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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第一章
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7話

 

「あの……ユウマさん? さっき倒れてましたけど、大丈夫ですか? 今日はクエストに行かなくてもお金ならありますし、今日は宿で安静にしていた方が……」


 俺たちはあの後、結局午後まで待って良クエストの張り出しを待った。そして張り出されたのが―――


『ワイルドボア。三匹討伐、五千ギル』


 迷わずこのクエストに決定した。

 二人で分けたら一人頭二千五百ギルだが、お金には少し余裕があるし、アイリスとの連携を考える機会にはちょうどいいだろう、ということでこのクエストを選んだのだ。

 それに俺もちょっと試したいことがある。

 しかし、アイリスはさっきアイリスという天使を見て気絶した俺のことが心配らしく、さっきからやたらと今日はクエストを止めましょう。と言ってくる。


「大丈夫だよアイリス。俺のことなら気にするな。それに俺には優秀なヒーラーが付いてるからな。なにかあったら頼むよ」


 こんな冒険者らしい会話を一度でいいからしてみたかった。その夢が今日叶ってしまった。

 これは現実世界にもし戻ったらチャットで同じことをやっても気は晴れないだろう。と言っても俺はネットですらぼっちになれるほどの真正のぼっちだからそんなことは体験したことすらないし、できるとも思わないが。

 ソロプレイ最高!! 強がりとかじゃねえぞ!


「そ、そうですか? まあ、ユウマさんがそうおっしゃるのなら、私、頑張って『ヒール』しますねっ!」

「ああ、任せたよアイリス」


 頼むから魔物相手にだけは『ヒール』しないでくれよと心で願う俺だった。


 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


「いましたっ! ユウマさんっ、あれがワイルドボアです」


 普通に言っているように聞こえるが、実際アイリスはワイルドボアが怖いのか、俺の後ろに隠れて遠くにかろうじて見えるワイルドボアを指さした。


「なるほど、ワイルドボア、名前通りまんまイノシシだな……」


 ワイルドボア、その魔物の正体はイノシシだった。

 大きさは豚ぐらいで、結構でかいらしい。この辺りの草原の魔物にしては凶暴らしく、油断していると怪我をすることもあるという。そんな話をクエストを受けるときに受付のお姉さんに聞いた。


「まあ、ああいう魔物は動きが単純で読みやすい。ちゃんと冷静に考えて戦えばまず負けはないな。アイリス、今日も楽に終われそうだな」

「ななな、なに言ってるんですかユウマさん。ワイルドボアは怖いんですよっ! いきなりすごいスピードで、だぁー、ってきて。ドーンって冒険者たちを飛ばしちゃうんですっ」


 アイリスが本当におびえた様子で大きな身振り手振りでワイルドボアの怖さを教えてくれている。

 でも、そんなこと今の俺には関係ない。

 だって、アイリスがかわいいならそれでいい。


「大丈夫、大丈夫。アイリス、いいか? ああいう魔物の動きは確かに早いかもしれないが、動きは常に直線的だ。走ってきたと思ったら慌てないで少し横に避ければいい。それだけで回避できるはずだ」


 この世界のああいう魔物はどうか知らないが、この世界は割とゲーム脳が通用するみたいだし、これもたぶん大丈夫だろう。


「ほ、ほんとですか? 私、ドーンって飛ばされたりしませんか……?」

「ああ、大丈夫だよ。怖くなったら逃げてくれていい。俺がどうにかするから」

「わかりました。やっぱりユウマさんは頼りになりますねっ」


 今のちょっとかっこよくね? とか内心思いながら、尊敬のまなざしで俺を見るアイリスに向かって自信満々に胸を張る俺だった。


 数分後。


「アイリスーっ!! 助けてーっ! 『スプラッシュ』撃ってーっ! お願いだからっ、俺もう限界だからーっ!!」


 俺はワイルドボアに追いかけられていた。


「ぎゃああああー」


 情けない声をあげながら走り回る俺。

 誰だよ、ああいう魔物は単純な動きしかしないから大丈夫とか、動きは直進的だから大丈夫とか言って余裕ぶっこいてた奴は!

