22話
そして再び場所は変わり、今度はミカのいる前衛職の班だ。
「おーい。ミカ!」
前衛職のみんながオークと剣や槍を交わす中、俺もショートソードを構えながらミカを探し大声を出す。
「あ! ユウマ! さっきはよくも勝手に逃げてくれたね! 許さないから!」
すぐにミカは見つかり、こちらに向かってオークを二体ラリアットしながら連れてくる。
そんなもん連れてくんなと魔法の一発でも撃ちたいところだが、変に当たってミカにノックアウトされても困るので思いとどまる。
「あー、すまんすまん。それでなんだが、前衛職のみんなを五分後に一斉に撤退させろ。ただしオークたちを雪崩こませたりはするな。あくまでなだれ込まれないように撤退しろ」
「え!? そんなの無理だって! さっきからユウマ無茶ぶり多いよ!!」
「やれるかやれないかは聞いてない。やれ」
態度だけでかいくせに戦況がまるで見えていない指揮官のような指示をミカに出す。
「そんな横暴な……」
ミカがラリアットしてきたオーク二体をその場に落とし、うなだれる。でもやってもらわないと困るのだ。
「というわけだ。任せたぞ」
指示を出し終わった俺は戦況をもう一度確認すべく、入り口の上に立つ。
「―――そろそろ時間だな」
スマホで時計を確認すると、さっきリリーナに指示した作戦が開始される時刻の一分前となっていた。
ミカの方も上手くオークたちを牽制しながら撤退を完了している。
これなら巻き込まれる心配もあるまい。
そして―――時間になる。
作戦開始だ!!
「―――ってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ロボット物の船長が主砲を撃つときとかに叫んでいるのを真似して、腰に手を当て右手を前に突き出し、大声で叫ぶ。
結構気持ちい。
そんな俺の号令とともに、魔法、弓班からある物が一斉に飛ばされる。
風魔法によってオークたちの大群に飛ばされていくのは――――
「ホント知らないわよユウマ!! 爆発ポーションをいくつも巻き付けた物を風魔法で飛ばせなんて!!」
そう、爆発ポーションだ。
ファナの店で売られている、なんの役に立つのかわからないアイテム。爆発ポーション。
少しの衝撃で爆発し、その威力は普通の一軒家を簡単に破壊できるレベル。それをいくつか巻き付けたものを俺はリリーナにオークたち目がけて飛ばさせた。
ファナに頼んで店にあるありったけの爆発ポーションを持ってきたので、数は優に百を超えていたはず。
魔法使いたちによって飛ばされたそれは徐々に勢いが死んでいき、どんどんと重力に引かれてその身を地面へとゆだねる。
その瞬間、いろいろな場所から爆音が響いた。
耳を劈く様な爆音がそこら中から響き渡り、爆風が俺を吹き飛ばそうとぶち当たってくる。
熱を含んだ爆風に飛ばされまいと必死に身をかがめ、掴めそうな場所に手を置き、死に物狂いでしがみつく。
しばらくして爆音が止み、爆風も勢いが死んでくる。
それを確認してから俺は状況の確認のため身を起こし、戦場を見渡す。
そこには―――
たくさんのクレーターと、死んだオークたちの残骸の山。
見渡す限り緑だった草原はその姿を残してなどなく、吹いてくる風も心地よい物ではなくなっていた。砂や小石を含んでいて少し痛いくらいだ。
そんな状況だけ見たらとんでもないこの状況だが、今俺の胸は高鳴っている。
「しゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
某ロボットアニメに赤い彗星の名を叫びながら、俺はもう一度戦場だった場所を見る。
さっきまで冒険者とオークたちが刃を交わしていた場所から、いくつもの魔法が飛び交っていたその場所から、弓矢が絶え間なく放たれていたその場所から。
あれだけたくさんいたオークは一匹もその姿を残していなかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
オークの大群を討伐しきった俺たち冒険者は、みんなギルドに集まって宴会を開いていた。
時刻は九時を回り、いつもだったら街が徐々に静まり始めるこの時間帯に、ギルドだけが騒がしい。
四十近いおっちゃんから、二十代の兄ちゃん、まだ十代くらいの女の子まで、みんながみんな酒やジュースを飲みかわし、さっきの戦闘での自慢話に花を咲かせ、みんなで笑顔を交わし合う。
いつもはさわがしいことを嫌うギルドのお姉さんたちも、今日ばかりは無礼講ということなのか、それとも今日の戦いに対するねぎらいなのか、何も言わずに俺たち冒険者をもてなしてくれている。
ドタドタと音を鳴らしながらギルド内を走り回り、料理と飲み物を持ってあちこちを行ったり来たり、まるでシャトルランである。
そんな冒険者たちの笑いに包まれた空間の中に俺も存在している。
文化祭や体育祭といったみんなで力を合わせてー、みたいな行事を嫌いとしていた俺が、今みんなで何かをやり切ったことへの達成感に心を躍らせ、いつもなら絶対に断っていたであろう打ち上げのようなこの宴会にも姿を見せている。
最初は本当に嫌だった。
俺にはこんなの絶対に無理だと思っていたし、こんな大人数で何かを成し遂げることなどできないと思っていた。
