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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第三章
67/192

21話

 場所と時間は変わり、現在の時刻は昼少し前。

 場所はオークたちが街に来るまでの経路となるであろう街のすぐ前の草原。

 そこで俺はこの街の冒険者たちに指示を出し、質問に答えていた。


「なあ、どのくらいの感覚で穴を掘ればいい?」

「適当で構わない。ただ自分たちが歩けるようにはしておいてくれ」

「ねえ、言われた通り土魔法で壁を作ったけどこのくらいでいい?」

「オッケーだ。この調子で横に広げていってくれ」


 慣れない他人、しかも大勢に対して指示を飛ばしていると、ミカがやってきた。


「ユウマ。どうするつもりなの?」

「どうとでもするよ。相手はたかがオークだし、これだけの人間がいて事前準備ができてればどうにかなる……はずだ」

「自信はないんだね」

「そりゃあな。正直気が重い。今すぐ屋敷に帰って愛しのベットちゃんにダイブしたい」

「うわー……ユウマらしいー」


 いきなりのニート発言をして、ミカに苦笑いをされたところで今回の作戦を自分の頭の中で振り返る。

 今回俺の立てた作戦はいわゆる籠城戦のようなものだ。

 まずこの広大な草原に大量の落とし穴を設置し、オークが一気に街に来るのを足止め。

 次に土魔法で腰ぐらいの高さの壁を作ってもらい、そこから弓使いと魔法使いによる遠距離攻撃。

 それらを搔い潜ってきたオークを近接武器持ちの冒険者たちで殲滅。

 というものを考えている。

 ギルドのお姉さんに確認してもらったところ、こちらの戦力は百人前後らしい。大してオークの戦力は千以上。数で言えば十倍は劣っている。が、確か三国志かなにかで籠城している相手の城を落とすには相手の戦力の三倍は必要だという話を聞いたことがある。

 それを考えても戦力は圧倒的に足りないが、どうにかするしかない。


 周りの状況を見ながら、他に今できることはないかを思考していく。

 今できることと言ったらまずは敵情視察。でもこれはもうギルドで見た映像で完了している。これから改めて行っても相手の数を数えることなど不可能だし、正直意味がない。

 なら先に奇襲でも仕掛けて、相手が慌てているうちに倒せるだけ倒して逃走を繰り返し、ここに来るまでに数を減らすか?

 いや、これはリスクが大きすぎる。奇襲は少人数で行わなければならない。もし引き際は見誤ったり、何度も奇襲を仕掛けるうちにオークたちが何かしらの対策をしてきたらその時点でアウトだ。

 そんな浮かんでは却下されていく案を出し続けながら冒険者たちに指示を出し、オークたちが来るのに備える。


 そして、その時が来た。


 オークたちが街の入り口からでも視認できるようになっていた。

 オークたちの姿を確認すると同時に、最後のミーティングを行う。


「あー、みんな。まずはここまでありがとう。でもここからが本番だ。数的には完全に負けているし、正直勝算は薄い」


 作戦前だというのに俺の言葉にほかの冒険者たちの顔が暗くなる。


「だが、俺はこの街を守りたい。俺はこの街でいろんな人に出会って、いろんな交流をした。なんだかんだ言って俺はこの街が好きなんだと思う。そして、たぶんそれはみんなも同じだと思う。だから―――自分たちの場所くらい自分たちで守ろうぜ!!」


