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第3話 第一村人発見

少し長めです。


※この話は主人公視点となります。


2017/1/25.誤字修正しました。



 低い腹の底に響くような咆哮とともに現れたのは、ファイアーベアと同じくらいの大きさの白い毛色をした褐色肌のゴリラだった。



 そいつはファイアーベアの背後の森の中から現れると、癇癪玉が爆ぜたようなドラミングの音を響かせる。


 新たな敵の登場にファイアーベアは、振り向くと同時に威嚇のポーズをとりながら咆哮をした。



 そんな光景を見ている俺は気が気じゃない。

 一匹でさえ厄介なのに、さらに同クラスと思われる魔物がもう一匹増えたのだ。

 正直絶望的な光景だ。

 強いて希望的観測をするのであれば、魔物同士でやりあってもらって、その内に逃げるという手段だけだ。


 とりあえず、新たな魔物に向けて《鑑定》を行ってみると、シルバーコングという名前だと分かった。


 スキルは《風魔法》レベル3、《身体強化》レベル5、《威圧》レベル4、《剛腕》レベル1だ。


 またもや最大スキルレベルを保有している魔物だ。しかも、《腕力強化》の上位互換と思われる《剛腕》というスキルまである。

 いったい俺はどれ程の危険地帯に飛ばされたのだろうかと頭を抱えるが、それはシルバーコングの行動によって中断する羽目になった。



 シルバーコングは威嚇のドラミングを辞めると同時に、拳を地面につけ、一気にファイアーベアとの距離を詰めた。


 ファイアーベアはそれに右腕を振り上げ迎撃の体制をとる。


 しかし、ファイアーベアは先ほどまでの俺との戦闘で疲労が溜まっていたのか、シルバーコングによる腹へのアッパーで宙を舞うことになった。


 物凄い音を響かせ、殴られたファイアーベアは血反吐を吐き放物線を描きながら、こちらに飛んできた。


 一方でシルバーコングも無傷とは行かずに、ファイアーベアの鉤爪によって左肩が深く抉られ血を流しており、痛みに耐えているのか動く気配はない。



 俺はそれを見ながら近くに落下した、ファイアーベアを見つめる。


 ファイアーベアは、内臓が傷ついたのか、浅い呼吸をしたまま、横たわっているだけだ。



 ──これはチャンスかもしれない。



 俺は(おもむろ)にファイアーベアへと近づく。

 こちらに視線を向けるも攻撃してくる気配はない。


 それを見た俺は、ファイアーベアの背中に素手で触れる。

 そのままスキルを行使する。



 《略奪》スキル。このスキルにレベルは存在しない。

 スキルを奪う対象に素肌による接触をすることで、一定確率で対象からスキルを奪うことができるスキルだ。スキルを奪うには、奪うスキルの名前と正確なスキルレベルを把握していなければならない。

