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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第四章
78/192

9話

「今日クエストに行くとすればアイリスと二人か……」

「そうですね。……まさかユウマさんに続いてリリーナさんとミカさんまで風邪を引いてしまうなんて思いもしませんでした」


 俺の風邪はみんなの手厚い介護によって昨日の今日で回復したのだが、お約束展開ということでリリーナとミカに移った。

 現在、二人は昨日の俺と同じ状況でベットに寝ている。


「いいって言ってるのに俺と一緒の空間にいたんだから移ってもおかしくないわな」

「そうやって聞くと私の中にユウマ菌がいるみたいで嫌ね」

「おいこらリリーナ! ユウマ菌言うな! そう言うとなんだか俺自体が菌みたいじゃねえか!」


 本当にやめてほしい、小学生の時を思い出す。

 周りのみんなが「菌タッチ!」と言いながら誰かに触り、「残ねーんバリア張ってたから効きませーん」とやるのに対し、俺が同じく菌タッチすると「うわっ! やべっ! バリアが効かないユウマ菌だよ。俺もうダメだ」みたいなことを言われた悲しい過去。


「みたいじゃなくてそうでしょ。ごほっ、げほっ」


 風邪を引いている割に元気なリリーナ。


「ったく。病気の時ぐらい弱々しい感じになったりしろよ。それがツンデレの王道だろ。お前はもう少しツンデレのデレの部分を勉強してこい。そしたら背中を拭いてやる。なんなら全身拭いてやる。いや、やらせてください」

「ユウマ……この世界じゃ教材からしてないよ。あと変態発言禁止」

「なら俺が作る!」

「変なところで頑張るなあー、ユウマは……げほっ、げほっ」


 俺のいつのもの振る舞いに咳き込みながらもいつも通りにツッコムミカ。

 さすがに病人にツッコミをさせるのは気が引けるのでこれ以上はよしておこう。


「それより本当にいいのか? 俺たちクエスト行っちゃって……。俺だって昨日三人に交代で面倒見てもらってるし、今日ぐらい俺だって優しくするぞ?」

「いいよユウマ。げほっ……借金返済しなきゃじゃん。それにユウマは一人だったけど、今日は私とリリーナの二人だもん。何かあっても二人でどうにかできるよ」

「でもさ……」


 さすがに風邪を引いた状態ではロクに動くことができない。それは昨日俺が身を持って体感している。

 いくらミカが普通以上の力を持つ『金剛力』なんていうスキルを持っていても、風邪を引いた状態では宝の持ちぐされ状態だ。


「病気も魔法で治りゃあいいんだけどな」


 昨日アイリスに聞いた話なのだが、どうやら風邪などの病気や、寿命による死は魔法ではどうにもならないらしい。

 万能に見える魔法もできないことはあるということである。

 みんなはRPGのゲームでキャラが死んでしまった時、こう思ったことはないだろうか? 「死んじゃったなら魔法で生き返れせればいいのに、蘇生魔法あるんだから」と。

 かくいう俺も思ったことがある。生き返らせちゃえばいいじゃん。そのための魔法じゃん? だってこっちは魔物に殺されても生き返るんだから生き返るでしょ? と。

 でも、その答えを異世界に来て初めて知った。

 アイリスの説明を聞けば、ゲームなんかで一部生き返らなかったキャラがいたのもうなづける。


「魔法だってそんなに万能じゃないのよ……げほっ」


 リリーナがいつにも増してまともなことを言う。


「だ、大丈夫かリリーナ! お前がまともなことを言うなんて熱でもあるんじゃないのか!?」

「あるわよ! あるからおでこに氷を包んだ袋を乗せて、こうして安静に寝てるんじゃないの!」


 今日はリリーナ弄りを控えようかと思ったけど、どうやらそれは俺にとって難しいことらしい。その度合いはマグロがその場に一時間動かずにとどまるのと同等のレベル。


「ユウマ。ホント大丈夫だからアイリスちゃんとクエスト行って来て。行ってきてくださいお願いします。うるさいから……」

「……」


 ミカに悲しい真実を聞かされた俺は無言でアイリスと一緒に部屋を出た。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――


「とにかく、二人がああ言ってくれたんだから俺たちは二人の遺言通りにクエストを受けよう。……それが、俺たちにできる唯一のことだ」

「ユウマさん!? お二人は死んでませんよ!? 風邪を引いているだけで生きてますからね!?」

「アイリス……。悲しいのも、認めたくないのもわかる。……でも、認めなきゃいけないこともあるんだ……。今はわからなくてもいい。でも、後でゆっくり考えてみてくれ……」