正直ギルドでオークたちの映像を見たとき、この街を捨ててみんなで逃げようかと本気で考えた。
アイリス、リリーナ、ミカ、ファナ、ザック、シュリちゃん辺りに声をかけて、ロレンスの件で手に入った金をいいことに、新しい街でのんびり暮らすのも悪くないと、本気で考えていた。
たぶん指揮官を任されなかったら、きっと俺はみんなにそう持ち掛けていただろう。
それでみんなにきっと蔑まれてと思う。
いつものようなふざけた物でなく、本気で―――
それでも俺はきっとみんなの命を優先して、強引に引きずっていったんだろうな……。
「―――その点に関してはザックに感謝だな」
あの時ザックが俺を指揮官に推薦してなければ、きっとこの未来はなかった。
ここに俺はいなかった。
どこを見ても笑顔のこの空間にいなかった。
かわいい女の子の笑顔、きれいなお姉さんの笑顔、こ汚ねえおっさんの笑顔。……最後のは消去しよう。
「お疲れ様ですユウマさん。でもこんなところにいていいんですか? ユウマさんはこの作戦で一番活躍したんですからもっと真ん中の方に行った方がいいんじゃないですか?」
そういって俺に声をかけてきてくれたのはアイリス。
アイリスの言う通り、俺は今ギルド内の隅っこの方に一人でお酒片手に立っている。
この前ためしに飲んでみたのだが、これがまた美味い。
どちらかと言えばジュースの方がおいしいのだが、なぜだかこういう場ではお酒の方がおいしく感じる。
「いいんだよ。俺は大して何もしてない……つーか、本気で何もしてない。ただ偉そうに上で命令してただけだ。―――それにああいう集団の中に入るのは苦手なんだよ……」
こんな時にもボッチスキルを発動させる俺。
「そんなことはないんじゃないかしら?」
そういって現れたのはリリーナだ。
「なんだよリリーナ。珍しいな、お前が俺を褒めるようなこと言うなんて。明日は嵐か? 豪雪か? はたまた両方ってことも……」
顎に手を当て、本気で明日の天気を心配する。
「人がせっかく褒めてあげてるのにひどい言い草ね……」
「そりゃあリリーナがおとなしかった天変地異のまいぐれだとしか思えないだろ」
「ちょっと表で話し合いましょうかユウマ。今日こそはいろいろと話したいことがあるの」
「そうか、それは残念だな。俺には何もない」
笑顔で視線をぶつける俺とリリーナ。
このままいけば何かしらの言葉をきっかけに喧嘩バトルにシフトしそうだ。
目指せ、喧嘩番長!
「ふぃんふぁ、きょんにゃひゃしっこでにゃにしてひゅの?」
「口の中のものを呑み込んでから話しなさい」
二人に続いてミカも俺の所にやってくる。
口の中に食べ物をいっぱいに詰め込んで、まるでリスやハムスターのように頬を膨らませ、手には料理をありったけ乗せた皿を持っている。
この前までダイエットだなんだ言ってたやつの食う量には思えない。
ミカは口の中に含んでいた食べ物を食堂に通すと
「で、こんなところで何やってんの? おいしい料理がいっぱいあるんだから食べればいいのに」
「……ああ、後で行くよ」
ミカにそう返して、俺はまた酒を口に含み窓から外を覗く。
「そんなわけにはいかないみたいですよ、ユウマさん」
「ん? どうしてだアイリス?」
俺の質問にアイリスは俺に笑顔を向けた。しかしアイリスは何も答えてくれない。
なんだ? と思い、外に向けていた視線をギルドの方に戻し、目の前の光景を見る。
「どこにいんのかと思ったらこんなとこにいたのかよ兄ちゃん!」
「君は今回の作戦で一番の活躍を見せたんだからもっと真ん中にいないと」
「そうよー。あれだけのオークを倒し切れたのもあなたのおかげなんだから、君はもっとこっち!」
「うおわ!」
いつの間にか目の前に来ていた名前も知らない冒険者たちに背中を押され、宴会の真ん中の方へ連れていかれる。
アイリスたちに助けを求めると、みんなは笑顔で俺に手を振っている。
薄情な!
「ほらほら! もっと飲めや兄ちゃん!」
そう言ってイカツイ感じのおっちゃんが空になった俺のコップにお酒を注ぐ。
しかしなれない状況に固まってしまう俺。
「なんだよ兄ちゃん、ノリわりぃぞー?」
「そうそう! ……えーっと、ユウマだっけ? ユウマ君のーちょっといいとこみてみたーい!!」
「「「みてみたーい!!」」」
「え、なに!? この世界でもそんなノリあんの!? ってかそれ新人にやっちゃだめだから! それやられると新人は断れなくて酒飲みまくってぶっ倒れるから!」
周りの酔っ払いどもにツッコミを入れる。
「「「のーめ! のーめ! のーめ!!」」」
周りからの盛大な酒新人いじめ。
俺は覚悟を決めて―――
「ええい! ままよ! 男は度胸! なんでもやってみるもんさ!」
そう言ってコップに注がれた酒を飲み干す。
「ぶっはー!」
「いいねいいねえ! ……というわけで、もっといいとこ見てみたーい!!」
わんこそばのように注がれる酒。俺はそれをまたも飲み干す。
「ぶっはー!」
「もっといいとこ―――」
「これ以上はむりだーーーーー!!」
この後結局酔いつぶれるまで飲まされ続けました。
そして―――
俺は本当の意味でこの街に馴染み、この街の一員になれた気がした。




