2話
「今日のクエストなんだが、たまには二手に分かれてみないか?」
朝食を取り、洗濯物を干し、いよいよクエストを受注しに行こうとみんなが装備を整える中、俺はそう切り出した。
「えーっと。どうしてですかユウマさん? みんなでクエストを受けた方が楽しいですし、危険が少ないと思うんですけど……」
俺の意見にアイリスがおずおずと手を上げて言った。
思わずその小さくて可愛らしい手に飛びつきそうになる衝動をグッと堪え、お兄ちゃんらしくかわいい妹に説明をする。
「アイリスの言う通りみんなでやった方が安全だし楽だ。でも、効率は悪い」
「効率……ですか?」
「ああ。例えばみんなで一回五千ギルのクエストを午前中と午後の二回受けたとする。そうすると一日の合計金額は一万ギル。でもこれが二手に分かれると二倍になって二万ギル。一人一人の負担は増えるが冬はそんなに危険な魔物はいないって話だし、こっちの方が効率的だ」
前にアイリスに聞いた話だが、魔物はその季節ごとに強さが変わるらしい。というよりは危険度が変わるらしい。
例えば夏は一年の内で一番魔物が活発になり一番強い時期らしい。夏の暑さで魔物も人間と同じく苛立ち、繁殖期だということもあって気がたっているそうな。
逆に冬は今言った通り魔物もおとなしくなる。冬の寒さから魔物たちも住処から出たくないらしく、繁殖期も終わり、冬を乗り越えるための食べ物確保ぐらいでしか外を出歩かないんだとか。中には冬の方が夏より活発に活動する魔物をいるらしいが、それは例外と言ってもいいほど少ないらしい。
あとの春と秋は平均的らしく、特に凶暴でもおとなしいわけでもないらしい。なにか怒らせるようなことをすれば怒るし、何もしなければ何にもしてこない。ある意味では一年のうちで最も稼ぎやすい時期なのかもしれない。
「と、まあそういうわけなんだが、どうだ? たまには二手に分かれてみないか?」
「私はそんなに難しいクエストじゃなければいいと思います。難しいクエストだと危険がありますけど、簡単なクエストなら二人でもどうにかなるかと」
再びの俺の声にアイリスがまずは賛成してくれた。
続いて他二人の方へ顔を向ける。
「私もたまにはいいと思うよ。ユウマの言う通り効率的だし、なんか競争みたいで楽しそうだし」
「競争? ミカ、それってどういうこと?」
「えっとねー。例えば私とリリーナ。ユウマとアイリスちゃんが組んで、一日でどれだけ稼げるか勝負するの。それで勝った方が負けた方の夕食をおごるーとか面白そうじゃない?」
「……いいわね。さすがミカだわ。私の次にこのパーティーの中で頭がいいわね」
ミカの案にリリーナがすぐに賛成の意を示す。
が、リリーナの言葉には俺は意を唱えたい。
「異議あり!!」
というわけで異議申し立てをしてみた。
「なによユウマ。私の言うことに何か文句があるわけ?」
「あるある。ちょーーある!とりまリリーナが言うことにはすべて異議がある」
「なによそれ! ただの言いがかりじゃない!」
いつものごとくリリーナ弄りを挟みながら本題に移る。
「このパーティーの中で頭のいい順に並べたら一番は俺だろ! 次にアイリス」
今までの功績から見て、このパーティーで頭がいい順に並べたら絶対にこうなる。街中百人に聞いてみた! みたいなことをやっても必ず、確実、必然的にこうなるはずである。
「なに言ってるのよユウマ? どう考えても私の方が上でしょ? ユウマなんて私に比べたら―――カスね」
「おう上等だ! ならミカが言った通り今日のクエストで勝負しようじゃねえか! 内容はどっちがより効率を考えてクエストを受けられるか。勝敗はさっきミカが言った通り、今日一日の稼ぎが多かった方の勝ち! ついでに罰ゲームも今日の夕食なんて生ぬるいのじゃなくて勝った方の言うことをなんでも一つ聞くこと! 異議はあるか!」
「いいわ……。いいわよ! 面白そうじゃない! まーあ、私のいるチームが勝つことは確実だけど、挑まれた勝負を受けるのも上の者の役目よね」
俺の挑戦に余裕の表情で杖を構え、意気込むリリーナ。
そんなリリーナに俺は片手にショートソード、もう片方の手に銃を構え臨戦態勢で応じる。
俺とリリーナの間に火花が散りそうなほどの眼光がぶつかり合い、今すぐにでも啖呵を切って喧嘩が始まりそうな険悪なムードが漂う。
が、俺だってバカじゃない。普通に力勝負になればレベルの高い能筋魔法使いリリーナに分があることくらい理解してる。そのためのルール付きの勝負だ。
「それじゃあチーム分けをしようぜ! グッパーでいいよな?」