「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」」」」」


 俺の目の前に集まるこの街のすべての冒険者たちが手を握り、大声で叫ぶ。

 さっきまでの暗い顔はやる気に満ちた顔に変わり、気分はちょっとしたお祭り状態。

 さっき自分で言った通り、正直勝算は薄い。

 だけど不思議と負ける感じはしない。そんな気分なのだ。

 最後のミーティングが終わり、各自が自分の持ち場に向かっていく中、アイリス、リリーナ、ミカの三人が俺のところまでやってくる。


「さっきはかっこよかったですよユウマさん。このままオークさんたちを追い返しちゃいましょう!!」


 そう俺に言ってくれたのはアイリス。

 オークたちを倒すのではなく、追い返すと言っているあたりがアイリスらしい。


「アイリスの言う通り、言葉だけはちょっとかっこよかったんじゃない」


 そうツンデレ気味に言ってくれるのは能筋魔法使いのリリーナ。

 今回の作戦の要となる存在かもしれないので頑張ってほしい。


「二人の言う通り、さっきのユウマはなんかの漫画の主人公みたいだったよ。―――で、なんのパクリ?」

「パクリじゃねえから! 一言余計なんだよ!」


 最後に俺の緊張を紛らわすように冗談まで交えてきたのはミカ。

 ホント、嫌って程俺のことわかってやがる。


「サンキューみんな。正直みんなの働きにかかってる。頼むぞ」

「はい!」

「この近い未来最強の魔法使いになるリリーナさまに任せなさい!」

「任されたよー」


 みんながそう言って俺に笑顔を向けてくれた。

 俺たちはそれだけ会話を交わすと、各自の持ち場へと向かっていく。


「ねえユウマ」

「ん? なんだミカか。なんだよ、早く持ち場行かないと間に合わないぞ」

「あのさ……正直に聞くけど、さっきみんなの前で言ってたのホント?」


 ミカが何かをうかがうような視線で俺にそう問いかける。

 普段なら照れくさいし適当なことをぶっこいておくところだが、ミカがあまりに真剣な目をしていたので冗談で返すのはさすがに忍びなくなった。


「半分はほんとだよ。なんだかんだこの街の連中は好きだし、街自体も好きだ。日本より断然居心地がいい。―――あと半分は屋敷でゆっくり平和に暮らしてたいね。もちろん働かずに! ここは譲れねえ」

「あはは! ホント―――ユウマらしいね」

「当たり前だろ。それよりもうそろそろ作戦開始だぞ。早く持ち場に行け。俺の仕事を増やすな。むしろなくせ。俺はニートでありたいんだから」

「はいはい。行ってきますよーっと」


 笑顔のミカは自分の持ち場へと向かっていく。

 俺はミカの背中が見えなくなるのを確認してから自分の持ち場へと向かう。


「……ったく。余計な気、回してんなよミカ」


 そう一言零しながら。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――


「3、2、1―――撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 進軍してくるオークたちが魔法や弓が届きそうな距離に入ったのを確認し、俺は魔法使いと弓使いに一斉に指示を飛ばす。

 俺の合図と同時に魔法使いは詠唱を、弓使いは矢を一斉に放ち始める。

 何百という弓矢がオークたちに向かって曲線を描きながら飛んでいき、詠唱を終えた魔法使いが放った魔法がオークたちに向かって飛んでいく。

 放たれた弓矢に何体ものオークが倒れていき、各属性魔法に当たったオークたちは炎に焼かれ、凍り付き、電気に焦がされ、風の刃に切り刻まれ、ひび割れた地面に飲まれていく。

 運よく弓矢と魔法を掻い潜ったオークもあらかじめ用意しておいた落とし穴にハマって足を止める。


「よしっ! 順調だ!」


 明らかにこちらの優勢具合が見て取れて、俺は思わずその場でガッツポーズを取る。

 ちなみに俺が今いるのはこの戦場の全体が見渡せる街の入り口の上の部分だ。この街の入り口は上の部分が歩けるようになっている。その幅は狭く、人一人歩くのがやっとというくらいの幅だが、指示を出すだけなら問題ない。

 他のパーティーメンバーは他の部隊のリーダーをしてもらっている。

 アイリスは回復班、リリーナは魔法、弓班。ただしあいつには魔法を撃たないように言ってある。

 そしてミカは魔法と弓を掻い潜ってきたオークを狩る前衛職の冒険者をまとめてもらっている。


「このままいけばどうにかなるか?」


 改めて戦場を見て、冷静に状況を分析する。


「とりあえず魔法、弓班は想像以上に活躍してるから問題ないな。落とし穴も思った以上には効果がある。前衛職の班も漏れることなくオークを倒してるし、けが人も出てなさそうだ」


