12話
「それじゃあユウマとアイリスのラブラブ三分クッキング~! ドンドン。パフパフー。あー、パフパフされてみてー」
「えっ!? ラブラブ!? 三分!? 三分で料理を作るんですか!?」
アイリスがいきなりの俺のテンションに追いつかずにオロオロしている中、俺はそのままのテンションで続ける。
「それでは今日も張り切っていきましょう! 今日のメニューは大人も子供も大好きなあの料理です! ……そう、こちらのダークマター!」
「これ前に作ったユウマさんの失敗作ですよね!」
「おーっと間違えた。まあ、メニューはできてからのお楽しみってことで一つシクヨロ!」
さわやかな笑顔を浮かべ、テヘペロ的な感じで笑いを取る。誰になのかは俺も知らない。
「それでは気を取りなおしていってみよー!」
テンションをマックスまで上げ、もはや叫びに近い声を上げる。
アイリスはもう何をすればいいのかわからないらしく、ただただ呆然としていた。
「それじゃあまずは野菜を切ることから始めよう。アイリスはキャキャットをこんな感じで切ってくれ」
俺はまずアイリスに手本を見せながらニンジンの代わりのキャキャットを包丁で刻み込む。
さすがにこのくらいは中学の調理実習でやった記憶があるからスキルなどいらない。
「あれっ!? さっきまでのテンションの高さはどこに行ったんですか!?」
「あー、あいつ等なら旅行に行ったきり帰ってこないんだ。……惜しい奴らをなくしたよ」
「あいつ等って誰です!?」
何でだろう。アイリス相手にここまでボケることは今までなかったが、意外と楽しい。
アイリスの新鮮な反応が見ていて面白かわいい! アイリスちゃんマジ天使!
「おふざけはここまでにして真面目に行こう。俺も今日はうまいものが食いたい」
「そ、そうですね。このままだと私も料理前に疲れちゃいそうです……」
「それじゃあさっき見せたようにこんな感じでキャキャットを切ってくれ」
「はい。わかりました」
俺の指示に従いアイリスがキャキャットを包丁で切っていく。
アイリスに包丁を握らせるのが不安で少しの間見ていたのだが、手はちゃんと猫にしているし、慣れた感じではなかったものの、特に問題のなさそうな手付きだ。
これなら安心できると判断した俺は、アイリスが野菜を切っている間に肝心なスープの方を作っていくことにする。
「この世界にはルーがないからなー。一から香辛料とか使って上手く作らないとな」
ここまで聞いたら俺が何を作るのかをたいていの人が予想できると思う。
そう、カレーライスだ。
この世界には俺が日本で食べていたような料理がほとんどない。いくつか似たようなものは存在しているが完全に同じものはない。
ハンバーグなんかはあるようだが、使われている肉が豚肉じゃなかったり、から揚げもカエルの肉だったりと少し違う。
そんな中、俺は懐かしの料理を食べたいと思って料理スキルを取得した。そして今日がその本番なのだ。
料理スキルには想像している料理に使えそうなものと使えなさそうなものを判別する能力もあるらしい。今から作るカレーで言えば、砂糖なんかを入れようとすればダメと反応し、辛みのある香辛料を入れようとして、それがカレーにあっていればいい感じの反応をするらしい。これがあればこの世界の食材をほとんど把握していない俺でも似たような食材を探し当てることができるはずだ。
「ユウマさん野菜切り終わりました。次は何をすればいいですか?」
俺が香辛料選びに精を出している中、アイリスが早くも野菜を切り終わった。
料理スキルもないのに早いなあ。と思いつつ切られた野菜を見てみると、どれも規則正しい大きさに切られており、何も言う余地はなかった。
「すごいなアイリス。最初から料理スキル持ちなのか」
「? 私は料理スキルなんて取ってませんよ?」
「いや、こっちの話だから気にしないでくれ」
アイリスが未だに少し俺の言葉に違和感を持っているようだが、ここはスルーをスルー。
……つまらなかったら笑えよ……。
「サンキューアイリス。ここからは一人でやるからアイリスは料理の完成を楽しみにしててくれ」
「え? いいんですか?」
「ああ、アイリスにも驚いてほしいからな。むしろ野菜を切るのも俺がやるべきだった」
「いえ、いいんですよ。私も楽しかったですし。……でも、もしよかったらまた私とも料理してくださいね」
「もちろん。むしろこっちからお願いしたいね」
好意的な俺の返事を聞いて、アイリスは笑顔でキッチンを後にした。
それにしてもなにあれ。
新手のプロポーズ?