「ぐっぱー……ですか?」
「ユウマ。私はわかるけどアイリスちゃんとリリーナにはちゃんと説明しないと」
「ああ、そうだな」
まさかこの世界にじゃんけんがないとは思わなかった。
ホント、俺たちにとっては当たり前のことがこっちの世界では当たり前でないどころか知識としてないんだから困る。
こっちの世界に来てもう半年と少しが経つが、未だに日本にあってこの世界にないことの把握ができていない。
電化製品がないとか、計算は暗算しかないとか、多少は英語があるのにそれを日本語に訳すと通じないとか、ある程度のことは理解したが、今のじゃんけんの様なあって当たり前感があるものに限っては今でもよく間違える。
ちなみにこの世界のじゃんけんの代わりは話し合いか、冒険者なら力比べらしい。らしいっちゃらしいが、それだと俺が困るのでこれからはじゃんけんを布教していくことにする。
さっきとは逆に俺がこの世界に来て順応したことも多い。まずこの世界の言葉を覚えた。転生ボーナスだと異世界文字を頭が勝手に日本語訳してくれるだけなので、読みは出来ても書けはしない。この世界にも日本の様にひらがな、カタカナ、漢字の様な三つの言葉の種類があり、ひらがなの役割のイ文字、カタカナの役割のロ文字、そして最後に漢字の役割のハ文字というものがある。
なんでそう言う呼び方なのかはわからない。つなげるとイロハになるのも少し気になる。
が、そこまで深く考える必要もないだろう。
そして俺はその三つの種類の文字の内、イ文字とロ文字を完全に習得していて、現在は最後のハ文字の習得をしようとしている。読みは転生ボーナスで問題ないが、書きが辛い。さっきの説明からすると半年かけてひらがなとカタカナしか覚えられていないのか、と思われるかもしれないが、仕事をしながら改めて新しい言語の習得というのはやっぱり難しいもので結構な時間を費やす。
それにこの世界では文字の読みはロ文字までが一般的で、外の店の看板などはみんなイ文字かロ文字だ。つまり俺はこの短期間でこの世界の一般的な言語までは習得したことになる。
割りと早い内に文字を覚えられたのは日本にいた頃、よく異世界物で日本語ではない文字が出てくるのを必死に解読しようとしていたのが功をなしたのかもしれない。
俺が変なプライドを持って年下のアイリスに文字を教わりたくないだとか、リリーナに聞くのは俺のプライドが許さないとか思ってなければもう少し習得が早かったかもしれないが、そこは男の意地である。
ちなみにミカはこの世界に転生時、俺と同じく読みはできるようになっているので、この世界の文字を読めるが、書きは一切できない。
と言っても、さっき言った通り一般的に使われるのはロ文字までで、ハ文字は貴族の様な上級階級の連中のみが使うものらしいので別に覚える必要はないらしい。
この辺りはアイリスとリリーナに聞いた。
余談だが、アイリスはイ文字の書き取りができてロ文字の読みまでができるらしい。リリーナは意外なことにハ文字も習得しているらしく、ためしに「あれなんて読むんだ?」と、読めるハ文字をリリーナに尋ねたところ「え? ユウマあんなのも読めないわけ? しょうがないわねー、この未来の天才大魔法使いであるリリーナ様が教えてあげるわ」とか言って、見事に正解しやがった。
もちろん、ナメた口を聞いた口にはそのあと大量の『スプラッシュ』による水が放たれた。
話が逸れたので元に戻すと、俺はアイリスとリリーナに簡潔にじゃんけんのルール、そして今回のグッパーのルールの説明をした。
説明と言ってもグー、チョキ、パーの形を教え、どれがどれに対して強いのかを説明し、ミカと何回か実践して見せたぐらいである。
アイリスとリリーナは数回の説明ですぐに覚えてくれた。アイリスは少し不安げに確認してくることもあったが、ことリリーナに関しては最初の口頭説明一回だけでじゃんけんとグッパーのやり方を完全に理解し、ためしに俺と練習してみたところ、俺がためしに負けたのに「俺の勝ちな」と言ったら、すぐに「違うでしょ! どっからどう見ても私の勝ちじゃない! ねっ! ミカー」と騙されなかった。
伊達に未来の天才大魔法使いと名乗っているわけではないのかもしれない。それにこの世界では一般的ではない、貴族などしか使わないというハ文字を習得しているというし、こいつは本当に天才なのかもしれない。バカと天才は紙一重、なんていうが、確かにリリーナを見ていると信じられるから困る。
「それじゃあルールの確認はオッケーだな! 本番行くぞー! じゃーんけーん……ポン!!」




