15話
「たでーまー……」
「ただいまー……」
あの後結局俺とリリーナは喧嘩をしながら街まで帰ってきて、街の中で周りの目すら気にしないで喧嘩し続けて屋敷まで帰ってきた。
そして二人で屋敷に一歩足を踏み入れた瞬間にすごい疲労感に襲われた。ここまで帰ってこれたのは正直二人で言い合いをしていたからといても過言じゃないと思う。
「おかえりー……って、どしたの二人とも? すごいボロボロだね」
屋敷に帰ってまず最初に俺とリリーナを出迎えてくれたのはミカだった。半袖のシャツにハーフパンツという実にラフな格好をしている。
ランニングとかを着ていたら脇が見えたかもしれないのにゲフンゲフン。
「いろいろあったんだよ……そう、いろいろな……」
思い出したくもないトラウマをフラッシュバックしながら、声のトーンを落としつつ言う。
ミカはそんな俺を見て、少しリリーナの方を見てから、本当に何があったんだという顔をしながらも口では「もう何も言わなくていいよ」と言ってくれた。
さっきのオークとの絡みを自分の口から話すのにはかなりの抵抗があったので本当に助かった。
「とりあえずお風呂沸いてるから入ってきなよ。二人ともボロボロの上に汚れてるし……ユウマに至ってはなんか少し変なにおいも漂ってるし」
「え!? うそ!?」
ミカの指摘に慌てて自分の匂いを嗅ぐと、ミカの言う通り少し獣臭いような、それでいてなんかなまめかしい匂いが漂っていた。
「……マジだ」
「でしょ? だから早くお風呂に入っちゃいなよ」
「―――そうする」
それから俺は自分の部屋に戻って風呂に入る支度を整え、すぐさま風呂場へと向かった。
「俺、参上!」
誰もいないからなんとなくかっこつけてみたくなって、自分の思うカッコいいポーズを取りながらそれっぽいセリフを言う。
「華麗にパージ!」
我ながら見事な手際で一瞬のうちに服を全部脱ぎ捨てる。
「はあ~……。このままオークとの出来事も水に流れてはくれないかねー。あっ、水じゃなくてお湯か」
そんなくだらないことに頭を回しながら風呂場へと足を踏み入れる。
そしてそこでは―――
「……」
「……」
リリーナが浴槽に浸かっていた。
タオルもなにも纏わず、生まれたままの姿そのままで浴槽の湯の中に浸かっていた。
この世界に―――少なくともこの屋敷に入浴剤なんてものはない。つまりお湯を染めるものは何もなく、至って透明。言うまでもなくリリーナの柔肌や大きな果実が俺の視界に晒される。
濡れてしっとりとした髪に雪の様に真っ白な肌、嫌でも視界に飛び込んでくる大きなパイオツ。
そんなもの見せられた俺は―――
「きゃああああああーーーーーーーっ!!」
たまらず叫び声をあげていた。
「なんでユウマが悲鳴を上げるのよ! 普通こういうのは女の私が悲鳴を上げるところでしょ!」
「いや、なんとなくお約束な気がして……。じゃなくて何でお前が風呂に入ってるんだよ。さっきのミカとの話的に俺が風呂に入る感じだっただろ」
「私だってオークたちにさんざん弄ばれて大変だったのよ! その前だって最近覚えた火属性の上級魔法でオーク倒してたんだから。だから早く女の子として汗とかいろんなものを流したかったの!」
「だからってお―――」
前なあーっ! と続けようとしてこの空間に変化が訪れた。
それは―――
「ユウマさん! どうかなさったんですか!? さっき大きな悲鳴が聞こえてきましたけど!」
「ユウマ大丈夫!? 何があったの!」
アイリスとミカがさっきの俺の冗談の悲鳴をマジにして来てしまったのだ。
「……」
アイリスはこの状況をどう解釈していいのかわからないようで放心状態に入ってしまった。
「ねえユウマ……。この状況は何?」
しかしミカはそうはいかない。鋭い視線が針の様に全身を貫き痛い。
でもこれ俺は悪くないと思います先生!
