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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第四章
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7話

「あだまいでぇー、気持ちわりぃー、喉いてー、あちぃー、さみぃー」


 現在、俺ことユウマは自宅の布団にくるまり、おでこに『フリーズ』によって作られた氷をくるんだ布を置き、安静を言い渡されていた。

 その理由はひどく単純で、風邪を引いたのである。正確に言えば引かされたのである。


 事は少し前まで遡る。




 昨日のファイヤーバード討伐依頼。それを見事に達成した俺たちはその報酬から少し借金を返済し、おとなしく宿に戻っておとなしく寝た。

 そして夜は明け、朝を迎えた。

 俺はいつものごとく七時に目を覚ます。そしてそこで自分の体の異変に気が付いた。体がひどくだるく、動かそうとすると体が重い。それに妙に体が熱い。不思議に思い自分の体を見てみると、ひどく汗をかいていることに気づく。

 いくら十月頭とはいえ、ここまで汗を搔いているのは異常だ。少し汗を掻いているくらいならともかく、服がびっしょりになるまで汗を掻くのは異常すぎる。俺はそんなに汗っかきじゃない。

 それでもどうにか体を起こした俺は、まずタンスからタオルを取り出し体を拭こうと布団を出る。

 瞬間、まるで季節が夏から冬にいきなり変わったかのような感覚に襲われた。さっきまで暑いと思っていた体が急に寒さを感じて震え始めたのだ。

 ガクガクと震える体。寒さを紛らわそうと体を抱くようにしてもなんの足しにもならない。


「おいおい―――どうなっちゃってんのよ俺の体」


 そう声を出して初めて気づく。喉が痛い。喋っていなくてもイガイガする。

 次に頭が痛い。ズキズキと絶え間なく続く頭痛。そして鼻から滝のように垂れてくる鼻水。何度啜っても、鼻をかんでも、決してとどまることのない鼻水。

 ここまで来て、俺はようやく自分の現状について把握し始めていた。


「―――いや、ないないない。それに今日だって借金返済のために働かないとなんだ。動かねえと……」


 何かの勘違いだと自分に思い込ませ、だるく重い体を動かしてどうにか十分ほどかけて着替えを終える。

 その間も頭痛、鼻水、喉の痛みに堪えながらの作業だった。

 そしてどうにか着替えを終えた俺は、軽装を身に付けてさらに重くなった体を引きずるようにして部屋を出た。妙にドアが重かった気がする。

 そのまま廊下に出て、みんなのいるであろう一階の居間に向かって歩く。いつにも増して長く感じる廊下を歩き、一階に降りるための階段へと差し掛かった。

 そして階段を降りようと一歩目を踏み出したところで俺は―――


 盛大に足を滑らせて階段から落ちた。


 体中をいろいろなところに打ち付けながら大きな音を立てて階段を落ちる。体中痛いはずなのに想像より痛みを感じない。

 やっちまった。そう思いながら体を起こそうと力を入れる。が、入らない。

 そうこうしている間に今のド派手な音を聞いたアイリスがやってきた。


「ユウマさん。どうかなさったんですか? なんかすごい音がきこえたんですけ……ど……」




 そして今に至る。


 現在の俺は完全にアイリスに見張られている。風邪を移したくないから出て行ってくれと頼んだのだが、アイリスはそれを頑なに拒否。

 階段から落ちてアイリスにケガの治療をしてもらった後も借金があるんだからこんくらいで休んでなんていられない。今日もクエストに行こう。と言ったのだが、これに至ってはアイリスだけでなくリリーナとミカも拒否。

 その上、


「なに言ってんのユウマ! 風邪だからってバカにしちゃいけないんだよ」

「私は別にクエストに行ってもいいけど、それで死なれても気分が悪いわね。死ぬなら私の知らない所で勝手に死になさいよ」


 などと言われた。

 いつもは働けニートとうるさいくせに、こんな時ばかりは休ませたがる。

 そういえば、リリーナが少し照れくさそうにしていた。それを見て、リリーナのツンデレレベルが上がったような気がした。

 その後ミカに無理やりお姫様抱っこで部屋に戻された俺は、俺が何か変なことをしないで安静にしているようにと、一人ずつ交代で俺を見張るように決定したらしいアイリスに見張られている。

