらいだ、サリュと狩りをする時、軽く走って1時間程で着く距離だった。
俺と撫子が本気で走れば半分もかからないだろう。
サリュは町へ戻った、と言われた俺たちが、なぜ精霊の森へ行くか。殆ど感の話だが魔法の実験をしたあの日、空間認識をかけた時、森の中にある洞窟の様な場所にあった幾つかの気配。アレがどうしても気になり出した。思考を続けながら精霊の森に入った頃、その時ふと撫子が・・・
「兄様、私は最近、精霊の森に入って居なかったので解りませんでしたが。精霊達が教えてくれました。この奥にある洞窟に何人かの人間達が居ると。」
「そうか、こんな時間に洞窟に人っていうのも気になる。何も無いなら無いでも、行ってみる価値はありそうだ。」
俺達は森の木々をかき分け進んで行く。
◇
◆
◇
◆
◇
「なあ、こいつらさ、マジで手出したらダメなのか?もう俺我慢出来ねぇんだけど?」
「売りもんだから傷物にすんなって言われてんだろーが!バカかテメエはっ!」
「オレは・・ガキには興味は無い・・・」
薄暗い部屋の中、男達が話して居る。部屋には男が3人と、奥の方には手枷と足枷をはめられ、虚ろな顔をした女性達が5人程だ。その中には黒髪の獅子族の子、サリュの姿もあった。彼女らは全員が獣人の子だった。この森へ魔物を狩りに来た、冒険者に成り立ての獣人の子達だ。その少し奥に、手足を縛られ。たった今捕まったと思われる小綺麗な格好をした男と、騎士の制服に身を包んだ男が転がって居る。
「貴様らぁ!こんな事をしてどうなるかっ!解っているのか!」
小綺麗な格好をした男が叫ぶ。
「うっるせぇなあ!こいつ何なんだよ!ぁあん?」
「貴様も声がデカいぞ・・コイツは・・此れでも子爵らしいぞ。ギルドで噂になって居たカザール子爵とやらだな・・・」
「 ぁーんっ!ああっ!アレかっ!獣人好きって奴で有名な変態野郎か、わっかんねーなあ、確かに身体は人族と変わらねぇからな。ヤル事はヤレるけどな。ヒヒッ」
男は下卑た笑みを浮かべると、犬族の女性、見た目は15才程の前にしゃがむ、顎を掴むとぐいっと顔を持ち上げ、頬をべろりと舐める。犬族の女性は何も言わず、視線はどこか遠くを視る様だ。
「きっきさまあああああ!我が愛しの獣人達に何をするぅううう!!」
「はあ、おい、このバカ子爵を煽るなよ、おい、カルミス。子爵に轡でも噛ませとけ、うるさくてかなわねえ。」
「ああ・・良いだろう・・黙らせるとしよう。」
カルミスと呼ばれた男が子爵の口に轡を噛ませる。子爵は抵抗をするが、カルミスに腹を思い切り蹴られ、大きく咳をした後、静かになる。
「しっかし、この魔石に込められた魔法?〝洗脳〟はすげぇなあ。こんな事してもなんも言いやしねえ!」
口の悪い男は片手で真紅の魔石を懐に仕舞い、犬族の女性の顎から手を離すと服の襟元から手を乱暴に突っ込み、胸元の膨らみを弄る。
「な?こいつぁ良いぜ!ヒャは!」
「けどよ、従順にするには何度も魔石で魔法をかけ続けなきゃいけねーみたいだぞ。半月程やって少しづつ洗脳してくんだと、魔道具が手に入ったら奴隷紋を仕込まなきゃな、」
「なるほどなぁ、んで、何時になったらヤレるんだよ?壊さなきゃ1匹はやって良いんだろ?オレは乳のでけぇこいつも良いが、その黒髪の奴がいいなあ!いつも白い髪のガキと一緒にいた奴だよな?」
男はそう言うと、今迄弄んでいた胸を離し、犬族の女性の体を乱暴に押す。女性は抵抗もなく地面にトサリと、倒れ込んだ。男は立ち上がり、満足そうに女を見下ろす。
視線を黒髪の奴、と呼ばれたサリュに移すと。
「オレはもう我慢できねぇぜ?良いだろ?少しくらい摘み食いしてもよぉ?」
もう1人の男は はぁ とため息を漏らすが、もう止める気は無い様だった。
ゆっくり、ゆっくりと、手をわきわきと動かし、舌なめずりをする男の股の間は膨らんでいる、サリュの元に近づき手を伸ばそうとする・・・・・
洞窟の、入口の方で声が響いた・・・
「ーーーその汚い手でサリュに触れたら・・・・殺すぞ?ーー」