 とにかく今は順調。ということだ。


 しかし―――


「ゆ、ユウマさん! オークの大群をさばききれなくなってきました!! それにけが人も多くなってきて!!」


 少しして俺にそう報告してきたのはアイリスだった。


「―――やっぱりか」


 想定内だった。

 落とし穴には限りがある上に登ってこられたら意味をなくすただの時間稼ぎ、魔法は魔力が尽きれば使えないし、弓も体力が尽きれば撃てないし、矢がなくなればもう何もできない。

 そうなれば自然と前衛職の冒険者にすべての負担がかかり、けが人も続出する。


「作戦をもう一段階進めるか……」


 俺は状況を見て、考えていた作戦をシフトする。


「報告サンキューなアイリス。俺も行くからアイリスもけが人の回復を頼む」

「はい! 任せてください!」


 アイリスと短いやり取りを交わし、俺は目的の場所へと向かう。



「リリーナ! リリーナはどこだ!」


 俺がやってきたのは魔法、弓班。リリーナの担当する場所だ。


「なによユウマ! こっちは魔力の切れた人がたくさんで大変なのよ。……っていうか私も魔法撃ってもいいかしら? もう我慢の限界なのよね。さっきから杖の先から魔力がこぼれてるのよね」

「おう、リリーナ。そのことで指示をしに来た。もちろんお前は魔法を撃つな。もし撃ったら俺が銃でお前を狙い撃つ」

「なんでよ! なんか私に恨みでもあるわけ!」

「今の指示にその恨みは関係ないけどいっぱいあるわボケ!!」


 こんな状況だというのにいつものようなやり取りを交わす俺とリリーナ。


「おうおう。こんな時にも痴話げんかかよ。うらやましいな、おい」

「全くだ。俺も早くかわいい彼女がほしいぜ。なあ、ジョン」

「……わ、わりい。実は俺はもう彼女がいて、しかも来月に結婚するんだ……」

「止めろバカ! それは死亡フラグだぞ! 死にたいのか!!」


 いきなり死亡フラグを立てたバカな弓使いに制止の声を飛ばす。


「おいみんな! 真の敵はここにいるぞーーーーー!!」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「お、おい! なにするんだ! おい、誰だ! 俺の息子触ったのは!」


 大勢の冒険者にもみくちゃにされるジョン。

 なんでコイツラ変なところで結束が強いんだ! しかもそん中に男色科までいやがったぞ!


「こいつらはこの際どうでもいい。正直俺もそのジョンとかいリア充を爆発させたい。エクスプロージョンしたい。ってのは置いといて……リリーナ。魔法を撃ってないやつに土魔法で大きな岩を作らせろ。もちろんお前は魔法を使うな。その辺から拾ってこい」

「無茶言わないでよ!!」

「半分は嘘だ。さっきはああ言ったがお前もバンバン魔法を撃ってくれ! ただ余力は残しといてくれよ。それと、とにかく大きな岩をたくさん作ってくれ。後でまた来る」


 それだけ言い残し、俺はまた戦場を走る。




「おい、ミカ! ミカはどこだ!」


 今度俺が来たのは前衛職の冒険者が集まるこの戦場で一番危険な場所だ。

 現に今目の前でたくさんの冒険者が全身に傷を負いながらもオークを狩っている。


「ん? あ! ユウマー。どうしたのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 こちらに気がつき、たくさんのオークに囲まれていたはずのミカは、こちらに走ってくる途中に見事にこけて、そのまま前転を繰り返して進行上のオークたちを吹き飛ばしていく。

