14話 サリュ・ベルトスの憂鬱。
魔法の実験をしてからニカ月ほど経った。アレから毎日魔法の練習をして居る。
勿論サリュも一緒だ。サリュ自身も、仲間が死んでしまった時やこの前の時、何も出来なかった事に思う所があるらしく、今まで以上に鍛錬に励んで居る。
サリュのレベルも上がり、ギルドカードは黒になった。冒険者ランクと実力があっていないと言う事だ、この状態になるとギルドからランクを上げる為の試験を勧められる。
適正なランクをカードが判断するとは言え、それはあくまでも身体の能力値にかぎってだ。戦い方や戦略等は解らない。であるからこそ、その部分を試験で判断すると言う事なのだろう。
今のサリュのランクはCランクのブロンズカードだ。
「ねえクロト、ランクアップの試験受けた方が良いかなあ?」
「まあ、ランクが高いからと言って狩りをする分には特にメリット無いからなぁ」
クエストを受けるならランク制限があるが、勝手に狩りをして素材を売却するのは、どのランクがどんな敵を狩っても何も言われる事はない。
「でも、ソニアも結構しつこく試験した方が良いって言ってくるし、やってみようかな?」
「まあ、箔は付くし良いんじゃないか?」
今、俺達は冒険者ギルドにいる。ソニアは窓口で他の冒険者のクエストの受付をしている様だ。アルス、シイロの父親の事だが、アルスが遠くからオレ達を見つけたらしく、こっちに近づいてくる。
「やあ、クロト君とサリュ!最近クロト君、シイロに会いに来てないよね?今日なんかどうだい?僕も、もう直ぐ仕事上がりでね。」
獣人であるシイロは人間に比べて大分成長が早い。今は体格的に1歳半から2歳くらいの感じだ。
ここの冒険者ギルドは朝の5時頃から、夜の11時頃まで開いていて。職員は朝の部、昼の部、夜の部というシフトで働いている様だ。
アルスは最近、朝の部の勤務の様で、ギルドに素材を売りに来るとこうしてアルスの仕事帰りに合わせて一緒にシイロに会いに行く事がある。
「ああ、じゃあ、寄らせてもらおうかな?それと、サリュがランクアップの試験を受けたいみたいなんだけど、どうすれば良いかな?アルスが手続きしてくれないかな?」
俺は混んでいるソニアの窓口に目をやる。すると、苦笑いをし、少し考えた後、俺にアルスが答えてくれる。
「ソニアは男性冒険者に人気があるからね。しょうがないよ、ランク試験の諸々は僕の方でやって上げるよ、サリュは担当官が手合わせをするのと、クエストを受けてそれに担当官が付随するのとどっちが良い?」
「うーん、手合わせの方が良いかな?1人でクエストをするのは少し不安。」
サリュはチラリと俺を見る。まあ、それが良いと俺も思い、頷いてやる。
「じゃあ、それで試験の準備をしておくよ、担当官は明日は空いている筈だから、明日で良いよね?手続きと帰る支度をして来るから、ギルドの入り口で待っててくれるかい?30分もかからないよ。」
アルスはそう言うと、サリュが頷くのを確認し奥の部屋へと戻って行く。
俺達は、丁度サリュのマジックバッグの魔法が切れそうだったので隣のマジックバッグ屋に魔法のかけ直しをして貰いに行く。
それが終わり戻って来ると、丁度アルスが入り口から出て来た所だった。
「待たせてゴメンね、さ、じゃあ行こうか」
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家に着き扉を開けると、シイロが目の前で待っていた。なんでも匂いで解ったらしい。
俺はシイロを抱き上げると、
「くろおにーた、いーにおー んふー。」
スンッっと鼻を吸い俺の胸に顔を埋めている。
抱き上げたままソファへと座る。
「この子ったら、クロト君が来るって言って玄関で待ってたのよ、たまに言うのよねギルドに用事がある時に近くを通るからかしら。私もアルスが帰って来るのは毎日解るわ。」
「メルムっ!」
アルスが何か感動している。人前で惚気ないでほしい。しかしやはり狼の獣人だ、匂いに敏感なのだろうか。
