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妖怪退治は御所にて  作者: 真田尚之助
第0話ここはどこ?私は……じゃねぇーよ!!
3/4

0-3目覚めは知らない土地で

……


またさっき見た夢だ……血を口から滴らせている鬼。さっきと違うのはあの犬の化け物が鬼の腕を食いちぎったところだけだ。


「早く次の術を発動しろ!!」


その声に反応して無意識の内に動く俺の身体。訳のわからない言葉の陳びを唱えながら右手を犬の化け物に向ける。


するとまた犬の化け物が発光したのち、目にも止まらぬ早さで鬼の喉元に噛み付き、首をへし折った。


首を折られた鬼は糸の切れた操り人形の様に、その巨大な身体を地面の上に伸した。


「よくやった斗真」


……


と……


と……ま……


夢が突然の終わりを告げると、誰かが呼んでいるような声が途切れ途切れではあるが聞こえてくる。


斗真……起キロ……


今度ははっきりと聞こえ、俺の意識がゆっくりと覚醒して行く。頬を撫でる規則的な圧力を感じて。


「んっ……」


目を開ければどアップで映る犬の顔。


ペロペロ……


……おまけに顔を舐められている。


「ぶはっ!!ちょ、何してんだよ!?」


びっくりして飛び起き、俺は服の袖で顔をゴシゴシと擦った。起こすために顔を舐めるとか映画じゃよく見るが、まさか自分がやられるとはね……。


「何トハ……顔ヲ舐メテイタダケダゾ?」


犬にとっちゃ当たり前なのか、不思議そうに顔を傾けながら喋った。


まだ何かベタベタする気がする……。


ベタベタを気にしていたが、ふと周りを見てみれば景色が違う。

部屋の床に座っていたのに、今は土の上。見慣れた家具の代わりに沢山の竹。


わぁ……癒される……じゃなくて!!

なんだよこれ!?一体全体何がどうなってんだ!?


このワンコロ何しやがったんだ?幻でも見せてんのか?


「おい……なんだこれは?」


「ナンダコレハ?ト、聞カレテモナ……チナミニココハ都ダ」


隣にちょこんと座っている奴に聞いてみると、さも当然の様に答えられた。

都ってどこだよ。


「都?」


「ソウダ……斗真達ノ世デハ『京都』ト呼バレテイタナ」


は?京都?何で今の今まで家の部屋にいたのに、どうやって京都に来たんだよ。


「じゃあ百歩譲って聞くけど、何で京都なんかにいるんだ?俺は部屋にいたはずだけど?」


「ソレニツイテハ、サッキ斗真ノ部屋デ話シタハズダゾ?簡単ナコトダ、時ヲ超エタダケダ」


時を超えたねぇ……。

まさに読んでる途中の小説みたいな展開。


「何寝惚けたこと言ってんの?時を超えるなんて小説やゲームじゃあるまいし、そんなことできるわけないだろ。分かったならさっさとこの幻をどうにかしてくれ」


「事実ダガ?」


至極真面目な答え方に、俺の中で一抹の不安が芽生え始める。

こいつが言っていることは本当なのか?だとしたらどうして……。


まさかさっき言ってた戦うとかなんとかが関係してる……?


「んっ……」


そんな時だ隣で気を失っていた健太郎が弱々しく声をあげたのは。

そういや健太郎もいたんだっけ……この犬に気を取られてたせいですっかり忘れてた。


ゆっくりと隣に首を傾ければ、寝惚けたような健太郎の目と視線が合った。


「あ……斗真……」


俺の名前を呼んで視線を俺から周囲へと動かし、ある一点で止まる。


その止まった方を見れば……あぁ納得。


「起キタカ健太郎……」


「え?は……あ?」


ハッハッハッと普通の犬と変わらない荒い息づかい、大きく違うのは喋るのと見た目。


案の定健太郎は寝惚け目をカッと見開いて固まってしまった。

さっき見たことを思い出したんだろうな。


「うわっ!!化けもん!!」


そう叫んで犬から飛び退いた健太郎を、低く唸りながら睨み付けていた。


「失礼ナ……我ハ化ケ物デハナイ」


化け物という単語にやけに敏感だな……そんなに言われるのが嫌なのか?

