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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第四章
72/192

3話

 

「やっぱりか……」

「落ち着いていらっしゃるのですね……。皆様がここに来られてこの説明を受けると、何かと怒鳴ったり、何もしゃべらなくなったり、元の世界に返してくれ、生き返らせてくれ、死にたくない。と、口をそろえておっしゃいますのに―――」

「なんとなく察してたしな。自分の最後の記憶とかで……。それに騒いだって喚いたってどうしようもないことぐらいわかってるし、そんなことでラティファに迷惑を掛けたくないし」

「……え?」


 俺の言葉にラティファが驚いた顔をしている。

 心の底から驚いたような、まるで予想と違う言葉が返ってきたというような、そんな顔。


「え、なに? 俺そんな変なこと言った?」

「い、いえ。……そのようなことを言われたことがなかったので驚いてしまって……」

「そういうことか。なんか俺が変なこと言ったのかと思ってこっちの方が驚いたよ」


 未だに驚いた表情のままのラティファ。


「……何でですか?」

「ん? 悪い、ちょっと声小さくて聞こえなかった。もう一回言ってもらえるか」

「……何でですか? なんで、私に優しくするんですか?」


 ラティファの、俺からしたら何でそんなことを聞くのかという質問に、思ったままの答えを口にする。


「美少女だから」


「……はい?」


「美少女だから」


「えっと……すいません。少々意味がわからないのですが……」


 これだけわかりやすい説明をしているのにまだ意味がわからないらしいラティファ。


「いいか、ラティファ。俺の世界ではこんな名言がある。かわいいは正義っ!!」

「かわいいは正義、ですか?」

「ああ、かわいいは正義、かわいいは最強、かわいいは犯罪。これが俺の中におけるかわいいの三定義だ」


 俺の中におけるかわいいの三定義。それは、

 一つ。かわいいは正義。これはこっちの世界の住人なら誰でも知っていることだろう。

 二つ。かわいいは最強。これもこっちの世界の中級者なら理解しているはずである。知らない君はもう少しこっちの世界の勉強に励むように。

 そして最後の、かわいいは犯罪。これはこっち世界の上級者だけが理解できるものだ。

 一応ここまで達せていない人のために説明をさせてもらうと、簡単に言えばそのかわいさは犯罪レベルだ。ということだ。

 もっと具体的なことを言うなら、この子の為なら犯罪だって厭わない。そう思わさせるほどのかわいさを持つ者のことを言う。

 これは本当にかわいい人を見たときに発生するもので、頻繁には起こりえない。

 なので具体的な説明はできないが、これは自分で体験してくれと言わざる負えない。


「テストに出るからメモしておくように」

「わ、わかりました」


 俺のおふざけに真面目にメモをしだすラティファ。

 わざわざ異空間からメモとペンを取り出しまでメモをしている。なんと律儀で真面目な子なのだろう。


「……まあ簡単に言えば、君がかわいいから迷惑を掛けたくない。かわいい子の前でくらいカッコつけたいっていう男の性だよ」

「男の性……ですか。私にはわかるはずがありませんね」

「そうだな。だからラティファは俺のカッコいいところを見ててくれればいいよ。できれば惚れてくれるとなおいい。もっと言うと結婚しよう!」

「ふふっ。それは答えかねますね」


 初めてラティファの笑顔を見た。

 それはまだ子供のようにあどけなく、純粋で、穢れを知らない。そんな笑顔だった。


「そういえば聞きたいことがあるんだけど」

「はい。なんでしょうかユウマ様?」

「話の前にまず、そのユウマ様ってのやめてくんないか?」

「え?」

「様付けとか慣れてないんだよ。だからなんか変な感じでさ。俺も女神であるラティファを呼び捨てにさせてもらってるんだからラティファも俺のことは呼び捨てでいいよ。またはさん付けとか」


 大抵の場合アイリスやラティファの様なおとなしい性格の子は他人に対してフレンドリーに接するのが苦手だったりする。そのことから誰かを呼び捨てにしたりするのが苦手だったりするものだ。

 だから俺はあえて先に『さん』付けでもいいと提案した。


「わかりました。……呼び捨ては少し抵抗がありますので、さん付けでお願いします。ユウマさ……ユウマさん」

「……。よし。オッケー!」


 とりあえず様付けをやめさせたのでオッケー。

 ちなみに最初の少しの無言は、さん付けに少し抵抗を見せつつも、頑張ってさん付けをしたラティファがかわいかったので、一瞬見とれていたための間だ。

 やっぱりかわいいは正義で、最強で、犯罪だった。

 だって今俺死にかけたもん。……って、俺死んでるのか、なら成仏しかけた。が正しいのか。……のか?