「いえ、だから考えても何もお二人は生きて―――」

「ほら見ろアイリス。あの星、なんだか俺たちを見ているような気がしないか? もしかしたらあの星はリリーナとミカなのかもしれないな……」

「いえ、まだお昼で星は見えませんし、お二人は死んでませんってば!」


 最近、アイリスが俺のボケにツッコミを入れることを覚えてくれたので、ますますアイリスといる時間が楽しい。

 一回の会話の中で一回はアイリスにツッコミを入れてもらうのを俺は最近の目標としている。

 そんなくだらないやりとりをしながらギルドへと足を運び、一日ぶりのギルドに足を踏み入れる。

 中はいつも通りの騒がしい喧騒。イカツイ感じのおっちゃんや、ごついおっさん、幼い子供たちや俺と同い年くらいの男女、みんなが思い思いに過ごしている。

 朝から酒を飲んで飲まれている者、何のクエストを受けようか相談している者、新しい仲間を募集して応募者を待っている者、本当に思い思いに過ごしている。

 ここが異世界のハローワーク。いやな響きである。


「やっぱりニートって最高の職だったんだな……今からでもジョブチェンジしたい……」


 少し前までの自分の生活を思い出し、その頃の生活に思いを馳せる。ちょっと前までの毎日をグータラに好き勝手に生きていた日々……。

 ―――あれ? ちょっと前どころか俺って結構前からニートしてなかったっけ? 具体的に言えば中学のころから。

 ―――昔のことを考えるのは止めよう。俺は今を生きる男だ。


「ユウマさん。これなんてどうでしょうか?」


 俺が再びニート生活に思いを馳せている間に、アイリスが一枚のクエスト用紙を持ってこっちに走ってきた。擬音を付けるとしたらトコトコ、か、トテトテだと俺は思う。異論は認めない!

 え? ぴょこぴょこだって? 異議あり! それは違うよ!


「えーっとどれどれ―――」


 小さな妄想を胸に秘めたまま、至って冷静かつ紳士的にアイリスの持ってきたクエスト用紙に目を向ける。


「ビックラビット討伐依頼。報酬十万ギル―――か」


 アイリスの持ってきてくれた依頼なので、ミカやリリーナが持ってくるようなトンデモ依頼ではない。

 確かにこの始まりの街、イニティでは高難易度クエストではあるが、イニティのクエスト全般のレベルからすれば中級レベルぐらいのものらしく、まず始まりの街にこんなクエストがあることが俺からしたらおかしいと思うのだが、この世界ではそういった基準らしい。

 この依頼だっていつも通り四人で行けば、いくらリリーナが暴走しようと、ミカがバカやってドジをしまくったとしても、俺が上手く立ち回ればそう簡単に死ぬようなことはない。

 ―――まあ、この前実際に死んだ奴の言葉じゃ信憑性に欠けるかもしれないが、本当のことなので信じてもらうほかない。

 この前のことが異例中の異例なのだ。

 そういった事情を含めて、別に俺はこのクエストを受けることに対してなんの異議申し立てもない。それもアイリスの言うことなら特にやってやりたいというお兄ちゃん心とお父さん心が刺激される。

 だが―――


「うーん……。四人ならどうとでもなりそうだけど、今日は俺とアイリスの二人だけだからな。正直、火力不足な気が―――」


 そう、さっきまでの話はいつもの四人ならではの話だ。頭脳は俺、物理攻撃はミカ、魔法攻撃はリリーナとサポートでアイリス。そして補助、回復がアイリス。結構バランスのいいパーティーである。

 が、その火力はほとんどミカとリリーナに頼りっきりになっている。

 俺の攻撃はそこらの雑魚なら相手できるが、こう中ボスレベルになるともう何にもできない、太刀打ちできなくなってしまう。


「あ……。……確かにそうですね。……すいませんでした」


 目に見えてしょんぼりしてしまうアイリス。

 なんだが罪悪感が半端ない。


「いや、行けるな! うん、なんだか行ける気がする! アイリス、大丈夫だ! 俺とアイリスならどうにかできる、どうにかする! たぶん……おそらく……きっと……。……だからビックラビットを討伐してやろうじゃないか!!」

「は……いっ!!」


 結局、アイリスへの罪悪感に一瞬で耐え切れなくなった俺は、何の根拠もなく、理由もなく、ただ行けるとだけ連呼して、ビックラビット討伐をすることになった。


 本当に女の子ってずるい。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 場所は始まりの街、イニティの門を出たすぐそこの草原。