毎朝俺に味噌汁作ってくれ。の派生形? 毎朝私と一緒に料理をしてくださいっていう新手のプロポーズなの?
やべーよ。マジやべーよ。何がやばいって、さっきのアイリスの一言でここまで妄想できちゃう俺がやばいよ。
「俺って妄想の才能の持ち主かもしれない。妄想するだけで相手と自分の位置を入れ替えたり、何かを作り出したりできるかもしれない。……女神様、俺にも唯一の才能ありましたよ。だから今からでもいいので俺にもチートをください」
女神様に切に願いながら、香辛料選びに没頭する俺だった。
「さあーっ! これが俺の自信作だ! お前らの目で、舌で確かめてみてくれ!」
あれから二時間近くが経過して、時刻は夕ご飯の時間になっていた。
ちょうど料理も完成してテンションがマックスだった俺は三人を意気揚々と呼びに行き、食卓に着かせた。
「なんでユウマはそんなにテンション高いの。なに作ったのか知らないけど前みたいな失敗作じゃ……」
不安そうな顔で最初に料理を隠すのに使っていた丸いふたを取るミカ。最初こそ失敗作じゃないのかと疑っていた顔が、中身を見た瞬間、嬉しそうな顔に一変する。
「……か、カレーだ! ユウマ! カレー作ったの!?」
「フフフ。感謝しろよミカ。俺が料理スキルを覚えなかったら食えなかったぞこんなの」
「うん! 感謝感激雨霰だよ! 今度アイリスちゃんに大きな氷作ってもらって、それを砕いてユウマの上から落としてあげるね! 雨はリリーナに任せた!」
「どんな嫌がらせだよ!」
ミカは言いたいことだけ言うと、一目散にカレーへとスプーンを滑らせていく。
「うまっ!? ユウマ! これちゃんとカレーの味がしておいしいよ!異世界料理のIT革命だよ!」
カレーを一口含んだ瞬間にミカがどこかのグルメリポーターみたいなことを言い出した。しかもITじゃねえし、英語のイットだとしても意味わかんねえよ。
「ミカがあんなにおいしそうに食べてる……。ユウマ、このカレー……だっけ? そんなにおいしいものなのかしら? なんか茶色いスープをごはんに掛けたようにしか見えないんだけど」
「まあ食べてみろって。俺も味見はしたし、ミカも保証してくれただろ?」
「そ、そうね。ユウマならともかくミカの言うことなら信用できるわ……」
コイツ、後で覚えてろよ。
夜寝てる間に『リスント』でぐるぐる巻きにして外に捨ててやる。
やるときはやる男。それが俺ことユウマ。
俺が心の中でそんな作戦を立てている中、リリーナは恐る恐るカレーを口に含む。
そして―――
「っ!?」
ルビーのようなきれいな赤い目をカッと見開き、何かに取りつかれたように次々とカレーを口に運んでいく。
「ユウマ! このカレーとかいうのおいしいわ! なんなのこれ!? ユウマたちは毎日こんなにおいしいものを食べてたっていうの!?」
「毎日はさすがに食ってないけど、俺んちでは一週間に一回は食ってたかな……って聞いてねえ」
自分で質問しておいて俺の話も聞かずにカレーに夢中なリリーナ。頬にカレーをつけ、まるで子供のようにカレーを食べている。
「アイリスはどうだ? アイリスの分はなるべく辛くないように作ったけど、大丈夫か?」
「はむはむはむっ」
「……ってアイリスも夢中か……」
さっきから何も言ってないなー。とは思っていたが、アイリスはすでにカレーに夢中だった。
「……ふう。作った斐があったってもんだな」
俺はみんなの笑顔を見ながら、自作のカレーを口に含んだ。
うん、うまい!
今日の教訓。カレーはどの世代、どの国、どの世界でも喜ばれる