「それじゃあ話を戻すけど、ラティファは俺たち日本から来た奴にチート能力を宿してくれたよな?」

「はい。異世界に飛ばされて最初の説明にもあったと思いますが、主にみなさんの特技や性格、細かい話をしますと、その二つと様々な要因で皆様に与えられたチートは決まっております」


 そう。確かに今ラティファが言った通り、異世界に来た直後、俺を含めたクラスのやつらが混乱している時にラティファのチュートリアルが入って、その中に確かにチートの説明があって、説明の内容も今のラティファの話と相違点はない。

 問題はないのだが、質問はある。


「……なんで俺にはチートくんなかったの?」


 これだ。これ以外にない。

 他の日本から来たクラスのやつらはみんな何らかのチート能力を受け取った。

 ミカは『金剛力』、最初に対決したハルマキとかいうやつには圧倒的な速さという敏捷性のチート、それと一緒にいたマザコンだかなんかはおそらく弓関係のチート、たぶん絶対命中とかそんなもんだろう。

 それ以外にもミカの話や街の中の噂なんかで、火を操る『パイロキネシス』、手も触れていないのに物や人を動かす『サイコキネシス』、一定の場所から一定の場所まで一瞬で移動できる『テレポート』などがあると聞いた。

 どれもこの世界にはないもの、あるとしてもスキルポイントや魔力を多く消費するものらしい。

 それをスキルポイントの消費なし、魔力もそんなに使わないなんていう、チートにさらにチートを上乗せしたそんな性能。

 それをみんなは確かに受け取っているのだ。

 俺以外のみんなは、確かに受け取っているのだ。


「なんで俺にはチートを宿してくれなかった? 最初は俺にも気づいてないだけで、とか、特別な条件下で使えるチートなのかといろいろ試した。チートはスキルじゃない天性のものなのかと疑ってもいたけど、ミカの冒険者カードをみたらそうじゃないってわかった」


 俺だって最初は何か隠れた力を授かってるって思ってた。

 ただ他のみんなよりもチートだから、チートの中のチートだから条件下でないと使用できないとか、そんな理由だと思っていた。

 でも、こっちにきてから二カ月がたったころから、自分には完全にチートなんてものが宿ってないと悟った。


「どうしてだ? 俺が日本でロクでもないやつだったからか? 両親に迷惑ばっかりかけて、ミカにも迷惑かけて、自分だけ怠けてたからか?」


「……」


「父さんが学校行けって言っても無視してたからか? 母さんが何も言わずに俺のことを優しい目で見てくれてるからって、わかってた上で甘えてたからか? ミカが毎朝俺を呼びに来て、放課後には自分が遊びたかったり、バイトしたり、友達と過ごせる時間を俺に割いているってわかってて、その上でミカに甘えてたからか?」


「……」


「そうやってみんなが優しくしてくれてるからってそれに甘えて、気づかないふりをして、いいとこどりをして、それなのにその人たちにたまに悪く当たって、怒りをぶちまけて、自分の悪いところを押し付けたからか?」


「……」


「そうやって、俺が自分で背負わなきゃいけなかったものを、全部他人に押し付けてきたから、俺にはチートをくれなかったのか?」


 わかってた。

 全部わかってた。

 俺が間違ってるんだってことも、俺がバカなんだってことも、みんなが優しいんだってことも、自分がそれに甘えてるんだってことも、全部―――わかってた。


 どれだけ自分がバカだったのかと、今でも思う。

 特にミカは日本でだけでなく、こっちの世界に来てからも俺の節介を焼いてくれている。

 こんなどうしようもない奴のために、他のチート連中とパーティーも組まずに、もっと楽に生きられる方法を放棄して俺を探してくれていた。

 俺はミカにこれ以上迷惑は掛けまいと、ミカのことを忘れようとすらしていたのに。

 それなのにあいつは幼馴染だからって、そう言って笑顔で俺に節介を焼いてくれるだ。


 リリーナだって、アイリスだって、本当ならもっと上のパーティーにいてもいいはずなのだ。

 始まりの街にいるのにあんなに優秀で、確かに少し問題はあるけど、それでもあの二人は俺にはもったいないくらいの女の子だ。

 それこそ、アイリス、ミカ、リリーナの三人でパーティーを組んだって問題ないことくらい俺にだってわかる。

 ミカが『金剛力』を使って前衛を、アイリスが回復と補助で後衛を、リリーナが魔法で中衛を。ちゃんとしたパーティである。

 それなのに、


「それなのにあいつらに甘えてる俺への罰か……」


 最後のリリーナやアイリス、こっちに来てからのミカに関してはチートうんぬんに関して関係ないことはわかってる。

 それでも、そう思わずにはいられない。

 普段あんな適当にあつかっていても、どれだけ喧嘩しても、どれだけ言い争ったって、


 俺にとって、あの三人はもうかけがえのない大切な存在なのだ。


「……ふ、なんだよユウマ。こんな気持ちになるなんてらしくもない……」


 ああ、本当にらしくもない。

 こんな自分のダメなところを認めて、誰かを大切だと思うなんて、日本にいた頃なら確実になかっただろう。

 気づかぬまま、あるいは気づかぬふりをして、一生を無駄に終えていただろう。

 今、目の前にいる女の子はそれを防いでくれたのだ。

 こんなどうしようもない男を、救ってくれたのだ。

 そんな優しい女の子に、なぜチートをくれなかったのかなんて問えよう。

 そんな資格は自分にはないことも今ではわかっているはずなのに。


「……ユウマさん」


 今まで一切口を開かなかったラティファが口を開いた。

 これまで見せなかった真面目な表情で、もじもじもしない、声も小さくない、女神らしい存在感を持って彼女は言葉を、声を発する。


「そこまで気づけたのなら、あなたは頑張りました。確かにユウマさんの日本での生活は決して褒められたものではありません」


 ラティファの言う通りだ。


「ですが―――今は違います。ちゃんと自分の悪いところを認めて、誰かのために行動できています。誰かを思って、誰かに思われています。その証拠に、ユウマさんには見えないでしょうが、ユウマさんのお仲間は今、ユウマさんのことを思いながら泣いています。叫んでいます」


