22話
「そいやっ!」
「バーニングブレス!」
「『フリーズドライ』!!」
「よ……っと!」
「『エアロブラスト』!!」
「あめぇあめぇ!」
ヴォルカノとの戦いは熾烈を極めていた。
ミカが火傷をアイリスに回復してもらえることをいいことに拳での攻撃を始め、ミカのドジをアイリスがカバーし、隙あればリリーナが魔法を叩き込む。
ヴォルカノは三人の息ぴったりな攻撃を涼しい顔をしながら回避し、反撃していく。
かくいう俺もそこまでの戦力にはなれないとわかっていても、隙あれば『潜伏』でヴォルカノに近づき、攻撃を仕掛けてから『逃走』スキルを使って上手く逃げるを繰り返している。
「まともに戦えてる……ってのは楽観視しすぎだな。つってもヴォルカノの弱点も見えてこないし、このままじゃジリ貧……」
「『バーン』!!」
「うおわっ!?」
「ちっ! 避けたか。運のいい兄ちゃんだぜ」
思考に耽るとヴォルカノが攻撃を仕掛けてくる。
頭の回転も暑さで鈍ってきてるし、集中したくてもヴォルカノがそれを許してくれない。
「ねえユウマ! もうそろそろ何か浮かばないわけっ! 正直もうそろそろ限界なんだけど! 『ブラストバーン』!!」
「わかってる! もう少し頑張ってろリリーナ! ……ってマジか!」
リリーナがあまりの暑さに弱音を吐き始める。そのくせ中級魔法を全力でヴォルカノに撃ってるんだからアイツもなんだかんだ言ってタフだ。
そしてリリーナの放った火属性の攻撃は驚くことにヴォルカノに吸い込まれて吸収された。
「ぷっはぁ~!! うめぇ! 最高の味だぜ魔法使いの嬢ちゃん! お代わり!」
「キィィィィィィィィィィッ!!」
ヴォルカノの挑発に地団駄を踏むリリーナ。
「ユウマ……。これ、いいね」
突然俺の横に来たミカがそんなことを言いだした。
「いいって何がだよ。正直戦況は最悪だぞ」
「ううん……。そういうことじゃないの」
「ならなんだよ。お前こういう熱い戦い好きなタイプじゃないよな?」
「うん。だからそうじゃなくって」
「そうじゃなくって?」
「ダイエットにはちょうどいいな……と」
「この状況でそんなに痩せたいならヴォルカノに抱き着いて来い!!」
「ひゃんっ!」
こんな状況でバカをぬかすミカの尻を蹴とばす。
「ゆ……ユウマさん……」
今度はアイリスが後退してきた。
全身汗だくで、今にも倒れそうなくらいつらそうにしている。
「悪いアイリス。俺がもっとやれる奴だったら……」
アイリスの状態を見て、自分の役立たずさに嫌気がさしてくる。
「だ、大丈夫ですよ……。私……まだ、やれます」
「あぁ。もう少しだけ頑張ってくれ。もう少しで……もう少しでなにか掴めそうなんだ」
「は……はい!」
それだけの短いやり取りを交わし、アイリスは再び前線に戻る。
「俺もみんなに任せてるわけにはいかないよな。怖いけど、行かなきゃ何にも掴めねえ!」
俺も銃を二丁携帯してヴォルカノ目がけて突撃する。
「あーっ! 楽しくてしょうがねぇ! 久しぶりにこんなに熱い戦いをしてる気がすんぜ! これはこの前エレクティと戦った時以来の熱い戦いだ!!」
ヴォルカノが楽しそうに嗤っている。
たぶん、今の話はギルドのお姉さんが言っていたヴォルカノと魔王軍幹部との喧嘩とかいうやつの話だろう。
てか、魔王軍幹部同士の喧嘩ってほんとおっかねえ。そのまま共倒れになってくれればよかったのに。
「すげー楽しいが、もうそろそろ俺っちも飽きてきた。だから俺っちの本気ってやつを見せてやる! 光栄に思えよ冒険者っ! 俺っちにこの技を使わせた冒険者は今までに五人といねえ!」
そう言うと、ヴォルカノは気合を入れるように腰を落とす。
瞬間、ヴォルカノの周りにいくつもの火柱が発生する。やがてその火柱は一つの大きな火柱となり、周りの木々たちを焦がしていく。
「あれ……? これ、やばくね……?」
そう思った時にはもう遅い。というのが物語の鉄板だ。
