1話
お久しぶりです。
毎日投稿ではないですが、これ以上間隔を空けたくなかったので、毎週一回以上の投稿ペースで上げていこうかと思います。
ヴォルカノを討伐し、俺の借金生活延長が確定されてから二週間が過ぎた。
世間では冬という季節に突入し、本日もその話に逸れず寒い寒い冬の日。
窓には部屋の温度と外の温度の差でできた水滴がいくつも張り付いており、白く外が見れない。ただ差し込んでくる光だけが朝を告げている。
俺は月曜日のサラリーマンの気分を感じながらまだだるい体を無理やり起こす。寒くてもう一度布団に入りそうになる体を動かし、パジャマ代わりの服からいつもの軽装に着替える。
そのままではこの時期はさすがにもう寒いので、先日買ったマントの様な物を上から羽織る。見た目は薄いのでこんなんで暖を取れるか! と言いたくなるようなものなのだが、なんでも魔力を込めて編み込まれたものだとかで想像以上に温かい。
ようやく着替えを終えた俺は、さらなる暖を求めて暖炉のある居間へ両腕で体を抱くようにしながら少しでも暖を取りつつ向かう。
いつも通りの行動の後はいつも通りの結果につながるものである。
つまり居間にはアイリス、リリーナ、ミカの三人がいた。
「あ、ユウマさん。おはようございます。今温かい飲み物入れますね」
「サンキューアイリス。できれば愛情たっぷりの方がお兄ちゃんはうれしいな!」
「はい。少し待っててくださいねー」
ホントに最近アイリスが俺の扱いに慣れてきている。出会った当初のアイリスなら「え!? ああああ、愛情ですか!? わ、わかりました! 頑張って入れてみます!」とか言ってくれたと思うのに、今ではもう冷めた反応しか返ってこない。
これが倦怠期ってやつか。
「ユウマ、朝から気持ち悪いから少し外に行きなさいよ」
こうして俺を罵ってくるのは能筋魔法使いで名の通っている自称未来の天才大魔法使いリリーナだ。
本人は心の底から天才だと思い込んでいるらしいが、周りから見るとただのからかいがいのあるバカである。俺もよくストレスがたまった時にはお世話になる。
「気持ち悪いとはなんだ気持ち悪いとは。こんなクールでナイスガイな俺を捕まえて気持ち悪いなんてお前おかしいぞ。眼科行ってこい眼科。なんなら精神科もついでに行ってこい」
「なによガンカって。あとセイシンカとかいうのもわかんないわよ。全く、ユウマ語は私たちには伝わらないんだから使わないでよね」
そう言ってリリーナは俺に興味をなくしたように暖炉の方へ向かいなおる。
ちなみにリリーナの言うユウマ語というのは、いわゆるこの世界にはなくて日本にはあったものの言葉である。
この世界には眼科も精神科もない。風邪に効く薬みたいなものはさすがにあるが、ばんそうこうのような傷を塞ぐものはない。それはこの世界が異世界で、そんな傷は魔法で治せてしまうからである。魔法が使えない人は普通に布や包帯を使っているらしい。しかしこの世界であっても魔法で治せないものはあるらしい。
病気は魔法では治せない。
これがこの世界でのルールらしい。傷は癒せるし、ある程度のことには対応できる。それでも蘇生魔法で本来の寿命以上に生きたりできないように病気を治すことは魔法ではできないようなのだ。
ゲームで蘇生魔法あるんだから死んだ人も生き返らせちゃえばいいじゃん。と思う場面でそれができないのも、もしかしたらこういった原因があるのかもしれない。
「ミカ、少しどいてくれよ。俺も暖炉のやっかいになりたい」
いい加減立っているのにも疲れてきた俺は、リリーナと同じく暖炉の前を占領しているミカに少しばかり場所を譲るように声をかける。
現在、暖炉の前はリリーナとミカが独占している。これでは部屋に暖かい空気がいきわたらない。
「やーだよー。べー」
ミカはそう言って首だけをこっちに向けてあっかんべーをした。
これで可愛くなかったら俺はこいつを暖炉の中に放り込んでいた自信がある。
「いいのかミカ。この家の暖炉の主導権は俺にあるんだぞ? リリーナじゃ魔力のコントロールが下手で暖炉にだけ火をつけるなんて無理だし、アイリスは火属性の魔法は使えない。俺が作ったライターだって今は俺の手の中。つまり暖炉の付け消しは俺の自由だ」
「ひっ、卑怯だよユウマ! そんなの横暴だよ! 鬼畜だよ!」
「そっ、そうよユウマ! 暖炉はみんなの物でしょ! 私たちにも使う権利があるはずだわ!」
俺の言葉にリリーナとミカが慌てて俺を止める。
この家の暖炉に火をつける方法は二つしかない。俺が『鍛冶スキル』によって作り出したライターで火をつけるか、俺の火属性魔法でつけるかだ。