 どうやらシフトは午前中はアイリスのようだ。他の二人はたぶん下にいる。


「まったくもう、ユウマさん。無理しちゃだめですよ。風を引いてしまったんならしっかりと安静にしてないと」


 さっきから何度目になるかわからないアイリスのお叱りを受ける。

 うん。全然怒られてる気がしない。むしろ癒されてる。


「ユウマさん、どうぞ。リンゴなら食べられますよね?」


 アイリスが剥いてくれていたリンゴを俺に差し出してくれる。

 かわいくウサギ型に剥かれたリンゴは本当にアイリスらしい。アイリスみたいでかわいい。


「ありがとうアイリス。お兄ちゃん、うれしいよ」

「それはよかったです」


 最近、本当にアイリスが俺の扱い方を熟知してきてしまっている。

 それを成長と言えば聞こえはいいが、お兄ちゃんである俺からしたらどことなく寂しい。そしてお父さんとしての俺は娘の成長がうれしい。

 なんというジレンマ。


「それじゃあ……」


 そう言ってアイリスが剝き終わったリンゴの一つをその可愛らしい小さな手で持つ。

 持つ。―――えっ?


「アイリスさん……。……その、その小さくも可愛らしいお手てに握られたリンゴは?」

「? 食べさせてあげようと思ったのですが……。もしかしてご迷惑でしたか?」

「……」


 風邪のせいでいつもよりも回転の悪くなった頭が擦り切れそうな勢いで回転をする。

 アイリス、今なんて言った? 食べさせてあげるって言ったか? 言ったよな? 風邪のせいで俺が幻聴を聞いたとか、実は寝てて夢の中でした、みたいなオチじゃないよな?

 うん、大丈夫だ。起きてる。俺、ちゃんと目を開いてるよ!

 だが焦るなユウマ。ここで「欲しい欲しい! めっちゃほしい! いっそアイリスのお手ても一緒に食べちゃいたいぐらいだよ~」とか言ってみろ、絶対に引かれる。

 いくら風邪を引いて回転の悪くなった頭でもそのくらいはわかる。

 だからここは「ありがとうアイリス。いつも迷惑かけて悪いのぉー」って、なんか違くない? 違うよね?


「私が風邪を引いたときはお母さんがよくごはんとかを食べさせてくれたのですが……もしかしてユウマさんはこういうのお嫌いでしたか? でしたらやめますが……」

「滅相もない! 食べさせてください! アイリスのその天使の様な小さくて可愛らしいお手てで、一口ごとに「お兄ちゃん、あ~ん」って言いながら食べさせてください! むしろそのアイリスのお手ても一緒に……って……ハッ!!」


 ここまで言って自分のミスに気付く、

 さっき確認したばかりの事項をミスるとか、もう救いようがない。


「……ハア―――」


 痛い喉で大きなため息をつく。

 確実に嫌われた。そこまでいかないにしろ、絶対に好感度は下がった。

 もう、この世界で生きる価値がなくなった。

 おお、神よ。なぜ俺にだけこんな過酷な現実を突きつけるのですか。


「ふふっ。もう、ユウマさんったら。風邪を引いてるんですからおとなしく安静になさってください。そんなに催促しなくてもちゃんと食べさせてあげますから」

「うぅ。そうだよな……。こんなお兄ちゃん気持ち悪いよな……って、あれ?」

「ん? どうかしましたか?」

「……いや、食べさせてくれるの?」

「? はい。それはユウマさんは病人ですし、それくらいはしますよ。当たり前じゃないですか」


 おぉ! 神よ。あなたは俺を見捨ててなかったのですね!!


「はい。あ~んです」


 そう言ってアイリスが念願の「あ~ん」を言いながらリンゴを差し出してくる。


「……あ~ん」


 そんなアイリスから差し出されるリンゴを、念願のリンゴを、食べる。

 ああ、天使の味がする。

 そんなこんなで午前中、俺はアイリスという天使と甘いひと時を過ごした。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――


「……ん……んあ? ……俺、寝てたのか?」


 窓から外を除けば日は傾き、空の色は青から茜色へと変わっている。

 アイリスと甘い一時を過ごした後、どうやら俺はその天国の様な時間を寝て過ごしてしまったらしい。

 なんともったいないことをしてしまったのだろう。数時間前の自分を殺してやりたい。そしてセーブ地点からやり直したい。むしろアイリスに看病され始めたところだけ別セーブして、いつでもそこに戻れるようにしたい。