つまり、俺たちも例外なはずもなく―――
「みんなっ! 私の後ろに来て!」
「で、でもっ! それじゃあリリーナさんが!」
リリーナが何を考えているのかはわからないが、俺たちを自分の後ろに来るように言った。
それをアイリスが止める。
「そうだよリリーナ! あんなのまともに食らったらリリーナが!」
「二人とも少しはこのクズ男を見習いなさい!」
「え? ……ってユウマ!? 何やってんの!?」
リリーナの言葉にミカとアイリスがすでに避難した俺を見る。
「ホントなにやってんのユウマ?」
「なにって、そりゃあリリーナが自分の後ろに来いってんだから行くだろ?」
「いや、男としてそれはどうなの!? 普通ここは俺に任せろ! 的なところじゃないの?」
「バカ言え。俺はリリーナを信頼してるんだ。だから安心してこの状況をリリーナがどうにかできるって信じて任せられる。適材適所ってやつだ」
「物は言いようだね……。……で、本音は?」
「そりゃあ自分の命は恋しいだろ? なんだかんだリリーナなら耐え切れそうだし、俺は自分がかわいい」
「「……」」
黙り込むアイリスとミカ。
「ミカっ! お前また悪質な誘導尋問を!」
「ユウマが勝手に自分の鬼畜度を証明しただけでしょ!」
こんな状況でもこんないつものやり取りができるんだから俺たちってホント頭がおかしい。
「いいから二人とも私の後ろに隠れて! もう撃ってくるわよ!」
リリーナの言葉と必死な表情にアイリスとミカの二人も渋々リリーナの後ろに退避する。
「食らえ! バーニングストリーム!!」
ヴォルカノの周りに集まっていた火柱が一つになったそれが、ゆっくりと、でも確実に俺たちの方へ進軍してくる。
「おいリリーナ! お前ホントにあんなん防げるのか!?」
「そんなのわかんないわよ! でもやるしかないでしょ!! 生きてたいなら黙ってなさいよ!」
そんなやり取りをしているうちに火柱は俺たちの目の前までやってきた。
「『ウォーターバースト』!!」
リリーナが水属性の攻撃魔法を放つ。
バカでかい大砲から撃ちだされたような水が火柱とぶつかった。
「くうっ……!!」
どうにか火柱の進軍を緩めることができたが、まだ少しずつ炎の竜巻は俺らの方へと進軍してきている。徐々にこちらに近づいてくる炎の竜巻を見て、リリーナがつらそうに顔を歪める。
「おいリリーナ!」
「な、なによユウマ! 正直今話してる余裕ないのよね……」
「お前……顔を必死に歪ませてるとかなり男らしいな」
「嬉しくないわよ、こんにゃろーっ!!」
ホント、緊張感ねえな俺。
でも作戦通りリリーナが怒りによって覚醒し、怒りのスーパー魔法使いになった。
「私もお手伝いしますリリーナさん! 『ウォーターウォール』!!」
リリーナだけに任せるのが耐え切れなくなったアイリスが魔法を唱えると、目の前に水の壁がいくつか出現した。炎の竜巻の進軍が完全に止まる。
「……もしかしたら今のヴォルカノは元気玉状態かもしれない」
元気玉状態。それは某アニメの主人公の必殺技である元気玉を使っている最中は碌に身動きができないという状態のことを俺が勝手に呼んでいるものだ。
「ミカ! 俺を火柱に当たらないようにヴォルカノの方へ飛ばしてくれ!」
「わかんないけどわかった!」
ミカが意味のわからない返事をして俺のことを掴む。
「それじゃあ心の準備があるからやってくれ! って言ったら頼むぞ? いいか? やってくれだ――――」
「そいやっ!!」
「今のは確認だよこんちくしょーっ!!」
心の準備が整わないうちに俺は宙を飛んだ。
「ぎゃふ!」
ミカに投げられた俺は見事に火柱を回避しヴォルカノの後ろまで飛んできた。
「着地のことは考えてなかった……」
埋まった頭をどうにか引き抜き、呼吸を整える。
「ふう~。……やっぱりか」
予想通りヴォルカノは元気玉状態だった。
今ならなんの反撃も受けることなく攻撃ができる。
