0-4お師匠様はヤクザ?
「なぁ健太朗……これって本当にリアルな感じ?」
……ドゴッ!!
「痛ってぇぇ!!何すんだよ健太朗!!俺の脳みそ飛び出したらどうするんだよ!!」
「その痛みがリアルだって証拠だろ。それにお前のちっちゃい脳みそが今更飛び出したってどうってことないだろ」
「やだ!!健太朗きゅんったら辛辣!!昔のあなたはそんなんじゃなかったハズよ!?いつからこんな子になったのかしら……」
よよよ……と泣き真似をして顔を上げると、あらびっくり。
般若のお面と瓜二つの顔した健太朗がどす黒いオーラを出しながら、青筋の浮かんだ拳を高らかに掲げてるじゃないの。
「もう一発お見舞いすれば少しはマシな脳みそに変わるだろうか……」
「やめて!!これ以上やられたら俺死んじゃう!!まだ読みかけの同人誌の続き読みたいから、お願いだからやめて!!」
「騒々シイナオ前達。元気ナノハ構ワナイガ、少シハ静カニシロ」
ぎゃんぎゃんと健太朗と戯れていると、雅がさも煩そうにピンっと立っていた耳を折り曲げてこちらを睨みながら唸っていた。
このまま騒いでたら確実に飛び掛かられて喉元食いちぎられそう……。
「ハァ……コレダカラ子供ハ疲レルノダ」
「誰が子供だ!!犬っころのお前に言われたかねぇよ!!で、その頼常って人の所に行かないといけないんじゃないのか?」
「ダカラ犬ッコロデハナイ!!分カッテイル、コレカラ案内スル」
ついてこいと言わんばかりに首をクイッと動かすと、身体を反転させて敷地の奥へと向かって歩き出した。
あの光平って人と頼常って人は同じ敷地内に暮らしてるのか?
ってことは兄弟なのか?
しばらく雅について歩いていると、何処からともなく笛の甲高い音色が聴こえてくる。
よく神社で聴こえてくるあの透き通った音色……
「こりゃ龍笛か?」
笛の音を聴いていた健太朗が、誰に言うわけでもなく小さな声で呟いた。
「ソウダ。ヨク解ッタナ健太朗……コノ龍笛ノ音ハ頼常サマノモノダ」
「まぁ俺も昔からやってたからな。今じゃあんまり吹かなくなったけど、頼常って人中々上手いな」
今更だけど健太朗は地元では結構有名な大きな神社の跡取り息子。
健太朗が昔から笛吹いてたのは知ってたけど、龍笛ってヤツだったのか。
中学まではおじさん達に神社の宮司になるのは嫌だって駄々こねてたな……そういえば。
それが今じゃ宮司になるべく猛勉強してるもんだから笑ってしまう。
とか何とか考えている内に優雅に深緑の風景に溶け込む様な龍笛の音はどんどん近く、そして大きくなってゆく。
大きな屋敷から開けた庭園へと足を踏み入れたその時、風の音、鳥の囀りと調和を取っていた龍笛の音が突如止んだ。
「あれ?止んじゃったぞ?」
「頼常サマガ我々ニ気付イタ」
雅はさも当然のように言ったが、俺としては千里眼か何かを持っているのかと少し怖くなった。
庭園の丁度中央にある池の畔に誰かいるようだ。
俺達がゆっくりと近付くと、その人物も座ったままゆっくりとこちらへ振り返った。
「頼常サマコノ者達デゴザイマス」
「おーう雅!!ようやくお前の目に適う野郎が見付かったってぇのか?」
この屋敷にはそぐわない身なりをした男が、これまたそぐわない口調で雅と言葉を交わしている。
落ち着いた雰囲気の光平とは対称的に、頼常と呼ばれた男はだらしなく胸をはだけさせ、その隆々とした筋肉をちらつかせる格好をし、整った男らしい顔付きには合わない人を殺していそうな三白眼、おまけに左目には眉から下瞼にかかるまで大きな刀傷の跡がある。
まるで幾度となく死線と抗争を乗り越えたヤクザみたいなこの男がさっきの笛の音の主?
