7話
「俺もそろそろレベルが上がりたい」
新しく手に入れた屋敷のみんなが普段寛ぐスペースとなっている居間にて、杖の手入れをしているリリーナ、ソファーに座ってなにやら紅茶を飲んでいるミカ、そんな二人を楽しそうに見つめるアイリスに向かって俺はその願望を口にした。
「どうしちゃったのユウマ? いつもはもう金はあるし働きたくない、ニートこそ俺の天職。とか言ってたのにどういう風の吹き回し?」
そんな俺の願望を聞いてミカが少し驚いた様子で言った。なんならカップを落としそうになっていた。
リリーナもアイリスも言葉にこそ出していないものの、少し不思議そうな顔をして俺を見ている。
俺ってそこまでニートですか?
「とりあえず俺の話を聞いてくれ。とうとう俺のスキルポイントが底を尽きようとしている。最初は30ポイントもあったのに今はではもう5ポイントしかない」
そう。俺の残りスキルポイントは5ポイント。
この前のザックから教わった拘束魔法『リスント』で3ポイント消費、そして驚くことに商人たち御用達スキル『ゲート』で5ポイントも消費した。
習得の際はロレンスの件があったのと冒険に便利そうだと判断したから取ったが、結構痛手だった。
『ゲート』を教えてくれたドワーフのおっちゃんが冒険者なのにこんなスキルにポイントを割くのか、と言っていた意味がその時ようやくわかった。
「しかし俺は自分の生活を楽に、そして快適にするためにまだ取りたいスキルが山ほどある。だからレベリングをしたい。付き合ってくれ」
「ユウマ……どこまで完璧なニートを目指す気なの?」
「ニート王になれるまで」
「うん。もういい……何も言わない」
なにやらミカに呆れられてしまったがそんなことは今はどうでもいい。今は俺のレベリング、スキルポイントの方が重要だ。
「それで手伝ってくれるのか? くれないのか? くれないなら自分でどうにかするが……」
「私はいいわよ。ユウマの方からクエストに行きたいなんて言うの珍しいし、こういう時に好きなだけ魔法を撃っときたいもの」
「おい、リリーナ。話は聞いてたよな? あくまで俺のレベリングだぞ?」
「わかってるわよ。私だってバカじゃないわ。知力だってかなり高いのよ。それにこの近い将来世界最強の魔法使いになるリリーナ様がいれば一日でユウマのレベルが5は上がるわよ。偉大なる魔法使いの名において保証してあげる」
なんでだろう。リリーナはこんなに自信満々なのにかえって不安になるのは何でだろう。
「アイリスとミカは?」
「私も行きます。ユウマさんにはいつもお世話になってますし、今日はいつものお世話になってる分を返しちゃいますよ!」
胸のあたりをポンと叩きながらほほ笑むアイリス。いつものお礼はすでに癒しという形でもらえている気がするから不思議だ。
「私もいいよ。ここでユウマに恩を売っておけば、後でいろいろと使えそうだし」
「……あのな、そんなこと言うなら俺は二度とお前を助けないからな? 魔物に囲まれてても、一人で迷子になっても、疲れて動けなくなっても俺は一切助けないぞ」
「ぜひともユウマのレベリングに協力させてください!」
この先に不安でもあるのかミカは即座に頭を下げてきた。
まあ、ミカのやつは一人で街の中を歩けないからな。正確に言えば歩けるには歩けるが行きたいところに行けないというのが本当のところだが。大通りはともかく脇道とか入ると完全にアウトだ。
「そこまで言うなら仕方ないな、手伝わせてやるよ」