 しかし、対象が死体の場合はスキルを奪うことは適わない。


 この壊れ性能のスキルを今、正に虫の息のファイアーベアへ使ったのだ。


 感覚でスキルを奪うことに成功したことがはっきりと分かる。

 そして新たに獲得したスキルの使い方が手に取るように理解できる。



 スキルを奪った俺はファイアーベアの喉元を刀で刺し、トドメを刺す。


 その光景を見たシルバーコングは、獲物を盗られたと思ったのか、怒り狂った様子で咆哮する。



 それと同時にシルバーコングから何かが飛んでくるのを感知する。

 俺は飛んでくるソレに刀で迎え撃つ。すると刀から魔力が俺に流れてくる。どうやら、《風魔法》で不可視の風の刃を飛ばしてきたらしい。


 仕留めたと思ってたのか、大してダメージを食らっている様子のない俺を見て、シルバーコングは困惑している。


 俺はその先を見て、シルバーコングへと駆け出す。


 シルバーコングはそれを見て我に返り、迎撃体制をとる。


 俺は手に入れたばかりの《火魔法》レベル4を使い、火の玉をシルバーコングの鼻先目掛けて放った。


 眼前へと迫った火の玉を避けようと、シルバーコングは動こうとするが、次の瞬間にはシルバーコングの目の前で火の玉は大きな音を立て炸裂し、強烈な光を撒き散らす。


 爆風と炸裂した光に目をやられたシルバーコングは、目をつぶり腕を振り回して暴れている。


 それを見た俺は、火の槍をイメージして、《火魔法》を発動させる。

 俺の周囲に現れた十五個(・・・)の火の槍は、シルバーコングへと殺到していった。


 その攻撃をまともに食らったシルバーコングは、全身を焼かれ貫かれた痛みで、地面をのたうち回る。


 そこへ高温の炎をイメージして、《火魔法》を行使する。


 現れた蒼白い炎の玉は、シルバーコングの足へと飛んでいく。

 着弾した一つの火の玉は、シルバーコングの下半身を半ばまで焼け落とした。


 下半身を失い、身体中から白い煙を上げるシルバーコングは先ほどのファイアーベア同様に虫の息だ。


 俺は刀を抜いて、警戒しながらもシルバーコングからスキルを奪い尽くす。何度か失敗しながらもスキルを奪い尽くされたシルバーコングにトドメを刺す。



「ふぅー。死ぬかと思った」



 やっと戦闘が終わった俺は一息着くのだった。







 死体を残しておいても、虫が集るだけだと判断した俺は二頭の魔物を《火魔法》で燃やし尽くした。



 この世界の魔法は、詠唱を必要としないのか、全て無詠唱で行使できる。そして威力はスキルレベルに依存し、技は使用者の発想力に依存する。


 ファイアーベアが火の玉しか放ってこなかったのは、人に比べて知能が低かったからだと分かった。



 脅威が去ったところで、改めて周囲を眺める。

 滝壺から流れ出る水が成す、川の周辺は先ほどの戦闘で荒れている。


 それらを眺めながら滝へと近づくと、滝の一部が黒くなっていることに気づいた。


 滝の裏側を見てみると、崖の中腹ほどに滝に隠された洞窟あることに気がついた。



 何かの巣だろうか? しかし、滝の裏側のしかもあんな中途半端な位置に巣なんて作るのだろうか?



