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転移者たち

異世界に転移された人たちの話です。


※この話は第三者視点です。


2016/11/20.『重蔵』の名前を『仁』に変更しました。

2017/1/26.誤字修正をしました。

 イズルが無人島に転移したのと同時刻。


 ある大陸の端に位置する広大な砂漠の中に、一人の男がイズルと同じく地球より転移していた。



「ここは……」



 その男の外見は、二メートルを超える巨体にはち切れんばかりの筋骨隆々な身体、そして渋いが整っている厳つい顔といったものだった。

 その巨体にはどうやって来たのか分からないようなピチピチのTシャツが着られていた。


 男の周囲には、初期装備である、簡素な上下の服とガントレットと麻袋、そして精緻な装飾の施された白いハルバートが砂の中に塗れて転がっていた。


 男はそれらを確認すると、初期装備を身につけ、何処へともなく歩き出した。



 風によって舞い上げられる砂が男の茶色い色をした髪の毛の中に入り込む。

 男はそれを鬱陶しいと思いながらも歩いていると目の前に人影が見えた。


 その人影も男の存在に気づいたのか、駆け寄ってくる。


 男はハルバートを構え、一応警戒をする。



「おーい。アンタも転移者か?」



 駆け寄ってきた人影は、長い銀髪を後ろで束ねた鳶色の瞳をした美青年だった。背中には白い鞘に納められた、豪華な装飾の施された白銀の剣を背負っており、白いマントを羽織っていた。