なにわともあれ三人とも俺のレベリングに協力してくれるようだ。
「今日はゴブリン討伐だ。俺のレベリングが目的だから数に制限のない、倒した分だけ報酬がもらえるタイプのクエストを選んだ」
『ゴブリン』
それはオークやコボルトと並ぶ人型の魔物。
一説によれば邪悪な精霊と呼ばれていたり、おふざけの好きな妖精と言われていたりしているらしい。中にはドワーフやノームの仲間だという一説もあったはずだ。
ゲーム中では剣を持っていたりこん棒を持っていたり弓を持っていたりと様々な武器を使いこなし、弱い魔物ながら他の強い魔物と組むと思わぬ強さを発揮することもある。
オークの時のような悲劇を生まないために、クエストを受ける際にギルドのお姉さんにも確認してみたのだが、どうやら俺のゲーム脳としてのゴブリンの知識に間違いはないらしい。
それにリリーナとアイリスも特に何も言ってこないのでスライムのようなこともないだろう。
正直俺としては相手がスライムでもよかったのだが、むしろ大歓迎だったのだが、即座に三人に却下された。
「あ、ユウマさん! 早速あそこに三体ゴブリンがいますよ!」
街を出て、森の中に入り少し進んだところで離れたところを指さすアイリス。
「おっ、幸先がいいぞ! よーし、それじゃあ一応今日の戦い方を最後におさらいしとくぞ。まずミカは基本的に攻撃はしない。『金剛力』硬さを利用して囮役をしてもらう。ミカが軽く殴っただけでゴブリンなんか一発で昇天しちまうからな」
「あいあいさ!」
俺の言うことに元気よく敬礼をするミカ。返事だけはいい。
「次にリリーナ。言っておくが今日は中級魔法は禁止だぞ? リリーナも公式チート並みに魔力が高いから中級魔法なんて撃ったらここらの魔物は一発だ。だから今日は基本的に初級魔法を威力を抑えて魔物に撃ってもらう。くれぐれも敵に突っ込むなよ?」
「わかったわ。コウシキチート? っていうのが何なのかはわからないけど、つまり私は偉大すぎるから今日はおとなしくユウマの力加減を合わせればいいのね? フフッ、強すぎるのも問題なのかしら」
「あー。そうそう、強すぎるからおとなしくしててくれ」
なにやら一人悦に浸っているリリーナを適当にあしらい、アイリスのほうへ向き直る。
「最後にアイリス」
「は、はい!」
やや緊張気味に返事をするアイリス。今日も本当に愛くるしい。
「アイリスは俺に各種ステータス上昇魔法をかけたらそこで休んでてくれ」
「はい、わかりました……って、え?」
「ねえユウマ、なんでアイリスちゃんは待機なの?」
俺の指示にキョトンとした顔をするアイリス。そしてキョトンとしてしまったアイリスの代わりにミカが口を開いた。
「だってアイリスに何かあったら俺耐えられない! だからアイリスには安全場所で待機を……!」
俺が拳を握り熱く語っているとミカの冷たい視線にさらされた。
「ユウマ……ロリコンに磨きがかかってるよ……」
「だから俺はロリコンじゃない。紳士だ」
「あー、はいはい。ロリコンはみんなそう言うんだよ。さあ、一緒に刑務所に行こ?」
「いかねえーよ! まだ何もやってないし!」
「まだ……?」
「何もやってねえーし!」
ロリコンたちにはロリコンたちのルールがある。
それは―――
イエス・ロリコン・ノータッチ!
これを守れないやつはロリコンじゃない! 犯罪者だ!
て、あれ? これって俺がロリコンてこと認めたことになってない?
