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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第三章
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6話

「今日は家を探しに行こうと思う」


 スライムの件があってから三日。俺は宿の休憩スペースで三人にそんな提案を持ちかけた。


「確かにお金はこの前のロレンスの一件で問題ないでしょうけど、なんでいきなり自分の家? 今まで通り宿でよくないかしら?」


 俺の提案に早速文句というほどではないしにろ反論を言ってくるリリーナ。

 なんとなく予想はしていたが、リリーナとアイリスは特にこの宿暮らしを気にしていない様子だった。

 リリーナやアイリスは元がこっちの世界の人間だから宿泊まりが冒険者として当たり前という考えがあるのだろうが、俺は違う。やっぱり自分の家じゃないと落ち着かないし、自分の部屋がないとリラックスできない。

 別にこの宿の設備が悪いわけではない。そこそこの値段でいい暮らしを今までさせてもらった。でもやっぱり落ち着けないのだ。

ホテルや旅館の部屋をいいところだと思ってもずっとそこに住むのはちょっと……。みたいな感じだ。


「よくない。やっぱり俺は自分の家と自分の部屋がほしい」


 なので俺はリリーナの案を即刻否定。

 今回に限っては意地でも我を通すことにした。


「まあねー、ユウマの気持ちはわかるよ。私もなんか落ち着かないし……」

「ミカさんもなんですか? 私は特には……」


 やっぱり日本から来たミカは俺と似たような考えを持ったようだ。

 一方アイリスはリリーナと同じく特にこの宿暮らしを気にしていない様子。これが住む環境の違いという奴だろう。


「とにかく宿暮らしをやめて家を買います。これは絶対です。否定の言葉はこのユウマイヤーが強制的にシャットダウンします」


 ユウマイヤー。それは俺が聞きたくないことを自動的に聞こえなくしてしまうスキル。人によってはこのスキルを現実逃避と呼ぶ。


「というわけで不動産屋に行くぞ。リリーナ、アイリス案内頼む」


 こうして異世界生活から約二カ月、俺は自分の家を買う決意をした。




「ここです。ここが不動産屋さんです」


 アイリスとリリーナの案内の元、俺とミカはこの世界の不動産屋とやらに到着する。

 外観は至って俺の知っている不動産屋だ。窓にいくつかの家の間取りが張ってあり、「安く家売ります!」とかいうホントかよ。と疑いたくなるような売り文句を飾っている。


 中に入ると店員にいろいろ話しかけられそうだったので、まずは外の張り紙のほうからチェックを始める。

 どこの世界でもこういう店は、客のほうが一人で見たくてもその空気を完全に読めないふりをして近づき、話しかけてくる。

 これが俺が外での買い物が嫌いな原因の一つだ。というよりは主にこれが原因と言ってもいい。

 それに比べてネットは探せばなんでもあるし、家を出なくてもいいという完璧なものだった。この世界でも早くネットが作られないかな。


「ふーん。一応一億持ってきたんだが案外安いのな」


 外に張り出されている家の値段を見てみると、大体の値段が五千万ギルから八千万ギル。

 家を出るときは正直一億ギルでも足りないかと思っていたのだが、全然足りたようだ。


「それは今のユウマさんから見たら安く見えるんでしょうけど、普通の冒険者に取ってはかなりの大金ですよ? 一生かけても稼げるかどうか」


 アイリスに言われ、確かにそうだな。と、金銭感覚が少しおかしくなっていたことを実感する。

 お金は溜めるのは時間がかかるけどなくなるのは一瞬。なんて言葉もあるし、以後気をつけよう。


「それでユウマ。どうするの? 私的にはやっぱり二階建ての一人一部屋、ベランダがあって大きな庭があって、子供が十人くらいいても狭くないような家がいいんだけど!」

「お前なあー。それって結構高望みだぞ。ここが日本だったら今頃お前は鼻で笑われてるか、店を追い出されてる」

「ていってもここは異世界じゃん! 夢を見てこうよユウマ!」


 こっちに来てすぐはあんなにオロオロしていたというのにミカのやつ、ずいぶんこっちの世界になれたな。

 俺なんか夢にまで見た異世界に来てから、強敵をバンバン倒すことを夢見てイメージトレーニングも毎日欠かさずやっていたのに、こっちに来て二カ月でもうニートに戻りたいよ。


「ねえユウマ! 私は魔法を撃てるような大きな庭がある方がいいわ! できれば的なんかがあるともっといいわね! いっそユウマのお金を全部つぎ込んで外に新しい家を建てちゃいましょうよ! それがいいわ!!」


 とんでもないことを言い出すリリーナ。

 さっきまで乗る気じゃなかったくせに、いざ間取りを見たらこれだよ。


「リリーナ、お前は少し黙ってろ」

「最近私の扱いひどくないかしら!」

「アイリスはなんか意見はないか? 一緒に住むんだから無理のない意見の一つや二つなら聞くぞ?」

「だから無視しないでほしいわね!」


 なにやら隣でリリーナが騒いでいるが、それよりも今はアイリスの意見だ。

 いづれ俺とアイリスの家になる予定の家だ。それを考えるとちゃんとお嫁さんのアイリスの意見も聞いておかなければ!