 それを見た周りの冒険者たちはミカの進行上にオークを吹き飛ばす。

 ―――アイツら、ミカとの連携の仕方をこの短時間で一方的に身に着けやがった。


「……アイツが女神様からもらった本当のスキルは『金剛力』なんかじゃなくて、『幸運(ラッキー)失敗(ドジ)』とかじゃないのか?」


 俺が本気でそう考え始めた頃、ミカが目の前まで転がってきて、勢いがなくなり目の前で止まる。

 前転の止まったミカは「えへへ」と笑いながら服に着いた砂や草を払い落しながらこちらを向いた。


「ごめんごめん。それでなにユウマ? 愛しの幼馴染が心配で来ちゃった?」

「あぁ。愛おしいアイリスの仕事を増やしてないか心配で見に来た」

「ユウマ……本当に捕まるよ?」


 ここでも緊張感のない会話を交わし、俺は本題に入る。


「ミカ、けがを治した前衛職の連中借りてくぞ。簡単に言えば回復して戻ってくるやつはいなくなる。頑張れ!」

「うん、わかっ……んない!! ちょっと待ってユウマ! 今でもかなりきついんだよ!? これ以上人数減ったら持たないよ!」


 ちっ! ノリで行けると思ってたのに。

 かくなる上は―――


「おっと電話が。―――え? 母さんがぎっくり腰で、父ちゃんの会社が倒産で愛しのアイリスが誘拐!?

すまんミカ! 急用ができたんで後でな!」

「ちょっと待ってユウマ! この世界にそんな携帯みたいな連絡手段ないよね!? しかもこの世界にユウマのお父さんもお母さんもいないじゃん! それにアイリスちゃんあそこでけが治してるじゃん! ……なんでかオークのだけど」


 ミカの指さす方向を見ると、確かに離れたところでアイリスが回復魔法を使っている。


 オークに。


 俺たちの視線に気づいたのか、アイリスがこちらを見て固まった。

 そしてにっこりと笑う。

 かわいい! その笑顔、百点です!

 可愛いは正義! 可愛いは最強! なので可愛いアイリスを許す!!

