8話
あれからも俺のレベリング作戦は続き、やがて日が傾き始めた。
青く澄み切った空は茜色に変わり、やや黒を帯び始めている。あと数十分もすれば赤の成分が抜け、空は青黒くなり星々が輝きだすだろう。
「今日はここまでにしよう。もう帰らないと街に着く前に夜になっちまうからな」
そんな空模様を見て、俺は三人に撤退指示を出す。
「……て、誰も聞いちゃいないか……」
俺は三人それぞれの方を見ながらつぶやく。
まずリリーナ。リリーナは少し離れたところでゴブリンたちに遊んでもらっている。調子に乗って魔力を使い切ったリリーナになにか抵抗ができるはずもなく、ゴブリンたちになすが儘にされていた。
「キィーっ!」
「キキィーっ!」
一体のゴブリンがヘロヘロになって意識はあるもののまともに動けないリリーナを押し出し、フラフラともう一体の方へ歩いて行ったリリーナをもう一体のゴブリンが持っているこん棒で打ち返す。そんな野球のような遊びをゴブリンたちはリリーナでしていた。
あれが「野球しようぜ! お前ボールな!」というやつなのだろう。
そしてミカ。ミカは近くで気絶している。
なぜそんなことになったのかというと、簡単に言ってしまえばそこの岩に頭を打った。
俺のためにゴブリンを弱らせてくれようとしたミカは、いつもの天然ドジによってとことん俺の邪魔をしてくれた。
ゴブリンを弱らせるために地面にたたきつけようとして勢い余って自分も転んでしまい、その際にゴブリンに肘打ちを決めてしまって倒してしまったり、俺がゴブリンに攻撃しやすいように後ろから羽交い絞めにしてくれていたら、突然くしゃみをしたい衝動に駆られ、我慢しきれずくしゃみをした際に勢い余ってそのままゴブリンを絞殺してしまったりと、今日も今日とてドジを発揮してくれていた。
そして肝心のなぜ岩に頭を打ったのかというと、それはゴブリンに向かってかっこよく走りだそうとしたのかクラウジングスタートの体制を取り、「ミカ、行きまーす!」と、どこかのガン○ムのパイロットのようなことを言いながら走りだろうとしたら、最初の一歩目から足を滑らせ、そのまま体制を崩して近くの岩にヘッドインというわけである。
ベットインだったらエロティックだったのに……。
そして最後にアイリス。
アイリスは今はミカの手当てをしている。今「は」というのはさっきまでせっかくリリーナや俺が弱らせたゴブリンを回復していたからである。最初の一回をやってしまったからか、歯止めが利かなくなったアイリスは俺やリリーナが弱らせたゴブリンに逐一回復魔法をかけて回っていた。
『ファイヤーボール』、『ヒール』、『スラッシュ』、『ヒール』といった感じだ。
おかげでゴブリンの討伐数はかなり落ちた。
そして今は幸せそうな顔でミカの回復をしている。
アイリスちゃんマジ天使! だけど少し小悪魔!略して小天魔!
かわいい天使といたずら好きな小悪魔が合わさって最強に見える!
「……はあ~」
俺は重いため息を吐きながら、まずは危なそうなリリーナを助けに重たい足を動かした。
「ったく……何で……こんなことに……」
あれから数時間。空は完全に日を落とし、月が大地を照らしていた。
本来ならとっくに屋敷に戻っていたはずの時間になって俺たちはどうにか始まりの街、イニティにたどり着く。
ただし―――満身創痍で。
まず俺がミカを背負っている。アイリスの筋力アップ魔法のおかげで多少は楽になっているが、ぐったりと力の抜けている人間一人をレベル一の冒険者が持つのは結構つらい。
本当ならレベルの都合上俺より筋力の高いリリーナにミカを背負ってほしかったが、リリーナも魔力切れな上、ゴブリンたちと戯れて身体もボロボロ、今にも倒れそうなフラフラとした足取りだ。たまにこけそうになってはアイリスに支えられている。
かくいう俺も結構ひどい格好だ。ところどころ傷のついてしまった軽装、砂だらけのズボン、少し焦げた袖部分。
ちなみに最後のはリリーナが暴走気味に放った『ファイヤーボール』を回避できそうになかったので『スプラッシュ』で受けた時にできてしまったものだ。
そして今日の目的である俺のレベリング。
結果は今日もレベルは上がらなかった。
というかみんなのフォローで俺は一体もゴブリンを倒せていない。倒そうと思ったらアイリスに回復されてゴブリンを倒せなかったり、ドジを踏んだミカが倒してしまったり、リリーナに至っては最早今日の本来の目的を忘れ中級魔法でゴブリンを狩りまくっていた。
「頑張ってくださいユウマさん。屋敷まであと少しです」
ふらふらと足元のおぼつかないリリーナの方を見ながらアイリスが言った。
「おう、アイリスもあと少しだ。リリーナのこと頼むぞ」
「はい! 任されました!」
今日唯一けがの一つもなく帰還しているアイリス。
今日はたくさんのゴブリンを回復したおかげか、心なしか肌がつやつやしているように見える。
アイリスたんprpr……はマズイ!
落ち着けユウマ! イエス・ロリコン・ノータッチ!
「つ、ついたー……」
そして数分後、俺たちはどうにか屋敷へと戻ってくることができた。




