11話
「ふうー。今日はなんだか冒険したって感じだ。俺、ちょー満足!」
どうにかジャイアントクラブを五体討伐した俺とザックとシュリちゃんは、クエスト成功の喜びにみんなで浸りながら帰り道を歩いている。
空はすでに茜色、夕方だ。
夏と言えど夕方になれば太陽のやつも少しは大人しくなるようで、今は昼間に比べて熱を抑えている。ゆったりと運ばれてくるそよ風がまた心地いい。
「ユウマの兄ちゃんなんだかご機嫌だな。いつもだってこんな感じなんだろうに」
俺のあまりの喜びように少し呆れ顔のザック。シュリちゃんもまるで年下の子を見るような目で俺を見ている。
しかし、今はそんなのどうでもいい。
それくらい今日はいいことがあったのだ。
「たっでーまーっ! 聞けっ、皆の衆!」
ザックたちと別れて屋敷まで帰ってきた俺は、玄関で大きな声を出しみんなを招集する。あまりに嬉しすぎて言葉遣いまで少し変になっているのすら、今の俺にはどうでもいい。
「どうしたのよユウマ。うるさいから少し黙っててくれないかしら」
文句を言いながらも最初に俺を出迎えてくれたのはリリーナ。
リリーナにしては珍しくローブを着ておらず、私服だ。黒が好きなのか、黒を基調としたドレスのような服を着ており、何も知らなければどこかのお嬢様にも見えてしまうかもしれない。
「おかえりなさいユウマさん。ご機嫌ですね。なにかいいことでもあったんですか?」
次に俺を出迎えてくれたのはうちのパーティー唯一の良心であり、マスコット兼、俺の脳内花嫁のアイリスだ。
アイリスもリリーナと同じく私服で、青を基調としたフリフリのかわいらしい服を着ている。その姿は完全に俺の理想の花嫁そのものだ。
「うるさいなーもー。せっかく人が気持ちよく寝てたのになーにー?」
そして最後に二階から階段で降りてきたのはミカ。
半袖に短パンというとてもラフな格好をしており、日本にいたころ何度も見た格好だ。まあ、その姿を見れるのはミカの両親か俺くらいのもので、学校の連中たちはミカのきれいな部分しか知らない。
「フッフッフッ……。……これを見ろっ!!」
得意げな顔をしながら俺はポケットの中の冒険者カードを取り出す。
残念な職業、残念なステータス、残念なスキル一覧、そんな残念だらけだった俺の冒険者カードに今日、少しの変化があった。
「あっ! ユウマさん! レベルが上がってますね!」
その小さな変化に最初に気づいたのはアイリス。いち早く俺の冒険者カードの変化に気づいてくれた。
「そうなんだよ。いやー、今日ザックとシュリちゃんと一緒にクエスト受けてきたんだけどさー。二人とも思った以上に動きよくて、俺の指示もちゃんと聞いてくれるし、俺も自由に動けて魔物を倒せたからやっとレベルが上がっちゃったよー」
我ながら気持ち悪いくらいに顔をニヤつかせながら、冒険者カードを見せびらかすような動きばかりを選んで取る。
「すごいですユウマさん! これでスキルポイントも上がったんですよね! 欲しかったスキルも取れるんですか?」
なんだそんなことか。と言いたそうな顔で俺を見ているリリーナとミカと違って、純粋なアイリスは俺の成長を素直に喜んでくれた。
二人は少しアイリスを見習ってほしい。俺は褒められて成長するタイプなんだ。
「ああ。これでどうにか取れそうだよ。明日にでも教えてもらってくる。……いやー、それにしてもレベルアップしちゃったよー俺、強くなっちゃたよー。少しは筋肉質になったり賢くなったり、ド○クエみたいなかっこよさみたいなステータスも上がってかっこよくなってるんじゃない? なあなあミカ、どうよ? 俺かっこいい? イケてる?」
テンションマックスでいろいろなポーズを取る俺。
今日の俺なら大抵のことは許せそうだ。
「あー、うん。カッコイイー、メッチャイケテルー、ケッコンシテー。……これでいい? 私戻って寝たいんだけど」
「そうかそうか、やっぱり俺はかっこよくなってるか。うんうん。このままレベルが上がればイケメンリア充もいつかは追い越せるぞ! 待ってろイケメンども、この未来のイケメンユウマがいつかはお前らを見返してやる!」
外に向かって世界中のイケメンたちに宣戦布告をする俺。
「ねえユウマ。言ってもいいかしら?」
「なんだリリーナ。俺のあまりのかっこよさに惚れてしまったのか? まあそれも仕方がないかな。俺がかっこよくなってしまったのが悪いんだ。……なるほど、かわいいは正義だがイケメンは悪なのか。俺はまた少し賢くなってしまった。これもレベルアップのおかげかな。ハハハハハハっ!」
「レベルが上がってかっこよさが上がるなら、たぶんこの街のほとんど全員がユウマよりかっこいいわよ?」
世界が凍り付いた。
「『フリーズ』」
リリーナの服も俺の魔法で凍り付いた。
「ちょっと! なにすんのよ! ホントのこと言っただけじゃない!」
『フリーズ』で凍ってしまった服をどうにかしようとしながら怒鳴るリリーナ。
「なにすんのよ! じゃねえよ! こっちはようやくレベルが上がって喜んでんのになにテンションの下がること言ってくれてんだ、ああん? 清く正しく美しくの三拍子で世間でも有名なユウマさんでも怒るぞこらっ! 最近のキレやすい若者なめんなよ! 激おこぷんぷんまるだぞ!」
「なにが清く正しく美しくよ! 酷く醜く汚らわしくの間違いでしょ! それに後半は何言ってのかわかんないのよ! なによ激おこぷんぷんまるって!」
「激おこぷんぷん丸は激おこぷんぷん丸だよ! 激おこでぷんぷんな丸なんだよ!」
「だからそれがわかんないって言ってるんでしょ!」
「お、お二人とも喧嘩はそこまでにしましょ? 喧嘩はメッ! ですよ」
「「……」」
いつものようにアイリスに怒られて沈黙する俺とリリーナ。
しかし、今回は少し違った、俺とリリーナは一瞬でお互いの顔を見合わせ。
「「かわいいーっ!!」」
二人でアイリスに抱き着きに行った。
「え? え? え!? なんですかこの状況!?」
困惑するアイリス。
しかし無垢なる魔性には勝てなかった。
やっぱり小学生は最高だぜ!