 と、さっきの光景についてを心の中で自己完結させる。


「ほら! アイリスちゃん元気じゃん! 誘拐されてないじゃん! だからちゃんと私の話聞いてってば! ……ってユウマ!? ユウマどこ行ったの!? ユウマーっ!!」


 少し離れたところで俺の名を呼ぶ女の子に心の中で「てへぺろ!」と謝罪をして次の場所へと走る。



 次の場所、それは回復所だ。


「アイリス。大けがしてる人とかは出てないか?」

「今確認します!」


 オークを回復していたアイリスを引き連れてやって来た回復所。

 周りを簡単に見たところ回復を受けている人はいるようだが、数が多いだけで致命傷のような大けがを負っているような人は見受けられない。


「どうにか命にかかわるような大けがをしてる人はいません。それでユウマさん。なにか御用でしょうか?」

「ああ、実はアイリス成分が足りなくてアイリスをハグしに来た」

「それで本題はなんでしょうか?」

「……だいぶアイリスも俺の扱い方をわかってきたな。お兄ちゃん悲しいよ。いつものようにユウマお兄ちゃんと呼んでおくれ」

「それでユウマさん」

「アイリスはSの才能もあったんだな……。お兄ちゃんこれからMに目覚めそうだ」

「それで本題は?」

「……はい」


 完全に俺の扱い方を掌握したらしいアイリスに、娘を嫁に出す父親のような心情になりながら俺は本題を切り出す。


「けがを治した前衛職の人間を借りたいんだ。ミカには説明をしてある。だからけがを治した前衛職はみんな魔法、弓班に回してくれ」

「はい。わかりました。私も全力でみなさんを回復します!」


 そういって胸の前で手を組み、頑張るポーズを見せるアイリス。


「ああ、頼りにしてるぞ。……みんなの中にオークは含めないでな」


 たぶんこれ以上は大丈夫だと思うが、念のため、本当に念のために念を押しておく。


「……」


「……アイリス?」

「……善処します」


 あ、これ無理なパターンだ。俺知ってる。

 これ友達から遊びに誘われたときに「行けたら行くわ」とか言って、結局来ないやつと同じパターンだ。

 俺には現実に友達がいなかったからマンガで知った知識だけど知ってる。

 あれ……目からなにかしょっぱい液体が……


 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 全部の班を回って再び魔法、弓班の所まで戻ってきた。


「おいリリーナ。大きな岩はたくさんできたか?」

「とりあえずこんなもんよ。足りるかしら?」


 そういってリリーナが見せてくれたのは山ほどの岩の山。岩の大きさは運動会の大玉転がしで使われる大玉ぐらいの大きさで、それがいくつもの山を作っている。


「よし、これだけあれば十分……とは言えないが上出来だ!」


 数はおそらく五十あるかないかくらい。

 今現状残っているオークの数からしてまだまだ足りないとは思うが、この短時間で作り上げた量にしては上出来だ。


「ふふん! 当たり前でしょ! このリリーナ様の担当する班よ。どこの班よりも優秀に決まってるじゃない。だってその指揮官たる私が未来の大魔法使いなんだもの。このくらい当然だわ」


 コイツ自体は俺に出された指示を魔法使いのみんなに出しただけのはずなのだが、なぜが自慢げに胸を張っている。

 俺はその自慢げに張られた胸に手を伸ばす。


「……その手は何かしらユウマ?」

「いや、なんかやたらと胸を張りだしてるもんだから、揉んで欲しいのかと思って揉みしだこうと……」

「……もうそろそろ本気で憲兵に突き出すわよ」


 お互いが視線を交わし、少しの間沈黙が訪れる。


「まあ、そんなことはどうでもいい」

「あんた私の胸をどうでもいいって言った!? この私の胸を!?」

「そりゃあどうでもいいし……」

「この未来の大魔法使いリリーナ様の胸がどうでもいいってどうゆうことよ!!」

「あーもう! そんなに揉んでほしいならオークたちを討伐し終わったらいくらでも、俺の気のすむまで揉んでやるよ!」

「嫌に決まってるでしょ!!」


 なんなんだこいつは。

 胸を揉んでほしいのか、揉みしだいてほしいのかはっきりしろってんだ。

 すでに揉むことは決定している俺の頭の中から、かすかに残っていた作戦のことをひねり出す。


「それよりリリーナ。こいつでその岩を飛ばせ。魔力切れで魔法の撃てないやつとこれから来る前衛職の奴に撃たせろ。筋力が足りないようなら回復班から『アグレッシオ』が使える奴を何人か用意してかけてもらえ」

