4話
「ユウマ! クエスト! クエストに行こう!」
「そうよユウマ! 冒険者の仕事はクエスト! 魔物退治! 私たちにはクエストを受ける義務があるわ!」
窓から煌びやかな光が差し込む清々しい朝。俺はアラームにしてはうるさすぎる二つのボイスで目が覚めた。せめて萌えボイスであってほしかった。
「なんなんだこんな朝っぱらから! 俺はまだ寝てたいんだよ! ニートしてたいんだよ! 邪魔すんな!」
やかましい二つのアラームに対し、乱暴に目覚まし時計を止めるがごとく強気な言葉を返す。
「ユウマ! ニートなんてしなくてもいいんだよ! せっかくの異世界でしょ! もっと楽しまなきゃ!」
「そうよユウマ! いせかい? とか、にーと? ってのがなんなのかわからないけど、私たちはこの世界を楽しく生きるべきだわ! だからクエストに行くべきなのよ!」
さっきからこいつらは何なのだろう。なぜそこまでしてクエストに行きたがるのか。確かに最近はクエストを全く受けていない。俺の記憶にあるだけでも一週間はクエストを受けていない。というか金があるから受ける必要もない。
「嫌だよ。金ならあるし、俺は一生働かないで楽に暮らすんだ!」
レッツエンジョイ! 異世界ニートライフ!
「リリーナ! ユウマがダメ人間になってる! ううん。最初からダメ人間だったからダメダメ人間になってる!!」
「ええ! 変態でロリコンで働かないなんて、もう救いようがないわねミカ!」
こいつ等今度ひっぱたいてやろう。
「ねえユウマ! お願い! お願いだからクエストに行こうよ!」
今日はいつにも増してあきらめの悪いミカがドアをどんどんとたたく。
ドアが壊れそうで怖い。
「しつこいぞ! なんでそこまでしてクエストなんか行きたがるんだ。お前らだって昨日までこんな暑い中お金もあるのにクエストなんて行きたくないとか言ってたじゃねえか!」
「言ってないわよそんなこと! 逆に毎日クエストに行こうって私は言ってたでしょ!」
「え? そうだっけ?」
「そうよ! 私がもう魔法撃ちたくてしょうがないんだけど、って毎日言いに来てたのに、ユウマが無視してたんでしょ! ニート王に俺はなる! とか言って!」
んー。どうだっただろう。正直そんなどうでもいいこと覚えていない。
これはあくまで推測だが、昨日までの俺はリリーナたちの言葉を頭の中で都合のいいように変換していたのだろう。
「ユウマ! せめて中に入れてよ! 中でちゃんと顔を合わせて話しよ」
「あっ、そういうのは事務所を通してもらわないと……」
「あ、そうだったんだ……ってそんなわけでしょ! どこのアイドルなのさ!」
「おー、さすがミカ。素晴らしいノリツッコミだ」
少し暇になったのでボケてみると、ミカはいつものようにノッてきてくれた。
さすがは幼馴染、俺のやってほしいことがよくわかっていらっしゃる。
ツッコミの出来がよろしかったので、俺はとりあえずドアの向こうのミカとリリーナを部屋に迎え入れる。
「それにしてもリリーナは魔法が撃ちたいだけなんだろうけど、ミカは何でクエスト行きたいんだ? また暴れたいとかか? 暴れん坊将軍したいのか?」
「違うわよ! り、理由はちゃんと別にあるよ……!」
「じゃあなんでだよ」
「え、えっと……それは……」
なんだか煮え切らないミカ。なにか言いにくい理由なのか?
「その……少し……ちゃって……」
小さ過ぎて聞き逃したところもあったが、なんとなく察した。
「ミカ……お前、太ったな」
「ゆ、ユウマの―――」
俺が察した通りのことを口にすると、ミカは顔を真っ赤にして
「バカーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
俺のことをぶん殴った。
開いていた窓から俺は外へと放り出される。
ミカさん。満点ホームラン! でも、ホームランなんだったらせめてホームにも帰して!