 男は問いかけてきた銀髪の青年に答える。



「そうだ。お前もか」


「ああ。俺は一ノ瀬(いちのせ)拓磨(たくま)だ。向こうでは大学二年だった」



 銀髪の青年、タクマは男に自己紹介をする。



「オレは五十嵐(いがらし)(じん)だ。退役したが軍に所属していた」



 男、ジンもタクマに自己紹介をする。


 すると自らより年上だったことに気付いたタクマは慌てて非礼を詫びる。



「す、すいません。目上の人だったとは知らず」


「いや、そういうのは気にするな。それより、お前強力なスキルに心当たりがあるか?」



 そんなことは気にした様子もなく、ジンは白い空間での出来事を思い出しながらそう聞く。



「……あります。多分、四字熟語で構成されたスキルです。そのスキルだけレベルがありません」



 タクマも同じことを思い出したのか、苦い顔をしながらそう言った。



「そうか。俺もそれを選択した。ってことはここは『生きるのに厳しい場所』ってとこなのか。まぁ、見たまんまだが」



 自らも心当たりがあったのか、ジンは鼻で笑うようにそう吐き捨てた。



「そうですね。これからどうします?」


「どうするも何もひたすら砂漠を抜けるまで歩くしかないだろう」



 タクマの質問にジンは、ため息混じりにそう答えた。


 タクマはそんなジンに向けて提案する。



「俺、《空間魔法》持ってるんで、もしかしたら転移で移動できるかもしれません」



 ジンはタクマのその言葉に、救世主を見つけたかのような目で見る。



「本当か!? というか、四字熟語スキルを取ってよく高位魔法の《空間魔法》を取れたな」


「はい、《百戦錬磨》っていうスキルを選んだんですけど、なんか実は名前負けしたようなスキルだったみたいで」



 タクマはジンの言葉に苦笑いを零しながらそう言った。



「確かに凄そうなスキルだが、違うのか?」


「はい、ただ単にスキルの成長速度が上がるだけらしいです」


「……それはなんとも言い難いな」



 ジンはタクマの持つスキルの効果を聞いて、微妙な顔でそう言った。


 その言葉を聞いたタクマは、今度はジンに聞き返す。



「五十嵐さんのスキルは何なんですか?」



 そのタクマの言葉にジンは思案する。


 この世界においてスキルとはその人の生命線であり、大切な情報だ。それをおいそれと教えてしまっては、もし敵対関係になった時に面倒なことになる。


 そう考えたジンだったが、目上の人と知った時に無礼を詫びたタクマの姿を思い出す。

 そのことからタクマを信じることに決め、一種の賭けとも思える、行動に出た。



「俺が選んだスキルは《忠勇無双》と《身体強化》と《体術》だ」



 ジンは本当のスキルを教えることにしたのだった。



「《忠勇無双》ですか。なんだか強そうなスキルですね」



 ジンの告白に、タクマは何気ないようにそう言う。



「ああ、具体的なことは分からないが一時的に強くなれるらしい」


「強力なスキルじゃないですか」



 タクマは曖昧なジンの答えにそう返す。



「ああ、ここが危険地帯なら、強力なスキルじゃないと困るしな。それより、転移とやらをお願いしていいか?」



 ジンはそう言うとタクマに《空間魔法》の使用を促した。



「了解しました。転移するには、転移先を把握しないといけないので、少し待ってください」



 タクマはそう言うと《空間魔法》を使い、周囲数キロを空間把握する。それは《空間魔法》レベル5だから為せる技であり、能力の高い転移者だからこそできることだった。


 タクマが空間把握を行うと近くに四つの人間の反応があった。



「五十嵐さん。近くに人が四人います。どうしますか?」


「そうか。おそらく俺たちと同じ転移者だろう。ここは同じ転移者同士、協力した方が賢明だろう。順番に回れるか?」



 タクマの報告にジンは少しの間考え込むと、そう提案した。



「可能です。じゃあ、どこでもいいので俺の体に触れてください」



 タクマははっきり請け負うとそう言った。


 その言葉にジンは、タクマの肩に触れると、二人はその場から消えたのだった。







「キャッ!」


「な、なに!?」



 ジンとタクマが空間把握で得た反応のする場所に転移するとその場所には、二人の少女がいた。



「驚かせてすまない。君たちは転移者だろう? 俺たちは同じ転移者だ」



 急に現れた二人に驚いている少女たちに、タクマはそう声をかける。



「え、ええ、そうよ。それよりも今のどうやったの?」



 タクマの声に答えたのは、長い赤色の巻き髪の青い目をした、高校生くらいの少女だった。

 その後ろに隠れるようにするもう一人の少女は、茶髪を肩口まで伸ばした同じく茶色の瞳の中学生くらいの少女だ。

 どちらの少女も整った顔立ちをしているが、赤髪の子の方は気の強そうな顔をしており、茶髪の子は弱そうな顔をしている。


 赤髪の子の言葉を受け、それにジンが答える。




「《空間魔法》で転移したんだ」