「冗談はここまでにして、アイリスは俺に各種ステータスアップを掛けた後リリーナと一緒に魔法でゴブリンが死なない程度に攻撃。回復が必要そうなら回復をしてくれ。あくまで回復をメインにしてくれればいいから」
「はい。わかりました! ユウマさん。私、今日はユウマさんのためにいっぱい頑張っちゃいますよ!」
胸に両の手グーにして置き早速やる気を見せるアイリス。
他の二人もやる気満々のようだ。
「それじゃあ行くぞ!」
「「「おーっ!!!!」」」
「『ファイヤーボール』! ユウマ! そこのゴブリンが狙い目よ!」
ゴブリンを討伐を始めた俺たちは、さっき俺の出した指示通りに動き出す。俺とミカが二人でゴブリンに突貫し、リリーナが少し離れたところで詠唱。アイリスはそのリリーナの隣で俺に各種ステータス上昇の魔法を唱えている。
そして早速リリーナが威力を抑えた魔法を詠唱し終えたようで、三体のうちの一体に野球ボールくらいの火の玉を命中させた。
『ファイヤーボール』を食らったゴブリンは突然のことに慌てて燃えている体をどうにかしようと暴れだす。他の二体も慌てた様子であたふたしている。
「ユウマ! 私が他の二体を離れたところに投げるからユウマはそのうちにあの一体をやっちゃいなよ!」
「よしわかった! 頼むぞミカ!」
「任されたーっ!」
そう言うとミカは『金剛力』を発揮して一気に加速し、ゴブリンたちと距離を詰める。そして右のゴブリンの腕を片手で強引に掴み、まるでティッシュをゴミ箱に投げるかのようにゴブリン一体を少し離れたところへ投げ飛ばす。
「もういったーい!」
そしてそのまま流れるような動きでもう一体の燃えていないゴブリンを掴み、さっきと同じように投げ飛ばす。
今日のミカは何だかドジもなく活躍している。
「そしてー……。『足払い』!!」
さらにミカが活躍を重ねるようにリリーナの魔法で燃えているゴブリンに対して『足払い』というスキルを発動する。
しゃがみ込み相手の足元を払うだけのスキルだが、意外と効果的なようでゴブリンはなすが儘にその場に倒される。
「ユウマ! チャンスだよ!」
「おう!」
ミカの応援の声を聴き、俺はようやくたどり着いたゴブリンを目の前にしてショートソードを構える。
そしてそれを振り下ろし―――
「……あの、ミカさん? ゴブリンがすでにお亡くなりになられているのですが……」
「……え?」
「たぶん、さっきの足払いで死んだんだろう。どんだけバ怪力なんだよ」
おそらくすでにリリーナの魔法で弱っていたゴブリンは、ミカの『金剛力足払い』で頭を地面に打ち、死んだ。これが一番納得のいく考えだ。
「ご、ごめんね。ユウマ」
「こればっかりは仕方ない。ミカに悪気はなかったんだしな。次行くぞ!」
「よし! ミカ、お前はもう一体の方を軽くいたぶっといてくれ、いいか? 絶対にお前が直接攻撃するなよ? 地面に軽くたたきつけるとか、そんな感じだ」
「わかった!」
俺はさっきミカが投げたゴブリンのうちの一体に近づき、今度はさっきのような事故が起こらないようにミカにはもう一体のゴブリンを軽くいたぶっといてもらう。
「『スプラッシュ』」
少し離れたところからアイリスの攻撃魔法。その魔法はゴブリンに命中し、適度なダメージを与える。
「チャンス! 『フリーズ』!」
アイリスの魔法で適度にダメージを負ったゴブリンに、念のため『フリーズ』をかけて足元を固めて動きを封じる。そして今度こそショートソードで切りかかろうと、ショートソードを構える。
「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
そして俺は構えたショートソードを横なぎにしようとしたところで目の前でゴブリンが倒れた。……というか絶命した。
もっと正確に言えば、いきなり空から落ちてきた雷が直撃して絶命した。俺は雷を落とした犯人であろう人物のほうを見る。
「……おい、リリーナ……。さっきのは……?」
「さっきから全力で魔法が撃てなくてイライラしてたら無意識のうちに全力で魔法を撃ってたわ」
「お前なー! 今日の目的わかってんのかーっ!!」
俺は目の前でいきな絶命したゴブリンを他所にリリーナの頭にげんこつを入れに行った。
はい! 次次!