「そうですね……私は特に何もありません。みなさんと一緒に暮らせるのなら、私はそれだけで満足です!」


 少し悩むそぶりを見せたアイリスはそう言ってとびっきりの笑顔を見せた。


「あ、アイリス……」


 さすがはアイリスだ。

 どこかの天然ドジ格闘家や、魔物に突っ込んでいくしか能のない魔法使いとは考えが違う。欲がない。

 もう次の女神さまはアイリスでいいんじゃなかろうか。


「それじゃあ俺は少し中で店員と話してくるからお前らはここで待っててくれ」


 しばらく外の張り紙を見てみんなの意見を聞いたところで、俺は一人で店の中に入り店員に話しかける。


「すんませーん」

「はいはい。少々お待ちをー」


 俺の声に返事をしてきたのは二十台半ばの男だった。

 ちっ! かわいい女の子とか、きれいなお姉さんがよかった。


「すいません。お待ちさせてしまって。それで今日はどういったご用件で?」

「あー、家がほしいんだよ。四人で暮らせるくらい広くて、できれば豪華な感じの」


 金に余裕はあるのでここは少し見栄を張っておこう。


「そうですか……それではこちらの一件はいかがでしょう? ご料金のほうもかなり頑張らせていただいてますよ」


 そう言って店員が一枚の紙をテーブルに広げる。


「……ほー。かなり広いうえに一千万ギルか。安いな」

「そうでしょうそうでしょう」


 俺の感想に嬉しそうに手を合わせながら笑う店員。


「でもこういうのって何か裏があるんだろ。言え」


 そう、こういう家の豪華さに比べて値段が安いのには何か裏があるのだ。幽霊屋敷と呼ばれていたり、昔住んでいた人が死んでからその家に住んだ人が死んでしまうとか、そんな感じの裏が。


「あははー。やっぱりわかりますか? お客さんも中々鋭いですねー」


 俺の質問にまるで悪気のない笑みを浮かべながら店員が言う。

 コイツいっぺんしばいたろか。


「この家はですね。幽霊屋敷と呼ばれておりまして……」


 やっぱりか。予想通り過ぎてつまらんな。


「あれだろ? 物が一人気に宙に浮いたり誰とも知れない声が聞こえてきたり、とかだろ?」


 もうわかりきっているので店員の言葉を待たずに俺は真相を言ってやる。

 こんな幽霊物件はおさらばして早く次の物件の話に移りたい。


「いえ、違いますよ」


 と思っていたのだが、どうやら俺の考えは違うようだ。


「この家では毎晩幽霊たちが夜通し宴会を開いておりまして、夜うるさくて眠れないらしいです。今までのお客様がそう言っておられました」

「死んだのに楽しそうだなその幽霊たち! てかお前らもそれはどうにかしろよ! そんな家を自信ありげに売るな!」


 ボケ担当のはずの俺がツッコンでしまった。


「それではこちらの物件はいかがでしょう? こちらもかなりの良物件ですよ」

「ほー。どれどれ……」


 間取りを見る感じでは、二階があり部屋の数も四人各自が一部屋ずつ取っても余るくらい。大きな庭もあるようで菜園なども可能。値段は七千万ギルで少々高いが問題ない。ここまで見ると確かに良物件だ。


「この家は大丈夫なんだろうな? 幽霊屋敷じゃないんだろうな?」

「はい。こちらは大丈夫でございますよ。幽霊はいません」

「そうか。それなら安心だな。幽霊がいないなら問題ない……おい店員。お前今、幽霊は、って言ったか?」

「フフフ」

「おいこら! 笑っても騙されないぞ! この物件にも何かあるな! 言え!」


 この店員ホント侮れない!


「はあー。お客様は本当に目ざとい方ですね。しょうがない、お話ししましょう」


 なんでこの店員こんなに偉そうなの? もうそろそろ口を『フリーズ』でふさぎたくなってきたんだけど。


「この家には確かに幽霊は住んでおりません。ですが……」

「ですが?」

「家のない方々がたくさん住んでおられます」

「ホームレスのたまり場になってんじゃねえか! そんなとこ住んでられっか!!」


 俺は目の前のテーブルに手をたたきつける。


「うーむ、お客様はわがままですね」

「お前いい加減にしろよ……」


 眉間に皺が寄り始める俺。


「仕方ありません。最近入ったばかりの当店最高の家をご用意しましょう。中古ですが綺麗に手入れもされてる超優良物件ですよ。こちらでどうですか? 」


 そう言って店員がまた新しい家の間取り図を出す。


「おっ! かなりいい家だな、ギルドにも近いし、値段は一億ギルと高いが部屋数も多い、庭もあるしベランダ付き、最高じゃないか。……ん? なんかこの間取り見たことあるような……? それに場所も……」


 それから少し頭をひねってみるが何も思い出せない。

 俺の勘違いだろうか?


「まあいいや。この家売ってくれ」


 こうして俺はこの世界での自分の家を約一億ギルを使って手に入れた。




「ユウマ、ここって……」

「なにも言うな……俺も今知ったんだ……」


 新しい家を手に入れた俺たちは早速宿に帰って荷物をまとめ、四人で新しい家の前に立っている。

 しかし、その新しい家は―――


「なんでよりにもよってロレンスの屋敷なんだよ……!!」


 ロレンスの屋敷だった。

 どうやらあの一件でロレンスが逮捕されて、この屋敷が売りに出されていたようだ。どおりで見たことがあるような家の間取りだと思ったよ。


「それにしてもロレンスのやつ、むかつくやつだったけど不憫ね。ユウマに財産を盗まれて、ユウマのせいで冒険者たちの借金も自業自得とはいえなくなって、ユウマに今までの悪事を暴かれて捕まって、最後にはユウマに家まで持ってかれるなんて……さすがに可哀想に思えてきたわ……」


 リリーナが目の前の元ロレンスの屋敷を見ながら言った。


「ロレンスさんの呪いとかかかってませんよね?」


 アイリスが不安げに元ロレンスの屋敷を見上げる。


「ユウマ……すごいね」


 最後にミカがもうなんて言ったらいいのかわからないといった表情で言った。


「やめろミカ、なんかたった一言なのにいろんな意味がこもっててやばい。なんというか……さすがに俺も心がいたい」


 なにはともあれ、俺たちはようやく自分の家を手に入れた。

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