12話 決着、その後。
咄嗟に両手を交差させる、ミシィッと身体の芯に音が響く。
赤熊猪に身体を押されたまま一気に後ろの大木へと身体が押し付けられる。
「ワヒトっ!!」
身体を突き抜ける衝撃音、一瞬意識が飛び掛ける。サリュの声が遠くに聞こえる。
目の前の体躯が俺からゆっくりと距離を取る。サリュの方を見ている様だ。
ダメだそっちは・・・
意識が覚醒し始める、刀を抜くと胸に痛みが走る。肋骨でも折れたかもしれない。
「コッチだ!」
サリュの方に行かせない様に叫ぶ。赤熊猪は再度こちらを向くと、ブルブルと左右に体を振る。先程、見た光景だ。さっきは吠えた後、突っ込んで来た。恐らく猛進ってギフトだ、そのままの意味で考えるなら真っ直ぐしか突っ込んで来ない、か?
俺に今度こそトドメを刺すつもりなんだろう。
刀を横に構える。千里眼・・・眼を凝らす・・・来い。来い来い!早く吠えろ!
「グオォオオオオオオオッ!!!」
1度目の様に吠えた後、ドンッっと地響き。来るっ!
その瞬間、赤熊猪は頭部から、身体ごと突っ込んでくる。今度は動きが見える!ギリギリの所で、自分の身体を横に滑らせ躱す。同時に刀を横に振り抜く。
ズンッ!
音と共に刃が赤熊猪の顔面、口角から首にかけて切り裂く。ブシュウと血が噴き出す。
ビクビクと赤熊猪の身体が痙攣し、その場に崩れ落ちる。
呼吸をしようとする度に、口から血がゴポゴポと噴き出し、それも止まり完全に動かなくなる。
ハッキリ言ってコレで倒せなかったら困る。コイツの突進のスピードを利用してその上自身の力を乗せたんだから。
「ふーっ・・・」
大きく息を吐きサリュの方を確認すると丁度こっちに駆けて来る所だった。
「ワヒトぉぉ!うぅ、良かったよぉ!ワヒトでもダメなんじゃ・・無いかって・・・」
俺はサリュを軽く抱き寄せる。小刻みにサリュの身体は震えている。暫く抱き締めていると、落ち着いた様だ。
「仲間も、居なくなって。ワヒトもって お 思ったら怖くなって・・・」
「そっか、でも ・・俺なら平気だ、もう心配しなくて良いぞ。サリュもう離れろ、返り血でお前も 汚れるから」
「うん・・・良いの、もう少しこうしてる」
俺とサリュは少しして落ち着いた後、赤熊猪に近づく。
「精霊の森にこんな魔物が居たんだな」
「赤熊猪・・・ガルスにも生息してる魔物だけど普段は大人しい生き物なの、でも・・・あっ!」
「どうした?」
サリュはマジックバッグからアキダケを取り出す、と
「特別なキノコの匂いを嗅ぐと凶暴になるって聞いた事がある。アキダケの事だったんだ」
「もう少しきちんと調べてから来るべきだったな、まあでも、無事だったし良しとしよう・・・」
「でも、赤熊猪なんて獣人でも数名のパーティを組んで狩る魔物だよ。ワヒトはやっぱりすごく強いね・・・」
「いや、でも油断してた所為で。ちょっと危なかったよ・・・また襲われてもマズイから今日はもう帰るか」
赤熊猪をバッグパックの入り口に作ったインベントリにしまう、帰りに冒険者ギルドに寄って、コイツを換金して帰ろう。
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「ホンットーにすまんっ!!」
目の前ではラッチェスが両手を合わせて俺達に謝っている。
どうしてこんな事になってるかと言うと・・・
ギルドに着いてまず、周りの冒険者に詰め寄られた。もうこのギルドではサリュの手伝いを俺がしている事は有名で、7歳のガキが、冒険者の真似事が出来てるって認識だ。
普段からオークなども狩って来ている。まあ、其れはサリュの実力で俺はサポートと思われている訳だが。
そんな俺が返り血を浴びて居る訳だ。気になる冒険者は多いだろう、軽く説明してやると・・・・
「赤熊猪ぃいい?それで倒したのかよ!」
「たった2人でよく生きて帰ったな!」
など反応は様々だ。このギルドに居る冒険者は気の良い奴が多い。余計な詮索もして来る事はない。アイツはアイツ、俺は俺、そんな空気が出来上がって居るギルドだ。だが酒の肴は随時仕入れたい訳だ。俺達が囲まれて居ると、そこにパーティメンバーとの狩りが終わったラッチェスがやって来て最初の状態に戻る訳だ。
「俺がアキダケの事を中途半端に教えなきゃこんな事には、ホントーにすまねえ・・・」
今日狩りに行く時にギルドの前で。アキダケがこの辺で取れるって事を事前に知ったラッチェスが俺達に教えてくれたから、狩りに行くついでに取ってこようとなった訳だ。