「ぎゃあああああああああーーーーーっ! アイリスーっ! ヘルプ! ヘルプミーっ! 死んじゃう! このままだと俺何も叶えられないまま死んじゃうよっ! せめてアイリスをペロペロハスハスしてから死にたい! もっと言うなら結婚したい! だからアイリス、もし俺が死んだら俺の意識がなくなる前に「……私……ユウマお兄ちゃんと結婚します」って言ってくれーーーーーっ!! それなら俺、安らかに眠るから! 死んでもいいからーーーーーっ!!」

「色々と何言ってるんですかユウマさん!? ―――待っててください! 今魔法で援護します」


 現在、俺はビックラビットに追いかけまわされている。


 ビックラビット。

 名前の通り大きな兎。大兎だ。

 その体はテーマパークなどでよく見る着ぐるみほどの大きさを誇っている。姿に関してはコットンラビットを大きく凶暴にした感じで、コットンラビットたちの親玉という感じだ。

 実際、目はコットンラビットと同じく赤い。が、その他は全くと言ってもいいほど違う。口からは大きな前歯が突出しており、硬いものでも砕いてしまいそうな存在感がある。そして次に爪。コットンラビットの爪は特に何の変哲もないウサギの爪だった。が、ビックラビットの爪は前歯同様凶暴化しており、俺の体くらい簡単に引き裂いてしまえそうな爪をしている。そして最後に力、パワーだ。これがある意味一番厄介なところかもしれない。

 クエストを受ける際にいつものようにギルドのお姉さんから事前情報を聞いていた俺は、お姉さんから聞いた「コットンラビットを大きく凶暴化させた、コットンラビットの上位存在、それがビックラビットです」という言葉を聞いて、真正面から馬鹿正直に行くのは止めようと、ビックラビットを見た瞬間にいきなり『潜伏』スキルを発動させて背後から飛びかかった。

 卑怯とは言わせない。だって戦いとは弱肉強食、弱いほうが悪いのだ。戦場に立ったその瞬間、死を覚悟しなくてはならない。相手の命を奪うのだからそれぐらいの覚悟は必要だ。

 撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけなのだ。

 しかし、そんな渾身の俺の一撃は、


「―――え、ウソン……」


 攻撃が当たる瞬間にビックラビットの爪によって阻まれ、ふいうちは失敗に終わった。

 しかもそのあとに爪で器用に俺の剣を挟んだビックラビットは、そのまま剣ごと俺をいとも簡単に持ち上げ、その場で振り回し始めた。

 剣を離せばいいだけの話なのだが、離した瞬間に俺は遠心力によって遠くまで吹っ飛ばされる。それはそれでマズイ。アイリスを一人にしてしまう。

 結局何もできずに、むしろ逆に攻撃されてしまった俺はそのまま剣ごと投げ飛ばされ、今に至る。


「できたっ! ユウマさん、当たらないでくださいね! 『スプラッシュ』!!」


 魔法の詠唱が終えたらしいアイリスが初級水魔法『スプラッシュ』を放った。

 一応俺もアイリスに教わったので撃つことはできるが、威力は段違いだ。俺の全力が超強い水鉄砲の最大威力だとしたら、アイリスが出すのは一番弱くて消防車のポンプ車レベル。この時点ですごいのだが、本気を出せばほぼ戦車級というのがますますすごい。


「おー、神よ、アイリス様よ。あなた様はわたくしめを見捨てていなかったのですね。もしこの後生きて帰れるのだとしたら、俺、真面目に生きます!!」


 アイリスの援護攻撃のあまりの嬉しさに半死亡フラグを自ら立てていきながら、全力で走り続ける。

 アイリスの全力で放った魔法は上手く狙いが定まっており、走っている俺たちに向かってしっかりと向かってきている。

 このままいけば見事にビックラビットに命中して、倒すまではいかなくとも相当なダメージを与えることができるはずだ。

 俺はアイリスの魔法が確実に当たるようにある程度計算しながらビックラビットから逃げ回る。

 そして、その間にもアイリスの魔法はだんだん、刻一刻と俺たちの方に近づいてきて、近づいてきて―――

 俺たちの方に―――


 俺たちの方に!?


 気づいたときにはすでに遅い。あとの祭りとはよく言ったものである。

 次の瞬間、アイリスの魔法は見事にビックラビットに命中し、すぐ前を走っていた俺も例外なく巻き込まれた。


「ああ、なんだか懐かしいなこの感じ」


 そんなことをつぶやきながら、俺は宙を舞っていた。


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