「俺の火力じゃ倒すのは無理だ。でも、攻撃をやめさせることくらいは可能なはずだ」
ヴォルカノ目がけて俺は走る。
「普通に攻撃しても意味がない。弱点っぽそうな水属性の魔法もヴォルカノにあたる前に蒸発しちまう。ならっ!」
ヴォルカノのすぐ後ろまで着た俺はヴォルカノ目がけて手を伸ばす。
「触って直接水属性魔法を叩き込む!!」
「うおっ!? おめぇいつの間に!?」
ヴォルカノに右手を当てる。手が焼ける音が聞こえ、手がジンジン痛むがここは我慢。
「食らえ!超至近距離『スプラッシュ』!!」
俺の全身全霊を掛けた攻撃は―――
「ったー。さすがに直接攻撃を叩き込まれるのはいくら初級魔法でも少し痛いぜ」
確かな打撃にはなったが、効果的な攻撃にはならなかった。
「卑怯な奴だと思ったが、兄ちゃん。案外根性もあんじゃねえか! 少し見直したぜ」
「おうふっ!」
どうにかヴォルカノの火柱攻撃を中断させることには成功したが、決定的な打撃を与えられなかった俺はなすすべもなくヴォルカノにフッ飛ばされ、みんなの元へと帰る。
「大丈夫ユウマ!?」
「上出来よユウマ! 攻撃は止んだわ」
「あっ! 酷い火傷! 今、治します!」
飛ばされてきた俺をみんなが心配してくれた。
アイリスに言われてヴォルカノの攻撃を咄嗟に防いだ両腕を見ると、見るのが嫌になるくらいに赤黒く腫れている。何もしていないのにジンジン痛むし、最悪だ。
でも、今はそんな場合じゃない。
「くそ! 普通の攻撃は効かない。持久戦は不利……ってかこっちの仲間が死んじまう。魔法も効果なしで直接叩き込んでも決定的な打撃にはならない。頼みのミカの物理攻撃も身のこなしが良過ぎて当たらねえし。これじゃあ……。くそ! あともう少し、あともう少しで何かがでてきそうなのに!」
ヴォルカノの圧倒的戦力に打ちひしがれる俺。
そんなヴォルカノの対抗策になるかもしれない作戦もあと少しの所で浮かばす。万事休す。
「リリーナの最高威力間違いなしの『エクスプロージョンインフェルノ』も毎日打ち込んで効果なしってことは意味ないだろうし、それにリリーナの話だと『エクスプロージョン』はあたりの熱を一点に集中して爆発させる魔法だって言ってたから火属性耐性のありそうなアイツには効果が薄いだろうし、てか効果があっても炎属性魔法のはずだから吸い込まれる。弱点で間違いないだろう水魔法もヴォルカノにあたる前に蒸発しちまうし……蒸発?」
キタ。
「キタキタキタキタキターーーーーーーっ!!!」
「えっ!? 何ユウマ!?」
「どうしたんですかユウマさん!?」
「頭が今まで以上におかしくなったのユウマ!?」
リリーナがふざけたことをぬかしやがったが、今はそんなことでどうでもいい。
「来たんだよ、神からのお告げってやつが!」
「神からのお告げ……ですか?」
「ああ、見せてやるぜヴォルカノ。俺の最大の武器である現代知識―――現代魔法ってやつをな!」
俺は勝利を確信した。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「リリーナ! お前はヴォルカノに最大火力の火属性魔法を叩き込め! アイリスは最大火力の水魔法! ミカ! お前は他の意識ある冒険者にも同じことを伝えてくれ! 寝てるやつは無理やり魔法使いだけたたき起こせ! 魔法使い以外は適当に遠くにぶん投げろ!!」
「え? なんでよ! 効果ないじゃない!」
「いいから黙って撃て!」
「……どうなっても知らないからね! 私ももうあんまり魔力ないんだから!」
「いきます!!」
「なんか知らないけどわかった!」
文句を言いながらもリリーナが魔法を詠唱し始め、アイリスも続いて詠唱を始める。ミカはミカで俺の指示に従い他の冒険者の元へ走っていった。
「おっ? なんだ? ここまで来てまた兄ちゃんの悪だくみか? 良いぜ、その悪あがき。嫌いじゃねえ!