ラッチェス達パーティも此処ふた月程前に、ラルンドの冒険者ギルドに来たばかりで、赤熊猪が精霊の森にいる事を知らなかったらしい。この後、騒ぎに気が付いてこちらに来たギルド職員のソニアにも、不確定な情報を広めるなとこってりと絞られて居た。
ギルド内が落ち着いてから、素材を買い取って欲しいとソニアと話し、買い取り用の部屋に移動する。
「そ、それで、赤熊猪を2人で狩ったて言うのは本当なんですかっ?」
「ああ、えーと武器を構えた所に突っ込んで来たんだよ、ホント運が良かったんだ。たまたまさ」
「たまたまって・・・Aランクがパーティを組んで戦う相手なのですが・・・まあ良いです、それで素材の方は?」
俺は言われてから赤熊猪やオークを、一度マジックバッグを大きくしてから、マジックバッグに見せかけたインベントリから取り出す。
実際に赤熊猪を見て、ソニアが驚きの表情を浮かべているが、その顔は見ないようにする。
ソニアは何かを言いたそうだ。まあそうだろう、買い取りはサリュのギルド登録で行なっているが倒したのは俺だ。冒険者ギルドとは関係のない俺が言いたくないと言えばそれまでだ。
ソコソコの魔物を狩って、楽に生きて行こうと思い今迄何もして来なかったからな、根回しも必要なのかもしれない。それかもう開き直って生きて行くかだ、だがそれにはまだきっと力が足りない。
まあ、良い、今回に関しては徹底的にスルーしよう。
俺は淡々と必要な事だけを話す事にして行く。サリュとも此処へ来る前に、口裏を合わせて来たから大丈夫だろう。
「赤熊猪の真紅の毛皮は、貴族や王族の方にとても人気があります。牙は薬の材料になります。赤熊猪の魔石は価値も高いんです。査定をして来るので、待ってます?後でまた来てもらっても良いですよ?」
「いや、少し疲れたし、此処で待ってるよ」
俺は返り血を浴びたジャケットをバッグパックに仕舞う。折れた肋骨は自己治癒でもう治った様だ。殆ど痛みは無い。
待っている間、ソニアに出された冷たい飲み物を貰う。サリュも冷たいお茶を飲んでいる。猫系だからなのか熱いものは苦手らしい。15分程待っただろうか、ソニアが戻って来る。手には赤い魔石を持っている。
「見て下さい、この魔石!凄い質の良い魔石ですよ!赤ですよ赤!これ絶対ギフト持ちの魔物だった筈です。ラッキーでしたね!因みに、買い取り金額は毛皮が1匹分で金貨10枚、肉が金貨1枚、牙は折れて居ますがどうせ薬の材料なので価値は変わらず金貨2枚です。魔石は売るとするなら、金貨20枚に成ります。私としては売らないで取って置くのが良いと思いますよ?腕の良い魔道具屋に頼んで魔道具を作って貰うべきです」
赤い魔石はかなり質の良い魔石の様だ。ソニアが興奮した様子で教えてくれる。
「凄い値段になるんだな、じゃあお言葉に甘えて魔石は取って置く事にするよ」
「赤熊猪は、狩りに行こうと思って出会える訳では無いですから、でもこの時期に精霊の森に行って準備の無いままアキダケを取るのだけはやめて下さい、もいだ時の匂いが手に着くと襲って来るんですから」
成る程、覚えておこう。
金貨13枚を受け取って、すぐに自分達の屋敷に戻って来た。
撫子に何があったのか聞かれ。今日の一連の流れを話すと、
「その冒険者を教えて下さい、始末して参ります。」
宥めるのにすごく大変だった。
血生臭い体を風呂で洗い、早めの夕飯を食べ、すぐ床に着き、能力値を確認する。赤熊猪を倒した後、レベルが幾つか上がった感覚がしたからだ。
ワヒト・ クロガネ ♂
クロト・デュアリス
年齢 7
Lv 15
ライフ 4530/4530
マナ 5560/5560
str 4450
def 4830
agi 3120
mat 4300
dex 3260
int 312
ギフト 解析眼 千里眼 龍化 闘気 思考力 真理理解
魔法技術 五大元素魔法 ランク3 生成魔法 ランク 1 空間魔法 ランク2
スキル 器用 ランク3 剛力 ランク2 自己治癒 ランク3 魔力消費減少 ランク3 剣術 ランク2
レベルは4、上がって居た。元素魔法や、空間魔法、闘気、龍化、殆ど戦闘に使った事の無いスキルだ。今まで何処か抑えてた自分が居た。だが今日の様な事があって自分の身は勿論、誰かを庇いなら戦う場合、戦力に余裕は幾らあっても、やり過ぎにはならない筈だ・・・後は明日考えるとしよう・・・
目を閉じた途端、意識は朦朧として行った・・・