でも見た感じがまんま化け物だとそれ以外に言い表せらんないって。


「で、今更だけど名前は?」


「オオソウダッタ……ツイツイ忘レテイタゾ。我ノ名ハ(ミヤビ)ヨロシク頼ムゾ斗真」


雅、ねぇ……。


「で、雅?さっき言ってた戦うってのなんだけど、どうして俺と健太郎を連れてきたんだ?もっと強い適任者がいただろ?」


たまたま初めて見かけた人が俺達だからだなんて理由だったら、いくらなんでも泣けてくる。


自分の運のなさにね。


「ム、マダ話シテイナカッタカ……。我ハ魔獣……分カリ易ク言エバ使イ魔ダナ」


「ごめん、全然分かり易くないや」


そう言えば露骨に呆れたような溜め息を吐き出した。

だって仕方ないじゃん、分からないものは分からないんだから。


「仕方ナイ……魔獣デアル我ハ自分単体ダケデモ魔術ハ使エル。ダガ、単体デハソノ力ハ全テノ力ノ半分ニモ満タナイ。主従関係ヲ結ンダ主人ガイテ初メテソノ力ハ発揮サレル」


主従関係を結ばないといけないというのはわかったけど……ってそれが俺!?


「ちょっと待て!!それで何で俺を選んだんだ!?」


そう聞けばペロリと鼻を一舐めし、トコトコと俺に近付いてきた。


「主従関係ヲ結ブニハ互イノ生キ血ヲ杯ニ注イデ飲ミカワサナケレバナラナイ」


「血!?」


ぎぇぇ!!人間の血でも嫌なのにまさかの犬の血を飲めと!?

しかもこいつも俺の血を飲む!?嫌だ!!有り得ないし、絶対嫌だ!!


「自分デ言ウノモドウカト思ウガ……我ハ魔獣ノ中デモ上位二位置スル犬神ダ。ソコラノ平凡ナ力ノ無イ人間ト契約スル気ハ無イカラナ」


だから俺なの?

俺だって平凡な只の高校生だぞ?

力だって平凡だぞ?


「……斗真……何モ力トイウノハ物理的ナモノダケデハナイノダゾ?オ前ハ気付イテハイナイカモシレナイガ、斗真ニハ退魔力トイウ優レタ力ガ潜在的ニアルノダカラナ」


口に出してないのに何故分かった?

なんか怖いんだけど……それよりも何だ?その退魔力って。


「なぁ雅、契約うんぬんはさておき、その退魔力ってなんだ?」


「ソレハコノ後話ス。先ズハ屋敷ヘ向カウゾ。我々ノ到着ヲ待ッテイル者達ガイルカラナ」


そう言ってくるりと向きを変えて歩き出した犬……基雅は、俺達の数歩先まで進んだところで早く来いと言わんばかりに振り向き様に一吠えした。


……気乗りしないけど行くしか現状を把握することが出来なさそうだしな。

俺は放心状態の健太郎を引き摺りながら雅の後を追った。


雅の後をただついて行くと、とある一際大きな屋敷の前で脚を止め、俺の方へとくるりと向きを変えた。


「ココダ」


「ここだと言われてもね……このお屋敷には誰がいるの?」


言い終わるや否や、独りでに開いた門をくぐり、さっさと1人……いや、1匹で勝手に入ってしまった。


……説明もままならぬまま連れられてきたけど……俺達マジでどうなるんだ?

実はお前達を喰うために連れて来たのさ!!ヒーッヒッヒッ!!……みたいな展開だけはごめんだからな。


いい加減うっとおしくなってきた健太郎をひっぱたいて目覚めさせると、俺も覚悟を決め手屋敷の中へと足を踏み入れた。


……


「すげぇ……」


月明かりに照らし出された庭は、まさに歴史ドラマで見るような趣のある日本庭園だった。


大きな池に架かる朱色に塗られた橋、その先には盆栽をそのまま大きくしたような松……歴史とかには興味はないが、やはり俺にも日本人の血が流れている。


こうやってただ見ているだけでも身体の奥底からゾクゾクと何かが込み上げてくるのがわかる。


「戻ってきたか雅……」


美しい庭に見惚れていると、背後から突然声がかかる。

振り返れば白色の綺麗な着物を着て、烏帽子帽を被った男がそこに立っていた。


細くスッとした目、薄めの唇に筋の通った鼻。俗にいうイケメンというやつだろうか……くそっ!!羨ましくなんかないんだからなっ!!


