5話
「いたぞ! スモールゴーレムだ! いけっ! ミカ! かいりき!!」
「ねえユウマ! 私、ポケ〇ンじゃない!」
スモールゴーレムを見つけた俺は、ミカがいるのを良いことに大声でスモールゴーレムの位置を指さし教える。
それと同時にトレーナーとして指示を出したのだが、なんか怒られた。
「げっ! 向こうからも二体来やがった!!」
ようやく一体のスモールゴーレムを発見したと思ったら、その一体を倒し終えていないのにもう二体のスモールゴーレムがやってきてしまった。
が、心配なんてこれっぽっちもない。
「いけミカ! ここはお前の独壇場だ!」
「ねえユウマ! なんでそう言いながらユウマは私に背を向けてるの!? なんで『逃走』スキルなんて発動させてるの!? なんで『潜伏』スキルも発動させてるの!?」
「そりゃあここから離脱するためだよ。適材適所。昔の人はいいことを言うよな」
「いやいやいやっ! 昔の人を言い訳に自分だけ安全な場所に逃げるのってどうなの!? 普通ここは男のユウマが一番危険なところに行って、女の私が安全な場所にいるのが普通だと思います!」
「バカ野郎っ! そんなことしたら俺が死んじゃうだろ! 俺はコインを百枚集めても、緑のキノコを食べても一アップしないんだよ!」
「ユウマの鬼畜! 外道! キチマのゲドマ!!」
ミカに意味のわからない罵倒を浴びさせられながら俺は『逃走』、『潜伏』スキルを併用しながら安全な場所まで退避。
ここ最近で気づいたことなのだが、今まで同時使用ができないと思われていた『潜伏』と『逃走』の併用が証明された。
どういうことなのかというと、今まで俺は『逃走』は敵に発見されていないと使えない。『潜伏』は敵に発見されていると使えない。ということから二つは同時併用できないものとばかり考えていたのだが、それは間違いだったようだ。
どうやら『逃走』は敵に発見されている時に使ってさえいれば、スキル側が使用者が安全圏まで逃げられたと認識するまで効果は切れないらしい。逆に言えばスキルに安全圏と認識されない程度に敵から距離を取り、敵の視野から外れている内にスキル『潜伏』を使うと同時併用できるようだ。
これは本当に大きな発見だった。
「ホント、いい発見だった。どうせならもっと早く知りたかったけどな。……おっ? ミカのやつなんだかんだ言いながら一体やったのか。あ、転んだ。あーあ、掴まれて投げられてるよ。いたそー、俺なら絶対に死んでるね」
上手く安全地帯まで退避した俺は近くの高い岩場に乗ってミカの様子を見守る。
どうやら俺が戦略的撤退をしている間にミカはスモールゴーレムを一体やつけたようだ。が、それでもスモールゴーレムの数は二体。下手な冒険者には辛い状況だ。
「いったたぁ……。さすがに投げられると痛いなあ……」
スモールゴーレムに投げられたミカはいくつかの岩を投げられた勢いのまま破壊し、勢いを殺す。
そのままなんにもなかったかのように立ち上がり、装備に着いた砂を払いながらスモールゴーレムを睨みつけた。
「もう、おこっちゃったもんね! ユウマに対する私の恨みも全部ぶつけさせてもらうから!」
あーあ、スモールゴーレムのやつら、ミカを怒らせちゃったよ。あいつらの敗因はミカを怒らせたことだな。
「よーい……ドンッりゃあ! 」
クラウチングスタートを決めようとして、勢いよく足で地面を蹴った瞬間に砂に足を滑らせ地面にキスをするミカ。ある意味うらやましい地面さんである。
「もうもうもーうっ!」
地面から顔を離し、改めてクラウチングスタートを決めるミカ。一瞬で十メートルは離れていたスモールゴーレムまで近づき、そのまま突撃する。おそらく止まることなんて考えていなかったのだろう。
しかし、『金剛力』という名のチートのおかげでスモールゴーレムは突撃された足を粉々にされて、残るは上半身のみとなる。
勢いを殺しきれずにスモールゴーレムに突撃したミカは、一体のスモールゴーレムを通しただけじゃ勢いを殺しきれなかったようで、もう一体のスモールゴーレムの懐まで飛びこんでいく。
スモールゴーレムはゴーレムという名前がついているだけに動きはもっさりとしていて遅い。俺ですら『逃走』スキルを使って落ち着いて行動すれば、まず攻撃は当たらない。俺ですら当たらないということは『金剛力』で身体能力が上昇しているミカならスモールゴーレムが反応するよりも早く懐に潜り込める。
そう、それこそ今みたいにある程度勢いが殺されていたとしても。
「なんか予定とは違うけど―――どっ、せい!!」
もう一体のスモールゴーレムの懐で止まったミカはそのまま体制を整え、スモールゴーレムが咄嗟に攻撃できない範囲に入ったことをいいことに、そのまま跳脚してスモールゴーレムの顎にアッパーを決める。
顎を殴られたスモールゴーレムは頭をすべてなくし、胴体のみとなった。
「ホームラン! いっきまーす!」
ミカは何を思ったのかそう発言し、頭をなくしたスモールゴーレムの足を掴み、振りかぶる。それはもう野球のバッターのように。
「とりゃあっ!」
ミカはそのままスモールゴーレムをフルスイングし、頭をなくしたゴーレムを足をなくしたゴーレムに当てる。二体のスモールゴーレムは見事に原型をなくし、ただの岩の塊になった。
こうしてクエストは終了。
しかし、ミカは―――
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!? なんで私飛んでるのぉぉぉぉぉぉお!!」
スモールゴーレムをフルスイングしたまではよかったのだが、どうやら勢い余って運悪く残ったスモールゴーレムの足に引っかかり宙を飛んでいる。その様子はどこかのボールを七つ集めると願いの叶う漫画の○○パイパイのようだった。
っていうか、どうやったらああなるんだ? 物理法則無視しすぎだろ。
「ありゃあ、結構飛びそうだな……って。なんかこっちの方に来てね? なんか俺ってあの軌道に立ってるような―――。わあぁぁぁぁぁぁあ!!」
「ユウマーっ! 助けてーっ! 止めてーっ!」
こっちに飛んできながら俺を発見したミカが涙目で訴えてくる。
「無理無理無理っ! 無理だって! むしろこっちくんな! どっか行け!」
「いやだーっ! 死ぬときはユウマも一緒だよーっ!」
「状況によっちゃめっちゃうれしいセリフだけど、こんな死ぬ方は嫌だーっ! 嫌すぎるーっ!」
だれが突然飛んできた幼馴染とぶつかって死にたいもんか! それで運よくキスして死ねたとしても嫌すぎるわ!
しかし神はこの世にいないらしく、無情にもミカは勢いを殺せぬまま俺へぶつかった。
この世に神はいない。神は死んだ。
そう言えば、本当にこの世界って神様いないんだった。いるのは女神ラティファだけだったわ。
「わにゃあ!」
「ハイザック!」
あのスピードで突っ込んできたミカをどうにか受け止め切れた上に、死なずに済んだ俺。ケガをしていないのも不幸中の幸いだ。ここにはアイリスがいないので、このままミカにおぶられて街まで帰るはめになるところだった。
しっかりと受け止められたわけじゃないので、ミカと子供の時のように砂に塗れながらくっついているこの状況で俺は言った。
「……ミカ、俺になにか言うことはないか?」
「えーっと、ありがとう?」
「普通ここはごめんなさいだろ!」
こうしてスモールゴーレム三体討伐は無事終了した。