朝は基本的に最初に起きてきた人がライターで火をつける。じゃないと俺が毎朝かなり早い時間から起こされるからだ。ライターを作ったのだって朝の時間を邪魔されるのが嫌だったからだ。
リリーナも一応火属性の魔法が使えるのだが、俺と違って火力が高すぎて上手く暖炉に火をつけることができず、中の薪ごと完全に燃やしてしまう。
そのため実質火をつける方法はその二つなのだ。
「……うー。わかったよー。……はい」
「し、仕方ないわね……。暖の為だもの……」
ミカとリリーナは結局暖とプライドを天秤にかけ、暖を選び取ったらしい。二人で同じ方向に少しずつずれ、俺が入るスペースを空ける。
が、最初に一回断った罰は重い。俺は根に持つタイプなのだ。
「何やってるんだ二人とも? ここはこの屋敷の主人である俺が真ん中だろ? なんでミカが真ん中に陣取ってるんだよ?」
俺は真ん中以外は許さない。
「えーっ! ……まあいっか。私は別にいいよー」
「いくら私が美人でかわいいからってそうやってすぐに近寄ろうとしないでくれる! 触れられるだけでけがれるのよ!」
俺のさらなる注文をミカにはすんなり受け入れられたが、リリーナは抗議の声を上げる。
そんなリリーナの言葉に……
「そ……そんなに言わなくてもいいだろ……俺だって傷つくんだぞ……」
少し涙目になっていた。
「え!? ちょっ! なんなのよ!? いつもはあんなに強気のくせになんでこういう時は言い返してこないわけ!?」
俺の珍しい反応にリリーナが反応しきれずに戸惑った反応をした。
リリーナのあの一言。普通の人にならそんなに効果のない一言だが、こと俺にとっては結構な効果を示す。
小さい時のことだ。まだ純粋で世の中のどんなことで楽しく見えて、コミュ症でも、引きこもりでも、ニートでもなかった、まだかわいげのあった時のこと。
俺は学校にいた。この頃から俺のコミュ症は少しずつ始まっていた。簡単に言えばこの頃から俺はいじめというものにあっていた。
仲間はずれ、無視は当たり前。上履き隠しに机への落書きなんて毎日の恒例行事。まともに話せるのは幼馴染のミカだけという残念な日々。
そんなある日のことだ。俺が移動教室で次の教室に一人で向かっていると、後ろから追いかけっこをしていたクラスメイトがぶつかってきた。俺は上手く対応できずその場に教科書を全部ぶちまけ転んだ。
そこまではまだよかった。悪かったのはその次だ。
クラスメイトは俺の目の前でこんなやり取りをしたのだ。
「げ!? ユウマじゃん! 最悪! ばい菌ついちゃったよ! こうなったら……菌タッーチ!」
「バリアー!」
「残念でしたー! ユウマ菌にバリアーはききませーん!!」
さすがの俺もショックだった。
この日を境に俺のニートライフが少しずつ始まるのだが、これはまた別の話。
「……うー。……悪かったわよ。真ん中譲るから許しなさいよ」
俺が落ち込んでいると、さすがにリリーナも見かねたのか真ん中を少し空けるように横へずれた。
俺はダラダラとミカとリリーナが空けてくれた暖炉前の真ん中の席へと向かい、腰を下す。
「……いやー! サンキューなリリーナ! あったかいわー。マジあったかいわー!」
「ちょ、ちょっとユウマ? さっきあんた落ち込んでたわよね? なんでそんなに元気なのよ!」
席に座るなりケロッといつもの調子に戻る俺に少し怒りを見せるリリーナ。
「あ? そりゃあ別にあんなの気にしてないからな。俺は自分の為だったらどんなことでもする。そんな男だ!」
俺は決め顔でそういった。
だって過去のことなんてそんなに気にしてないし。
そりゃあ、あの時は確かに傷ついたし、俺が引きこもりがちになったのもその頃からだけど、今も引きずってるかって言われたらそんなことは微塵もない。それこそミジンコ程もない。
それにバリアも貫通するユウマ菌。―――なんかかっこよくね?
「そんな決め顔で言っても全然かっこよくないわよ! むしろ不細工よ! ブ・サ・イ・ク! 洗面台の鏡で自分の顔をよく見てきなさいよ! オークにしかモテない残念な顔がそこにあるから!」
「あんだとごらーっ! ちょっとかわいくて整った顔してて、スタイル良くて、容姿がいいからって調子の乗ってんじゃねえぞ!」
「ユウマ! それ全部褒め言葉! 私でも調子乗っちゃうくらいの褒め言葉だから!」
「ユウマさーん。温かい飲み物持ってきましたよー。……って、皆さん今日も仲良しですね」
これが冬の日の朝の俺たちの日常である。
結局その日は寒さに負けてだらだらと過ごした。