「あーっ! 二人ともずるい! わたしもーっ!」
「えーっ!? ミカさんまで!?」
最後はみんなアイリスで癒されることで収拾がついた。
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「さてと、今日は少し張り切りますか!」
腕まくりをし、気合を入れる俺。
「今日ってもう夕方なんだけど……。ユウマ……今起きてきたばかりじゃん……」
「俺の今日は俺が起きたその瞬間からだーっ! 異論は認めない!」
ミカのやる気のないツッコミをスルーしきれず、大声で誤魔化して俺は改めて気合を入れなおす。
俺にスルーされたミカは眠そうに自室へと戻っていった。
少ししてドタドタと大きな音が聞こえてきたので、おそらくミカがドジをして階段から落ちたのだろう。日本にいたころなら飛んで行ったが、こっちに来てからミカは『金剛力』などというドジな人間には嬉しすぎるスキルを女神さまからもらっているので、どうせ無傷だ。気にすることもない。
そんなことより今俺がいるのは屋敷のキッチン。
そして隣にはエプロン姿のアイリス。これは新婚さんに見えてしまうかもしれない。しゃもじを持ったおっさんがいらっしゃるかもしれない。
邪魔だから来なくていいよ。
実は一昨日レベルアップをしてようやく手に入れたスキルポイントを使って、新しいスキルを覚えようと街に繰り出し、料理人から料理のスキルを教わっていた。
なにやらこの世界では料理や掃除にもスキルがあるようで、俺のようなロクに料理の知識がない人間でも、スキルを取ってしまえば大抵のものは作ることができるらしい。といってもさすがに失敗するときはするらしいが。
まあ、レシピ通りに作れば問題ないとのことだ。
一応言っておくと、スキルがなくても料理も掃除できる。ただ料理で言えば火加減や味の調整などが楽になるらしい。さらに焦げそうになったり味付けをミスりそうになったら何かしら反応して教えてくれるとかなんとか。
この知識たちは俺がスキルを教えてもらったギルドの料理スぺースのおっちゃんが景気よく教えてくれたので間違いないだろう。
「しかしここのキッチンすごいな。今まで見たことねえぞこの品揃え。その手の人にはたまらないんじゃないか?」
「確かにこのお屋敷のキッチンは大きいですよね。今まで使ったことありませんでしたが、ロレンスさんが住んでいた頃に使用人さんが使っていらしてたからか今でもきれいですし」
あまりに豪華なキッチンに対しアイリスと二人でそんな感想を漏らす。
しかしこの屋敷のキッチンはすごい。まず冷蔵庫が二つある(これぐらいなら家によってはあるのかもしれないが、日本の家には一つしかなかったのですごく思える)。
そしてコンロも二つどころではなく複数存在している。さらにレンジも大型、中型、小型と揃っている。その上、鍋やフライパン、オタマやフライ返し、そんな調理器具も問題なく揃っている。
包丁なんて五種類くらいあった。俺もいくつかは包丁の名前を知っているが、知らない包丁のほうが多い。
なんというかこの世の調理器具を全部集めちゃいました! みたいな感じだ。料理人たちからしたらここは絶好の場所に違いない。
「それでユウマさん。なんでこれから料理をされるんですよね? なにを作るんですか?」
キッチンのすごさに未だに驚いている俺に、エプロン姿のアイリスが上目遣いで話しかけてくる。
まあ、アイリスは俺より二回りくらい小さいから俺を顔を合わせようとすれば必然的に上目遣いで見られるのだが。
「今日はな、俺の住んでいたところでは大人も子供も大好きな料理を作ろうと思う」
「大人も子供もですか? それはすごいですね! どういったものなんですか?」
「それはできてからのお楽しみってやつだ。楽しみにしてな」
「はいっ!」