「……」


「過去はもうどうすることもできません。私たち女神の力をもってしても、時間を巻き戻すのは難しいです。もちろんユウマさんの今いるあの世界でもそうですし、元いた日本でも同じことです」


 俺の瞳を捉えたままのラティファが言葉を続ける。


「ですが、今は、未来は、これからは変えられます。過去はどうしようもなくても、今は、これからはどうにかできる。自分次第でどうとでも変わる。自分の選択一つでいい方にも、悪い方にも転がります。―――ユウマさん。大事なのは過去ではなく、今なのではないでしょうか? 変えられない過去より変えられる未来と今、それが大事なのではないでしょうか?」


 ラティファの言葉が心に重くのしかかる。

 心の深いところに突き刺さる。


「でも勘違いしてはいけませんよ? 過去が変えられないからと言って過去をなくしてしまってはいけません。なかったことにしちゃいけません。それはユウマさんのこれまでの人生と、これまでユウマさんと関わり、支えてくれていた人の思いもなかったことに、いえ、無駄にしてしまいます。それだけは決してしてはいけません。向かう先は今やこれからでも、向き合うのは過去です。過去のユウマさんがいたから今のユウマさんがいます。過去のユウマさんがいたから今を生きる他の方がいます。それを忘れてはいけませんよ」


「―――そうだな。ラティファの言う通りだ。間違いない。俺もそう思う」


 俺は、今の俺はラティファの言葉に納得し、受け入れることができた。

 過去の俺でなく、今の俺が受け入れることができた。


「でも、俺はもう死んだんだろ? なら未来なんてない。いや、あるか、来世っていう未来が。そこで頑張ってみることにするよ。次の自分に期待ってなんかダサいような気もするけど、それしか選択肢がない」


 やり直したくても、どれほどそれを願っても、思っても、望んでも、それはもう叶わない。

 なら俺は次の自分に期待する。

 今の俺なんてどこにもない、記憶も、容姿も、何もかも違う自分にすべてを託すしかない。


「……んあ?」


 情けない頼みごとを来世の自分に託していると、突然俺の体が光を発した。明るく柔らかな、それでいてすべてを包み込むような温かいその光はすぐに俺の全身を包み込む。


「なんだなんだ!? 強制成仏!?」


 わけのわからない現状に混乱し始める俺。

 そんな戸惑う俺にラティファが柔らかな笑顔で言った。


「大丈夫ですユウマさん。あなたは死んでなんかいません」

「? でもさっき死んだって……」

「そうですね、確かに言いました。でもユウマさん、あなたは死んでません。その光はこの世界から現実に、あの世の反対―――この世に戻るための生の光です」

「ちょっ! 事情が呑み込めないんですけど。サルにもわかるように頼む!」


 俺の言葉にラティファは少し考えるようなしぐさを取って、


「ユウマさんは生きています。それ以上でも、それ以下でもありません」


 そう言ったのだった。

 そしてその言葉を聞いた瞬間、俺の足が光になって消え始めた。


「ユウマさん。実は私、言い忘れてたことがあるんです」

「ん? なんだ? 俺への愛の告白?」

「いえ、違います」


 俺の冗談に素直に返してくるラティファ。

 ちょっぴり傷ついたのは内緒だ。

 でもこんな意味の分からない状況でこんな軽口や冗談を言えるのだから、我ながら俺も肝が座っているもんだ。


「おお、ユウマよ。死んでしまうとは情けない」


「え!? ここで!? 今頃!? 確かに死んだらそれはお約束だけど! ……てか、それ著作権とかいろいろあぶない! 俺が言えたたちじゃないけどあぶない! 何がとは言えないけど危ない!」

「でもこれは女神マニュアルの記載事項ですので……」

「そんなのあんの!? 女神様にマニュアルとかあんの!?」


 ツッコミをしている最中も俺の体は光になって消えていく。

 今ではもう首しか残っていない。ゆっくりだ。実況でもできそうな気がする。

 意識も少しずつ遠のいてきて、もう思考することすら難しい。視界は一面の白に包まれ、もう何も見えない。


「それとユウマさん。もう一つ言い忘れてたことがありました」


 薄れゆく意識の中、ラティファの声だけはどうにか聴きとることができた。


「ユウマさん。あなたにもちゃんとチートは宿しましたよ。それも皆さんの中でももっとも有能で、ユウマさんだけの、ユウマさんだからこそ手に入れられた、最強で素敵なチートを……」

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