シイロは十分に俺と戯れた後、サリュにも確りと甘えに行った。うーん、なんて気がきく子だろうか。
その後は昼ご飯を御馳走になりシイロとマッタリさせて貰い帰って来た。
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「じゃあ、此方へどうぞ。」
サリュはギルドに併設された訓練場兼、試験会場へと案内される。ワヒトは試験会場の脇で見学が出来る様だが、アドバイス等は禁止されている。
自分自身の力で試験を切り抜けなければいけない。目の前に立っているのはギルド職員で、冒険者ランクと比較するなら、Aランク以上の担当官だ。
担当官はアルスだった。アルス・アルグスがサリュの試験担当官だ。
「Cランク冒険者サリュ・ベルトスの担当官は僕、アルス・アルグスです、宜しくね」
「アルスさんが担当官だったんですかっ?・・・なんでアルスさんがここまで付いて来るのかなーって思ってました」
サリュは一旦驚くが、その後直ぐに納得がいった様な顔をする。
アルスは其れを見た後、頰を指で掻くと、
「ゴメンね?担当官は直前まで誰か言っちゃいけない決まりでね。さて、試験の内容は、担当官に一撃与えたら終了だ、時間は10分。 準備は良いかい?」
「はい!大丈夫です!」
「では、好きな時にかかって来ると良い」
アルスはサリュと同じ短めの木剣二刀を構えると、サリュもまた木製の短剣を二刀構える。
サリュが地を蹴り、迅歩で加速する。アルスとの距離が一瞬で詰まる。アルスの横腹を目掛け短剣を振るうが、担当官は木剣でそれを防ぐ。木の乾いた音が響く中、その音が止む前に、次の一打がサリュの手から放たれる。しかしそれもまた防がれてしまう。
其処からはもう、アルスに攻撃が当たることは無かった。そして10分が終わる。
「残念だったね。動きはとても良かったけど、決め手に欠ける」
「はぁっ、はぁっ、っうぅ。息も切れてないとかへこむよぉ・・・」
「はは、コレでもSSランクまでの試験を担当しているからね、まあ、此処のギルドからSSランクはまだ出た事がないけどね。因みに一度試験を失敗すると次に受けられるのは一月後だよ」
試験が終わり、黙って見ていたワヒトがサリュに駆け寄る。
「残念だったなサリュ、でもまた受けられるみたいだし。それまで鍛錬あるのみだな、まあ付き合うから頑張ろうな?」
「・・うん・・ゴメンね・・」
「とても、単純な事なんだけどなぁ・・・」
アルスの口が、そう呟いたのがワヒトにだけは聞こえた・・・
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ランクアップ試験の後、数日間サリュはずっと落ち込んでる様子だった。獣人はどうもその辺、直情的な様だ。鍛錬はキチンとしており身が入ってないという事も無い。
しかし、いざ普段の生活になるとどこかボーッとしている様子だ。
「なあ、サリュ。一回目で失敗したからってもうダメな訳じゃ無いんだぞ?何度だって挑戦すれば良いし、それを克服できればもっと強くなる事だって出来るんだから」
「うん・・・」
うーん、今は何を言ってもダメなのか?暖簾に腕押しな状態だ。
昼飯でも誘ってみるか?
「なあ、えーと昼飯でも行ってその後狩りでも行くか?そうだ!肉とか良いな!」
「うん・・・んーやっぱり今日はいいかな、1人で散歩でもして来るよ・・・」
肉でもダメなのか?重症だな・・・
まあでも、狩りもずっと一緒に行ったりしていたし、たまには1人の時間も必要かもしれないな。
今から1人で狩りにでも行って、夕飯の素材でも狩りまくって、肉パーティでも開いてやろう。
サリュが館から出て行くのを見つめながらそう考える。その後は狩りに行き、血吸いウサギや石投げ鳥を、大量に狩りまくった。
其れをアリアに調理して貰い、肉だらけの夕飯の準備が進む。サリュはまだ帰って来ない。
テーブルに料理が並ぶ頃になっても。
夕飯時が過ぎ辺りが真っ暗になっても、サリュは帰って来なかった。