正々堂々と真っ向から受けてやらぁ!!」
「後悔すんなよ!」
俺はヴォルカノの挑発に啖呵で返す。
「全力でいくわよユウマ! やってもいいんでしょ!」
「あぁ! お前の魔法があんな奴に負けないってところを証明してやれ!」
「当たり前でしょ! 私は未来の大魔法使いよ! こんな魔王軍幹部の一人くらい踏み台にしてやるわ!!」
リリーナが最大火力の魔法詠唱をさらに続ける。
「ユウマさん! 私、いきます! 『スプラッシュバースト』!!」
限界まで詠唱をしたアイリスが自分の使える最大火力の水魔法を放った。
「くぅっ! やっぱり届かない……!」
「いやっ! 大丈夫だアイリス! 悪いけどそのまま魔力が切れるまで続けてくれ!」
「わ、わかりました……」
苦しそうな顔をしながらアイリスが健気に奮闘している。
「ユウマ! 魔法使いのみんな起こしたよ! それに魔法使い以外の人はみんな街の方へ投げた!」
「上出来だ! あとはその辺からでかめの岩を拾ってきてくれ!」
「大きい岩? 何に使うの?」
「いいから行け! 時間がない!」
「よくわかんないけど任された!」
ミカが俺の指示通りに大きな岩を探しに走っていった。
「魔法使いの皆! 聞いてると思うけど水魔法か火魔法の火力がある方を選んでヴォルカノ目がけて撃ってくれ! つらいとは思うが頼む!!」
「ゆ、ユウマに頼まれたら仕方ないな! 『ブラスト』!!」
「……これ、ダイエットによさそうね。お礼してあげないと! 『ウォーターブラスト』!!」
「さっきぶん殴られた仲間の敵、討たせてもらう! 『ファイヤブラスト』!!」
俺の指示を聞き、魔法使いのみんなが自分の使える最大火力の水魔法か火魔法を放った。
「おうおうおう! なんだいなんだい? ここに来て俺っちにご飯の提供かい? それなりにうまいからいいけどよ! 水魔法も火照った体に気持ちいいぜ!!」
ヴォルカノが余裕の表情で火属性の魔法を吸い込み、水魔法を蒸発させていく。
「うめぇうめぇ! さいっこうの気分だぜ!!」
「今のうちに散々楽しんでおけよヴォルカノ……。それがお前の最後の晩餐だ」
俺は気分よく笑うヴォルカノを見て、不敵に笑うのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「もうそろそろってところか?」
あれから数十分。みんな残り少ない魔力を使ってヴォルカノ目がけて魔法を放っている。
俺の予想だともうそろそろのはずだ。
「なんだいなんだい。イニティの冒険者ってのは魔物に栄養を与えるのが仕事なのかよ!」
調子に乗るヴォルカノ。そんなヴォルカノの周辺に変化が生じ始めた。具体的に言えば、白い煙が現れ始めた。
「ユウマーっ! おっきな岩持ってきたよーっ!!」
「ナイスタイミングだミカ!」
「えへへー! えらい? ねえ、えらい?」
「えらいえらい! いいか? 俺が投げろって言ったら俺たち全員がその岩の後ろに隠れるように岩を投げろ」
「了解です!」
おっきな岩を持ってるのに顔色一つ変えずに岩を片手に持ち、敬礼をするミカ。
ヴォルカノの周辺が完全に白い煙に包まれる。俺はなんとなく空気が変わったのを感じた。
「今だ! ミカ! やれ!」
「……」
「投げろよ!?」
「え? だってユウマ投げろって言ったら投げろって言ったから、まだ投げなくていいのかと」
「変なとこ律儀だなおい! いいから投げろ!」
「あいあいさーっ!」
そう言ってミカが岩を前面に投げる。