「ミカ! もう一体はどうしたー?」
リリーナにゲンコツを入れ満足した俺は、すぐそばで頭にできたこぶを撫でるリリーナをしり目に、少し離れたところでもう一体のゴブリンを弱らせてくれているはずのミカに声をかける。
「ユウマー。大丈夫、いい感じに弱らせたよー。息もあるから絶対に大丈夫ーっ」
俺の声がちゃんと届いたようで少し離れたところからミカが笑顔でこっちに向かって手を振っている。
急いでミカとゴブリンの元に向かい、ゴブリンの息がまだあるのかを確かようとしてそこにいるミカ以外の人物に気づく。
アイリスだ。ゴブリンの近くにしゃがみ込み、何やらゴブリンに両手を当てている。
「アイリス? 一応聞くけど……何やってるの?」
「え!? えーっとですね……そのですね……あのですね……えへへ」
「かわいい! 許す!」
「いやいやユウマ! そこはちゃんと怒ろうよ!」
ミカの鋭いツッコミをもらい危うくアイリスのかわいさにやられそうになっていた精神を整え、俺は改めてアイリスに向き直る。
アイリスはすでにゴブリンの回復を終えたのか、両手は自由だ。
「アイリス。最近減ってきたと思ってたけど、やっぱりまだダメなのか」
「は、はい。すいません……」
しゅん、と体を縮こまらせ申し訳なさそうに謝るアイリス。
「いや、仕方ない。アイリスは優しいもんな。実際最初に俺と会った時よりは回数も減ったんだし、これからも頑張ろう」
「はい!」
俺の励ましによって笑顔に戻ったアイリスをひとまずよしとし、俺は回復はしたものの気絶したままのゴブリンに向き直る。
いくら回復してしまったといえど、気絶して動けないゴブリンくらい楽にやれる。
俺はショートソードを改めて抜き、振りかぶる。
そしてそのショートソードをゴブリン目がけて、振り下ろす―――
はずだったのだが、突如お腹のあたりに衝撃を感じ、その衝撃に耐え切れず勢いのまま転ぶ。
何があったのかとお腹のあたりに目をやると、そこには今にも泣きそうなアイリスの顔があった。
「やっぱりダメです! 魔物さんだって生きてるんです! 殺しちゃいけないんです!」
「あ、アイリス……。アイリスの気持ちもわからんでもないが、それじゃあ俺たち冒険者は……」
「そんなのどうでもいいんです! ゴブリンさん起きて『リフレッシュ』!」
アイリスが『リフレッシュ』なる魔法を唱えると、さっきまで気絶していたゴブリンはいきなりパッと目を覚まし、起き上がる。
おそらく『リフレッシュ』というのは状態異常を治す魔法なのだろう。まさか気絶にまで効くとは思わなかったが。
「ちょ!? アイリスさん!?」
「逃げて! ゴブリンさん!」
起き上がったゴブリンはアイリスの言葉を聞いて、わけもわからないなりに急いで逃げ出す。
俺はそのあとを追おうと体を起こそうとするが、アイリスに抱き着かれて起き上がれない。
くそ! なんてやわらかくていい匂いなんだ! このまま抱きしめていたい! 抱き枕にして夜のお供にしたい!
「ミカ! ゴブリンを捕まえろ!」
「う、うん!」
俺はアイリスの魅力にやられている中、どうにか残っていたわずかな理性でミカに正しい指示を飛ばす。
しかし―――
「うわっ!」
ミカが突然何もない場所で転んだ。
いつものドジだ。
ミカがそんなヘマをしているうちにゴブリンはどんどん俺たちから遠ざかっていく。そしてミカが「いたたー、またドジっちゃった……。ごめんユウマ」と起き上がった頃にはすでにゴブリンは俺たちの射程内を軽く離れていた。
「ア・イ・リ・スーっ」
「ひ、ひいーっ! ごめんなさいユウマさん! ……でも、ゴブリンさんを逃がしてあげたくてーっ」
俺に頬を掴まれ、ムニムニと弄ばれているアイリス。
そんなアイリスもいとかわいい!
「今回はちゃんと罰を受けてもらうぞー」
「ば、罰ですか?」
「そう、罰だ。その名も……くすぐりの刑!」
そう言って俺はアイリスの脇に手を突っ込み、くすぐる。
「あ、あはははは。ゆ……ユウマひゃん、くすぐったいれすー」
脇をくすぐられて笑うアイリス。
そのまま数分間くすぐって満足したのちにアイリスの脇から自分の手を抜くと、アイリスはぐったりと俺にもたれかかってきた。
「は、はひー……もう……ユウマさんのバカ……」
俺にもたれかかってきたアイリスは頬を真っ赤に染め、少しの汗を搔き、絶え絶えの息の中で言った。
そんなアイリスの姿に俺はなぜだかドS心をくすぐられると同時に自虐心にかられることになった。