「ちょっと! まだ話は終わってないわよ!!」


 リリーナはまだ胸の話を引きずっているようだが、これ以上話を続けるつもりのない俺はそれだけ言って走り出した。




「いた!」


 俺はある人物を探して走り回っていたのだが、ようやくその人物が見つかった。

 その人物はリリーナの担当する魔法班に所属していて、この場にいるどの魔法使いよりもオークを圧倒的に多く倒している。

 もっと言うなら周りの冒険者たちが魔力切れになっていく中、未だに息一つ切らさずに魔法を詠唱し続けている。

 魔法により放たれた風の刃が少し離れたところを走るオークを切り刻み、悲鳴も上げさせぬまま絶命させた。

 かと思えば、そこから少し離れたところで戦っている前衛職の一人を後ろから攻撃しようとしていたオークを風で吹き飛ばし、前衛職のサポートまでしている。

 完璧に近い立ち回りをしているのは、何を隠そうファナだ。

 あのファナ魔道具店を必死に営業しているファナである。

 確かに前に冒険者をやっていることと、それなりに強くて前は王都の方で仲間とクエストをこなしていたと聞いたことがあったが、まさかここまでとは思わなかった。

 そんなファナに俺は声を掛ける。


「ようファナ。すごいな、正直驚いてるよ。話には聞いてたけどまさかここまですごい魔法使いだったなんてな」


 俺のそんな呼びかけに前方に風魔法を放ちながらファナが振り向く。


「後ろから誰かが来るとは思ってましたが、ユウマさんでしたか。あはは、そんなに褒められるとさすがに照れちゃいますね。でも少し押され気味なので本当に申し訳ないです」


 本当に申し訳なさそうに腰を折りながら魔法を放つファナ。

 意外と器用なことをする。


「いやいや、何言ってんだよファナ。ファナがいなかった今頃オークたちにここを突破されて戦場は町にまで広がってるぞ。それをここまで一人で抑えてくれてるんだ。十分すぎる」


 実際ファナがいなかったらこの最前線は押し切られていただろう。それほどまでにファナの仕事はすごい。お店で働いている時のおどおどした感じはどこに行ってしまったのかというくらいに頼りになる。

 ファナがいなかった最初から本格的にリリーナの参戦を考えていたくらいだ。


 ただ周りの見えているファナと違って、リリーナは自分がド派手な魔法を撃ちたいという欲求の方が強いので、周りの冒険者の魔法を自分の魔法で打ち消したり、後先考えず魔力を使って魔力切れをしそうだからきっと今のファナと同じような仕事はできなかっただろう。

 だから俺は中盤までリリーナには魔法も撃たせずに指示だけをさせていた。

 実際魔法の使用許可を下ろしたリリーナの方を見ると、ものすごい奇声を上げながら数々の魔法を考えなしに撃ちまくっている。


「いえいえ、本当にそんなことはありません。……それにユウマさんはそんなに褒めてくださいますが、私には私の目的があってやってますので……」


 気を落ちしたように少し下を向くファナ。

 そのファナの顔が深刻に見えて、俺はつい事情を聴こうとしてしまった。


「その表情だと街を守りたい……っていうのとは違うんだな」

「……はい。もちろん街を守りたい気持ちもあります。本当です。でももっと私利私欲な考えもあるんです……」


 ファナの顔がますます深刻なものに変わる。


「ここでたくさんオークを倒して貢献しておかないと、この緊急クエストの報酬があんまりもらえませんからそのためです。活躍すれば活躍するだけ報酬のもらえる緊急クエストでお金を稼がないと、本当にうちのお店がつぶれてしまうんです……」

「……」


 少し、本当に少しだけ真面目に聞いてバカだったと内心思ったが、口には出さないでおくことにした。

 ここでファナが戦力から外れるのは痛すぎる。

 それにしても本当にファナの店なんでつぶれないんだよ。そんなにかげっぷちなのに。


「そんなことよりファナ。少し相談なんだが……」


 いつまでも暗い雰囲気のままいる訳にもいかない俺はファナにそう持ち掛けて、話をする。


「……はい! 喜んで! どうぞお好きなだけ!」

「あ、ああ。サンキュー」


 今までに見たこともないようなファナの笑みに若干押され気味の俺だった。

 ファナと別れて、ある場所によってから、俺は再びリリーナのいる魔法、弓班まで足を運ぶ。


「どうだリリーナ? 少しはマシに……」


 ここまで言って気づいた。

 さっきまで山のように積まれていた岩がなくなっていることに。


「底を尽きたか……」

「ええ、もう魔力の残ってる人は少ないし、大きな岩の量産は無理よ。あとまともに魔力が残ってるのは私とファナぐらいかしらね」


 あれだけ魔法をバカスカ撃っていたのにファナはまだ魔力が残ってるのか。ほんとすごいな、おい。

 リリーナはまだ残ってたのが奇跡的で正直驚いた。


「その話だと少しは残ってるんだな。最後の仕事だ。こいつを風魔法で十分後に一斉に飛ばせ。わかったな」

「……え? これを飛ばすの? ホントにいいのねユウマ?」

「いい! やれ!」

「……わかったわ。でも本当に! 責任は取らないわよ?」


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