13話
「ゆ、ユウマーっ! 助けて! 私死んじゃうわよ! このままだと未来の大魔法使いリリーナ様の命が永久に失われちゃうわよ!」
リリーナがオークの集団に囲まれ、魔力も底を付き、まさしくピンチになっている。
ここにいるのはリリーナを除けば俺だけ。あとはオスのオークの大群だけだ。
どうにかリリーナを助け出せないか、または俺だけでも逃げ出せないかとオークたちの様子を見るが、俺の周りにもオークたちが何体もいて身動きが取れない。唯一の救いは、俺を囲むオークたちは血走った眼で俺を見るだけで何もしてこないことだ。
しかし、それと同時にスキを見せてくれない。
「ユウマ! なんかオークたちが私で遊び始めたわよ!? 早くどうにかしなさーーーーーーーいいいいいいいいっ!!」
リリーナが一匹のオークに振り回され始めた。
あれではリリーナの三半規管が危ない。ヒロインからゲロインに格下げになってしまう。
決して目の前のオークたちから目は離さずにそんなことを思っていると、後方からいつの間にか近くにやってきたオークが俺を拘束し、動きを封じられた。それを確認したオークたちはじりじりと血走った眼をしながら近寄ってくる。
「くそっ! どうしてこうなった!」
こうなった経緯は今日の昼頃にまで遡る。
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「ねえユウマ。またレベルアップしたいんじゃない?」
「……なんだよ藪から棒に」
俺が屋敷の自室で『フリーズ』を使った簡易エアコンで涼みながらこれから作ってみたい料理を考えていると、リリーナが部屋に入ってきて、不躾なことを言い出した。
「だってこの前覚えたいスキルがたくさんあるって言ってたわよね? 料理スキルのほかにも覚えたいスキルがあるんでしょ? そのためのレベル上げを私が手伝ってあげるって言ってるの。この未来の大魔法使いリリーナ様がね」
「……」
「なによその目は! なんか文句でもあるわけ! この大魔法使いと一緒にクエストを受けられるのよ? ユウマは最初から私をバカにしてるけど、私は本当に始まりの街にいるような器じゃないのよ!」
「……まあ確かに、始まりの街にいるような器ではないのは認める。あくまでステータスの面だけでだが」
実際リリーナのステータスはかなり高い。
最初の頃はどの値がどの値を超えれば高い方なのかわからなかったから少しバカにしていた節もあったが、こっちの世界に来てから早二カ月。いろいろな冒険者たちのステータスや冒険話を聞いてきたが、確かにリリーナのステータスは高い。
特に魔力。この一点については本当に文字通り桁が違う。
リリーナは現在レベルが十五なのに対し、魔力の値が三百越えというぶっ壊れ性能をしている。ちなみに一般魔法使いが十五の時の魔力平均値は百いってれば高いほうというぐらいだ。つまりリリーナはその値を優に超え、さらにその三倍近くの魔力を保持している。
その他にも知力や筋力や魔法抵抗なども高く、本当に魔法使いとしては有能だ。
有能なのだが……
「だってお前能筋魔法使いじゃん」
俺はベットの上で寝ころびながら言った。
「……ユウマ、やっぱりユウマには私の魔法のすごさを見せてあげる必要があるみたいね。このパーティーの中で誰が最強か、誰のおかげでパーティーが成り立ってるか教えてあげるわ」
リリーナの眉間に若干の皺が寄り始めた。怒っている証拠である。
ただ、リリーナの言ってることも全部が間違っているわけじゃない。さっきは脳筋魔法使いと小バカにするような言い方をしたが、俺達のパーティーでステータスだけを見れば確かにリリーナはチート持ちのミカと同じくらいの力を持っている。ただし、ミカは物理面に関して、リリーナは魔法面に関してだが。
しかし、作戦やその時その時の咄嗟の判断、スキルの使い方などは圧倒的に俺が群を抜いている。ゲーム脳全開の俺は結構強いはずだ。これだけは恥ずかしげなどまったくなしに言える。
だから一点に集中して考えず、全体を見て判断した場合最強なのは―――
「いや、このパーティーで最強なのは俺だろ? アイアムアさいつよ」
若干中学レベルの英語を交えつつ、わからない英単語は適当にごまかしておく。
「ユウマ、言っていいことと悪いことがあるのよ? 私がこのパーティで最強に決まってるじゃない」
どうやら俺の意見が気に食わなかったようで、リリーナはさらに眉間に皺をよせ怒っていますアピール。
擬音をつけるとしたらイライラとかムカムカとかだろう。
……ムラムラとかだったらエロいのに。体はエロいんだし。
「私の言ってることが本当に理解できないようね。いいわ、それじゃあ勝負しましょ。一対一の全身全霊をかけた正々堂々とした勝負を!」
「すいませんリリーナ様! 私の負けです!」