 俺だーっ! こんちくしょーっ!


「あわわっ! 待っててくださいユウマさんっ! 今、魔法を……『スプラッシュ』」


 アイリスが呪文を唱えた瞬間、俺とワイルドボアの距離がどんどん離れていく。『スプラッシュ』に飛ばされたのだろう。

 でも、なんかおかしい、ワイルドボアに『スプラッシュ』が当たっているように見えない。

 それになんかさっきから体が痛いような……


「なんで俺に『スプラッシュ』当たってんのーっ!?」


 アイリスの放った魔法はワイルドボアではなく、俺を捕えていた。

 というか、

 痛い痛い痛い痛い痛いっ!

 さっきからすごい圧力の水が当たってて超痛いっ!


 この後、俺が一人お腹の辺りに感じる激痛に耐えている間に、ワイルドボアは『スプラッシュ』をもう一度放ったアイリスが倒した。


 ワイルドボアを一匹倒した俺たちは、一旦休憩を取るために木陰へと移動した。

 俺がさっきアイリスに受けた魔法の傷は、既にアイリスの『ヒール』で回復済みだ。

 しかし、回復魔法というのはすごい。傷が塞がっていくどころか、痛みまで一緒に和らぎ、消えていく。


「ユウマさん、すいません。私が魔法を外したりしなければユウマさんに当たらなかったのに……」

「……あははは、気にすんなよアイリス。アイリスのおかげでもう痛くないしさ」


 さっきからアイリスが俺に謝ってばかりだ。

 元はと言えば、ワイルドボアなんて余裕とか調子に乗ってた俺が悪いのだ。

 それにしても怖かった。ゲームでは冷静に観察して、相手の動きに合わせて動いて、攻撃に転じられたのに、いざそれを現実で自分がやるとなると話が違う。

 ワイルドボアが突進して来れば怖いし、鼻の横のあたりに生えている牙のような角が怖い。そして思った以上に奴らは足が速く、よく曲がる。

 そんなことは完全に予想外だった俺はあんな情けないところをアイリスに見せてしまった。

 これでは今日の帰りにアイリスに「ユウマさんて常に冷静沈着で、頭もよくってかっこいいですね! 頼りになります! これからはお兄ちゃんって呼ばせてもらってもいいですか?」と言ってもらう、かっこいいお兄ちゃん計画の破綻である。


「それよりさっさと次のワイルドボア狩ろうぜ。日が暮れちまう」


 計画が半ば破綻してしまったところで、せめて少しでもアイリスの中の俺への信頼ゲージを上げておきたかったのと、さっさとワイルドボアに仕返しがしたいので、立ち上がる。アイリスも俺に釣られるように立ち上がり、再びワイルドボアを二人で探した。


「いたっ。さっきは油断して出遅れたが次はそうはいかねえぞ」


 五分くらいたったころだろうか、俺たちの前にワイルドボアが姿を現した。それも二体。

 これはこのまま二体狩ってクエスト終了と行こう。


「じゃあアイリス。、今度は俺に筋力アップの魔法と、敏捷アップの魔法をかけてくれ」


 今回の俺は油断はしない。全力で行く。


「わかりました。『アグレッシオ』! 『スピーディオ』!」


 アイリスが呪文を唱えた瞬間、俺の体にキラキラした光が纏った。おそらくこれがステータスアップ魔法の掛かっている証拠なのだろう。


「これでユウマさんの筋力と敏捷が上がったはずです。防御アップの『ディフェンシオ』もかけますか?」

「いや、大丈夫だ。さっきのでコイツラの動きはだいたい理解したし、今度は後れを取るつもりはないよ。当たらなければ、どうってことないしな。でも、アイリスも念のため『スプラッシュ』をいつでも撃てるようにはしておいてくれ」