 滝壺から舞い上がる水飛沫に濡れながら、その洞窟をジッと眺める。



「一先ず行ってみるか」



 とりあえず様子を見に行ってみることに決めた俺は、シルバーコングから奪った《身体強化》レベル5を駆使しながら、崖を登り目的の洞窟の中へと入って行った。







 洞窟は幅三メートル、高さ二メートル半くらいの大きさで、その広さを保ったまま、奥へと続いている。


 洞窟の入り口から外を眺めてみる。


 洞窟からは流れる落ちる水しか見ることは適わず、外からもこの洞窟を覗き見ることは適わないことが分かる。



 先ほど奪った《気配察知》スキルを使って警戒しながら洞窟の奥へと続く道を進む。

 洞窟であり、入り口は滝に塞がれているとあって中は暗く、先が全く見えない。


 仕方ないので《火魔法》を松明代わりにして、洞窟内を照らすと、洞窟は真っ直ぐと十五メートルくらい進んだところで行き止まりになっていた。

 特に洞窟内には生物は居なかったが、洞窟の行き止まりのところには、そこら中に宝石と思われる色とりどりの石が存在していた。

 その内の赤い石、ルビーと思われる石を掘り出してみた。


 そのまま鑑定してみたところ確かにルビーであった。

 それが突き当たり付近の壁や天井、床といったところにたくさんはまっている。



「これ、全部宝石か……」



 《火魔法》によって指先に生み出された火が、それらの宝石たちを輝かせる。



 とりあえず、この宝石のことは保留にしてここを拠点にして、食料を探そう。


 だいぶ陽が傾き始めているから、今日はここで野宿をして明日人里を探してみよう。



 そう考えた俺は、食料を求めて森に向かうのだった。







 洞窟を出た俺は、滝の上に行ってみることにした。

 といっても滝の上に行くには、目の前にある断崖絶壁を登らなければならない。

 迂回して上に登ることも考えたが、崖は森の中まで広がっていて迂回するには、かなり大回りしなければならないことが予想されたため、仕方なく崖を登ることにした。



 身体強化系のスキルを駆使して崖を登る。

 ロッククライミングなんてしたことがなかったので分からなかったが、スキルのお陰か割とすんなりと登ることができた。



 崖の上に登り切ると、下に広がる森を一望する。

 滝から続く川を辿って見ていくと、遠目に海が見えた。


 下流のすぐ先に海が見えるということは、反対側に街やら村がある可能性がある。

 そんな憶測を立て、背後を振り向いた俺の目に飛び込んできたのは、一つの山だった。

 しかも、木など生えていない赤茶げた山だ。

 そこから導き出されるのは、火山。


 どうやら人里に向かうには火山を迂回して行かないといけないらしい。


 それよりも火山があるということは、今横に流れている川の水が飲めるのか心配だ。


 試しに川の水を鑑定してみた所、飲料水として使うことに何も問題無いことが分かり、一先ず安心した。


 そんなこんなことがありながらも食料探しを再開した。







「これもダメか」



 俺は手にした青い果実を放り捨てる。


 先程から、食べれそうな果実が見つかりはするのだが、どれも鑑定結果に睡眠毒やら麻痺毒といった致死毒では無いにしろ毒性のあるモノしか見つかっていない。


 日もだいぶ傾き、そろそろ夕方になり始めようとしていた。

 そんな中、若干の焦りと共に、食べれそうな木の実を探す。


 しばらく、探しながら歩いていると、周囲に甘い香りが漂ってきた。


 匂いにつられるようにして、匂いのする方向に向かってみると、桃のようなピンク色をした果実を実らせた木がなっていた。


 俺は《風魔法》を使い、その果実を取る。

 落ちてきた果実を受け止めた所で、急に何かに左足を掬われた。


 左足を見てみると、木の枝のようなモノが足首に巻きついていた。


 足を掬われ宙吊りになるところで、足に巻きついているモノを刀で切り落とし、先ほどの場所から距離を取る。


 周囲を見渡してみると、木の枝のようなモノは、先ほどの果実の実った木から伸びていた。

 その木を鑑定して見ると、ガイルトレントという名前の魔物であることが分かった。


 慌てて手元の果実を鑑定してみると、こちらは毒などもなく、食べれることが分かった。



 せっかくの食すことの出来る果実が見つかったんだ。

 ここで殺すのはもったいない。



 俺は《風魔法》でガイルトレントに実っている果実を切り落とすと、《身体強化》を使い、襲いくる木の枝をかわしながら、落ちてくる果実をアイテム袋の中にしまっていった。







 ガイルトレントからある程度の果実を確保した俺は拠点とした洞窟へ戻るため、森の中を歩いていた。


 ここまで来るのに魔物との戦闘はゼロだ。

 その理由はシルバーコングから奪った《威圧》レベル4のスキルのおかげだ。


 たまにエンカウントする魔物は威圧すると脱兎の如く逃げていく。そのおかげで戦闘をせずに済んでいる。

 また、《略奪》スキルで奪えるような目ぼしいスキルを持った魔物もいなかった。


 《略奪》スキルは既に取得しているスキルは奪うことが出来ない。例え、スキルレベルが上回っているものでもだ。その為、奪うスキルも慎重にならざるを得ない。


 遭遇する大体の魔物のスキルはレベル3で、良くてもレベル4だった。

 どうやらスキルレベル5を所持していたファイアーベアとシルバーコングはここら一体のボス的存在だったらしい。

 それで、俺とファイアーベアが派手に戦闘しているのを見て自分の縄張りを荒らされたと思ったシルバーコングがやって来たわけだ。



 そんなことを考えながら、今も目の前に現れたエミューモアというダチョウのようなデッカい鳥の魔物に威圧する。


 この魔物は先ほどから何回か遭遇している。

 ここら辺に群れを成しているのか、よく見かける魔物だ。このエミューモアは、各個体が《脚力強化》というスキルを持っているが、スキルレベルは3だ。どうせ奪うならもう少しスキルレベルの高いのでなければ割りに合わない。