瞬間、爆発。
耳を劈く爆音に視界のすべてを塞ぐほどの爆煙がこの場にいるすべての冒険者を襲う。唯一爆風は俺がミカに用意させた大きな岩によって全員が回避。
爆風も、爆煙も、爆音も止んだ。
そして肝心のヴォルカノの生死はすぐにでもわかった。
それは今の爆発で出た煙幕がドンドンと一か所に集中していくからだ。
そう。ヴォルカノが爆煙をすべて吸い込んだから。
「ぷっはぁ~!! うっめぇ~! 最高だ! 最高の気分だ! 最高の食事だぜ!」
ヴォルカノは何事もなかったかのようにたたずんでいた。
「うそ……だろ……?」
「私たちの全力魔法になんでか起きたあの爆発を食らって生きてるなんて……」
「もうダメだ……おしまいだ……」
他の冒険者たちが絶望の表情に顔を染めていく中、俺は、俺だけは唯一笑っていた。
「ねぇ……ユウマ。どうするの? ユウマの作戦……失敗だよ」
ミカもほかの冒険者同様、絶望した顔で俺の隣にいる。
「ゆ、ユウマさん。すいません……私がふがいないばかりに……」
アイリスも魔力を使い言ってフラフラになりながら俺の元までやってきた。
俺はそんなフラフラのアイリスを抱きかかえ、
「大丈夫だアイリス。心配すんな。よく頑張ってくれた」
そう言って頭を撫でた。
「あとな、ミカ」
「な、なに? 逃げるの?」
「にげる? 笑わせんな。すでに勝ちが確定した勝負を捨てるなんてとんでもねぇ。ありえねぇ、アリエッティだぜ」
「で、でも……」
「わはははははははっ! 最高! さいっこうだぜ!!」
ミカとアイリスが元気いっぱいのヴォルカノを指さす
「大丈夫だって。言ったろ? 既に俺たちの勝利は確定してる。――――なあ! リリーナ!」
「当たり前!」
俺の声にみんなが一斉にリリーナの方を向く。
そこには真っ赤な幻想的な光を体に纏った一人の美少女がいた。
それは俺のパーティーの一員で、能筋で、魔物に愛されやすくて、天然チート持ちで、バカで、アホで、むかつくことが多いけど。
「俺の最高のパーティーメンバーだ! なめんなよ! やっちまえ! リリーナ!」
「言われなくても! 『エクスプロージョンインフェルノ!!』」
リリーナが間違いなく最大火力の火属性魔法を唱える。
リリーナの杖先から放たれた赤い光はヴォルカノの方へ静かに飛んでいき、ヴォルカノの目の前で止まる。
「食らいなさい! 私のっ! 未来の天才大魔法使いの大魔法を!」
「いい度胸だ! その勝負、受けて立ってやるぜ!!」
瞬間、リリーナの『エクスプロージョンインフェルノ』が爆発する。
それをヴォルカノが吸い込んだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
二人の熱い戦い。
リリーナの最大火力の火魔法をヴォルカノが吸い込むというそれだけの勝負。
その結果は―――
「う……そ……でしょ……?」
「ぷっは……さすがにきつかったぜ……」
リリーナの魔法をヴォルカノがすべて吸い込んだ形で勝負を決した。
「がはははははっ! これで俺っちの勝ちだなイニティの最弱冒険者ども! 残念だったな魔法使いの姉ちゃん! 残念だったな卑怯な兄ちゃん!!」
ヴォルカノが嗤う。
冒険者が絶望に浸る。
そんな状況で俺は―――
「なあヴォルカノ」
俺はヴォルカノに声をかけた。
「どうだ? お腹いっぱいになったか?」
「あ? あぁ! 見てのとおり腹いっぱいよ!」
そう言ってヴォルカノが今まで火魔法を散々吸い込んだ大きなおなかを手でたたく。
