15話
「それでは第一試合最後の戦い。オークの集団から街を守り、借金を背負った鬼畜外道、ユウマVSエル! 剣士同士の戦いだあ!」
「ちょっと待て司会者! 俺の説明だけおかしいだろ! 他の連中は普通だったのに何で俺だけ前置きがあるんだよ! しかもあんな悪意満載の!」
「それはこの街の英雄ですからね。ちゃんとそれなりの説明をしなければ、という私の司会者魂が熱く燃え上がるんですよ」
「それはどうもありがとよ!! くそったれ!」
司会のお兄ちゃんと一戦交わしてから、改めて剣を抜いて試合に備える。
「それでは始めましょう! 試合開「『スプラッシュ』!!」始!! って、えぇぇぇぇぇぇぇ!! ユウマさん!?」
合図が終わる直前から詠唱をはじめ、「始」という言葉が言い終わると同時に俺は俺の使える数少ない魔法『スプラッシュ』を放つ。
試合開始、と言った後にではなく、試合開始、という言葉を言っている間から詠唱をしておいて、「始」という言葉と同時に魔法を放つのがみそだ。
エルと言われていた俺の対戦相手は状況が呑み込めないまま、俺の『スプラッシュ』をモロに食らい、場外まで吹っ飛んでいく。そしてそのまま場外による失格。
俺の勝利だ。
「勝利とは、いつもむなしいものだ」
「ゆ、ユウマさん。……今のは反則なのでは?」
勝利の余韻に浸っている俺に司会のお兄さんが話しかけてくる。
「なに言ってんだよ。俺はちゃんと試合開始の「始」の言葉の後に魔法を撃っただろ? ルールには試合開始と言い終わるまで魔法の詠唱禁止、なんてルールはなかったぞ。つまり、さっきのは有効だ」
「……」
確かに、という顔をしている。
黙り込む司会者。ドヤ顔の俺。未だに状況を呑み込めていない対戦相手エル。
「しょ、勝者、ユウマーっ!」
この瞬間、俺の勝利が決定した。
「さ、さすがだ……鬼畜すぎる。ユウマのやつ。俺らにはできないことを平然とやってのける。そこに痺れる憧れるーっ!!」
「あれが鬼畜外道の真髄か……やべえな。何がって言えねえけどやべえよ」
「あれで最弱職の冒険者ってマジかよ。ありえねぇ……」
戦闘場から降りた俺を出迎えたのはギャラリーからのそんな言葉たちだった。
俺は悪くねえ!
―――――――――――――――――――――――――――――――
そのあとも天下一武道会(仮)は進行していき、俺の二回戦目。
「次の戦いは鬼畜外道の英雄ユウマVSマイア!! 男性剣士と女性剣士の戦いですね! これは楽しみです。……ユウマさん。さっきはオッケーを出しましたが、次はないですよ」
「ああ、ルールを破るのは俺も嫌なんでな」
「……」
「なんか文句あんのか?」
司会のお兄ちゃんが何やら俺を怪しい目で見ていたので尋ねる。
「いえ、では、試合開始!!」
試合の火ぶたが切って落とされた。
「さっきはあんな卑怯な手を使ってたけど、私はさっきの人みたいに甘くないわよ」
「そうか。俺から言えることは一言、俺は真の男女平等主義者、男でも女でも関係ない。正々堂々と戦う男だ。勘違いしてほしくないのは男が恋愛対象としてもあり、ということではないことだ。俺が好きなのはあくまでかわいい女の子、美人のお姉さんだからな」
「ふふっ、それなら私に勝ちを譲ってくれない? 自分で言うのもなんだけど、私って結構美人な方だと思うんだけど」
そう言って、お姉さんはセクシーなポーズをとる。
確かに俺の対戦相手の女性は大人の女性といった感じで、大人のエロさを感じさせる。戦士だというのに胸の辺りがばっさりと開いた鎧を着ており、そこから見えるお胸様の谷間がまぶしい。足も鎧から出ており、すらっと伸びたきれいな白い足がこれまたまぶしい。
なんだか何もかもがエロく見えてきた。
唇とか、細く整った手とか、きれいな長髪とか、何もかもがそれっぽく見える。
「はっ!? あぶねえあぶねえ。お姉さん、まさかあんた『魅了』のスキルの持ち主か!? 危うく意識を持っていかれるところだったぜ! 女の武器ってやつは侮れないな」
「……そんなスキル持ってないんだけど……」
危ないところだった。もう少しで何も考えずにそのお胸様にダイブしたりするところだった。
それで憲兵さんに捕まったらシャレにならない。
「……ねえ、視線が若干低くないかしら?」
「そんなことはない」
「……鼻の下が伸びてるわよ」
「伸びてない」
「鼻血……出てるわよ」
「大丈夫だ。問題ない」
クソ、本当に危ないお姉さんだ。試合開始早々、剣も交えてないのに俺にダメージを与えて来るなんて。
これは俺でも少し苦戦するかもしれない。