 贅沢を言っているのは分かるが、ファイアーベアやシルバーコングの持っていたスキルを考えると奪う気も失せると言うものだ。



 そんなこんなで今回も《威圧》をかけて追い払おうと思っていたのだが、今回は何故か逃げていかない。

 直立不動のまま、こちらを見つめてくる。


 威圧するのをやめ、俺も見つめ返してしばらく様子を見ていると、目の前のエミューモアの身体が急にドロドロと溶け出した。


 いきなりのことに驚き、警戒していると、溶けたエミューモアは、体色を半透明に変え、バスケットボール大のスライムに変化した。


 そのスライムを恐る恐る《鑑定》をしてみる。


 すると、トランスライムという魔物であることがわかった。

 種族固有スキルに《変身(トランス)》、《吸収》というスキルを持ち、通常スキルに《記憶》レベル3を持っていた。


 スキル構成から吸収した生物や物質に身体を変身させることができる魔物だと判断した。



 そんなトランスライムは、こちらを見つめたまま──目が無いのでこちらを見ているのか定かではないが──動かない。


 何故、動かないでジッとこちらを見ているのか考える。


 すると一つのゲームで出てくるスライムのことを思い出す。



 ──仲間になりたそうにこちらを見ている。



 もしかして、仲間になりたいのか?


 そこでさらに思い出すのは、俺が持っている、キャラメイク時に選んだもう一つのスキル。


 《従魔術》。つまり、モンスターテイムだ。

 しかも、スキルレベルは最大のレベル5。



 俺は意を決して、トランスライムへと歩み寄る。

 こちらを警戒した様子はなく、ジッとこちらを見たまま不動だ。


 そのままトランスライムに触れ、《従魔術》スキルを使ってみる。


 すると、トランスライムと俺との間に何かパスのようなものが繋がった感覚を覚えた。



 このトランスライムの考えていることが手に取るように分かる。


 この魔物の特性は、予想通りで吸収したモノに変身することが出来るらしい。

 先ほど、エミューモアの姿だったのもエミューモアを吸収したからだと思われる。


 試しにエミューモアになって貰うようお願いしてみる。


 トランスライムは俺が言葉にしてお願いする前に既に変身を始めていた。


 トランスライムの半透明の身体がみるみる色づいていき、体積的にどう足掻いても不可解な変身を遂げた。


 目の前にはバスケットボール大の大きさから、その体積を増やし、二メートル強のエミューモアになったトランスライムがいた。


 鑑定してみると、名前がトランスライム、変身エミューモアとなっていた。

 そして驚くことにエミューモアのスキルを所持していた。

 所持していたスキルは、《疾走》、《持久力強化》、《脚力強化》だ。いずれのスキルもレベル3だ。



 エミューモアの身体に触れてみる。


 驚くことに肌触りもエミューモアのソレだった。柔らかい毛並みを堪能していると、畳んでいる大きな翼あたりの毛並みが赤黒く染まっていることに気づいた。

 翼を持ち上げて見てみると、胴体の部分が抉れていて内臓やら骨やらが見えていた。


 その光景に気持ち悪さを覚え、手を離す。

 どうやら、このトランスライムはエミューモアの死体を吸収したらしい。

 変身できるのは、吸収した時の状態のみで欠損している部分は変身時に補填されることはないらしい。


 例えば、片腕の無い人間の死体があったとしよう。それをトランスライムが吸収して、それに変身したとすると、片腕の無い人間にしか変身出来ないわけだ。

 他にもアキレス腱の切れた人間を同じように吸収して変身したとしても、アキレス腱の切れた人間に変身するので歩くことは適わない。そしてそれを魔法で治癒することも出来ない。それは怪我をしているわけではなく、元々そういうモノだからだ。


 つまり吸収させるなら、欠損部分を治してから吸収させた方がいいということだ。



 俺はなかなかの従魔を得たことで、気分が良くなり、意気揚々といった感じで拠点へと戻った。







 拠点へと戻る道すがら、従魔なら名前が必要だな、とトランスライムにつける名前を考えながら、歩いていると下流へと流れ落ちていく滝へとたどり着いた。



 そのまま崖から降りようとしたところ、崖の下に人がいることに気づいた。


 桃色の髪をツインテールにした少女が、俺が焼いたファイアーベアとシルバーコングの死体を眺めている。



 こんなところに人が?

 しかし、桃色の髪とはまたファンタジーな。



 俺はこの世界に来てから初めて見る人に若干興奮を覚えながら、死体を木の棒で突つく少女の様子を窺うのだった。




次回は第三者視点に戻ります。

以降は第三者視点が続きます。

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