「そうかそうか。よかったな。最後の晩餐が気分のいいもので」
「あ? 最後の晩餐? なに言ってんだ兄ちゃん?」
「日本語だよ」
「あ? なに言って―――」
そう言って俺はヴォルカノの言葉にまともに返事もせずに近づき―――
「熱いだろ。水でも飲めって」
そう言って―――
「『スプラッシュ』」
腹が膨らんでまともに動けないヴォルカノの口に『スプラッシュ』で水を注ぎこむ。ヴォルカノは少し苦しそうに水を飲む。普通ならこんなことでヴォルカノを倒すことは不可能だろう。ヴォルカノは苦しくなったら口に入る前に水を蒸発させてしまえばいい。そうしたら絶対に俺の魔力が切れる方が早い。
だが、そうはいかない。―――させない。
「おっ? 光ってきたな」
ヴォルカノの体がすごい勢いで光り始めた。
「なっ!? 俺っちの体に何をしやがった!?」
「何もしてねえよ。ただ、お前の未来だけは教えてやる」
俺の言葉に、そして自分の体の異変にヴォルカノが驚いた表情でこちらを見る。
「爆発四散だ」
俺がそう言ってから『逃走』スキルを使って距離を取った瞬間。ヴォルカノの体が激しい光とともに膨らんでいく。
「な、なんなんだよ!? 俺っちの体、どうなっちまったんだよ!?」
そう最後の言葉を残し、俺の言った通りヴォルカノは―――
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」
爆発四散した。
―――――――――――――――――――――――――――――――
どうにかヴォルカノを討伐した俺たちは、しばらくあの城の跡地で休憩を取り、身体を十分に休めてからギルドへと戻ることになった。
ヴォルカノを倒したころには辺りを充満していた熱気も、今では少し肌寒いくらいの温度まで下がっていて、普段なら寒いと感じる涼やかな風もヴォルカノのせいで火照った体には少し心地が良かった。
そしてその日の夜。オークの大群を退けた時の様な盛大なパーティーが取り行われた。
みんな酒を飲み、食べ物を食べ、笑い、喜び、楽しんでいる。真ん中のあたりで俺も好き勝手に飲んだり食べたりしていると、ぞろぞろと冒険者たちが集まってきた。
「おうおうおうユウマ! 俺は最初からお前はできる男だと思ってたぜ!」
「嘘こけ! お前俺にそんなに期待してなかっただろうが!」
「ユウマさん。あなたはやっぱり……その……あの……すごいですね」
「褒めるの下手か!」
「ユウマさん。すごいですね! さすが鬼畜王ですよ! もう魔王なんかユウマさんの鬼畜度に比べたら雑魚ですね! 雑魚!」
「君、俺のこと褒める気ないでしょ!」
「君すごいね。この前のオークの時と言い、今回の魔王軍幹部の討伐と言い、ホントすごいよ」
「でしょでしょ! 俺ってばカッコいいでしょ! そう思うならお姉さん俺と付き合って―――」
「あっ! ごめんね。ダーリンがあっちで呼んでるから私行かなくっちゃ!」
「爆発しろダーリン!!」
そんなやり取りをいくつも交わしていく。
そしてもうそろそろパーティーも佳境に入ってきたころ。俺はみんなの元へと向かった。
アイリス。リリーナ。ミカの三人の元へ。
「よっ! みんな。飲んでるかい? 食べてるかい? 楽しんでるかーい?」
若干酒に飲まれておかしな感じになっているが、特に足取りは変になることなく無事にみんなの元にたどり着いた。
「はい! 楽しんでますよ! 料理もおいしいですし、みんな楽しそうですし、私も楽しいです!」
