11話 危険なキノコ狩り。
ラルンド卿と行方不明の話をした後は俺の事を少し話、薬を置いて帰って来た。ラルンド卿の母親が高齢なので風邪など病気にかかりやすく、撫子の薬が一番良く聞くからと、撫子に定期的に薬を頼んでいる様だ。
行方不明の話はこの町に宿などを取り、宿の日数がまだ残って居るのに返金手続きもせずに急に居なくなったり。人族とパーティーを組んで居た者が、何の連絡もなく居なくなったりしていたから、上がって来た報告らしい。
緘口令を敷いて居るので、内密にと言う事だった。
後は、最後になって。ラルンド卿が言って居た。
「ただ実力の無いままに、冒険に出て魔物にやられたまま、餌になってしまったと言う可能性もあるが。サリュ殿も十分気をつけるのが良い」
ラルンド卿には他意はないんだろうがサリュが少しバツの悪そうな顔をして居た。
しかし、貴族というのはもう少し偉そうかと思ったが、暑苦しさを除けばなかなか話しやすい人だった。
「ねね、ワヒト!御屋敷で出た、クッキーおみやげにもらったんだ!こんなに!」
馬車の中ではしゃぐサリュは、ラルンド卿の言葉をもう気にはしていない様だった。
しかし、行方不明か。
少し、気を付けなきゃな。
ラルンド邸での用事が早めに終わったので。シイロの家に遊びに行こうかと提案してみた。以外に撫子が乗り気だったので、このまま行く事にした。
「赤ちゃん見るの楽しみだなー」
「そういや、サリュは連れて行った事無かったな」
「クッキー食べれるかな・・・?」
「流石に無理じゃ無いか?」
いくら獣人が成長が早いとはいえ、まだ無理だろう。
そんな話をして居ると冒険者ギルドの前に着いたので馬車から降り、歩いて向かう事にする。近くに馬車を止めておく場所もないのでケインには先に帰る様に言っておく。
少し歩きシイロの家に着く、トントンっとドアを叩くと、中からメルムが顔を出してくる。
「あ、クロト君にナデシコさん!いらっしゃい、遊びに来てくれたのね?そっちの子は・・・黒獅子・・・?」
なんだか厨二的な言葉が出たが。中に入れてもらって説明してもらう事にした。
「クロトの知り合いの子は白狼族の赤ちゃんだったんだね・・・」
「ああ、何かあるのか?」
「白狼族と黒獅子族はとても数の少ない種族で、ガルス帝国で王から気に入られててね。王家に仕える者が多いのだけれど。白狼と黒獅子は、まあ仲が本当に悪いのよ。それでねちょっと驚いたって感じかな、私はまあ、そう言うのは気にならないけど。」
サリュに問い掛けた質問にメルムが答える。
取り敢えず、お互いに喧嘩腰では無さそうだ。
「サリュも別に気にはしてない・・・けど・・・」
チラリとシイロを見ると、言葉を濁す。
俺はソファに座り、シイロを抱かせてもらって居る。
しかし、大人しい子だ、何かある時だけ、訴えて教えてくれる。
「くおぉ、にーた いあ、いあ」
抱き方がイマイチらしい。手の位置を変えて抱き直すと満足そうに目を瞑る。
3ヶ月ほど経ったが、だいぶ話せる様になって来た。
「サリュも抱いてみたいんじゃ無いか?」
「でも うーん、いいのかな・・・?」
許可を求める様にシイロの母親でもあるメルムに顔を向ける。
微笑んで頷くメルムを見てホッとするサリュ。
俺はサリュにゆっくりシイロを渡してやる。
シイロはゆっくり目を開けるとサリュの顔を少し見つめ何事もなかった様に目を瞑った。
抱いて居ても良いと言う事らしい。
「か、かわいいね!大人の毛よりフワフワしてるっ」
軽く頭を撫でるとサリュは目を細め優しい顔をシイロに向けた。
「早く私にも抱かせて下さい。」
少し小さい声で撫子が呟いた。
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「サリュ!そっちのゴブリンを先に片付けろ!」
「うんっ!まかせて!」
俺は目の前のオークを斬り伏せると、サリュに向かって声を上げる。
サリュは今日はモーニングスターを使って居る。
サリュがゴブリンの頭部に向かいモーニングスターを振りかぶる。
鈍い音がした後、ゴブリンは後ろに倒れる。