というわけで俺はそれっぽい行動を取る。
「てへぺろ!」
「……キモイ」
「やめろ! マジで傷つくから!」
ミカの冷たい視線に俺がツッコミを入れたその時だった。
俺の腰に巻いていたタオルという鎧が、ある場所を隠すという役目を放棄して床へと落ちていったのは。
「てへぺろ!」
「『金剛力』ラリアットーっ!」
「『ファイヤーボール』!!」
「きゃああああーっ!!」
アイリスの悲鳴を聞きながらミカに『金剛力』発動のラリアットを前方からもらい、後ろからはリリーナに『ファイヤーボール』を放たれ、とにかく散々なお風呂になった。
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「ねえユウマ! クエストに行こう! 二人で行こう! 早速行こう! 今すぐ行こう!」
そう言ってミカが俺の部屋に問答無用で入ってきた。
それはリリーナとクエストに出かけてから三日が経ち、朝の七時頃に目が覚めてしまった俺が金持ちのニートらしく二度寝に洒落込もうとした時だった。
「またそれかよ。なんだ? また太ったのか? お相撲さんにジョブチェンジですかこのやろー」
「うっ! ま、まあ……そうなんだけど……って、お相撲さんになんかジョブチェンジしないから! ユウマこそこっちの世界に来てから外に出るようになった上に、働くようにまでなってようやく普通になってきてたのにニートにジョブチェンジじゃん。というか戻ったじゃん!」
「なにをーっ!」
「なによーっ!」
にらみ合いの冷戦状態が始まり、お互いがいつでも掴みかかれるような一触即発の状況になった。
筋力だけならミカの方に分があるからどうにかしないとな。そんなことを内心で考えていると、ふいにそれは俺の視界の中に入ってきた。
それはかすかに見える布。色はピンク。少しひらひらしているように見える。
俺が見ているものは―――
そう。ブラジャーだ! この世の男が求めるトレジャーの一つ。パンツのように風になびいてたまたま見えた! みたいなことがなく、夏に白いシャツが汗で透けたときにしか見えないという、ある意味パンツよりも見つけにくいお宝。俺はそれを少しだけ拝むことができている。
ミカは家では基本的に少し大きめのサイズの服を好んで着ている。そのため今の様に少し前のめりになるとこのような状況が出来上がるのだ。
「ミカ、お前もそういうのつけるようになったんだな。頭はそのまんまでも、体は成長してるんだな。そんなにはしてないけど……」
ミカの胸はお世辞にも大きいとは言えない。小さいとも言えないが、まあ普通と言ったとことだ。触ればちゃんと柔らかそうだし、かといって俺の手を包み込んでくれなそうな大きさではない。女子高校の平均ぐらいの大きさだろうか。
まあ、そんな平均調べたこともないので知らないが。
「? 何言ってんのユウマ?」
そう言ってミカは俺の視線の先を追うように自分の目を動かす。
そして―――
「――――っ!!」
ようやく俺が何を言っているのかわかったのか、ミカはリンゴのように顔を真っ赤に染めながら手をグーに握り
「ゆ、ユウマの……バカーーーっ!」
俺の顔面を全力で殴り飛ばしていた。
「……ってー」
ミカに殴られ赤くなった頬を抑えながら、俺は愚痴る。
ミカの金剛力パンチをもらった俺は窓から結構な距離を飛んでしまい、頬を抑えながらゆっくりと屋敷に戻ってくると、ミカは俺の帰りを待っていたようで玄関に立っていた。
「遅いよユウマ! 時間は有限なんだよ!」
「お前なあ。お前があんなに派手に飛ばすからこんなに時間がかかったんだろうが。戻って来んのに二十分もかかったぞ」
「そ、それはユウマが変なこと言うから……」
らしくもなく顔赤く染めながら照れるミカ。
ちくしょう。ちょっと可愛いじゃねえか。
「まあいいや、それよりダイエットなら一人でやれよ。俺そんなに太ってないしダイエットする必要ないんだよ」
俺はこっちの世界に来てから体重の変動はほとんどない。
最初の頃は慣れないことの連続で少し体重が減っていたように思うが、最近量ったところ日本にいたころと大して変化はなかった。
自分で言うのもなんだが、あれだけ自堕落な生活を送っておいて太ってないなんて正直驚きである。
「何言ってんのさユウマ。私が太ったのはユウマにも原因があるんだからね!」
「は? 俺に? 俺が何したっていうんだよ」
ミカに言われて少し頭をひねってみるが、何にも思い当たる節がない。
だってここの所俺がやっていることなんて、朝に就寝、昼に起きて懐かしの日本での料理を作り、それを食べてから自分の部屋で『フリーズ』を使ってガンガンに冷えながらだらけ、夜になったら極稀に外を練り歩く、というそこらのニート顔負けの贅沢な日々だ。これにパソコンやゲーム、アニメにラノベがあったら最強だった。
この生活のどこにミカの体重を左右するような出来事があるというのだミカのやつは。
「ユウマが『料理』スキル取っておいしい日本での料理ばっかり作るからこんなことになったんだよ!」
「とんだ言いがかりだなおい!」
確かに俺は料理スキルを取ってから毎日昼と夜には必ず料理をしている。朝は基本的に起きれないのでアイリスに任せているが、気分が乗れば朝もアイリスとラブラブクッキングをしている。
そしてミカの言う通り俺は『料理』スキルを取ってから様々な料理にチャレンジした。
初日のカレーに続き、ハンバーグ、チャーハン、シチューに、親子丼、最近は麺類にも挑戦してラーメンを作ってみた。そしてどれもこれも成功し、日本人のミカはもちろん、アイリスやリリーナも最初は「何この料理?」と言いたげな感じだったが、一口食べれば初日と似たような反応だった。
「そんなのお前が少し食べる量を抑えればいいだけの話だろ」
「それが無理だから言ってんの! ユウマがあんなおいしいもの作るからいけないんだよ!」
「ふーん。そういうこと言う? それじゃあ今度からミカの分は作らないから。俺たちが日本での料理食ってても文句言うなよ」
「それは嫌! 絶対嫌! そんなことされるならユウマを殺す! そして私は生きる!」
「おいこらっ! そんな理由で人を殺すな! っていうか最後もおかしいだろ! 普通今のところは「ユウマを殺して私も死ぬ!」ってヤンデレるところだろJK!」
「嫌だよ。死ぬの怖いし」
「俺だって怖いわ!」
しばらくミカと言い争いをしてから、結局俺はミカのダイエットに付き合わされることになった。