しかもこの時代であんな短い髪 型してる人男でいるのかよ。
単なるスポーツマンみたいな髪型なんだけど。
何かの間違いだと叫びたい。
こんな刑務所で無期懲役で服役していそうな奴から、俺達はこれから力を引き出すための教えを乞うだと?
「……何だかそこの奴に物凄く失礼な事を言われている気がしてならねぇんだが?」
「……気のせいです……」
俺に向けられている鋭い視線が、更に痛く突き刺さってくる。
「まぁ良い。俺は源頼常、雅から話があった通り、これからお前らの秘められた退魔力を引き出すための教育を担当する。よろしく頼むぜお2人さんよ」
よっこらせっと立ち上がった頼常は、持っていた龍笛を俺達にビシッと向けた。
笛をそんな風に使っていいのかよ……。
まぁいいや、それよりこの流れは俺も名乗った方が良いのかな?
「どうも、熊坂斗真といいます。不本意ながらこの世界に拉致されて来ました。よろしくお願いします」
「……随分な挨拶だなお前。雅、こいつらにちゃんと話してから連れてきたのか?あぁ?」
またこの流れか。先程同様雅は頼常に睨まれている。
唯一点違うとすれば、その視線に殺気が含まれているか否かだ。
「……モ、申シ訳アリマセン……」
「まぁまぁ……頼常さん、コイツさっき光平さんにも怒られてたんで勘弁してくださいよ」
「ふんっ……そそっかしいのは昔から変わらないな雅」
今にも殴りかかりそうな頼常を健太朗が宥め、何とかこの場の空気は元に戻った。
「で、俺が栗原健太朗です。余談ですが俺も頼常さんと同じく、龍笛を吹けますよ」
「本当か!?」
健太朗の龍笛を吹けるという箇所を聞いた途端、頼常は身を乗り出して健太朗に迫った。
流石の健太朗もあの顔が迫ってきたことにビビったのか、顔をひきつらせて一歩後ろに下がった。
「え、えぇ……」
「そうかそうか!!お前は……俺と同じ『陽』属性……いや、陽護属性か、珍しいもん持ってんじゃねぇか。そして戦うほどの退魔力はない……よし、お前には加護、治癒の力を引き出すための鍛練をさせよう」
何だか凄く興奮しているようだけど、陽護属性って何?
「頼常サマ、マダコノ者達ニハ属性ノ話ハシテオリマセン」
「何だよ雅、まだしてなかったってのかよ……」
「あ、大体の属性とかは予想つきますよ。本で読んだし……水とか火とか」
「そうだ、水、火、雷、風、地、木、氷そして陰と陽がある。
健太朗は陽でもかなり珍しい陽護属性、主に力を使った相手に敵からの攻撃を弾く加護、そして傷を負った仲間の治癒をすることができる。俺が知ってる内じゃ都の中だと……帝付の人間数人だけだな」
ざっくりさらっと話してくれたけど、結構大事な話だよなそれ。
に、してもいいなぁ健太朗。そんな珍しい属性だなんて……よくあるチート設定もあるんじゃないのか!?
くっそ……俺の属性は一体何なんだ!?
「なぁなぁ、それで俺は何の属性なの?」
「あぁ、悪ぃ悪ぃ。つい興奮しちまって……斗真と言ったか?お前は……これは……初めて見るな、まさか4つの属性を持つ奴がこの世に存在するとは……」
何だか思ったよりも深刻そうな顔付きになった頼常。
そんなに珍しいの?っていうかこの世に存在するとは……って俺が初めてなのか!?
「4つの属性があるって珍しいのか?」
「珍しいってもんじゃねぇよ!!4つの属性持ってる奴なんて俺達陰陽方の創始者以外未だかつていねぇよ!!」
何?そんなに凄いの?
やべぇ……俺凄ぇ!!過去に遡って遂に俺の真価が発揮されるのか!!ふはははは!!
「お前は……火、水、雷、風……まさかお前が古文書に遺された創始者の生まれ変わりか?」
調子に乗っていると、頼常から何だか重要な言葉が飛び出した。
そして神妙な顔付きでジッと俺のことを見ている……。
何だかこれから波乱な人生が待っていそう……。
最早ここに来たこと自体波乱だけど。