2話
「悪いなアイリス。付き合わせちゃって」
「いえ、そんなことありませんよ。私もそろそろ行こうと思ってましたし、きっとファナさんも喜びます」
あの後、なんだか部屋にいただけのはずなのに疲れた俺は、傍にいるだけで人を癒すことのできるアイリスと一緒にファナの魔道具店に向かっていた。
「おーいファナー。来たぞー」
店に着くなり姿の見えないファナのことを呼ぶ。
すると、店の奥のほうからエプロンを着けたファナが姿を現した。
「ようファナ。久しぶり」
片手をあげて簡単に挨拶をする俺。しかし、その動作は我ながらぎこちなく、声も裏返りそうだった。
ファナのような美人さんを前にすると未だにこんな感じになる。これもニートでコミュ障の弊害だろうか。
ファナはそんな俺を特に笑うことなく、笑顔で挨拶を返してくれた。
「はい。お久しぶりですユウマさん。アイリスちゃんもいらっしゃい」
「はい。こんにちわですファナさん」
挨拶もそこそこに俺は近くの棚に並んだ商品に目をやる。この前来たときはすごい品ぞろえだったが、今日は大丈夫なのだろか?
「ファナ。今日は買い物に来たんだけど、何かおすすめなものはあるか?」
何の気なしに尋ねてみると、ファナは少し色っぽい仕草で悩んだ後、「そうですねー」と近くの棚から一つの商品を持って来た。
ファナが持ってきたのは一見瓶の中にただ水の入ったものに見える。が、中身がただの水であるはずもなく、少し興味が引かれる。
まじまじと見ていたのがばれたのか、ファナがその透明な液体の入った瓶を俺に手渡してくる。
んー。やっぱりどこから見てもおかしなところは見当たらない。
「これなんなんだ? また毒物とかじゃないよな?」
そんな疑問を口にしながら、透明な液体の入った瓶を少し揺らしてみたり、いろんな角度から眺めたりしていると、ファナがこの商品の説明をしてくれた。
「はい。毒物とかじゃないですよ。それは爆発ポーションです。少しの刺激で爆発しちゃうんですよ」
「へー……って、またかよ! この前もこれ見たぞ! てか、こんな危険なもん何の表示もなく置くなって、怖いから!」
ファナの説明が可愛くて少しの反応が遅れたものの、怖くなって急いで爆発ポーションとやらをファナに返す。
「す、すいません! この商品あんまり売れなくて……。ユウマさんはこの前大金を得たとの話をアイリスちゃんから聞いたので、買っていただけるかと思いまして……」
申し訳なさそうに頭を下げるファナ。
なんだかホント損な性格してるよなファナって。
「まあいいよ。頭を上げてくれ。それより他に何かいい商品はないのか? そうだな、できれば快適に夏を過ごせる感じの魔道具とか」
「夏を快適に、ですか……? そうですね。これなんてどうでしょうか?」
そう言ってファナが持ってきたのは、見た目的にはかき氷機のような魔道具だった。でも、頭の部分に氷を削るためのハンドルはなく、あるのは胴体と真ん中の下辺りにある空洞だけ。大きさも俺の知っているかき氷機の二倍近くはある。かき氷機に似てはいるが、使い方はまるで違うのだろう。
「これはなんなんだ? 正直見ただけじゃ何もわからないんだが……」
そんな素朴な俺の疑問にファナは笑顔で応答する。
「はい! これは自動で氷を生成する魔道具なんですよ。少しの魔力を込めるだけで自動的に氷をたくさん作ってくれるんです!」
「ほー、確かにそれは便利だな、これをいくつか部屋に置けば、『フリーズ』で氷を作る必要もなくなるな。これをあいつらの部屋におけば俺とアイリスの苦労もなくなるな」
まあ、裏がないんだったらの話だけど……。
「そうですね。リリーナさんとミカさんに教えてあげましょうか。これならお二人も自分で氷を作ることができますもんね」
アイリスも興味深げに氷生成器とやらを見ている。
「なあ、ファナ。ちなみにこれに欠点なんてものはないよな?」
「……え? 欠点ですか? ……えへへっ」
「かわいい! かわいいけど騙されないぞ! その笑顔……何か裏があるな!」
「ひいーっ!! 言いますから、言いますから! 言いますから怒らないでーっ!」
頭を抱えてその場でしゃがみ込むファナ。