「精神攻撃だけで俺をここまで追い詰めるなんて……。お姉さん相当やるな。Sに向いてますよ。きっと夜の女王様になれる」
「……全く褒められてる感じはしないのだけれど」
お姉さんが呆れ始めたところで俺は行動を開始する。
『逃走』スキルを用いて一気にお姉さんに近づき、ここまでに抜いておいた剣を構えて振り上げる。
「うっ……。さ、さすが鬼畜外道のユウマと呼ばれるだけあるわね。人が呆れてるところを平然と斬りかかろうとするなんて。本当に鬼畜外道だわ」
「避けられるとか正直思わなかったけどな」
俺の剣はあと一歩のところで避けられてしまった。
「今度はこっちから行くわよ!!」
攻守交替と言わんばかりに今度はお姉さんの方が剣を構えて向かってくる。
「うおわっと!!」
お姉さんの初撃をバックステップでどうにか回避。
「変なことされる前にこのまま一気に行かせてもらうわよ!!」
しかし、お姉さんの攻撃は一回では止まらなかった。振り上げられた剣をそのまま流れるような動作で振り下ろし、そこから再び流れるように横切りに移行する。
その攻撃をどうにか避けたり剣で弾いたりしながら回避する。
「やっぱこのお姉さんドSだ! 女王様だ!」
「無駄口叩いてると当たっちゃうわよ!」
言葉と一緒にお姉さんの一閃。
剣でどうにか受けたが、勢いを殺しきれず後ろにふっ飛ばされる。
「つつ……。ってー。おいおい、手が痺れて震えちゃってるよ。俺、ブルちゃってるよ」
一旦お姉さんの攻撃が止んだので自分の手を見てみると、微かに震えている。それだけさっきのお姉さんの攻撃が重かったのだ。
「ちっ……もう少し温存したかったが、仕方ないか」
「ん? なにか秘策でもあるのかしら?」
「ああ、とっておきのな! 『スティール』!!」
最近覚えたスキル『スティール』。盗賊系のスキルでランダムで相手の持ち物を盗む。レベルや自分の幸運に左右されるらしく、レベルの低く、幸運の値の低い俺には不向きなスキルだと思っていたのだが、もしかしたら使い道があるかも? と思い取るだけ取っておいた。
消費魔力は少ないし、今の俺でも軽く数十回は使えるはずである。
そしてこの窃盗スキル『スティール』は上手くいけば相手の武器を奪うことができる。つまり相手の攻撃方法を奪うことができるというわけだ。
今回も上手くいけばお姉さんの攻撃手段を奪うことができる。
そうなれば後は俺の独壇場だ。鬼畜外道と呼ばれる理由を時間を掛けてお姉さんの体に教え込んでやる。
……体に教え込むってなんかエロくね?
肝心の『スティール』は―――
「とりあえず成功!!」
握られた俺の手には確かに何かを掴んでいる感触。
ただそれは軽く、柔らかく、どことなく温かい。武器や鎧の様なものではなさそうだ。だとすると装飾品あたりか?
でも装飾品で温かいってのおかしい気もする。もしかしたらネックレスかなんかのアクセサリーを不二子ちゃんスタイルで隠し持っていたのか? だとすればそれも納得がいく。そうだとすればこれはお姉さんのお胸様の体温! ヤバい、何がやばいってナニがやばい!!
とにかく『スティール』自体は成功したが、奪ったものは失敗だったようだ。ある意味成功とも言えそうだが。
そしてなんとなく閉じていた目を開けてみる。
「んを?」
俺の手に握られていたもの。それは布だった。小さな布。女性特有の形をしており、俺が見ることなど滅多にない一品。
そう、それは―――
「パンティーだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺の『スティール』したもの。それはパンティー。女性特有の三角形をしており、俺が目にすることなど滅多にない一品。パンツ、パンティー、下着、言い方は人それぞれ違うが、とにかくお宝。
かつてこの街の小さなトレジャーハンターたちと探し求めて歩き回ったお宝。パンティー。しかも脱ぎたて。
「ハズレどころか大当たりだぜっ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
周りの男冒険者たちからの大きな歓声が会場を包み込む。
これでも俺の幸運の値は低い。俺のステータスでマシなのは敏捷性、足の速さくらいだった。それも一般人より少しいいくらいだたのだが。
「ね、ねえ君……。いい加減それ返してくれないかしら? お姉さん恥ずかしいんだけど……」
お姉さんが本来パンティーがあるべき場所を一生懸命抑え、恥ずかしさに顔を真っ赤にしながらもじもじしている。
そんな姿もまたグッジョブです!!