「あ、起きたのね。全く、何時間寝れば気が済むのよ」

「……リリーナか。午後はお前が担当なのか」

「そうよ。偉大なる魔法使いになることが約束されてるリリーナ様の貴重な時間を削るだけでも大罪なのに、この私に看病までしてもらえるなんてトンデモナイ大罪なんだからね」


 なんでだろう。風邪のせいかな? リリーナの嫌味にイラつかない。なんかツンデレっぽいとしか思えない。なんで? どう見てもデレてないのに。


「なに? 何で黙ってるのよ。……ああ、喉が渇いて喋れないのね。しょうがないわね。今、水を取って来るわ。全く、私を動かそうだなんて本当にいい度胸だわ」


 リリーナのやつ、今日はいつにも増してデレがすごいな。いつもなら「あれくらいのことで風邪を引くなんてだらしがないわねユウマ。そんなんだから引きこもりなのよ」とか、言ってきそうなもんなのに。

 少ししてリリーナがコップに水を汲んで戻って来る。


「はい。後は勝手に飲みなさい……って何してるのよ。そんなにコップを凝視して」

「ああ、毒でも入ってないか確認してたんだ」

「入れてないわよそんなもの!」


 リリーナにコップを渡され、喉を潤すためにそれを一気に流し込む。冷たい水が喉を潤していき、汗を掻いて体内から出きってしまった水分を補給した俺は素直にリリーナに礼を言う。


「サンキュー、リリーナ。美味かった」


 今ほど水をおいしいと思ったことはない。

 いつもなら「水? そんなん飲むならジュース飲むわ」という俺だったが、今はいつものジュースよりも水の方がおいしく感じられた。

 美少女が入れて来てくれたというのもあるのかもしれない。


「ユウマが素直にお礼を言うなんて明日は大雪か嵐か雷かってところかしらね」

「お前いつもそれ言うけど俺だって礼くらいは言うからな。超が付くほどの常識人だからな?」

「ユウマが常識人? それは面白い冗談だわ、ユウマが常識人なら私は超常識人、ユウマが超常識人なら私は……神よ」

「そこまで言うか……」


 いつも通りのリリーナとの言い合いを終え、俺は再び布団にくるまる。


「……なさいね」


 布団に包まった瞬間、リリーナがなにか言った気がした。


「なんか言ったか?」

「……」


 黙り込むリリーナ。ただ顔が真っ赤なような気がする。


「おいリリーナ。顔赤いぞ、もしかして俺の風邪が移ったんじゃ……」


 ふと、そんな予感がして、体を起こしリリーナの方を向く。


「おい、リリーナ……」

「ああもう! 違うわよ! 風邪なんて引くわけないでしょ!」


 手を伸ばした瞬間、突如リリーナが大声を上げる。

 そのことにびっくりした俺はリリーナの方へ傾けていた体が勢いよく元の位置に戻り、風邪のせいで力が入らなかった腕が俺を支えきれずに布団に倒れこむ。


「じゃ、じゃあなんて言ったんだよ。気になるだろ」

「……なさい。……って言ったの」

「は? なんだって?」

「だーかーらーっ。ごめんなさいって言ったのよ!!」


 ―――は?


「ユウマが風邪を引いたのはどう考えても私のせいでしょ。私があの時周りも見ずにあんな魔法を放ったからユウマが巻きこまれて風邪を引いたんじゃない。だから謝ってるのよ!」


 なんだ。そういうことか。


「あのなあ、リリーナ。確かに原因はそれかもしれないが、あれは回避の遅れた俺にも問題あるし、作戦不足であんな方法しかなかったってのもある。だからそんなに気にすんなよ。こっちまで調子狂う」

「……ユウマ」

「それに―――」

「それに?」

「リリーナがそんな素直だと、このあとの天気が晴れから天変地異に変わる。空から槍と隕石が降り注ぎ、地表はマグマに飲まれ、ひび割れて、世界が滅ぶ」


 瞬間、リリーナがかすかに震え始めた。


「いい度胸じゃない」


 あ、マズイ、冗談のつもりがリリーナがマジモードに入った。


「ユウマ、体熱いんじゃない? 風邪の時って体が妙にほてるわよね? だから私が冷やしてあげるわ」

「ま、待てリリーナ。今日はマジで待て。今は無理、マジで無理、ほんと無理、無理無理無理ーーーっ!」


「『アイス』っ!!」


 次の瞬間、リリーナの魔法によって生成された大量の氷に俺はその身を包まれていた。

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