「はい、わかりました。いつでもユウマさんを助けられるようにしておきます」

「それじゃあ行ってくる!」


 そう言って俺はワイルドボアに向かって駆け出した。


「……よっと。楽勝、楽勝っ。どうしたよワイルドボア、二体もいるもに俺にかすり傷一つ負わせられてないぞー」


 さっきワイルドボアの動きを見た俺は、容易にワイルドボアの動きを見切ることができた。敏捷もアイリスの魔法のおかげで上がっているので、難易度はさらに下がっている。

 自分で言っていたことだが、ワイルドボアのような魔物は動きは単純で読みやすい。想像以上によく曲がるし、動きは早いが、見切れないほどではない。


「そろそろ攻撃に転じるとするかっ」


 ひとしきりワイルドボアをからかって、さっきの恨みが晴れてきた俺は、腰に差していたショートソードを引き抜き、ワイルドボアに向き直る。


「そりゃあーっ! よしっ。いい感じっ」


 こっちに突っ込んできた一体のワイルドボアの突進を躱し、そのままガラ空きの背中にショートソードを突き立てる。アイリスの筋力アップの魔法のおかげなのか、思ったよりも簡単にショートソードはワイルドボアの背中に突き刺さる。

 背中にショートソードを突き立てられたワイルドボアは悲痛な雄たけびをあげながら、その場で暴れまわる。


「『スプラッシュ』」


 そこにアイリスの追撃の魔法が放たれる。

 まともにアイリスの魔法を食らったワイルドボアは、そのまま『スプラッシュ』に吹き飛ばされ、近くの岩にぶつかってそのまま死を迎えた。


 そんな時だった、後ろからもう一体のワイルドボアが俺に向かって突進をしてきたのは。


 完全に油断をしていた俺は、すでに回避が間に合いそうにない。アイリスも魔法を放ったばかりで、すぐに次の魔法を撃てそうにない。突進を受け止めようにも俺のショートソードはアイリスの魔法で吹き飛ばされたワイルドボアに突き刺さったままだ。


「ゆ、ユウマさんっ!」


 アイリスがそんな俺の絶望的状況を見て、悲鳴にも似たような声をあげた。


「……ふっ」


 しかし、俺は笑みを浮かべた。

 それは諦めの笑みでも、こんな人生だったけど楽しかった、みたいな笑みではない、余裕の笑みだ。

 俺は自由な右手を突進してくるワイルドボアに向け、その右腕を左腕で支えるように抑える。


「くらえっ! 『スプラッシュ』!!」


 そして、とっておきの魔法を放った。

 こっちに向かって突進してきていたワイルドボアは回避なんてできるはずもなく、むしろ自分から『スプラッシュ』に突っ込んでいく形で『スプラッシュ』に直撃する。

 そしてそのまま徐々に勢いが落ちていき、やがてその場に倒れこんだ。息を引き取ったのだろう。


「……これが魔法……。俺にも魔法が使えた……」


 ワイルドボアを倒したことなんかより、俺は自分が魔法を使えたことに感動していた。

 そんな俺のところにアイリスが走ってくる。


「ゆ、ユウマさんっ。大丈夫でしたかっ。すいません、私がサポートを任せられていたのに、いざという時に役に立たなくて……」


 今にも泣きそうな顔で俺を見上げてくるアイリス。


「何言ってるんだよアイリス。アイリスが俺に『スプラッシュ』を見せてくれたから今回、俺は助かってるんだ。俺がお礼を言うならともかく、アイリスが謝ることなんてないよ」

「ゆ、ユウマさん……」

「ははは、だから泣かなくていいんだぞアイリス。ほら、クエストも達成したし、街に戻っておいしいもんでも食おうぜ」

「は、はいっ!」


 こうして、ワイルドボア三体討伐のクエストは終わった。


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