面倒なことになりそうになると反応する面倒センサーがビンビンに反応しだしたので、急いで安いプライドなどゼロ円でそこらのホームレスに売り払い、全身全霊を掛けた土下座をした。
「ふざけないでちょうだい! 今日はちゃんと決着をつけるまで負けは許さないわ。そうじゃないと私の気が済まないの。もし、断るようなら……」
「断るようなら?」
「この屋敷を全焼させるわ」
「おい、やめろ! お前ならマジでできそうだし本気でやめろ!」
なんだか面倒なことになってしまった。
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リリーナの変なスイッチを踏んでしまい、面倒なことにリリーナと勝負をすることになってしまった。
ただ正直な話、負けることなどほとんどないだろう。
純粋なステータスなどの能力では負けているが、俺には日本で親を泣かせつつ手に入れたゲーム知識、ゲーム脳がある。
この世界と多少の違いはあるもののほとんどの所は同じようだし、なによりリリーナの魔法は一緒に冒険をしてきた中でほとんど見たはずだ。
魔法の威力、効果、範囲、その利点と弱点。そのすべては俺の頭の中にインプットされている。
すなわち俺はリリーナの攻撃手段をすべて把握していると言ってもいい。俺がリリーナに負ける可能性があるとすれば、リリーナが魔法に頼らずに俺自身に突っ込んできて単純な筋力で勝負されることだ。それに対しても俺には『リスント』という対抗策がある。
それに単純バカなリリーナのことだ。少し挑発でもしてやれば簡単に魔法しか使わないで勝つ! とか言い出すだろう。
「これは勝ったな」
「なに勝手に勝ったつもりになってるのよ! 勝負はまだ始まってないでしょ!」
「お、お前俺の心の声を!?」
「普通に声に出して喋ってたわよ!」
どうやらさっきまでの心の声は心の声ではなく、独り言だったらしい。これではリリーナに俺の手の内をさらしてしまったことになる。
これは……別にマズくないな。うん。
「それでどうやって勝負するんだよ。やっぱり正々堂々ってんだから一対一の真剣勝負か?」
「何言ってるのよ。そんなことしたらユウマのことだもの、またあの手この手の卑怯な手で勝っちゃうじゃない。そんなの正々堂々じゃないじゃないわ」
むっ。コイツ、少しは頭が良くなったな。
「それじゃあどういう勝負にするんだよ? ステータスなら俺が圧倒的に負けてるし、魔法にしたって物理にしたってレベル的にリリーナの方が上だぞ」
「そうね。だからちゃんと勝負をするわよ」
「だからどうやって」
「私たちは冒険者。なら勝負方法は二つしかないじゃない。一対一で戦うか……」
隣を歩いていたリリーナは少し足早に俺の前に出て、
「どっちが魔物を多く倒せるか。それしかないじゃないかしら」
と、言った。
というわけでギルドにやってきた俺とリリーナ。
今日もギルド内は夏の暑さにだれている冒険者たちであふれかえっている。
かくいう俺もリリーナに連れ出されなきゃこんなところになんて来ないのだが。だってここ日本で言うハローワークだし。
「数を競うってことは何体討伐とか決まってるのよりも、討伐数に応じた報酬がもらえるクエストのほうがいいな。それに数が多いほうがいい。一体しかいない魔物だと数を競えないからな」
「そうね。そうなるとやっぱりコボルトとかゴブリンとかになるかしら。コットンラビットとかじゃ物足りないもの」
物足りないとかそんなの俺的にはどうでもいいのだが、派手に魔法を撃ちたがるリリーナにとっては重要なようだ。
「これなんてどう? オークの討伐。一体千ギル」
「オークか。……まだ少し苦手なんだよなー」
「へえ~、ユウマはオークなんかが苦手のね~。まあそうよね~、あんなことがあったんだもの。ここはお・と・な・な私がユウマのわがままを聞いてあげましょうか」
「おいこらっ! 勝手に俺をわがままな子供みたいに扱うな! オークとか超余裕だし! 余裕のよっちゃんだし! 余裕すぎてへそで茶がわいちゃうくらいだし!」
「おへそでお茶はわかせるの!? ユウマ! 今度見せてちょうだい!」
「言葉の例えだ! そんなことできるはずがないだろ!」
「じゃあ言わないでほしいわね!」
クエストボードの前でにらみ合う俺とリリーナ。
「おいおいまたやってるぜ。もうあれ夫婦漫才だよな」
「ほんとな。あいつほかに二人も別嬪さん連れてるし、仲もいいもんな」
「ぼ、僕……リリーナさんに罵倒されたい」
にらみ合いをしている俺たちを見て、醜い男の嫉妬を言いだすギャラリー。
ふざけんなと声を大にして言いたい。俺の花嫁はアイリス一択だと。
あと最後の変態はなんなの!? 憲兵さん仕事したほうがいいっすよ! アイツマジで危ないですって!