刀の切れ味が落ちた事を感じた俺は、〝研磨〟と、唱えると刃の周りに砂嵐が薄く吹き荒れる。
新しく俺が生成魔法で作った詠唱だ。
刃の周りを五大元素魔法の風でまとい、その中に大地魔法で硬度の高い鉱石の粒を混ぜる。
鉱石の粒を高速で刀の周りに流動させる事により、刀の切れ味を戻す魔法だ。
刀自体の切れ味は良く刀としての性能も良いが、やはり魔物を狩り続けると段々と切れなくなってくる。狩りをして居る間に砥石を出して、研ぐ訳にもいかないので創った魔法だ。魔物の血も落ちてちょうど良い。
「なんだか、今日は魔物の数が多いな。」
「そうだね、確かにそうかもしれないね。」
ゴブリンから、魔石を取り出し、大地魔法で大きな穴を作ると、まとめてゴブリンの死体を埋めて行く。魔石さえ抜いてしまえば、アンデッド化はしないがこのまま放っておくと腐り、それを餌にした魔物や動物から人に害のある感染症が発生する可能性があるからだ。
オークはいつも通りにインベントリにしまい込む。
今日は狩りのついでにキノコを取りに来た。アキダケと呼ばれるキノコで相当美味しらしい、見た目はエリンギを少し大きくした様なキノコだ。
店売りを買うと一本銀貨2枚、日本円だと2万だ。
精霊の森で取れるらしいので、キノコ狩りに来たのだ。
「あった!あったよー!ワヒト!」
アキダケを手に握り締め、ニッコリ顔のサリュ。
いや、いかんぞ、キノコに頬ずりしちゃいかん。
「んー良い匂いがする!」
スンスンと匂いを嗅いで居る。
ダメだサリュ、それはもっとダメだ。
だが教えてはやらない。
サリュは俺の顔を見ると少し首を傾げ、ウエストバッグに、アキダケをしまいこんで行く。
変な顔してたか、俺?掌で顔を揉み解す。
「ワヒトはアキダケ何本?えーとねサリュはねー」
サリュに言われ何本取ったか思い出そうとした時、サリュの頭に向かいボウリングの球ほどの石の塊が飛んでくる、咄嗟にサリュの手を引き石の塊を避ける。
「サリュ!」
ドンッ!
音を立て避けた塊が木の幹に当たると幹の1/3がえぐれている。
当たったら即死だ、アレは・・・
「しゃ、赤熊猪・・・!」
サリュは一瞬固まった後、意識を切り替えた様だ。
俺は、石の飛んで来た方向を確認する。10メートルほど先に大きな魔物がいる。3メートルに届きそうな大きさだ。熊か?いや、なんだ、頭部が猪の頭だ。牙が口から、これでもかと言うほどはみ出し上に伸びている。体毛は燃える様に赤い。
俺は魔物に向かって解析眼をかける。
赤熊猪♂
Lv 35
ライフ 4200/4200
マナ 36/36
str 3300
def 640
agi 2300
mat 20
dex 35
int 75
ギフト 猛進
スキル 剛力3 迅歩1
魔物のギフト持ちなんてこっちの世界に来て初めて見た。
なんて偏った身体値だよ、サリュは一発食らったら死ぬ。
オークの2倍以上は強いぞ・・・
ライフ以外は俺の身体値より低いが、大人だって子供に本気で暴れられたら梃子摺るだろう。しかも、石の塊を投げてくるとか・・・
サリュよりも素早さが早い、捕まったら終わりだ。だからと言って中途半端に攻撃も出来ない。良く『手負いの獣』という言葉があるが、『手負い猪』と言う個別語もある程、怪我をした猪は危ないらしい。あの赤熊猪が熊なのか猪なのかは、解らないが、中途半端はダメだ。
「サリュ、絶対捕まるな!捕まりそうになったら迅歩で加速しろ。奴も迅歩を使えるから気を付けるんだぞ!」
「わ、わかった!」
サリュの顔は真っ青だ。余程危険な魔物なんだろう。
俺は赤熊猪がなげてくる物を避けながら、地面の小石を拾って行く。
赤熊猪がサリュの方に向かいそうになる度に、指で小石を弾き赤熊猪の気をひく。
刺激しない様に威力は大分落としている、恐らくエアガン程度だろう。
赤熊猪はブルブルと身体を左右に振ると。
「グオぉおオオオオオオオオオッ!!!!!」
赤熊猪が咆哮をあげる。ドンッ と地のなる音がして赤熊猪の姿が消える。いや眼で捉えられなかったんだ。
その瞬間俺の目の前に急に赤熊猪の身体が現れた。