最初に飛び込んでくるのは天使の笑顔。
その笑顔を見ただけで、俺の酔いは全部吹っ飛んだ。
「そうかそうか。よかったな。アイリス」
そう言いながら俺はアイリスの頭をなでる。サラサラの銀髪が心地よい。
「えへへーっ。でも、今日はやっぱり少し疲れちゃいました……」
アイリスは俺に頭を撫でられていると、眠そうに瞼をこすった。
「なんなら寝てもいいぞ。俺がちゃんと運んで行ってやるから」
「そ、そんなの悪い……です……よ」
断ろうとしていたアイリスは安心して眠気が限界に達したのか、全体重を俺に預けてきた。
まあ、寝てしまったのだ。
しかし無理もない。今日は今までで一番激しい戦闘をした。それこそこの前のオークの大群以上の激しい戦闘を。そんな激しい戦闘をこの小さな体で戦い抜いたのだ。疲れていないはずがない。
「今日はよく頑張ってくれたなアイリス。ゆっくり休んでくれ」
アイリスを抱いて近くに椅子に座らせる。
「お前はどうだリリーナ。楽しんでるか?」
「ユウマが来るまでは楽しかったわね」
「お前……可愛くないな」
「別にユウマなんかにかわいいなんて思ってほしくないからいいわよ。むしろ私の高貴なオーラを理解できないなんてかわいそうねユウマ。あっ、そんなのいつものことだったわね、ごめんなさい」
あれだけの戦いを繰り広げったってのにリリーナのやつはいつも通り元気だ。
今も手にワインを持って優雅に飲んでいる。その姿だけは本当にお嬢様そのもので、だからこそ―――
「ホントに黙ってればいいのに」
「ちょっとそれどういう意味よ!」
まあ、楽しんでいるなら何よりだ。
「ミカはどうだ……って。楽しんでるな……思った以上に」
「ふぇ? 何ひゅうま?」
「ちゃんと口の中の物を呑み込んでから話しなさい。あと、俺の名前はユウマです。そんな野球をしてそうな名前じゃありません」
俺に注意されたミカはリスのように膨らませた頬の中身を呑み込み、呑み込みましたとばかりに口を開いた。
「はい。よくできました。でも女の子がそんなに大きな口を開けて、それを他人に見せるものではありません。そういうのは歯医者さんだけにしなさい」
「はいっ! 隊長!」
「バカ者! 軍曹呼べ!」
いつも通りのくだらないやり取りも今は一段と楽しい。そんな楽しいひと時も終わりの時間を迎えた。
命のやり取りをした後であれだけ騒いでいた冒険者たちが、まだやり足りねぇとばかりに不満の声を上げたが、俺はもう正直そろそろ限界だ。
慣れないリーダー役を再び買って出て、今までにないほどの命のやり取りをし、今までに感じたことのない他人の命という重たいものを背負って戦った今日。
少し前の俺からしたらホントに想像できないほどの行為。
きっと少し前の俺が今の俺をみたら笑うだろう。
「なにそんな熱くなってるんだよ」
「お前そんなキャラじゃねえだろ」
「うぬぼれんなよ」
そんな声をきっとかけて来る。
言われなくてもそんなこと今の俺にだってわかってる。リーダーなんて向いてないし、俺はそんなに熱いキャラじゃない。逃げていいことなら逃げ出したいし、何もせずに生きていけるならその方がいい。
他人の命なんて重たいものなんて背負いたくないし、他人より自分を考えて生きていきたい。
でもな、少し前の俺。
今の俺の当たり前は―――これなんだよ。
守りたいものができちまったんだ。
そいつらはちょっと―――いや、大分個性的な連中だけど、俺の大切な―――
「大切な仲間なんだ」