1人で燃え上がる嫉妬を抑える俺をさておき、雅が俺達よりも一歩前にスッと出ると、ゆっくりと頭を下げた。


「只今戻リマシタ……光平(ミツヒラ)様」


どうやらこのイケメンは光平と言うようだ。彼は雅から俺と健太郎へと視線を移し、上から下まで舐めるように見ている。


ちょっ……そんなにじっくり見られるなんて恥ずかしいじゃないか……。


「ほう……この者達がそうか……。1人は力は無いが、もう1人は今は弱いが経験を積めば化けるな。よくやった雅」


「アリガトウゴザイマス光平様」


何だかよくわからない会話をするこの人らに、俺も健太郎も首をかしげる。


「あの……マジで話が全く読めないんですけど……」


恐る恐る話しかけると、光平という男は雅から視線を俺達に向けると、すまないと一声かける。


「すまなかったな、遠路はるばる申し訳ない」


「いや、それはそうと俺達は何故平安時代に連れてこられたのかが謎なんですけど」


「雅……この者達に事情をしっかりと説明してから連れてきたのだろうな?」


健太郎の言葉に光平は目をスッと細めると、隣にちょこんと座る雅を睨んだ。


説明もなにもいきなり連れてこられたんですけど……。


「モ、申シ訳ゴザイマセン……選バレシ者ヲ見付ケタ事デ舞イ上ガッテシマイ……マダ何モ……」


「……はぁ」


申し訳なさそうに言った雅に、光平は頭を抱えた。

頭を抱えたいのは俺達の方だよお兄さん。


「なんということだ……拉致してきたと同然ではないか……」


「あの、俺達また明日から学校ですしそろそろ帰らないと……」


その場に頭を抱えてしゃがみこんだ光平に、健太郎が控え目に声をかけた。


お前こんな時まで学校の心配なんか……はっ!?そうだ!!明日課題出さないと単位が!!


「そうです!!俺なんか課題出さなきゃ留年しちゃうんですよ!?」


俺が焦ったように言うと、光平はキョトンとしたような顔をして俺達の方を見た。


「学校?課題?留年?」


「そうだった……ここが本当に雅ってワンコロが言っていた様に平安時代なら、俺達の時代にある学校とかは分かるわけないか……」


「ム、健太郎!!我ハ"ワンコロ"デハナイ!!誇リ高キ犬神ダ!!」


光平に代わり頭を抱えた健太郎に、雅がさも不服そうに吠えたてる。

いや、雅よ、今はソコツッコんでる場合じゃないんだけど。


俺達には今後の人生が懸かった一大事なんですけど!!

このまま卒業出来なかったら引きこもるしかない。


「学校とは勉学をする場所です。日々勉学に励み、進級の為に必要な理解度の確認の為に課題を出します。その課題を出さないと進級できず、今の学年に留年、つまりもう1年同じ内容をやらなければいけません」


「ふむ……その学校と課題とやらがお主らに重大な事であることはわかった。だがこちらも急を要する……要はその課題を出すことに間に合えばいいのであろう?

雅、お前なら元の同じ時間軸に戻すことなど簡単であろう?」


「ハイ、光平サマ」


「では心配する必要はない。こちらでの事が済み次第お主らがいた時代の、こちらに来る直前の時間に戻そう」


これで文句はなかろう?そう言うように言われれば、こちらも何も言えない。


健太朗はそういう問題じゃないんだけど……と小さく呟いたが。


「でもやはり俺達には何も出来ないのでは?只々普通の生活に慣れた俺達には、妖怪退治なんて大それたこと出来ないと思うのですが……」


その言葉を聞いた光平は、既に健太朗がそう言うのを予想していたのか口角を意味ありげに吊り上げた。


「なに、妖怪退治を図太のド素人にいきなりやらせるわけはなかろう?いきなり戦闘に出して、みすみす大事な金の卵を死なせるわけがない。

安心せよ、お主らの教育は頼常に任せてある」


図太のド素人って……間違ってはいないけどもう少しマシな表現がなかったのかよ、光平さんよ……。


それに頼常って誰なんだ?ここにはまだいないけど。


「言葉に所々棘があるのは突っ込まないけど、頼常って誰なんです?ここにはいないみたいですが」


「斗真よ、焦るでない。頼常は今自らの居にいるはず。雅、すまないが2人を頼常の所に案内してくれぬか?

私はこれから帝のもとへ行かねばならぬ」


ふふふ、と笑った光平はそのまま颯爽と屋敷の門を出て何処かへ行ってしまった。


喚ぶだけ喚んどいて何て勝手な男だ……これが平安時代の人間か。


気の抜けた俺達を笑ってるのか、屋敷のあちらこちらからホトトギスが喧しく鳴きまくっている。

1羽だけなら風流だけど、こうも何十羽も一斉に鳴くと腹が立ってくるな……。

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