「あー、悪い。怒鳴るつもりはなかったんだ。それより、この氷生成器の欠点てなんなんだ?」
罪悪感も手伝って俺がおとなしく謝ると、ファナは涙目にこそなっているもののゆっくりと立ち上がった。
「は、はい。……実はこの魔道具、少しの魔力でたくさんの氷を作ることができるんですが、あまりにも少ない魔力で氷をたくさん作れるため、普通の部屋だと……三十分くらいで部屋がいっぱいになってしまうんです……」
「「……」」
俺とアイリスが黙り込んだ。
さすがの天使アイリスも、こればかりはフォローできなかったのだろう。なんて言ったらいいのかわからず、なにやらおろおろしたのちに助けを求めるように俺を見た。
かわいい。もっと困らせてみたい。
「でも、それなら途中で止めればいいんじゃないか? それくらいなら大した手間にもならないし、事前に客に説明しておけば……いや、説明書をつけておけば買ってくれる人もいるんじゃないか?」
そうだ。途中で止めてしまえば、この商品の欠点はなくなりこそはしないが防ぐことはできる。もしそれで改善できるなら、リリーナとミカに一つずつ買って行ってやろう。
そして高値で売りつけよう。そうしよう。
「それが……。この生成器、魔力が切れるまで止めることができなくて、注入した魔力が切れるまで無限に氷を生成します……」
「「……」」
フォローのしようがなかった。
アイリスもさっきまではどうにかフォローをしようとあたふたしていたのに、今ではもうただ立ち尽くしているだけだ。
「すいません、すいません! こんな使い物にならない商品ばかり置いててすみません! 役に立たない魔道具店ですみません! なんならもうお店を畳みますのでお許しをーーーっ!!」
なぜか突然土下座をし始めるファナ。
そして窓の外から店の中を覗く通行人たち。
声がロクに聞こえない通行人たちからすると、俺がファナを土下座させているように見えているのでは……?
……まずい!!
「ふぁ、ファナ! 頭を上げてくれ! 俺、全然気にしてないから!」
慌ててファナに頭を上げるようにお願いする俺。
「いや、でも……。この前もユウマさんには変な商品ばかりおすすめしてしまって、今回も私の都合で爆発ポーションを買ってもらおうとしたり、私……最低です。お店を開く権利なんてありません……」
「あるから! めっちゃあるから! さーて、今日は何買っちゃおうかなー! こんなに品揃えがいいと迷っちゃうなーっ!! 何買おうかなーっ!!」
もはやヤケクソ気味に叫ぶ俺。とにかくこの現状をどうにかしなければ!
「いいんですよユウマさん。そんなに無理をなさらないでも……。私は気にしてませんから。……ユウマさんはお優しいんですね……。こんなダメ店主の私にこんなに優しくしてくれて、商品を買いに来てくれるんですもの……」
ファナが今度こそ涙を零しながら言った。
そして外からは―――
「ねえ見て奥さん。あの男、ファナさんに土下座させるどころか、泣かせてるわよ。外道だわ」
「ええ、ひどいわね奥さん。なんて鬼畜なのかしら」
「ねえお母さん! あのお兄ちゃん、美人なお姉ちゃんに土下座させて泣かせてるよ。いけないんだー。僕知ってるよ! ああいうの鬼畜外道って言うんだよね!」
「こらっ! 見ちゃいけません! それに変な言葉を使わないの!」
そんな外の通行人の声が微かに聞こえてきた俺は冷や汗をダラダラと流しながらファナに懇願をする。
「ファナさんお願いします! この店の全商品を買ってもいいからその頭を上げてくださいお願いします!! このままだと俺、この街にいられなくなるからマジで頼んます!!」
ファナに向かって土下座していた。
「そんな……ユウマさん! 頭を上げてください! お客さんのユウマさんには何の落ち度もありません! こんなどうしようもない商品ばかり売っている私が悪いんです。本当にごめんなさい!」
俺の内心に気づいてくれないファナが再び土下座してしまう。
「やめてーっ! お願いだからやめてーっ! また俺の評判がさがるからっ! 街中歩くだけで鬼畜とか言われちゃうからーっ!!」
最終的に向かい合ってひたすらお互いに謝り続ける俺とファナだった。