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「うーっ。超イテー……」
「あ、あれはユウマが悪い! 私は悪くない!」
結局あのままミカに部屋を強制的に追い出された俺は、ミカに装備一式を強制的に着せられ、リリーナがアイリスも呼びに行き、四人でギルドまでやってきていた。
相変わらずギルドの中はぐーたれている冒険者たちであふれかえっている。そんな中、ミカがギルドに入るなり、クエストボードの方へとわき目を振らずに走っていく。
そんなミカにギルドのお姉さんたちは嬉しそうな視線を向けていた。
よっぽどクエストを受けてくれる冒険者がいないのだろう。
「ユウマ! これにしよ!」
少ししてミカが目をキラキラさせながら駆け足で戻ってくる。
あ、あれは転ぶわ。
「いたっ!」
ほら転んだ。
「全く、何やってるんだよ。ほら、手かしてやるから起きろよ」
呆れながらも俺は転んでしまったミカに近づいて手を差し伸べる。
「ありがとっ。ユウマ」
嬉しそうな顔のミカが俺の手を掴んでから、勢いよく腕を引っ張りミカを起き上がらせる。
「それでどんなクエストを持ってきたんだ?」
「あー、うん! これ!」
なにやら元気いっぱいのミカが元気よく俺にクエスト用紙を渡してくる。
俺はそれを声を出して読み上げた。
「なになに……北の火山でのフレイムバード討伐クエスト……ふざけんな! このくそ暑いときに火山なんて行きたくねえ! 死にに行くようなもんだぞ!」
俺はクエスト用紙をテーブルの上にたたきつける。
「えーっ! だって暑いところのほうが汗かいて痩せるじゃん! クエストを受けてギルドのお姉さんも満足、私も痩せられて満足、ユウマもお金が入って満足。ほら、一石二鳥どころか一石三鳥だよ!」
「なんだよそのおいしいものにおいしいもの足したらもっとおいしくなる! みたいな小学生的発想は! ラーメンにケーキを入れてもおいしくないんだよ! ラーメンとケーキが絶妙な魔のコラボレーションを奏でて、悪魔的な二重奏を奏でるんだよ!」
ソースは小学生の頃の俺。
おいしいものにおいしいものを足したらおいしくなるという当時の噂を信じて、親に黙ってラーメンの中におやつのケーキを入れて食べてみたことがあったのだが、あれはもう料理と呼べるものではなかった。
ラーメンの酸味にケーキの甘い成分が絶妙に絡み合い、まるでリア充の青春みたいに甘酸っぱくなっていた。
もちろん、悪いほうで―――。
ちなみにそのラーメンケーキは責任をもってスタッフが捨てました。食べれません。見せられないよ。
「とにかくこんなクエスト受けてられっか! ……そうだな。これなんかいいんじゃないか。いや、これがいい。これしかない。これ以外の選択肢は消えた」
俺はミカの持ってきたクエスト用紙を戻し、ミカに任せるとロクなクエストを持ってこないとわかったので、今度は自分がクエストボードを見てその中から一枚のクエスト用紙をミカに手渡す。
「えーっ! スライムーっ。ユウマー、さすがにスライムじゃ痩せられないよ。一発だもん」
「お前は大体の魔物が一発だろうが! いいじゃないかスライム。某大作RPGではたしかに経験値も金もおいしくないが、かわいいぞ」
「た、確かに某RPGではかわいいよねスライム。……ちょっと見てみたいかも……」
よし! 上手くいった。
ミカはこう見えてかわいい物好きだ。ぬいぐるみ、子供、そういった一般的にかわいいものが大好きだ。部屋の中もぬいぐるみにあふれているという。
この世界では知らないが。
「よし、それじゃあスライム討伐で決定な」
「うん。今回はこれで我慢する」
そして俺とミカはギルドのお姉さんのところにクエスト用紙を持って行った。