「それじゃあオーク討伐でいいのね。受けたらもう変更なしよ」
「ああ! 上等だ!」
「それじゃあ勝負内容の確認をするわよ。まず、勝敗はどちらがオークを多く倒したかで決定する。倒していいオークはクエストで指定されているこの森のオークのみ。誰かの協力を仰ぐのは禁止。制限時間は日が沈むまで。以上よ」
リリーナにしてはよくできたルールだ。
もしルールが勝敗の決め方だけだったら、俺は間違いなくアイリスかミカをお供として連れて来ていただろう。
この森からなら全力で帰れば一時間かからずにここに戻ってこれるし、リリーナならそんだけ時間がかかっても大丈夫だと踏んでもいた。
「オーケー。理解した」
俺は親指を立てて、了解の意を示す。
「それじゃあ始めましょ。私とユウマがどちらが上かの戦いを!」
「おーう。それじゃあな」
「ちょっと待ちなさいユウマ」
リリーナのやる気に対して俺は適当な返事をして歩いていこうとすると、リリーナが俺を呼び止めた。
「なんだよ」
「負けたらのことを話してなかったわ。このままだとどうせユウマのことだから時間までどこかで寝てるつもりでしょうし、罰ゲームを決めておきましょ」
……
ばれてる!?
リリーナに俺の思考が読まれるなんて! 今日は豪雪か!?
「声に出てるわよ! 雪なんて降るわけないでしょ!」
またしても心の声が漏れてしまっていたらしい。
「バレちまったなら仕方ない。それで、罰ゲームはどうするんだよ?」
「そうね……負けたら勝った方の言うことをなんでも一つ聞くこと。わかりやすいしこれでいいかしら?」
「オッケーだ! それしかない! それしか認めない! それ以外の選択肢なんて端からない!」
「なんでそんな乗る気なのよ!?」
なんで乗る気かだって? そんなの決まってるじゃないか。
負けたら勝った方の言うことをなんでも一つ聞く。
言うことをなんでも一つ聞く。
今、なんでもって言ったよね?
なんでもということは一緒にお風呂に入ってほしいとか、裸エプロンで朝食を作ってほしいとか、そんな男の夢を叶え放題じゃないか。
そんな条件を出されて気合を入れない男のなどいない!
「フフフ……フハハハハハハハッ!」
俺は悪役のような笑いをあげながら駆け出した。
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「あら? いらっしゃいませユウマさん。今日はお一人なんですね」
俺はリリーナとの勝負事を一旦放棄してファナの店に来ていた。
正確に言えば確実にリリーナに勝つためにここに来ていた。
さっきリリーナが言っていたルールはオークを倒していいのは森の中のみ、他者の力を借りてはいけないというものだった。
なのでオークを倒すこと以外なら場所を移動しようが、誰かの力を借りようが関係ない。
「ふぁ、ファナ……。あの爆発するポーションと、なんか魔物を呼び寄せちゃう的な魔道具をくれ!」
「……え?」
「だから爆発ポーションと、魔物を呼び寄せちゃう的な魔道具をくれ! 大至急だ!」
「ほ、本当にいいんですか……?」
「ああ! ありったけ持ってこい! ありったけ買ってやる!」
「あ、ありがとうございますユウマさん! これで今月は赤字にならなくて済みます! このお店を開いて初めての黒字になりそうですー!!」
ファナが涙目になって喜びながら、急いで俺の頼んだものを用意しつつ、そんな悲しいこと口にしていた。
この店を開いてから初めての黒字って、いつから店を開いてたんだか知らないがやばくないか?