「もちろん良いぜ。降参してくれたらだけどな」
俺はこれでも一応紳士だ。ちょっと変態なところもあるから変態紳士か。でも変態と言っても紳士なのだから「グヘヘ、お姉ちゃん今どんなパンツ履いてるの~?」みたいな真似はしない。
たまに見える神様からの優しさを見て、心をいやすだけだ。
だから女性の頼み事を断ることもしない。
でも、時と場合にはよる。
ホント、一部を除き、とか、時と場合による、とか、基本的に、とか便利な言葉ユウマ大好き!
「そ、それとこれとは話が違うんじゃないかしら……?」
「いんや、そんなことはないぞ。俺の魔法によってお姉さんは精神的ダメージを受けているだけで、反則は犯していない。ルールに相手の下着を奪ってはいけないとか、相手の持ち物を奪ってはいけないなんてことは書いてなかった。むしろ、相手を殺さなきゃ何でもオッケーって、司会者のあの人が言ってた」
そう言って俺は司会のお兄さんを指差す。
「いやいやいや!! ユウマさん!? なに私が全部悪いみたいに言ってるんですか!? わたしだって試合中にこんな事態になるなんて予想できませんよ!」
「それはしてない方が悪い!」
「そんな理不尽な!!」
「まあ、というわけだ。降参してくれたらこれを返すぜ」
俺はそう言って、お姉さんのことを考えて周りの男冒険者たちには見えないようにパンティーを手のひらの中に隠す。決してその温もりを感じていたいとかそんなんじゃない。
ホントだよ!! ユウマ、紳士だもん! 変態紳士だけど!!
少し待ってみるが、お姉さんからの返答はない。
そこまでして何か勝ちたい理由があるのかはわからないが、このお姉さんも結構強情なようだ。
まあ下着を取っただけで、鎧のせいで大事な部分は見えてないし、戦う気になれば戦える状態ではある。
もしかしたら降参しないのも、こんなことをされた腹いせをしたいのかもしれない。
でもそうだとしたらその矛先は俺にではなく、そういうルールを作らなかったこの大会のスタッフ連中にあるとユウマは思います。
「返事がないってことはまだ戦うつもりだってことだよな。そんじゃあ……『スティール』!!」
再び『スティール』を唱える。
すると―――
「いやっふーっ!! またまたトレジャーゲットだぜ!!」
「っ!!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!!」
再び、男冒険者たちの声が会場を包み込む。
今度は上の下着が取れた。つまりはブラジャーだ。
自分で幸運が低いのが信じられなくなってきた。むしろ高いとすら思います。
お姉さんの見た目から奪うものは結構な種類があるはずなのに、失敗の確立も含めればそれは一桁、下手をしたら少数しかないはずなのに、その低確率の中から下着のみを奪い取るとか俺ってばマジすごい。
それにしても―――でかい。
「さ、さあどうするよお姉さん。降参するなら今のうちだぞ。次やったらどうなっちゃうのかなー。鎧も脱げちゃうのかなー……。あーあ、さすがに俺もそこまではしたくないんだけどなぁ」
さすがにここまでやると俺でも罪悪感がわいてきて、少し言葉に詰まる。
周りの男冒険者たちは俺をすごい勢いで応援してくれているが、女性冒険者たちの視線は棘のようで痛い。
待って! 俺だって好きで取ってるわけじゃないから! ランダムの結果だから! 俺の日頃の行いの良さのおかげだから!
と、言いたいところだが、きっと女性冒険の皆さんは理解してくださらないだろう。
本当に俺だって、こんなことしたくないのだ。
何度も言っているが俺は紳士だ。女性を傷つけるような真似は基本的にしたくない。
今だって周りの男冒険者たちは俺を応援してくれているが、俺としては早く返してあげなさいよ! という女性冒険者たちの意見を尊重している。
ムサイ男連中と、可憐な女の子たちなら俺は迷わずに可憐な女のの方を選ぶ。
「くうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!! ……こ、降参よ」
「しゃ、シャア……」
なんだか素直に喜べない勝利だった。
ユウマは街の英雄から鬼畜外道へとジョブチェンジした。