 ジンはそう言うと二人に向けて自己紹介をした。そしてタクマもそれに続く。



「五十嵐さんと一ノ瀬くんね。私は芹沢(せりざわ)咲希(さき)。一ノ瀬くんと同じ大学二年生よ」



 そう名乗るのは赤髪の少女の方だ。

 髪の毛と同じ赤いドレスのようなものの上から、黒いマントを羽織っており、腰には銀色のレイピアを帯びている。



「わ、わたしは櫻井(さくらい)百花(ももか)です。高校一年生です」



 サキの自己紹介に続くようにそう言うのは、茶髪の少女だ。

 白いドレスに身を包み、手には白銀に輝く杖が握られている。



「芹沢に櫻井だな。これから、もう二人の転移者と思われる所に行く」



 二人の自己紹介を聞き遂げるとジンはそう告げる。



「転移者のとこに行くって、なんでそんなの分かるの?」



 ジンの言葉を不思議に思ったサキが聞く。


 それにタクマが答える。



「それは俺の《空間魔法》を使ったからだ。お前たちもココに飛ばされたということは強力なスキルを持っているんだろう?」


「ええ、多分《百発百中》ってスキルがそうだわ」


「わ、わたしも、《元気百倍》ってスキルがそうだと思います」



 タクマの質問にサキ、モモカの順に答える。



「二人とも凄そうなスキルだな。どんな効果なんだ?」



 ジンの質問に、二人は簡単に説明する。


 《百発百中》はその名の通り、狙ったものに必ず命中するというスキルで、《元気百倍》は一日に一度、魔力や疲労を全回復できるスキルだと、二人は説明した。



「かなり強力なスキルじゃないか」


「まあね。魔物が出てきたら私に任せなさい」



 タクマが二人の持つスキルを純粋に褒めると、サキは得意げにそう答えた。



「よし。じゃあ一ノ瀬、転移を頼む」



 ジンは切り替えるようにタクマに声をかけるが、それをサキが止める。



「待って、まだ二人のスキルを聞いてないわよ」


「っと、そうだったな」



 ジンはそう言うと、タクマとともに自身のスキルを明かした。



「では一ノ瀬頼む」


「はい」



 タクマはジンの声に答えると、三人を伴い転移をした。







「うぉおお! ビックリしたぁ」



 四人が転移するとそこには金髪碧眼の男が、急に現れた四人に驚き、尻餅をついていた。


 そんな男の服装は簡素な服の上から革製の胸当てをしており、その上に黒いマントを羽織っている。マントに隠れた腰には、二振りのダガーが差さっている。



「これが転移……中々感動するわね! 私も《空間魔法》を選択すれば良かったわ」


「確かに便利ですよね」


「そう言えばお前たちは他にどんなスキルを選んだんだ?」


「お前ら話は後だ」



 転移が完了するとともに、サキが感嘆の声をあげ、それに同調するようにモモカが同意する。そこにタクマも加わり、目の前の金髪碧眼の男をそっちのけで会話を始めようとしたところをジンが止めた。



「オレたちはお前と同じ転移者だ。《鑑定》が通らないだろ?」


「あ、ほんとッス」



 ジンの言葉に《鑑定》をしたのか、間抜けな声で返事をする男。



「あ、申し遅れたッス。俺、早乙女(さおとめ)新太(あらた)ッス。あー、この世界じゃ、アラタ・サオトメの方が正しいんスかね?」



 金髪碧眼の男は自らを早乙女新太と名乗ってから、この異世界での名乗り方に言い換えた。



「確かに。その方が良いのかもな」


「ってことは、ファーストネームで呼んだ方が良いのかしら?」



 アラタの自己紹介を聞き、納得するジンに続き、それに合わせて提案するサキ。



「そうだな、その方が自然だろう。俺はタクマ・イチノセだ。大学二年の二十歳(はたち)だ」



 サキの提案に乗り、この世界での名乗り方で自己紹介をするタクマに続き、残りの三人もこの世界の名乗り方で自己紹介をする。



「タクマさんに、ジンさん、サキさん、モモカちゃんッスね。いやー、頼もしい元軍人さんと可愛い女の子といきなり出会えるなんて幸先良いッスね」


「あ、あの、なんでわたしだけ、ちゃん付け……」



 自分だけ違うモモカがアラタに異議を申し立てる。



「それはこの中でモモカちゃんだけが年下だからッスよ。俺、高二なんでモモカちゃんの先輩になるッス。くぅーっ! 美少女の後輩とか萌えるッス!」


「コイツ、中々危ないヤツね。大丈夫かしら?」



 エキサイトするアラタを侮蔑の視線で眺めるサキ。


 そんな中、タクマが急に慌てたような声を上げる。



「ジンさん! 残りの一人が魔物に襲われています!」


「なに!? すぐに向かうぞ!」



 それを聞いたジンは救援に向かうため、みんなに声をかける。



「えっ? えっ? なんスか? 何が起こってるんスか?」


「いいから早くこっちに来なさい!」


「ま、魔物と戦うんですか……?」



 それぞれがそれぞれの言葉を発しながら、五人は襲われているという転移者の元へ転移したのだった。




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